第230話 迷宮のボスとすいとんと徳若・極と
「金糸雀きたよー!」
「あら、ネメシスさん、いらっしゃい」
ミカンちゃんとデュラさんがHDに録画していた“かがみの孤城“を観ている時に家に帰ってくるようにネメシスさんがやってきたわ。私は暖かい烏龍茶と栗饅頭をお出しすると、ネメシスさんは私と栗饅頭に軽い会釈。
「いただきますだ」
パクパクとそれを食べながら同じく“かがみの孤城“を観て、疑問点を口にした。
「意味が分からんな。結局どういう事なんだ?」
「多分ですけど、アニメ映画の方は原作を読んでいないとちょっと理解できない部分が多いかもですね。要するに七匹の子羊。赤ずきんちゃんと同じで賢い馬鹿は死ぬというお話です。みんな同年代だから同じ時間を生きていると勘違いしていたじゃないですか? 賢いから無駄に頭が硬くてパラレルワールドだと勘違いして、普通に考えれば誰でも分かるような時間軸が違うという答えに到達できなかったわけです。彼ら、彼女らが最初に実際の世代が分かり、心の闇を暴露していれば、現在成人している人もいるので助け合う事ができて、全ての願いが叶いました。というのが表向きの一つの課題ですね。今、リアルタイムで引きこもっている子や、辛いと感じている子供達への摘発の意味もあります。イジメを見て見ぬふりをすればいずれ自分が標的にされる事がある等ですね。色々あって最終的に摘発をえて皆、前よりも前進できたという形でクローズしています。これ、実はかなり前に放映していた某アニメにそっくりなんですよね。ゲームマスターが前回クリア者で短命。少年少女達は闇を抱えていて、願いを叶える為に行動。恐らく少しオマージュされてるんじゃないかなと思われますね」
そう、ここで私の趣味がお酒以外に読書であるという事が生かされたわけなんだけど、ネメシスさんは栗饅頭をパクりと頬張り。
「ふーん、いじめっ子とよわよわな子供ってのはどの時代にもいるもんだな。さて、アニメも観た事じゃし、そろそろ。金糸雀ー」
お酒飲みたいんですね。別にいいですけどね。「ミカンちゃん、デュラさーん? お酒なんでもいいですかー?」と私が尋ねると、
「勇者、しゅわしゅわー」
「我はなんでも良いぞ」
と、いつもの返しなので、兄貴の友人が兄貴宛に送っていたお酒開けようかな。豪華な包みを開けると……
『万代大澤醸造 徳若 極 原酒 25度』
以前にも新潟の46度の日本酒※酒税法の問題でリキュール扱い と同じでこの日本酒の原酒は20度以上あるのでリキュールね。
徳若は日本一の酒処、灘郷のスッキリと飲みやすいお酒群の中で圧倒的にクセがつよつよな珍しい酒造会社なのよね。飲み口としては日本酒というより紹興酒に近くて素人にはオススメできないわね。
そしてここには素人じゃない酒飲みが四人。
「今日は原酒飲みましょうか? 多分、驚くわよ。この原酒。以前飲んでもらった白鹿特別大吟醸原酒とは全くタイプが違うから」
トンと私は兄貴のお酒を勝手に開けようとした時、ガチャリと音が聞こえる。さて、今日は誰が来たのかしら?
「さっむーい! すいませーん、やってますか?」
ん? 何これ? なんかテンションがおかしいわね。馴染みの居酒屋にでも来たくらいのテンションで入ってきた誰か……鳥の被り物みたいな帽子を被った女の子……じゃないわね。腕に鳥の羽があるからハーピィーさんかしら?
「いらっしゃい。貴女は?」
「うぅ、寒い! 自分はケライノー。迷宮のレイドボスやってます! ハーピィー三姉妹の三女っす! よろー! ミノタウロスに聞いたんですけど、ここ美味しい物食べれるんですよね?」
「あー。ミノタウロスさんのお知り合いでしたか! どうぞどうぞ。私は犬神金糸雀です」
「よろしくお願いしまーす!」
迷宮のボスモンスターの一人なのね。とりあえずケライノーさんを連れてリビングに戻ると、
「それ勇者のおっとっとなり!」
「黙れ、小娘! お前の物はネメシスの物、ネメシスの物はネメシスの物ぞ?」
「で……デミくそ女神なり」
「ネメシスよ。大人気なからろう? 勇者に駄菓子を返すといい」
「いー! や!」
うん、あれね。ネメシスさん、メスガキじゃない。もう、お客さん来てるのに……こういう時はケライノーさんに。
「ケライノーさん、何か食べたい物とか好きな物ってありますか?」
「そうねー! この前、私に挑戦した者が死ぬ前に食べたいと言って果てた食べ物。すいとんを食べてみたいっす!」
すいとんかぁ、すいとんって物は知ってるけど食べた事はないのよね。地域に類似する食べ物はあるわよね。団子汁、ほうとう。とかそういう類の、小麦粉で作ったうどんみたいな具が入った食べ物ね。
「デュラさん、手伝ってくれますか?」
「任せるである! 我はこの国の古参の料理もすでに勉強済みであるぞ!」
さすがは私の相棒と言っていいデュラさん。私が濃いめの味噌汁を作り、その間に小麦粉を練って具を作ってくれるデュラさん。そして私とデュラさんで野菜をトントンと切り、味噌汁の中に放り込む。
「金糸雀殿」
「そうねデュラさん」
私たちは冷蔵庫を見ながら銀ジャケが入っている事にお互い、具としてこれを入れる事を承認。
完成したすいとんにバターをひとかけ落として、オリジナリティを出して完成ね。とりあえず徳若の極は全員二合あればいいかな?
「はい、みなさんお待たせ! 東北などで食べられるらしい。伝統食。すいとんです!」
すいとんと度数の高い日本酒。
それを前に、今日は乾杯というか、
「じゃあ、みなさん手を合わせてください。いただきます!」
いただきまーすと皆、徳若の極をクイっと一飲み。これよこれ! 何このクセつよつよの原酒。
さぁて、みんなの反応は?
「うんみゃい! 勇者これすきー」
「おぉおお、これはキツい日本酒であるな」
「金糸雀ぁー、うまーい!」
ウチの異世界組はやっぱり飲兵衛ねぇ。ケライノーさんはちびりと口にして、目を瞑ってるぅ! あー、やっぱ苦手だったかな? 徳若さんの日本酒だと、すっきりしてるのはしずくシリーズだから、そっちを出してあげようかな?
「美味しい! 美味しすぎる! 何このワイン」
まぁ、確かにほのかに発酵臭の口当たりがあるから、ワインっちゃーワインよね。迷宮のレイドボス。ケライノーさんにも口に合ってよかったわ。
「じゃあ、すいとんと合わせてみましょうか?」
小麦粉の具とにんじん、かぼちゃ、コンニャク、そして鮭。それぞれと日本酒・極を合わせて汁物を頂く。江戸風の食べ方ね。
「すいとんうみゃあああああ!」
「うむ、具沢山系味噌汁がこうも酒に合うとは思わなんだであるぞ!」
まぁ、昔は日本酒って温めて呑む物で、常温で呑む事を冷やって言ったのよね? 原酒は冷蔵庫で冷やして呑むので超ひやってところかしら?
そして基本、日本酒のおつまみは汁物だったらしいから、私たちは超古参の食べ方をしているのよね。
当時は清酒は超高級酒だったから、水で割った薄い日本酒が大衆酒だったらしいけど。将軍献上のお酒が伊丹の剣菱だったって言うし、今はいい時代になったわよね。剣菱だって新潟の八海山なんてスーパーでも手に入るしね。
「ふぅ、バターが入ってるから全然ぬるくならないのはいいわね。バターと味噌、そして鮭が超あう」
私が3回目の極お代わりをしている姿を見てみんながポカーンとしてるわ。なんで? 美味しい日本酒なら永遠に飲めるでしょ?
「ふぃー、ポカポカしてきた。お風呂入りたーい」
とケライノーさんが言うので、「よければお風呂沸かしましょうか?」というと「マ?」と目を輝かすので、そりゃあれよね。迷宮にずっといたらお風呂入りたくなるわよね。女の子だし、
みんな、というか私もちょっと飲みすぎたわね。極、全然度数を感じないからするする飲んでたらガツンとくるわ。
「みんなお風呂入って今日は、お開きにしましょうか?」
はーいとネメシスさんも手をあげて頷いている中、のっそりと私の部屋に入ってきたのは、仲間外れにされたという顔をしているニケ様。
「…………金糸雀ちゃん」
「えっとニケ様、飲みますか? 極」
「一滴もないお酒を私に出しますか?」
「あっ……」
ない。
ぴーん、ぽーん。
この地獄みたいな空気の中、来訪者。それも配達の人っぽいわね。私は玄関にハンコを持って取りに行くと、
「いつもありがとうございます。これはお兄さんの飲んじゃいけないお酒みたいですから扱い気をつけてくださいね」
「あ、はい」
受け取ったお酒は、鳳凰白鹿……一升瓶定価3万3000円。あの十万以上するプレミアム日本酒の十四代でも最高定価は1万円くらいなのに、数量限定、完全受注生産の究極の日本酒の一つ。
ニケ様がそれを欲しそうに見つめているけど、私だって飲みたいわよ。
でも……
「ニケ様、これは兄貴の飲んじゃいけないお酒だから」
「金糸雀ちゃんは自分のお兄ちゃんと私、どっちが大事なんですかー!」
「いや、どう考えても兄貴でしょ。私、殺されちゃうもん」
それを聞いて、ニケ様がブワっと泣いちゃったわ。




