第236話 蘆屋道満と大阪寿司とハイランドパーク ヴァイキング・オナー 12年と
「薬屋の一人ごと、くっそおもしろし」
「うむ、主人公が聡明であるな」
私の兄貴と同じ名前の主人公が出てくる中華系ファンタジー。ミカンちゃんとデュラさんがアニメでハマって、漫画と小説を買ってきて読んでいる中、私は私の所有物であるお酒を今日は飲もうかと考えているのよね。
私といえばウィスキー。今日はどんな風に飲もうかと思っていると、
「かなりあ、チョコレートって昔の中国にあり?」
「うーん、その作品時代背景的には7世紀くらいをモデルにしてるから、正史の中国にはなかったでしょうね。でもこの作品は中華系というだけで中国じゃないと思うわよ。それこみで楽しみなさいって事ね」
そんな事より、どれを飲むか。今日はそうね。ハイランドパークのヴァルクヌートを自分のご褒美に購入したので、下位モデルのヴァイキング・オナー12年を空けようかしら?
ピンポーン!
「あら、誰か来たわ。宅配の人かしら?」
玄関を見にいくと、そこにはスーツ姿のやる気のなさそうな女性。確か、同じマンションで兄貴の飲み友達の。
「凛さんでしたか?」
「そっすね。犬神さんの妹さん……でしたよね? 犬神さんと違って狂気感が少ないっすね。これ、取引先の人からもらったので、会社から直行で届けに来たんすよ。大阪寿司。今日お弁当もって来てたんで、余らせるのも悪いのでどうぞ」
「あ……りがとうございます」
「んじゃ、宮仕に戻るっす」
わざわざ、私の部屋にお土産渡すだけにマンションに帰ってきたの? やっぱ兄貴の知り合いぶっ飛んでるなー。異世界からくる人達でも驚かない私はドン引きしたわ。
「二人とも、同じマンションの人に大阪寿司っていうのもらったんだけど、これで一杯やらない?」
「やり!」
「大阪寿司であるか? どんな食べ物であろうか? 気になるであるぞ」
私はお寿司なんだったら、ハイボールやウィスキーのストレートでも合うと思って、炭酸水とアイスピールを用意、そしてハイランドパーク ヴァイキング・オナー 12年をキュッと開けて、まずはハイボールから、
ガチャリ。
「はいはーい! いらっしゃーい」
「面妖な格好をしたおなご……いや、人のそれではないのだろうな? 妖仙の類であろう」
「私はこの部屋の家主の犬神金糸雀ですけど……」
「犬神殿……いや、このようなおなごは聞いた事がない、まぁいい。私は平安京を守りし道士。蘆屋道満」
「はぁ、平安時代の人ですから、まぁどうぞ」
「うむ。お邪魔する」
道満さんはリビングに入るや否や、デュラさんを見て「飛頭蛮とはこれいかに! 成敗!」とか言ってお札を投げるけど、
「おぉ、痛いであるな。なんであるかこれは?」
デュラさんにぶつかったお札は勝手に燃えて無くなったわ。それに後ずさる道満さん。ミカンちゃんが「えぇ、変な魔法使い来り」と言ってミカンちゃんを見た道満さんは、
「やや! 晴明殿! 晴明殿が何故ここに、ははーん! また晴明殿の悪戯か? 式神の類を呼び出して私を驚かそうとは、全く憂いお人」
「お前は何を言ってり、勇者は勇者なりけり」
「その喋り方、紛れもなく安倍晴明殿ではないか! はっはっは!」
ググって知ったわ。この人、安倍晴明と同じで実在したかどうか不明な平安時代の陰陽術師的な人なのね。ミカンちゃんを安倍晴明と勘違いしてるって事は、安倍晴明ってこんな感じだったの?
「道満さん、ハイボール用意したのでどうぞ」
「はい、ぼぅる? また不思議な飲み物を……」
「さぁ、大阪寿司という謎のおつまみを開けてみますね!」
かぱっと開けた私たちの前には……よく知る鯖や卵や鰻の押し寿司、そして海苔巻きのお寿司……えぇ? これを大阪寿司って言うの?
※最近は東京でも大阪寿司という言葉を使わなくなってきていますがバッテラとかあれの事です。嬉々として購入した作者の友人が開けてがっかり玉手箱でした。
「……これが大阪寿司」
「ただのバッテラなりにけりぃ……」
「気を取り直して、乾杯しましょ! 鳴くよウグイス平安京! 乾杯!」
そう、私は平安時代の人でもグラスを掲げて「乾杯」という姿を見て、日本人のお酒を飲む遺伝子という物に感動を覚えたわ。
「うぉおおお! 口の中で爆発した! そして、なんというコクのある酒か」
「うみゃああああああ! このハイボール、うみゃあああああああ!」
「めちゃくちゃ美味いであるな……」
そりゃそうよ。ハイランドパーク ヴァイキング・オナー 12年。アルコール感が全然感じない、ウィスキー本来の味わいと甘みが特徴的なのよね。このレギュラーボトルでもそこそこ高級だから外さないわね。
じゃあ、ここで押し寿司もとい、大阪寿司を! これはいいものね。凄く美味しいわ。固めた酢飯その物が美味しいのに、うなぎも良い仕事してる。これならハイボールが引き立つわね。
「んっんっん! ふぅ、うま」
「これは! 晴明殿、金糸雀殿、飛頭蛮殿。なんというご馳走! なんという美味さ! これは帝が食べるものではないのか?」
あぁ、ああ。ああ……某中華ファンタジーでチョコレート食べるくらい、令和の時代のお寿司なんて平安時代の人が食べたら、劇薬よね。
旨み成分の爆弾みたいな物よ。
「道満さん、グラス空いてますよ。入れますね」
「おぉ、これはこれは」
それにしても道満さん、お箸の使い方綺麗ね。浅く長く持ってるけど、当時ってこんな持ち方してたのね。海苔巻きを食べては目をつぶって味わってるわ。そういえばググった時に、安倍晴明と蘆屋道満はライバルって書いてあったけど、
「道満さんとそのミカンちゃんじゃなくて安倍晴明さんってどういう関係なんですか?」
「晴明殿は同僚ですな」
あぁ、そういえば陰陽術師って今でいう所の省庁よね? 気象庁だったか、防衛省だったか覚えてないけど、宿曜術から陰陽連になってそこで働く人が陰陽術師よね。だから、現代日本にはもう陰陽術師は存在していなくて、今陰陽術師を語っている人はもれなく全員詐欺師という豆知識を兄貴から聞いたことがあったわ。
「かなりあおかわりぃ!」
「我も、我も我もおかわりである!」
「はいはい、道満さんもハイボールどうですか?」
「いやぁ、結構。飲んだし、食った。すっかりご馳走になってしまった。晴明殿のおふざけとはいえ、私も何かせねばな! 五行結界を張り、良き物は通し、悪き者はこの家には通れぬようにしておこう! 晴明殿の裏五芒と喧嘩にならぬ術ゆえ安心なされい」
「あの道満さん、ミカンちゃんは晴明さんじゃ……」
「はっはっは! これも夢か何かであろう。では、そろそろ起きるとする」
と言って玄関から出ていったわ。最後の最後までミカンちゃんを安倍晴明と信じて疑わなかったわ。
ガチャリ。
「こーん! にーち! わー! 呼ばれた気がしたのできましたよ!」
「金糸雀ー、来たよ! なんか呼ばれたので」
ダブル女神がやってきたわ。それにミカンちゃんは固まり、デュラさんは諦めた表情をしてるわね。さぁ、道満さんの結界とやらは女神様相手には通じなかったのかもしれないと思ってたんだけど、
「とても心地よいですね! 私を歓迎している力を感じますよ!」
「うんうん、ここにいるだけでネメシスを出迎えているのを感じる」
私は道満さんの言葉を思い出したわ。
良き物は通す……悪き者は通れぬようにと、中身はだいぶん悪き者なんだけど、形式上。二人の女神は良き者的な判断で通過してきたのね。
さて、長い一日の始まりだ。




