第220話 アルコノストとスパイラルハムとエスティバル(赤ワイン)と
私達はいろはさんについてコストコに行ってきたわ。何人かでキッチンペーパーとかシェアしたのでかなり家計に優しいわね。
そんな中でミカンちゃんが巨大なハムを買ってきたわ。
「ミカンちゃんの事だから、サーモンとかイクラ買うのかと思ったわ」
「勇者もサカナ買うつもりでいたー、でもこれ試食してラブ!」
ミカンちゃん、試食したらすぐに買っちゃう浪費家タイプね。もし、ミカンちゃんと結婚したら財布の紐は握らせちゃダメね。
まぁ、私がミカンちゃんと結婚する事はまずないんだけど……
「本日はハムで一杯であるな? であればいろは殿が購入してくれたワインを開けるである」
「そうですね。あれはフルボディのワインなんて、ミカンちゃんのちゃんとしたハムにしっかり合うわね」
グラスを用意しようと時、ガチャリと音が鳴る。
その後、バサバサと翼の音。今回はそういう系の人かモンスターが来たんだなと思える私相当慣れすぎてるわよね。
「はーい、いらっしゃい! あら、ハーピー系の方ですか?」
私が見たのは上半身は綺麗な女性、頭には王冠を乗せている。そして下半身はドレスに身を包んでいるけどおそらく人のそれじゃない。
そして腕が翼のようで、胸に手を当ててお辞儀。
「ワタクシ、ハーピーではありません事。魔を払い、悪を憎む、幻獣。アルコノストと申しますわ! ところで素敵なお召し物を着た貴女は? 人間ですわよね?」
「ご丁寧にどうも。私はこの部屋の家主の犬神金糸雀です。なんかここ、いろんな人迷い込んでくるので、よければ今からワインを飲もうとしていたのでどうですか?」
「お招きいただき感謝いたします! カナリアという名前、なんだか他人のようには思えません事。では、お言葉に甘えて」
「あはは、鳥繋がりですかね? なんか、アルコノストさん、びっくりするくらい上品ですね」
「おほほ、そんな事ありません事よ。珍しい幻獣種が下品だと他の少ない仲間にも迷惑がかかりますから、皆気をつけているだけですわ」
できた種族!!!
「うおー! うおー! 幻獣なりぃ!」
「おぉ、これは凄い。初めて見たである」
「強い力を持った人間と悪魔ですわね」
これ、デュラさん、また襲われるやつじゃ……
「初めまして! 幻獣のアルコノストですわ! お見知りおきを」
ドレスの端を持って上品な挨拶。それにミカンちゃんとデュラさんが大興奮。なるほど、こういうミーハーな人達が幻獣ってすげーマナーがしっかりしてるんだぜ! というマーケティングね。
「じゃあ、アルコノストさん、はこちらの椅子をどうぞ」
私がゆっくりと椅子を引くと、「あら、金糸雀さん、ホストとしての役割もしっかりとこなせる家主様なのね。感服よ」
いやー、上品な人が来ると私もマナーを数段あげてかからないと、酒飲みの当然の流儀よね。お箸で食べようと思っていたハムも、ナイフとフォークを用意して。テーブルクロス。チーズに香菜も用意して、
「ボトルそのまま行こうと思ってましたけど、デキャンタ(フラスコ)用意しますね」
これは兄貴や狼碧ちゃん(従姉妹)の方が上手いんだけど、一応私もできなくはないわ。あんまり長く空気に触れさせず、でも焦らずにさっと。
そしてそこから全員のグラスのゆっくりと注いでいく。
私がミカンちゃんとデュラさんを視線で合図。グラスを振る。それにアルコノストさんもグラスを振って、ゆっくりとグラスをワインが滴る。
「うーん、こんな脚の出るワイン初めてですわ〜!」
やはりできる。脚というのは数千円前後のワインから見られるグラスを滴る現象の事。私の家では重いと表現するけど、脚が出るというのが一般的。二千円台とはいえ、デュラさんが買ってもらったワインは十分美味しいものだけど。
「じゃあ、アルコノストさんの気品さに乾杯!」
そう言って私がワインを顔の前くらい前で掲げると、ミカンちゃんが、
「乾杯なりぃ!」
とボウル持ちで乾杯に続く、そう日本ではなぜか下品とされるけど、世界基準ではワイングラスのマナーの一つ。デュラさんは超能力で香りを嗅いで、
「おぉ、さすが金糸雀殿、ここまで開くであるか」
と、それっぽい事を言ってるけど、デュラさんは違いが分かる悪魔だから本当にワインが開いたのを理解してくれたのね。
そして、アルコノストさん。自身のハンカチーフを取り出すと、ワインの色合いを見て、ゆっくり振ると香りを、そして一口。
「んはっ」
艶っぽい声と共に、私たちを見て笑顔を見せてくれる。
「いいワインですわね! でも、みなさん無理なさっているでしょう? 食事は余程のマナーを破らなければ楽しく、美味しくですわよ!」
「アルコノスト、ブラボーなりぃ! あとで勇者、ハグしたい」
「えぇ、後ほどしましょう」
「わ、我は毛並みを見せていただきたく」
「是非、大悪魔に毛並みを見せたなんて、幻獣達の中で自慢話になりますわ!」
すごーい! 私たちがキャストなのに、ゲストのアルコノストさんが最高の返しをしてくれるので、私たちは最高の気分でワインを飲み、そしてお皿に綺麗に盛ったハムを、ナイフとフォークで食べて。
「んみゃい!」
「うまうまであるな!」
うん、この肉肉しさ、海外ハムならではね。でもしっかり脂肪に味があって、狂おしいばかりの塩加減がワインを飲む手を休ませないわね。
「食器の選択から、おそらくワタクシに合わせて、付け合わせもチョイスしてくださった事。このハムが美味しい以上にこのワンプレートにはおもてなしをしたいという愛を感じますわ! こんな贅沢、していいのかしら?」
「いいんですよ! 私たちもアルコノストさんが来てくれて凄く食事が楽しいです! なんとなく、ハムとワインで一杯だったんですが、今日は最高の日です! ワイン、おかわりどうですか?」
「ふふっ、いただきますわ」
私たちは普段よりもお酒を飲むペースを抑えめにして、そしてアルコノストさんとの会食を楽しんだわ。音楽をかけると、ミカンちゃんとアルコノストさんがダンスを始め、テンションが爆上がりしたデュラさんはアズリたんちゃんの為に研究を繰り返しているオヤツの一つとして、ババロアを作り、アルコノストさんや私たちに振る舞い。
それはそれは充実した時間。
「あら、もうこんな時間ですわね! ワタクシ、お礼に皆様にお歌を歌って差し上げたいのですが、よろしくて?」
「是非是非、お願いします!」
「うおー! うおー! アルコノストの歌聞きてー」
「これは、自慢になるであるなー」
幻獣って、異世界だと芸能人とかアイドルなのかしら? まぁ、でも歌を聞かせてくれるというのであれば私たちはアルコノストさんがああーと発声練習をしてから、
「ララー」
と歌いだす声に、音色に、だんだんと聞き惚れていき、耳が彼女の歌を全て聴こうと全ての神経が集中する。
そして、私は……私って誰? なんだっけ? えっと?
なんだっけ?
何も考えられない。心地よい何かに包まれながら目の前が真っ暗になる。
パン!
「コラー! みなさーん! 幻獣の歌に聞き惚れて自分を失っていますよ! 本来、神々の力を持ってしても治らない状態でしたが、私の加護をこっそり皆さんにつけていたから今回は助かりましたが、幻獣は危険な側面もあるんです! わかりましたら、女神にお供えはありませんか?」
「は? このクソ女神、何を言っており?」
「幻獣なんぞ、我らはあってはおらぬな? また、クソ女神がクソみたいな事を言っているであるぞ」
そう、私たちはなぜかみんな眠っていて、気がつくと食べた覚えのないワインとコストコのハム。状況がいまいち理解できていない中で、ニケ様が、
「皆さんは私と前回会った時の記憶に戻しているんです! それ以降の記憶はもう消えていますから、私の加護がなかったらどうしていたんですか? みんな生きた屍になっていましたよー!」
「うぜ! クソ女神が勝手につけた加護とか呪いなりにけり!」
「うむ、勝手に加護をつけるとか何詐欺であるか……」
うわー、という状態の表情で二人はニケ様にそう言うけど、私の記憶とスマホや部屋のカレンダーが一週間の誤差があるのよね。
「なんで女神にクソクソいうんですかー!」
ブワッと泣くニケ様。
いつも通りの光景のはずなんだけど、もし……ニケ様の加護とやらが、私たちのバックアップみたいなものだったとして……
それで元に戻った私達って、
本当に私なんだろうか? という一抹の不安を感じながら、私はそんな事忘れる為に、ニケ様に、
「とりあえず、ワインとハムで一杯やりませんか? 今日はまだ誰も来てませんし!」
と誘って酔って忘れる事にしたわ。




