第221話 ウェンカムイと鴨のローストとデリカメゾンしっかり濃いめ(激安ワイン)
何故かしら? 無性にワインが飲みたい。一週間ぽっかり記憶が飛んでいる私達、ミカンちゃんとデュラさんはそこまで困る事はないんだけど、私は大学の課題の内容とかすっぽり消えてるのよね。
最悪の極みね。
「うおー! うおー! 仮面ライダーの前の週の内容が分からず! でもサブスクで見れり!」
「うむ、我のメモ帳にあるレシピの料理、作った覚えはないが、これを元に作れば良いか」
ポジティブすぎるのよね。
なんというか、私達と異世界組って同じ時間軸を生きてない感あるわよね。まぁ、デュラさんは寿命という概念があるのか謎なんだけど、異世界ってきっと私たちの世界と違ってゆったりとした時間の流れで生きてるんでしょうね。
常に加速する私たちの世界でもそのゆったり感は全然変わらないわ。
まぁ、私の気にしても仕方がないわね。
「鴨肉をローストビーフっぽく作ってみようと思うわ。これでなんかワインを飲んでこの変な時間酔いを忘れちゃいましょ」
安めのワインセラーか、高級ワインの入ったワインセラーか……そうだ。こんな時は今日はハウスワイン(激安ワイン)でも飲もうかしら。
ワイン通は激安ワインを飲まないだなんて言うけど、それは私の中では真のワイン通じゃないわね。あらゆるワインの味と香りを知り、それでいて確かな舌で批評するものよ。
「では、我が鴨のローストを作るであるな」
「じゃあ、私はソースを」
ガチャリ。
あら、お酒を出す瞬間じゃないパターンね。「ミカンちゃん、ちょっと出てきて〜!」「えぇ、めんどい」と言いながらミカンちゃんは玄関へ、そしてミカンちゃんのテンションが爆発したわ。
「うきゃあああああ! クマー」
「なんじゃ小娘、どこじゃここは?」
「と思いきや、クマの着ぐるみを纏いし者」
何かしら、どういう状況か分からない話が聞こえるけど、ミカンちゃんが連れてきたのは……クマの着ぐるみを着て、顔の部分だけ人間の顔、女の子が顔を出しているちょっとバカっぽい感じの何か? 普通にどっかのイベントから紛れ込んできたようにも思えるけど、きっと異世界から紛れてきたんでしょうね?
「どこかの部屋か?」
「こんにちは、ここは私の部屋で、私は犬神金糸雀です」
「ワシは見ての通り、邪神ウェンカムイじゃ、どうじゃ? 恐ろしくてちびりそうか?」
いや、全然。教育番組に出てきそうなクマの着ぐるみを着た女の子が怖いと思える感性を持った生き物はこの部屋にはいないわね。
「えー、クマの着ぐるみを纏いし者。こわくねー。かわいー!」
「うむ、邪神殿、極めてめんこい姿であるな」
ミカンちゃんとデュラさんが空気を読まずにそう言うので、ウェンカムイさん固まってるじゃない。そして私と目が合うので、
「ええっと、あんまり恐ろしい系じゃないかなーって」
「マジで? ワシが現れたら、民草は震え上がり、祭りを始めワシに帰ってもらおうように騒いでいたものじゃて!」
うーん。
それは多分、ウェンカムイさんが可愛らしいから、そこの住人が喜んでもてなししてあげてた。
……だけなんじゃないかしら?
「あ、じゃあ。ウェンカムイさんがお帰りいただくように、お食事とお酒なんていかがですか?」
あっ、めっちゃ嬉しそう。
「そうか? 仕方がないなぁ、では仕方がない飲み食いしてやろうかの」
「ぷぷー! クマの着ぐる身を纏いし者。かわゆしー!」
「うむ、めんこいであるな! 殿下と仲良しになれそうである」
やめて二人とも、煽らないで、せっかくウェンカムイさんが明るくなってきたんだから、さっさとワインと鴨ローストを……
「ささ、ウェンカムイさん。ワインを用意しましたので飲みましょう」
「うむ! 良き良き」
さぁ、デリカメゾンのしっかり濃いめは日本食やらによく合うのよ。ローストビーフならぬ和風、ハム。鴨ロースト合うのよね。
激安系のワインはなみなみと注いでガッツリ飲むのがオススメね。
「さぁ、じゃあ怖いウェンカムイさんに乾杯!」
「ふははははは! さぁ、ワシを恐れ称えると良い!」
「うきゃああああ! クマの着ぐる身を纏いし者。かわゆしぃ! 乾杯なり!」
「うむ! 殿下と違って悪い子ムーブを出しているのが殿下とは別ベクトルのめんこさを醸し出しているであるな! 乾杯である!」
激安ワイン、だけどデリカメゾンは食事のお供くらい合うのよね。ジュース感の強い甘さ。そして信じられないくらいお刺身になんかもあっちゃうの。何故か臭みやくどみが出ない謎ワイン。
「プハー! うまい果実酒だなぁ! ワシ、こんなうまい酒は初めてじゃ!」
「そうですか、それはよかったです。ささ、鴨ローストもどうぞ」
「そこまでいうなら! いただきマンドラゴラ!」
出たわね!
異世界の人のいただきマンモス的なスラング。もっちゃもっちゃと鴨ローストをウェンカムイさんは美味しそうに食べて、そしてすかさずワインで流す。
「なんじゃこりゃああああああ! うますぎるぅうう!」
叫んだわ!
絶叫する程、美味しかったのかしら。まぁ、普通に美味しいわね。デュラさんの完璧な温度加減で作った鴨ローストと私の完璧なソースが生み出すハーモニーはおそらく異世界では絶対に再現不可能な美味しさよ。
「うみゃうみゃ! つよつよぉ!」
ミカンちゃんも口いっぱいに鴨ローストを頬張って、いつの間にかカリモーチョにしたデリカメゾン飲んでるわ。
「うむ! 中々の出来であるな。が、金糸雀殿のソースに少し負けておるな。火加減、数コンマ1秒しくじったようだ」
デュラさんは料理の鉄人か何かなのかしら? 私たちがそうこうしていると、ウェンカムイさんがふぁーあと眠たそうにあくびをしてる。
小さい子って遊んでても食べてても眠たくなったらすぐに寝ちゃうのよね。そういえば、アイヌ文化ってクマの子供も人間の子供と一緒に育ててたとか聞いた事あるわね。
熊送りの時に食べるらしいけど、もしかしてウェンカムイさんってそっち系の神様なのかしら? 言語も似てるし……
「貴様ら、ワシが満足したと思うかぁ? ふぁーあ。恐ろしい閉ざされた記憶をぉ、ふぁーあ。思い出させてやるぅ……」
コテンと寝ちゃったけど、私がウェンカムイさんをベットに運ぼうとした時、私たちの身体が一瞬止まる。
そう!
凄まじい速度で失われていた一週間分の記憶が呼び起こされていくわ。
「むっ!」
「脳が張り切れそうなりけりぃ!」
そうだ! そうそう! 私たち、アルコノストさんと食事して歌を聞いたあたりで記憶がブラックアウトしたのよ。その後で、ニケ様が謎の方法で一週間前の私達の記憶のバックアップを戻すという謎のことをしたわけで、私たちは顔を見合わせると、お腹いっぱいで寝息を立てているウェンカムイさんに両手を合わせて拝んだわ。
この日、ニケ様が姿を現さなかったのは、実は玄関まで来てたんだけど、ニケ様でも戻すことのできなかった私達の記憶を平然と元に戻したウェンカムイさんを見て出るにでれなくなったっぽいわね。
ほんと、変なところ、ヘタレなんだから……




