第226話 復讐の女神と味噌鍋とフレンチブランデーXOと
「しゃっしゃっしゃー! うまいなぁ? なぁ? 金糸雀」
「美味しいですねぇ。ネメシスさん」
紅い巻き毛、主張しすぎないティアラに片耳に金のピアスが二つ。黒を基調としたドレス。
うん、女神様と言うより、どこかの……
「かーあいいお姫様ね」
「姫じゃない、女神だ!」
そう言ってビシっと仁王立ちするネメシスさん。
あー! あー! もう、可愛い! ウチの子にならないかしら? 私達は二人でハーゲンダッツを食べながら、海外ドラマを観てまったりとした時間を過ごしてるわ。こういう日いつ以来かしら?
ん?
んんっ?
いや、そんな日今までなかったわね。基本、誰かいつもいたし、なんだろう。やる事がないわね。
まぁ……いい時間だし……
「ネメシスさん、お鍋食べる?」
「食べる!」
「お酒は……流石に飲めないわよね?」
「飲める!」
うーん、いいのかなぁ? 飲ましちゃってもぉ? でもネメシスさん神様だしいけるのかなぁ? まぁいいや、プチっとの味噌鍋。これ、クソ美味いのよね。冷蔵庫の中になんかあるかな? お揚げ、豆腐、白菜、豚肉、シュウマイもあるわね。入れてみようかしら?
ぐつぐつとしばらく煮てる間に、お酒を選ぼうかな。ネメシスさんは甘いお酒とか好きそうだけど、ミカンちゃんみたいに炭酸系かな?
「ネメシスさん、好きなお酒ってあるかな?」
「焼きワイン!」
マ? ブランデー好きなの? 兄貴と同じじゃん! そう、色んなお酒を飲み散らかしているけど、兄貴のブランデー好きは狂ってるから、この部屋には実は金庫があって、その中には兄貴の飲んだら殺されるどころか、腑抜き出されて十字架に貼り付けされるくらい大事なお酒、ブラックパールがあるのよね。
※おそらくブランデーで最高の価格を誇るレミーマルタンです。
まぁ、そんなお酒は出せないけど、ブランデーはマジで腐る程あるのよね。となるとXOあたりから飲んでもらおうかしら?
ウェルカムドリンク代わりに飲んでるフレンチブランデーXO。フランス産のブランデーで500mlで千円を切る激安ブランデーね。国産の激安ブランデーサントリーVOはどちらかというとブランデーをよく呑む人向けなのよね。それれに対してフレンチブランデーXOは比較的ブランデー初心者でもおいしく飲めるのよね。
「どうしよっか? とりあえず。ストレートでいいかな?」
「小さい氷をいっこー!」
「あら、ネメシスさん、わかる口ね。オンザロックもいいわよね。ぐっと甘くなるし」
私はストレートね。
「じゃあ、ネメシスさん、乾杯!」
「おー! 乾杯っ!」
カチンとグラスを合わせる異世界式の乾杯の後に私達はぐつぐつと煮える鍋を見ながらブランデーを口の中で転がす。しっかりとブドウの香りが口の中を広がり鼻を抜けていく。
「んまー! 金糸雀、んまいなぁ? この焼きワイン!」
「えへへ! 美味しいですねー!」
ネメシスさんはただでさえ大きな瞳を大きく丸くして、めちゃくちゃ可愛い笑顔で私に笑いかけてくれるわ。
まぁ、見た目子供がお酒煽ってるので凄いヤバいビジュアルなんだけどね。ブランデーを舐めながらお鍋を見つめていると、お鍋も完成したみたいね。
「ネメシスさん、お待たせ! はいどうぞ! 熱いかから気をつけてね」
「おー! いただきまーす!」
お箸は握れなさそうなのでフォークでお豆腐を小さく切って、ネメシスさんは、
「フーフー! してー!」
「やーん! かーわーいーい! はい、ふーふー!」
「おいしー! これ、おいしー!」
「えへへ、よかったぁ!」
ミカンちゃんがもしいたら、キモいキモい言われるところでしょうけど、今はいないのでこの美少女女神のネメシスさんを愛でれるわ。
じゃあ、私も味噌鍋をいただきます。
ん? まぁまぁね。最近の鍋の素もほんと美味しくなったわよね。
「ネメシスさん、お酒。流石にロックだと合わないから、水割りかソーダ割りにしますか?」
「うー、そうだなぁ。じゃあ水割りで! 冷たくないお水で!」
わかってらっしゃる。
どっかの女神と違って酒癖が悪いわけでもないし、ブランデーは常温の水で水割りを作った方が香りが損なわれないからいいのよね。
氷も入れずにカラカラと水割りを作ってネメシスさんに、
「はいお待たせさま!」
「金糸雀、もっと。食べたぃ」
ああん、やめて! 私は一定上のイケメンや美人。可愛い子におねだりされると従っちゃう特性があるのよぉ!
ニケ様? ミカンちゃん? あー、二人はもう言うなれば三日で飽きる的な感じね。
お肉多めにしてネメシスさんの器に食材を入れて渡してあげると、じーっと私の事見てるわ。
「どしたの? ネメシスさん」
「金糸雀、好き」
ずきゅうううううんん!
ハートを射抜かれるってあるわよね。私はブランデーのソーダ割りを少しレモンを絞って一口。うん、美少女というか女神? 見ながら呑むお酒は最高ね。
なんだか、女神的な何かがよく来ていたような気がしていたけどきっと私の勘違いね。
「ネメシスさん。そろそろ具材が無くなってきたので、おうどん入れましょうか?」
「おうどん? 何それ? 食べ物なら食べるー!」
うん、控えめに言って女神とはいいものね。うどんを一玉……ここは二玉にしておこうかしら、軽く茹でてネメシスさんの器に、そして私はふーふーしてあげるわ。
「はいどうぞ。卵を絡めて食べてみてくださいね」
味噌煮こみうどんとなったシメはお酒のおつまみにもなるし、満足感も強いのよね。フーフーしてあげたのにまだフーフーして食べてるネメシスさん。超可愛いわ。もうなんなの? この子、ほんと女神じゃない。
女神か……
私もシメうどんを楽しみながらブランデーハイボールを一口。うん、これは思った以上に美味しいわね。味噌煮込みうどんと釜玉を合わせた究極のシメね。
「うまいなぁ? なぁ? 金糸雀」
「美味しいですね? ネメシスさん」
なんか同じような会話を最初にもしたような気がしましたけど、私とネメシスさんが鍋を堪能している目の前で私の事を今にも刺しそうな顔で見つめている美女が一人。
「金糸雀ちゃん、その女、誰?」
うーん。ニケ様、どうしたのかしら? めちゃくちゃメンヘラ彼女面で私の事睨め付けてるけどどういうテンションよ。そんなニケ様をよそにネメシスさんが、
「金糸雀、焼きワインおかわりぃ」
「はーい!」
「ネメシス。この泥棒女神!」
とお酒作ってあげていると、ニケ様がついにネメシスさんに絡み出したわ。きっと泥棒ねこ的な意味なのかしら? というか私はニケ様の所有物でもなければ信者でもないんだけど、ネメシスさんはブランデーの水割りを飲みながら、イケメンな表情に変わったわ。真面目顔も可愛い。
「誰かと思えば小娘女神かぁ、泥棒女神は……貴様であろ? 皆迷惑しているぞ」
「うぅう……」
これ言われるともうニケ様詰みよね。どうするのかしら? というかネメシスさんの方が年上なのね。さぁ、ニケ様はどう返すのかしら?
「う、うるさいうるさい! ババアの癖に金糸雀ちゃんに近づくのはやめなさい! ここにも来ないで!」
あー、めっちゃガキみたいなキレ方したわ。そんなネメシスさんはクスクス笑いながら、
「ぜーったい、嫌。これは小娘に対する復讐だ」
何やったのよニケ様……
と、これから女神が二人やってくる事になるのを私の同居人であるデュラさんとミカンちゃんはまだ知らないわ。
というか、
「ただいまなりぃ! かなりあ、えほー巻き買ってこり!」
「うなぎが入ってる豪華なのであるぞー!」
そして二人は、女神二人を見て少し考えると、回れ右でまた外に出て行っちゃったんだけど……




