第223話 グールとサーロとアブソリュートウォッカと
ミカンちゃんとこの前、服を一緒に見にいったんだけど、ミカンちゃんはとにかく、着やすくて脱ぎやすい部屋着。
通称だる着が好きすぎておしゃれのおの字もないのよね。なのに、素材が良すぎて何を着ても外しファッションみたいになるのが閉口ものよ。
買い物の道中で珍しい食べ物が売ってたからデュラさんへのお土産を兼ねて買ってみたのよね。
豚の白油の塩漬け。サーロって言うらしくて、ウクライナではウォッカのお供なんだとか……
「ただまいなりぃ!」
「おー、おかえりであるぞ! 二人とも」
デュラさんは、おはぎで熱い緑茶を飲んで水戸黄門見てたわ。面白いのかしら? デュラさんは昨日買っていた一人鍋セットを食べたみたいで、私とミカンちゃんはモスバーガーを食べてきたのでそこまでお腹は空いてないから、チョチョイとつまんで一杯ね。
「珍しい塩漬け肉、というか油売ってたので、ウォッカで一杯やりましょ!」
「塩漬け肉であるか?」
「えぇ、勇者塩漬け肉いやかもー」
異世界にも塩漬け肉はマストであるみたいだけど、異世界と地球を一緒にしちゃいけないわ。食は……地球にありよ!
実際、二週間くらい異世界に飛ばされた私がソースなんだけど、異世界の食事はあんまり地球の人がと言うか、日本人が行って楽しめる物は少ないわね。
よく言えば味付けが単調で、悪く言えば不味いわね。
ラノベとかで、凄い美味しいスイーツがあったり、凄い美味しいコース料理みたいなご馳走があったり、みたいな描写があるけど、残念ながら存在しなかったわね。
多分、異世界にガストや日高屋を作ったら大量行列の人気店になるでしょうね。そのくらい食文化が進んでなかったわ。
「金糸雀殿、この塩漬け油はどのように食すであるか?」
日本人なら誰でも知っている豚肉は生で食べちゃダメ。このサーロは生食用なのよね。まぁ、私は火を通すけどね。
※ぶっちゃけ、豚の塩漬け肉をネット上でも生で食べてオーケー! みたいな表記してる事ありますけど、普通に危険なのでやめましょう。人生やり直せないくらいの後遺症が残る場合があります。
唐辛子にニンニクとバゲットあたりでいいかしら?
「サーロを薄く切ってバゲットに乗せて、刻みニンニクと唐辛子をパラパラと、そしてオーブントースターにインよ」
「おぉおおおお! 贅沢なガーリックトーストであるな!」
「デュラさん、おにただです!」
「かなりあきもーい!」
ミカンちゃんの辛辣な言葉は無視して、冷凍庫からプレミアムウォッカを取り出すわ。今回はアブソリュートウォッカ。カクテルにするならスミノフとかスカイウォッカでもいいんだけど、今回はウォッカそのものを楽しみたいからプレミアムウオッカにしてみたわ。
バーシャルショット(冷凍庫でキンキンに冷やすやつね)で、まずは御神酒代わりに……
ガチャリ。
「誰か来たであるな」
「勇者みてきり」
ミカンちゃんがみに行くと、「えぇ、可愛くないー」と愚痴をこぼしてるわ。何系が来たのかしら? もふもふ系じゃない事だけは確かね。
「人間食うぅうう!」
「おや、グールであるな。食人鬼系の魔物である」
「えぇ、めっちゃヤバいじゃないですか」
ミカンちゃんと私を餌だと認識しているグールさん。リビングに靴のまま入ってくるので、
「ちょっとー、グールさん。靴脱いで入ってきてくださいよー。ちょー汚れるじゃないですかー」
私は完全に感覚が麻痺してたわ。魔物がそういう事をきにするわけがなく、私をみると噛みついてこようと、それにデュラさんとミカンちゃんが助けてくれる。
前に、
「オイ! 靴脱げっつってんだろーが! あぁ? このクソほっこか?」
ピタリと止まるグールさん。
世の中という物は弱肉強食だと思うのよね。グールさんが人間を食べるというのは必ずしも人間より上の生態系にいるわけじゃないハズなのよ。
「回れ右、玄関で靴を脱ぐ! 焼き殺すぞおどりゃ!」
「金糸雀殿。どぅどぅである! 床の方は我が綺麗に! 磨くであるからな!」
「プププ! かなりあブチギレなりにけりぃ!」
グールさんは食人本能があるわけで、私、ミカンちゃん、デュラさんを見て本能を理性が上回ったみたい。玄関で靴を脱ぎ、デュラさんが超能力で磨いている雑巾を持って同じく床掃除。
「私は犬神金糸雀です。まぁ、失礼がなければおもてなししますので」
「グールです。もう二週間誰も食べてなくて……限界で、すみません」
「人間はないですけど、サーロはあるのでそれ食べてお腹の足しにしてください」
グールさん、人間の皮がなくなったみたいな感じの、ゾンビとは違った魔物みたいね。なぜなら生きてるのよね。見た感じはほとんど人間なので消化酵素も臓器も同じだと思うから、普通に私たちの食べ物を食べれるでしょう。
「じゃあ! 改めて、バーシャルショットで乾杯ね! 理性に乾杯!」
「乾杯であるぞ!」
「乾杯なりぃ!」
「ほんと、ごめんなさい。乾杯」
アブソリュートウォッカのバーシャルショット。冷凍庫に入れてたからとろっとして、そしてほのかに……
「甘っ! であるな!」
「うきゃあああ! うみゃああああ!」
「うわー! うわー! うまーい!」
そりゃそうよ。カクテルベースにするのが勿体無いくらいの味よね。普通の無味無臭のウォッカと違ってこれがプレミアムウォッカの力よ!
チーン! あら、サーロのガーリックトーストもできたわね。
「はい、グールさん、熱いから気をつけてくださいね! サーロのガーリックトーストですよ。人間の4000倍は美味しいはずです。知りませんけど」
「いただきます」
グールさんはサーロのガーリックトーストをパクりと食べて……そして目を瞑ったわ。口がもしゃもしゃと動いているので、咀嚼はしているみたいだけど、微動だにしない。
私もサーロを頂くわ。うん、まぁいい味してるわね。ミカンちゃんは「うま! うま! つよつよぉ!」とバクバク食べてるので気に入ったと。
「……さすが金糸雀殿。これは飽きないである」
とデュラさんからも高評価を頂けたわ。オリーブオイルの代わりにサーロを使って油にするのありね。微動だにしなかったグールさんが目を開けて語り出したわ。
「いつから存在したのか、グールという人間の脅威が生まれ数百年。ザナルガラン北部の荒地でグールは人間が来るのを待った。それは餌として、かつては人間だったかもしれないグール達は何も考えずに人間達を襲い、喰らっていた。が、人間達もタダでは餌にならぬと、魔法、剣で対抗しその泥沼化は想像を超えていた。しまいには冒険者が派遣され、グールもより強く、大きく、強固に、本来治安を守るはずの王国は見て見ぬ振りをしていた。大規模討伐計画により、グールは最北へ追いやられ、グールロードへ泣きながら訴えた。私たちは人間を食べなければならないと、それを重く見据えたグールロードは、戦争だ! 人間とグールの全面戦争じゃい! とこうしてグール達の人間をいかにして喰らうかという取り組みが始まる。グール達を優位にする為には確実な狩場を見つける必要がある。そこで、一人のグールに白羽の矢がたった。私である。何故か一本しかないハズの勇者の剣を持つ複数の連中に終われ、命からがら見つけた扉の先、そこで私が依頼されたミッションが始まった。恐ろしくも美しい人間の金糸雀さんは“サーロのガーリックトースト“という物を私に食べるように促し、グールである私がそんな物はと一口食べると、生命、果ては宇宙がいかにして生まれたのか、知る事になる。今後千年に渡りグール界に語り継がれる事だろう」
その時、食人鬼が笑った。
って、何これ。要するにクソ美味かったって事よね!
「おかわりいっぱいあるのでどうぞ! ウォッカも注ぎますね」
ふー! さすがに40度のウォッカをカパカパ飲んでるとあったまるわねぇ。サーロの油も多分体を温めるのに一役買ってるんだと思うけど、これはいいわ! 私たちは何度かの乾杯の音頭を、そしてバゲット一本分のガーリックトーストを四人で平らげて、ガーリックトーストの簡単な作り方をグールさんに教えてあげる事にしたわ。
これで、人間食べなかったら争いも起きないわよね。
「皆さん、大変お世話になりました! 革命が起きます! グール革命です! 私たちは人間を食べれるけど食べない! そんなグール社会を目指します!」
ソバーキュリアスみたいな考えかしら? TPO意識してるのねぇ! 私たちはそんなグールさんを玄関まで見送ろうとした時、
そこには美しい顔と身体をした……まぁニケ様なんですけど。ニケ様がなんかカッコいい表情で「哀れな、邪悪なる穢れた魂よ。天に還りなさい!」と、グールさん、殺っちゃったわ。
「あっ!」
「マジであるかこのクソ女神……」
「勇者ドン引きなり」
私の中にメロディーが流れたわ。
玄関のグール
地面に落ちたレシピ
みんな何処へ行った? 見送っている途中
冒険せぬ勇者
首だけのデュラハン
みんな何処へ行った? 見守っていたハズ
目の前の女神を誰も覚えていない。
ニケは酒ばかり見てる
お酒よ泥酔から教えてよ本物の女神を
お酒よ本物の女神は今どこにいるのだろう
プロジェクト宅飲み グール、人を食べないという未来への挑戦より。




