第214話 キマリスとアメリカンドッグとプレミアムハイボール白州と
「勇者、ポケカ買いに並んでけり」
ミカンちゃん、収集癖あるのよね。多分、これは私の世界にくる前からの癖だと思うんだけど、トレーディングカードゲーム、食玩、あざとい所だとコスメや小さい香水とか、とにかく集めてくるわ。本来、魔王を討伐する為に使わないといけない幸運とか加護をポケモンカードのレアカードを引く事に使ったりしちゃうのよね。
「気をつけてな」
「いってらっしゃい」
ミカンちゃんは普通に声優やアイドルのライブにも行くわね。男性アイドル、女性アイドル関係なしにあのライブ会場の雰囲気が好きみたい。と言うか本人がアイドルみたいに可愛いのに、これもまたあざといわね。
ミカンちゃんにはそのつもりはないんだろうけど、どうしても同性からはそんな風に思われがちなのよね。
私は付き合いが割と長いからミカンちゃんが素でそう言う子ってわかってるんだけど……やっぱり一つ解せないのが、
「ミカンちゃん、アメリカンドッグ買って来すぎでしょ……」
「ニ、三十本はあるであるな……あやつ、限度を知らぬであるからな」
「デュラさんってミカンちゃんと異世界というか元の世界でも何度か会ってるんですよね?」
「うむ、まぁ我より勇者は強いであるからな。何度も煮湯を飲まされたであるが、大体ギルドの限定定食の時間に間に合わぬとか、王都のお菓子を買いに行く時間であるとか、トドメを刺された事はないであるな」
「それって冒険できてるのかしら? 魔王軍もミカンちゃんの行動範囲外で制圧すれば世界征服できるんじゃないかしら?」
「魔王様より、完全週休四日制になってから、進軍しようにも勇者のいる王都周辺がメインであったからなー」
魔王軍、超ホワイト! というか世界征服する気あるのかしら? あのアズリたんちゃんへのみんなの寵愛の仕方からして恐怖で縛っていたというより完全に人徳で魔王軍の社会形成はできてそうだからきっと世界征服は二の次なんでしょうね。
「ミカンちゃんのアメドリ少し貰って一杯やりませんか? 酒屋さんからとんでもないお酒が届きましたので」
「と、とんでもない酒であるか?」
「これです!」
どーんと私が置いたのは缶のお酒、深い緑色のラベルに、ジャパニーズ高級ウィスキーの名前が書かれているそれをデュラさんは読んで、
「白州! 缶の酒があったのであるか?」
「いやー、それがですねー。山崎と同じで限定で販売されたんですよ。プレミアムハイボール白州です。1ケースありますので、ミカンちゃんの分を残してやりましょう」
「これは楽しみであるな。では、アメリカンドッグを少し手を加えてみてはどうか? 金糸雀殿」
「実は私も同じ事を提案しようと思ってました!」
意外とヘビーな食べ物なので実質三本が限界ね。当然、一本は普通に食べるとして、私とデュラさんのアメリカンドッグアレンジ対決が勃発ね。
私たちはアメリカンドックをまず水に晒す。さすがはデュラさん、揚げ物の戻し方をよく知ってるわ。そしてトースターにインして、サクサクを復活させる。
ガチャリ。
「入って来てください」
「入ると良いであるぞ」
私とデュラさんの料理バトル中、申し訳ないけどお出迎えしている暇はないわ。アメリカンドックである事をなくさないように、私が考えるのは……
「人間と、デュラハン殿? 何この状況……いや、これが殿下がもうされていた不思議な場所か?」
そこには明らかに人間にはいなさそうな青白い顔色の騎士の格好をした女性。本来の人間の白目部分が黒くて黒目部分が赤いわね。デュラさんのお友達かしら?
「その声はキマリス殿であるか! おー懐かしいであるな! 我が、悪魔軍特攻隊長であるぞ」
「殿はやめてください。もはやデュラハン殿は殿下より大幹部の冠を賜った大悪魔です」
「いやいや、同期ではないか、むしろ悪魔になった頃合いはキマリス殿の方が幾分か早い故、無礼講で構わぬであるよ」
アットホームすぎでしょ魔王軍。そんなキマリスさんは私を見て腰の黒い剣を向けたわ。
「人間、其方が殿下の言う。カナリア・イヌガミにて相違ないか?」
「そうですね。私がこの家の家主の犬神金糸雀です」
するとキマリスさんは剣を私の足元に置いて跪いちゃったんだけど? これどういう状態。
「やはりか、殿下に常々お話は聞いておりました。私、デュラハン殿と同じ悪魔軍で特攻隊長を任命されております。キマリスと申します。どうか、お見知り置きを、殿下が目に入れても痛くない程ともうされているだけあり、お美しい!」
いやいやいや、キマリスさん、貴女鏡見た事ありますか? すっごい美人ですよ? この異世界の人、自分の事棚に上げて、私の事美しいというのほんとやめてくれないかしら? 地味に傷つくのよね。
まぁ、普通に嬉しいけど。
「それに、纏っている衣、噂に違わぬ精巧な作り、感服いたします」
ジャージね。魔王軍の人って基本律儀なのよね。デュラさんと同じ職場の人なら尚その傾向が強いのかしら?
「キマリスさん、今からデュラさんと一杯やるところなんですけど、ご一緒にどうですか?」
「よ、よろしいのですか? 私のような下賤の悪魔が、殿下が寝食をなされたこの御殿にて……」
「どうぞどうぞ、お気になさらず。多分、アズリたんちゃんもせっかくここに来たなら何かキマリスさんにも食べて行って欲しいと思ってますよ。ささ、座って座って」
キマリスさんを強引に座らせると、白州専用グラスを三人分用意すると、そこにロックアイスを入れて、プレミアムハイボール白州を注ぐわ。
「じゃあ、魔王軍の栄光にかんぱーい!」
「乾杯である!」
「人間でありながら、金糸雀様。さすがは魔王軍大幹部! 乾杯です」
そういえば、私アズリたんちゃんの一存で魔王軍入りしてたんだっけ? この部屋の守人的なね。
私たちはプレミアムハイボール白州を口にして、白州を飲んだ事があるデュラさんですら、
「うまっ! なんという美味いハイボールであるか」
「これ、プレミアムハイボール山崎より美味しいかもしれませんね」
味のバランスが絶妙にいいわ。前回のプレミアムハイボール山崎は何か足している物の味が好き嫌いを分けたけど、これは完全に黄金配合に近い白州ハイボールね。私も再現できるかわからないわ。
そんなお酒を異世界の人が飲んだら……
「……かつて私が人間だった頃が走馬灯として流れました」
でしょうね。
美味しいを飛び越えて死にかけてたわ。じゃあそんなハイボールに合うおつまみ、いきましょうか?
最初はスタンダード。
「このケチャップとマスタードをつけて普通に食べてみてください」
原点にして至高。コンビニホットスナック、肉まん二大大御所の一つね。ミカンちゃんが買って来なかったら当分食べてなかったわね。
いざ実食。
カリ、サク、フワ!
からのどうしょうもない程のジャンク感。これがハイボールに合うのよね。今回は高級ハイボール。ゆっくり嗜むように、
「うわー! うわー! 何これ何これ、おーいーしーーーー!」
キマリスさん、脳がぶっ壊されたわね。無理もないわ。異世界の人の初日本の食事がアメドリとハイボールとか、死を招くと言っても過言じゃないわ。
でもキマリスさん、その程度で絶頂してたら休む暇ありませんよ?
「では続きまして、私のアレンジアメリカンドック、ハニーマスタード焼きです!」
「うぉおおお! そう来たであるか!」
作り方は単純明快、焼きとうもろこしを作る方法で、ハニーマスタードを塗りながらコンロでゆっくり焼き上げただけよ。衣に染み込んでいくハニーマスタードが脳を侵すでしょうね。
「まずは口直しにプレミアムハイボール白州をどうぞ、そして」
いざ実食。
まぁ、まずいわけがないのよね。新感覚の衣の味、からのやっすい魚肉ソーセージに至り、ジャンクフードのジャンク感を跳ね上げるわ。
からの再びプレミアムハイボール白州、まさにアレね。一つの演奏のように、脳内物質がドバドバ出るわ。
私が今冷蔵庫の中である物で考えうる最強の組み合わせだけど? キマリスさんは脳汁プッシューね。
デュラさんは、
「見事、さすがは金糸雀殿、アメリカンドックをここまで跳ね上げるとは恐れ入ったであるな。では我の物を」
私は一瞬息を呑んだわ。
何これ? というのが私の最初の一言。アメリカンドックが攻撃的なトゲトゲに変わっているわ。
「衣を割いて細かくして、ポテトチップスのり塩とあえて、さらにホットケーキミックスでコーティーングした魚肉ソーセージ棒に元々の衣とポテトチップスのり塩を纏わせて揚げてみたであるぞ」
何それ! 絶対美味しいやつじゃない! というか揚げてある衣をさらに揚げ直すの? 確かにポテチも衣になるもんね。私は恐る恐る、それを齧ってみる。
のり塩味がついているポテチのおかげで、何もつけなくても美味しいのね。そして一番の理由は、ポテトチップスのり塩。湖池屋が日本で最初にポテチを開発したのは有名だけど、その第一号商品、のり塩。元々、バーで出されたポテトチップスに感動した湖池屋社長が庶民でも手が届くようにと作られたそれは完全に日本人好みの味。
そして白州も日本人好みのライトな味わいのジャパニーズウィスキー。
「デュラさん、負けたわ」
「いやいや、金糸雀殿のも、焼きとうもろこしを見立てて和の心であった」
もし、デュラさんに手があれば強い握手をしていたでしょうね。でもデュラさん首だけだから、私は一応デュラさんに聞いてみた。
「美味しすぎて気絶しているキマリスさんどうしようかしら?」
「キマリス殿はじき、目覚めるであろう。殿下に何本かアメリカンドックをお土産に帰っていただければ良いが、それよりも金糸雀殿、奴が来たであるな」
「えぇ、そうね。デュラさん、テーブルを片付けて、私はノンアルコールハイボールと、湖池屋のポテトチップスのり塩を用意して迎え撃つわ」
そろりと、玄関の向こうから綺麗な白い手、来る! きっと来るわ! 自分が凄い女神だと言う度に格式が下がってそうな。私の家に入り浸る。
スーパー残念美人。
「わー! 金糸雀ちゃん、女神ですよー! びっくりしましたかー! いい匂いですねー! 今日は何を食べるんですか?」




