第218話 ドライアドとシャウエッセンドッグと本麒麟と
「あーわーきー光りたつにーわかあめー」
ミカンちゃんはユーミンに現在ハマってるわ。今度オフ会のカラオケがあるとかでスマホのカラオケアプリで練習中。老若男女ユーミンは人気があるからわからなくはないけどね。ちなみに私は割と最新曲、2022年のコールミーバックが好きね。AIを使って新旧ユーミンが一緒に歌ってるのは驚いたわ。
「勇者は歌も上手いであるな! 魔王軍歌唱大会に今度出てみるといい」
「おぉー! おぉー! 勇者でる。かなりあも出り?」
「いやよ。人前で歌うとかなんの罰ゲームよ」
本日の朝はデュラさんが練習がてら作った五目ちらし。最近デュラさんは残り物のみで調理する事にハマってるわね。なんでも、魔王軍の食材庫、補給担当のベヒーモスさんって人が管理しているらしいんだけど、どうしても人数の多い魔王軍では食材を腐らせる事もあるとか、それで腐る前に処理してしまう方法を考えているんだって、
「それにしてもいい味出してますね。人参、葉野菜、椎茸、卵、ハム。醤油の味つけだけでこれは凄いですよ」
「いやいや、まだまだであるぞ。金糸雀殿の作る物に比べると一歩劣るであるな」
「そうやってデュラさんは私の敷居を上げてくるー」
「勇者、深夜にガンダム録ってたり!」
ミカンちゃん、アニメ好きよね。正座待機してHDDに録画したアニメを見始めたわ。兄貴とミカンちゃん仲良くなれそうね。ポテチにコーラ、本来それを女子が行えばすぐにデブるのに、ミカンちゃんは神様の加護で太らないスーパーチート体質。正直、俺TUEEEEEするより、欲しいチートよ。
「そういえば、今日は何を飲むであるか? 食材もほとんど綺麗に使い果たしが、何か買い物へ?」
「そうですねー。ミカンちゃん、何か食べ物持ってたりする?」
ミカンちゃん、ゆっくりとこっちを見て驚いた表情をしているわ。何があったのかしら?
「ガンダムがプロレスしてり……ガンダムファイト??? 水星の魔女はおらず? ドモンガッシュつよし! 勇者、冷食のシャウエッセンドッグ持ってり」
あー、これめっちゃ美味しいやつじゃない。ナンみたいな生地に長めのシャウエッセンが包まれているんだけどかなりジャンクなのよね。
「タモさんで有名な第三のビールいっときましょうか? そういえば、私の部屋は第3のビールといえば、金麦の赤だったからあんまり選択しなかったのよね」
※別にサントリー贔屓ではなく、普通に第三のビールだと金麦赤が頭一個抜けて美味しいです。逆に糖質ゼロビールだとサントリーのPSBより麒麟の一番搾り青の方が圧倒的に上位互換になります。ちなみに普通のビールだとサッポロの黒ラベルが最強ですね。プレミアムビールだとエビスです。ソースは365日必ず何らかの酒を煽っている作者調べです。肝臓数値は正常です。
「ミカンちゃん、ほんと冷食とかジャンクフード好きよね」
「勇者、この世界の食文化に脱帽なりけり、でも、金糸雀とデュラさんのご飯が最強なりけりぃ。つよつよー!!」
「えぇ、いきなり褒めても何も出ないわよー」
「全く、勇者の奴め、今度グラタンを作ってやるである」
ミカンちゃん、本心からの言葉なのに、なんかあざと可愛いのよね。ずるいわ。じゃあ、グラスを用意して、本麒麟って確かロックアイス使うと美味しいとか何とか言ってる人がいたわね。
ガチャリ。
「あら、ちょっと見てくるわね」
私が玄関に向かうと、月桂冠を頭に乗せた、緑を基調とした服を着た可愛らしい娘さんが来たわね。
「いらっしゃい。私は犬神金糸雀。この家の家主です」
「ここは? 勇者の気配を感じますが。私は精霊の木の精霊。ドライアド」
頭痛が痛いみたいな自己紹介ね。要するに人外の人なのね。デュラさんが不よふよと浮いてやってくると、
「魔物、それも悪魔。滅します!」
「うぉおお! 大精霊である! ストップ! ストップであるぞ!」
「問答無用!」
これ、やばいやつね。除草剤とかないかしら? ミカンちゃんがひょこっと顔を出して、
「げっ、木の精霊なり」
「勇者ぁあああああ!」
アレ?
ミカンちゃんを見つけると、デュラさんとか無視してミカンちゃんの前でもじもじ。これ、あれね。思いっきり百合っ子ね。ミカンちゃんの性的嗜好は知らないけど、多分苦手なんでしょうね。
「勇者、約束の木の下で待ってたのにぃ、なんで来ないのかな? もしかして、あの犬神金糸雀とかいう女のせい? 殺そうか? 私のところに来ないとぉ、大精霊の剣が手に入らないゾ!」
木の精霊、こっわ!
「勇者、勇者の剣複製して使ってるから、そんなクソソードいらず」
「勇者の剣を複製しちゃいけません! どこの世界にそんな事をしちゃう勇者がいるのかな? あっ! 私の勇者だ!」
「木の精霊、森に帰れり」
「はーい! でも、勇者も一緒よ?」
ミカンちゃん帰還フラグが立ったわね。てか常に立ちまくりなんだけど、今回はどうするのかしら?
「木の精霊、お酒とご飯なりけり、勇者の奢りなり」
「えっ? えぇ? ほんとに?」
あー、これはアレね。私もよくやる手だわ。異世界の面倒な人は潰して帰ってもらうってやつね。一応ミカンちゃん異世界組なのに、地球に染まったわねぇ。
そういう事なら、
「じゃあ、本麒麟のロックアイス割り、ホッピー的になるみたいですよ。あと、ミカンちゃんのシャウエッセンドッグも用意しましたよ。ミカンちゃんとドライアドさんの再会にかんぱーい!」
「乾杯である!」
「乾杯なりぃ! 木の精霊も飲めり」
「はーい! いただきまーす!」
本麒麟、実は金麦の赤よりも先に出した辛口のビールテイスト飲料。昨今のライトな口当たりのビールでは満足できない一部の私達みたいな辛口ビールを好む層から絶大な支持を得たのよね。
「うん、普通に美味しいわね!」
「ふむ、確かに普通に美味いであるな」
「うみゃあああああああああ!」
炭酸好きのミカンちゃんからすれば大当たりみたいね。そんなミカンちゃんを見つめながらドライアドさんは本麒麟をきゅっと飲んで、
「美味しい! 勇者がご馳走してくれたからより美味しいのかも! ところでこの食べ物には植物以外は使われてませんよね?」
えっ? シャウエッセン入ってるけど……
「100%野菜なりけり」
普通にミカンちゃんが嘘ついたわね。それを聞いてドライアドさんが、パクリとシャウエッセンドッグにパクついて……
「おいしー! 何これ? こんな野菜食べた事ない! 美味しすぎて、この麦酒が止まらない!」
そりゃ、シャウエッセンとビール系のお酒の組み合わせって神が作り出した造形物の一つだからね。私、調べだけど。そして、美味しいのはシャウエッセン入ってるからで、まぁ、豚よね。
「木の精霊、もっと飲めり」
「はーい! じゃんじゃん持ってきて! 今日は飲み明かそー」
「その勢いなり」
第三のビールはそもそもビールじゃない謎リキュールで作られているので、回り方がちょっと違うのよね。人によってはビールより酔いやすいとか、案の定。
「勇者が、三人いるぅ、ここ天国ぅ?」
「木の精霊が行くのは、クソ森なりにけり」
ずいずいとミカンちゃんはドライアドさんの首根っこを掴んで玄関まで連れて行く、そしてドアを開けてポイとミカンちゃんは放り投げて、
「ふぅ、終わったり」
と一仕事終えた顔で戻ってくると、本麒麟のプルトップをプシュッと外して一気飲み。
「うみゃああああああ! きしょい木の精霊も消えて安心なりぃ! ん?」
ミカンちゃんの足に絡みつく植物の蔓、そしてミカンちゃんはそれに引っ張られ、玄関に。
「腐っても大精霊である。勇者を道連れにする算段であったかぁあああ!」
とデュラさんが叫んでいる中で、ミカンちゃんが「うぎゃあああ! 元の世界に帰りたくなきぃい! 勇者の剣でも斬れなし」と叫んで扉の奥に……
ガチャリ。
「あら、何ですかこの不愉快な植物は! 切りますよー!」
バチんとミカンちゃんを元の世界に連れて行こうとする蔓を軽々と切り裂いて入ってくる。毎日、飲み食いしては説教をして帰る女神様。
「うぉおおお! クソ女神! 感謝せり! クソ女神ぃいいいいい!」
「ど、どうしたんですか勇者? クソをつけるのをやめなさい」
ミカンちゃんはニケ様の両手を握ってぶんぶんとふる。
この日だけはミカンちゃんがニケ様を信仰したわね。
この日だけは……




