第232話 応龍とスープカレーとカイケン・エステート・マルベックと
「カレー食べたし」
とミカンちゃんが言った事が始まりだったわ。デュラさんが最初は市販のカレールーで作ったカレーを振る舞ってくれて、それはそれは美味しかったんだけど、もちろん料理大好きなデュラさんなので、スパイスの調合を始めちゃったのよね。そんなデュラさんのカレーのレベルはもはや並のお店の味を凌駕してるのよね。
当然、そんなカレーを毎度食べている私達は、
「デュラさん、カレーマダー?」
「今日はどんなカレーかしら?」
カレー、連続記録二週間目に突入してしまったわけよ。そして今、一番焦っているのはカレーを作ったデュラさんなのよね。
「むぅ、金糸雀殿。勇者よ。カレーも良いが、そろそろ別の物をであるな?」
「いやー! 勇者、カレーがいい」
「そうね。私も一日一回、デュラさんのカレーを食べないと調子が出なくなってきたんですよね」
とまぁ、私達は現在カレー中毒に突入しているのよね。多分、スパイスって取りすぎるとダメっぽいわね。私はデュラさんのカレーを待っていると、デュラさんが「今日はお酒を飲む事にせぬか? いや、もちろんカレーを作るであるぞ」と言うので、私はそういえばお酒飲んで無かったわねとか思って、
「まぁ、カレーが食べられるなら」
「かりぇぇええ!」
「あいわかった。では、今日はフルボディの赤にしようであるな?」
ガチャリ。
久しく聞いてなかった玄関の扉が開く音。あー、誰かきたんだくらいで考えて出迎えに行くと、中国の民族衣装、それも多分王侯貴族とかが着てそうな服に、異様に小さい靴。テンソクって奴ね。を履いた小さい女の子? 瞳だけ金色で爬虫類みたい。そしてすっごい美形。
要するに、これは恐らく。
「恐ろしい力を感じるであるぞ……」
「勇者カレー食べたい」
うん、例に漏れず、かなり凄い力を持っている系の人きたみたい。とりあえず自己紹介ね。
「こんにちは、私は」
「犬神金糸雀、神々に愛されし者。この応龍に知り得ぬ物なし」
応龍さんというみたい。そしてたまにいる私の事とかを全部理解しちゃう系の神様やってきたわね。そんな応龍さんは私に両手を差し出し、「触れる事を許し、抱える事を許す」というので、私は応龍さんを抱っこする。
いやーん! 可愛い! 頬擦りしたわぁ。
「頬擦りを許す」
うふふ、心まで読まれちゃう系ね。応龍さんを連れてリビングに行くと、上目遣いに応龍さんを見るミカンちゃんとデュラさん。二人がここまでビビり散らかすの久しぶりね。これは応龍さん相当ね。
「応龍は蚩尤を滅した龍、レヴィアタンの盟友也」
「レヴィアタンさんのお友達なんですか! なら、沢山おもてなししなきゃですね!」
「そういう事だ」
これ、完全にいい方の神様確定じゃない! レヴィアタンさんの知り合いでアウトなのは今の所、ニケ様だけだからね。
「あれは邪神に片足を突っ込んだ可哀想な女神也」
「どストレートに凄い言われようね」
「超越した人間、勇者。不死の大悪魔、デュラハン。同じ物ばかり食べていては体を損なうぞ」
「そ、そうなのである! がしかし、二人はカレーに取り憑かれており、我の力ではどうする事も」
「分かっている。そして優しき不死の大悪魔はカレーをやめ、カレースープを作っている。良い行いだ。ゆるりと待とう」
「えぇ、勇者カレーが……待てり」
ミカンちゃん、応龍さんにビビり散らかしてるからそれ以上言わないわ。応龍さんはそれでいいと頷き、指を指す。それはワインセラー、デュラさんが選ぼうとしていたワインセラーの中の一つ。
「カイケン・エステート・マルベック、あースープカレーに合いそうですね。じゃあ、スープカレーが出来上がるまで、一杯やりましょうか?」
応龍さんもご機嫌なので、私は応龍さんをアズリたんちゃんがいた時に買った子供用の椅子に座ってもらうと、私はフラスクを持ってきて、そこにワインを注ぐ。空気に触れさせてしっかりと開かせてから、大きめのチューリップグラスにフラスクから注ぐ。
「さぁ、みんな応龍さんのご来訪に乾杯よ!」
「乾杯」
「乾杯なりぃ!」
「飲む前から美味いのが分かるであるな。乾杯である」
うん、カイケン・エステート・マルベックはアルゼンチンのワイン、そしてマルベックというワイン用の葡萄の品種を使った二千円前後のデイリーワインなんだけど、ボックスワインなんかとは違ってちょっとした凝った料理なんかに合わせると雰囲気出るわね。フルボディのワインなんで味の濃い物とも見劣りしないの。そんな風に香りを感じながら一口。
「んみゃい。というのは風情ではないぞ」
「んみ……うまーなり」
ミカンちゃんを牽制しながら応龍さんは目を瞑りゆっくりとカイケン・エステート・マルベックを口に含み、その味わいを楽しんでる。出来るわね! 見た感じ中華系の神様なんだろうけど、古代の昔々は中国ってワイン生産有名だったのよね確か、いつの間にか廃れちゃったけど。
「それもまた風情、そろそろ料理ができたらしい」
凄い大人なんだろうけど、舌足らずな発声が実に可愛いわね。でも見た目と裏腹に節度にも厳しくてやっぱり大人なのね。
私の考えを読んだのかフッと笑ってる応龍さん。
「それではできたであるぞ! ゴロゴロ野菜とチキンのスープカレー、中辛である! スパイスは好みで足して欲しいである」
ドンとデュラさんが調合したカレー専用スパイスが置かれるわ。ご飯もお皿に丸く成形してお店感が凄い。いいわね。美味しそう。応龍さんは出されたスプーンを握ると、まずはスープ。
「うまい」
「おぉ! 応龍殿の口に合われて何よりであるぞ!」
ゆっくりと、ご飯だけを食べ、次はご飯にスープを少しかけて、スープの中に一口分ご飯を入れて、スープカレーのあらゆる食べ方を堪能し、応龍さんはここでスプーンを置いてグラスを持つとカイケン・エステート・マルベックを一口。
「何を見ている。お前達も食すといい」
と、お話でも見ているような応龍さんの仕草に私達は見惚れていたけど、同じくスープカレーをいただきます。
「んんっ!」
「うみゃああああ!」
「口に合ってよかったであるぞ。我、カレーしか食べぬ二人に少々の心配をしていたである」
そう言ってデュラさんは超能力で浮かせたグラスからワインをちびりと飲んでそう告白されちゃったわ。心配かけてごめんなさい。それにしてもスープカレーと赤ワインのマリアージュ危険すぎるわ。
「うまうまー!」
「うん、汁物でお酒飲むなんて江戸時代みたいだけど、何このマッチングのシナジー」
野菜もチキンもカレースープの味がしっかりとついて、逆にスープは食材の旨みが流れ込み。いずれも負けず劣らずのワインのお供になってるわ。
“空腹の胃を懲らしめてやりなさい! スープさん、具材さん“
と、印籠を持った赤ワイン。カイケン・エステート・マルベックが私たちに、迫ってくるわ。なんだか土下座して沙汰を待ちたくなる美味しさね。
ちなみにリアル水戸黄門は時代劇みたいに世直しの旅をしている老害じゃなくて、城下をちょろっと散歩してたくらいらしわね。
徳川の脛齧りだもんね。
「徳川光圀か、懐かしいな」
とボソッと応龍さんがそんな事言うので、水戸黄門ファンのミカンちゃんとデュラさんが、
「おーりゅー、水戸黄門あった事あり?」
「ど、どうなのであるか? ご老公のリアルは」
「女好きのドラ息子、承認欲求の塊」
うわー……そう言えば承認欲求から謎の学問を生み出してそれが現在の水戸黄門の超異次元時代劇ストーリーの元ネタなのよね。そんなリアルを聞かされた二人は……
「プププ! がち老害なりけりぃ!」
「うむ、水戸のご老公の老害ぶりは半端ではないであるからな! やはりそのくらいのハクがあったのであるな! 印籠を見せて俺TUEEEEする様もリアルっぽいのであるぞ!」
うん、やはり根っからのファンの二人はあの老害っぷりに惚れ込んでるのね。並の芸人のネタよりも面白いものね。そんな私達のテンションに応龍さんは口元を綻ばせ、私にワイングラスが空になった事を目で合図するので、私は静かに二杯目を注ぐわ。
グラスから手を離して、やっぱりマナーもできてるわね。
ガチャリ。
「こ、こんにちわー! 金糸雀、いるか? 忙しくなければお邪魔していいか?」
あら、久しぶりにレヴィアタンさん、という事は前に一緒に住んでたルーさんもいるのね。
「いらっしゃ……ん? ルーさんと」
「金糸雀様、お久しぶりです! お邪魔します」
私が二人を招き、リビングに向かうとレヴィアタンさんが応龍さんを見て小さく手を振るので、応龍さんもグラスを掲げて挨拶。なんかこの神々の会合。いいわね!
でもね。
「ニケ様、それにネメシスさん、どうしたんですか? なんかそんなそろりと入ってこられて」
「金糸雀ちゃん! なんで、あんな女と一緒にいるんですかぁ!」
「そうだ金糸雀、あんな……最高神クラスを……なぁ?」
あー、なるほどね。普通に自分達が叱られる可能性のある神様がいるのに最初のミカンちゃんとデュラさんとは違う意味でビビり散らかしてるのね。
私が二人に言ってあげれる事は、
「勝利の栄光を二人に!」
二人は何食わぬ顔で同じテーブルの席について、ワインを飲もうとした時、応龍さんが、
「勝利の女神に復讐の女神よ。少し……説教の時間だ」
「応龍、それはいくらなんでもおかしいですよ!」
「そうだ! 応龍」
「人間にたかるその浅ましい姿勢、千年前から変わらず」
おぉ! 女神二人が応龍さんにお説教されてるわ。ミカンちゃんなんかニヤニヤしながら二人を見てる。レヴィアタンさんとルーさんはスープカレーに夢中。二人が私に何故? という視線を送ってくるの、私には助け舟を出せないので、代わりに、
「だ女神だからさ」




