第222話【21万PV感謝特別編】魔王様とバカラのグラスと馬肉専門店と
「くーはっはっは! 馬を喰うとは貴様ら、とんでもない奴らであるな!」
「魔王様、馬肉は日本で生で食べられる安全なお肉でクソ旨いんですよ! というか、牛や豚はよくて馬はダメなわけないじゃないですかー! しかも高級ですし」
「なるほど、深いな! 許す!」
こんにちは、天童ひなです。今日は常連のお客さんオススメの馬肉専門店を聞いたので、本日はそこに行こうと魔王様の提案しました。
当然、魔王様のお友達? も誘うわけですが、
「雑魚天使はこれぬようだ。最近、店長になったらしくてな。忙しいらしい」
「めちゃくちゃ出世してますね。さすが殺戮の天使ですね」
「うむ、ひなよ。貴様。時々適当な返しをするな! まぁいい。ダークエルフは来れるらしい。迎えにゆくぞ!」
「はい!」
着替えを済まし、私たちはダークエルフさんと待ち合わせの駅へと向かいます。そういえばダークエルフさんと一緒に食事をするのはかなり久しぶりですよね。
私達はすぐにダークエルフさんを見つける事ができました。と言うのも、凄いキメめっキメのドレスでやってきました。そういうのキャバクラとかでしか見た事ないんですよね。もちろんダークエルフさん超がつくくらいの美人なので、行き交う人々が必ず二度見してますね。
「あぁ? スカウト? 死にたいのか?」
あらあら、何らかのスカウトの人に牙を剥き始めましたね。睨みつけていてもモデルさんの撮影時みたいに綺麗な表情です。
ですが、
「クハハハハ! ダークエルフよ。何をしている! 余はここだ」
「魔王様ぁ! まさか、お待たせしてしまいましたか?」
「今来たところだ。では行くか? 今日は馬を食うぞ」
「う、馬をですか?」
うーん、異世界の人たちからすれば馬を食べるって珍しいんですかね。というか海外の人からしても珍しいのかもしれませね。
私達はタクシーを拾うと、目的地の某馬肉専門店へと向かいます。到着すると私は、
「天童で予約していた三人です」
「天童様ですね。どうぞこちらへ」
「ひな貴様、もしかして偉い奴なのか……」
「いえいえ、お店の人の接客ですよ。私だってガールズバーで働いている時とかにはお客さんに様付けする事ありますよ」
へぇ、とかほぉとか、私が貴族的な身分じゃない事を知るともうどうでも良くなってるんですね。私達は座敷に通されると、まず飲み物の注文を聞かれたので、魔王様が、
「すまぬ、馬の肉を食べるのは余ははじめてである。無礼になってはいかん、何を飲むのが正解であるか?」
と店員さんに尋ねるので、店員さんは好きな物を飲まれればよい事をお伝えした上で、
「やはり、熊本の焼酎はよく合いますよ」
と言ってくれた。それに魔王様はニコニコと笑顔で、「うむ、ではそれをもらおうか」とひとまず、私達はわりとどこでも見かける事があるお米の焼酎。白岳しろ25度をロックで頂く事になりました。
最初のお肉は上霜降り、上赤身、そしてタタキの三種盛り。
「では、馬を食す事に乾杯である! 余も競走馬とやらに乗ってみたいものだ。あれはいいものだ。美しい。乾杯である」
魔王様は賭け事はいっさいしませんが、競走馬を見るのは好きです。確かにとっても綺麗ですからね。
「乾杯でございます。魔王様」
「乾杯でーす!」
かちんと米焼酎のロックで口の中を潤わすと、まずは上霜降りから、
「んんんんっ! おいひー!」
じっと私が食べるのを見てから、魔王様とダークエルフさんが同じく上霜降りを食べました。やっぱり少し抵抗があったんですね。でも……
「おぉ、これは美味い。馬だけに美味いのであるな」
「おほほ、魔王様お上手です!」
お上手かなぁ、私達はそのまま上赤身。そしてタタキも食べると、そのお肉の臭みがなく、味わいに全振りしている桜色の馬刺しに感動。もう少し食べたいなという所で2品目の到着です。
「こちら、馬刺しのカルパッチョになります」
馬刺しロースを使ったカルパッチョです。これはお酒がすすみます。私はこんな時の為に金糸雀さんに聞いていたのです。馬刺しはなんとワインも合うという事。洋食系の馬刺し料理が出た時におススメのワイン。今回はアンバーワイン(オレンジワイン)を注文します。
みんなでグラスを合わせずに掲げて、いただきます。野菜も普段食べる物とは味が全然違います。そこに馬刺しのしつこくない油がとってもマッチです。サーモン油のカルパッチョがくどく感じるくらいあっさりしてますね。
「うまい! くはははははは! 馬の肉とワインが喧嘩をせぬな! ひな、褒めて遣わす!」
「ありがとうございます。でもほんとクソ美味しいですね」
と私ががっついていると魔王様が、「もう少し品よくせよ。みたところ格式が高い食事なのであろう?」と笑いながら言われちゃいました。いや、こんなクソ美味しい物食べるのはじめてなんですよ。
「ま、魔王様! 次はこの私め、魔王軍で雑用係をしているダークエルフに!」
「良かろう。余を楽しませると良い」
ダークエルフさんはお酒のメニューをざっと見て次のメニューである。馬肉を使った生春巻きとのマリアージュを考えられ、
「IPAのビールを」
ビール、確かにこれは美味しいかもしれません。生春巻きと言えばワインか日本酒ですが、夏だとビールです。が、現在真冬なんですよ。それも最強寒波が来てますが……
しゃきしゃきと口内から、耳の奥まで響きわたるような、すがすがしい葉野菜と私は肉を食べていると否応なしに我に返る馬肉とのマリアージュ。そこに、苦いビールが……
「うわっ! おいしい」
「うむ、でかしたダークエルフよ」
ダークエルフさんは立ち上がり、胸に手を当てて魔王様にお辞儀。それはそれは嬉しそうな顔で「とんでもありません。魔王様!」と母親に褒められた小さい子みたいな笑顔です。ほんと可愛い人ですね。
「では次は余が選ぼう。ふむ、馬の圧倒的な存在感は理解した。が正直何にでも合うだろう。そんな中、貴様らはよくぞ余を楽しませた事、余は心より褒めてつかわす。して次は茶だな。ウーロン茶をもらおう。貴様ら、飲みすぎて痴態をさらしそう故な」
馬タンを使ったサラダです。これはビールやハイボールで飲んだらさぞかし美味しいでしょうが、魔王様。箸休めにサラダを選ばれました。ウーロン茶でサラダっていうのも意外と、
「魔王様、おいしゅうございますわ!」
「先は長い。酒で舌がバカになるのもつまらぬであろう? 酒もいいが、今日は馬を楽しみに来た。次はひなが飲みたがっているであろうはいぼーるぅで決めるとするか?」
コース料理のなんたるかを一番理解されているのは魔王様のようですね。悔しいですが……というか魔物達のとはいえ王様ですから、仕方がないんでしょうか?
次は、馬肉ジャーキーとからしレンコン、そしてボテトフライです。これは……
「くぅううう! ハイボールきまりますぅ!」
「うむ、バーとかで出てきそうであるな! うまい、くははははは!」
「おいしゅうございますぅ」
ここまでで半分くらいですね。確かにどれも美味しいです。というか一品ごとにお酒を変えるという金糸雀さんの飲み方本当に正しいんでしょうか? というか、ダークエルフさんがそろそろ酔いがいい感じでまわってそうですけど、
「次は、馬ベーコンを使ったアヒージョですけど……日本酒とかいこうと思いますが……ダークエルフさんはジュースとかにしておきますか?」
「の、飲む! 魔王様が飲まれるのであれば……」
「ダークエルフよ、無理をするでない。酒は飲む物であり、呑まれる物ではなし。少し楽になれば飲むと良い。いいな?」
「かしこまりました」
部下の身体を気遣える最高の上司、魔王様。バカな会社の上司とかはあきらかダメなのに強要したりするところなんですけどね。
アヒージョを日本酒、それも熱燗で楽しみ、残ったオリーブオイルにはバゲットをつけて食べます。これも実に美味しいです。なんというか、馬感は感じられませんが、そんなの関係ないですよね。
「馬肉の生ハムになります」
これは馬刺しとは違った塩漬け肉と言った感じですね。私と魔王様はカリラというウィスキーをロックで頂き、少し回復したダークエルフさんは薄めの水割りでいただきます。
「くははははは、どうだ? ダークエルフよ。最後まで食し、その味を楽しむ事がこの店、はては馬への最高の礼となる」
「はっ! 肝に銘じておきます! いずれ、人間共を支配する際も雑用を命じてくださいまし」
一回、異世界の人たち。魔王様に政治の実権を握ってもらったらどうかと思うんですよね。幸福度500%くらい上がるんじゃないでしょうか? 知らんけど……とか言っちゃいますが。
いよいよコースもシメです。馬肉ユッケ丼です。これは否応なしに暖かいお茶ですね。魔王様のお箸の持ち方、丼の持ち方、食べ方。パーフェクトな程に綺麗でマナーをわきまえてます。
「うまい! ごちそうさまでしたと言ってやろう!」
いつもならこの辺りで何か、大変な事でも起きそうですけど、私もダークエルフさんも泥酔しているわけでもないですし、なんかいい感じですね。
「して貴様ら。ここにはおらぬがザコ天使の分もこれを買ってきた! お揃いというやつだ! くはははははは! 余からの贈り物は魔物達は皆涙を流して喜ぶ。大切につかうといい!」
ぶわあああっと泣いているのはダークエルフさん。
魔王様は同じ三つグラスを出してその内の二つ、一つずつを私達に配ってくれます。
そのグラスというのが……
「ば、バカラじゃないですか! いいんですか? 魔王様!」
「うむ、ゲーム仲間の勇者の同居人が良いと言っていたとの事でな。余とよく飲み交わす者の盃に相応しいであろう! くははははは!」
という事で、私達は馬肉を沢山食べて身体がポカポカしている中で、バカラのグラスを魔王様にプレゼントしていただき、ほっこりした気持ちで家路につきました。
「まおー! ひなちゃん、何処行ってたんですかー! 女神が来ていたんですよー! お腹がすきましたー!」
あー、出ましたね。自称女神のニケさん。永谷園のお茶漬けくらい部屋にあったかな。というか、なんでこの人連絡もなしに来るんでしょう。




