第208話 アポロンとパインケーキと太陽の涙(パインワイン)
「じゃあ、話を簡単にまとめると、ニケ様達の住んでる神様達の空調が壊れたけど、エアコン修理できる人がみんなインフルでぶっ倒れているので、ワタツミちゃんにお願いしたいみたいな感じでオーケー?」
私がホワイトボードに一連の流れを書いてみせると、ニケ様とプリーツさんが頷くので、こういう事でいいみたいね。そんなみんなの救世主たるワタツミちゃんはJKらしいクソ分厚い手帳でスケジュールを確認、てゆーか、この前スタバで勉強してた時もJK軍団がスマホと手帳と開いてたけど、何あれ? スマホだけでよくない?
「うーむれすねぇ、今日はこれからデートれす。明日もデートれす。三ヶ月先まで学校と隣のがっこうと、隣町の学校の男の子達とのデートの予約で一杯ななんれす」
三ヶ月待ちのパン屋みたいになってるけど、ワタツミちゃんキャバ嬢とかやらせたら年収億いきそうね。というかとんだビッチね。
「ワタツミ、神々の危機なんですよ! そんな人間の男子との逢引きなど断りなさい」
「でもでも、私わぁ、約束を破るなんてできないれすよぉ」
神々と自分の住む異世界の危機なんだけど、ミカンちゃんはテレビでサブスク見てポテチ食べて笑ってるわ。
「デュラさん、勇者あれ食べたいかもー」
「おぉ、アニメ番組の食べ物であるか」
「これやべぇ! ※オズマ・リーが死亡フラグクラッシュした食べ物なり」
誰それ?
※2008年に放送していた超時空マクロスシリーズ第三作目のマクロスFの登場人物
「金糸雀殿、パイン缶を使わせてもらっても良いであるか? あとホットケーキミックスを拝借するである!」
「どうぞどうぞ! てか何作るんですか?」
ニケ様とプリーツさんがワタツミちゃんに必死の交渉中、私はデュラさんがミカンちゃんのお願いで何を作るのか興味を持って見に行く事にしたわ。どうやらホットケーキミックスでスポンジケーキを作るみたいね。
で、ミカンちゃんがサブスクを止めてデュラさんに見せているアニメのワンシーン。パイナップルのケーキ? しかも完成した物だけど、これ無茶じゃないかしら?
卵4個、グラニュー糖適量、バニラエッセンス、ホットケーキミックを混ぜた生地を用意。そしてパイン缶を開けて、まさか……炊飯器を取り出したんだけど……一口大に切り分けたパインを生地に混ぜて、輪切りのままのパインを炊飯器にアニメのケーキみたいに配置。そしてパインの実も入れた記事を流し込んで炊飯開始。
「うむ、ケーキに合わせる酒となるとブランデーあたりであるか?」
「そうね。デュラさん、これなんて如何かしら?」
私は兄貴の安い方のワインが入っているワインセラーから一本の黄色いワインを取り出してみせる。
「ラグリマ・デル・ソル。太陽の涙と名付けられたパイナップルワインね」
「ほぉ、パイナップルにパイナップルを合わせるであるか」
しばらくすると炊飯器が炊飯を終了した事を教えてくれるので、しばらく蒸らしてからデュラさんが炊飯器の中のパインケーキを取り出すと、ミカンちゃんの表情がみるみる変わっていく。
「おぉ! おおおお! オズマ・リーのパインケーキなりっ!」
「ほんとアニメにそっくりね。みんなー、デュラさんがお菓子作ってくれたから一緒にどお? あまーいお酒もあるわよ」
ガチャリ。
「たのもー! たのもー!」
なんかややこしそうなのが来たわね。ミカンちゃんが神妙な顔をしているので間違いなさそうね。玄関に行くと、そこには学ランを着た男の子? がやってきたけど……
「ここに神々の気配を感じるな。我が名はアポロン、ヘリオスの兄にして太陽の子なり!」
ギリシャ神話の太陽光の神様だったかしら?
「私はこの部屋の家主の犬神金糸雀です。神様的な人は二人いるのでよければどうぞ? オヤツタイム中ですので」
「そうか、犬神嬢、心遣い感謝する」
「えっ? えっ? え?」
片膝をついて私の手の甲にちゅっとキス。なになに? なんか可愛いじゃない! ヨーロッパの男の子のこういうところよ! こういうところ! もう!
「さぁ、アポロン君、こっちへどうぞ」
「うむ!」
リビングではパインケーキを切り分けてオヤツタイムに突入しようとしているみんなの姿。太陽の涙をチューリップグラスに注いで、
「かなりあー、乾杯するなりー! げ、アポロンなり」
ミカンちゃんの知り合いと……アポロン君はニケ様とワタツミちゃんを見ると笑顔に変わる。
「おぉ! これは女神ニケ様、そして麗しいワタツミ、聞いてくれ、今神々の世界にゴッドインフルが流行しているのだ。この危機脱するには、ニケ様と我が力とワタツミの力を持ちてこの危機脱そうではないか! はーっはっは!」
ニケ様ってちょいちょい神様から信仰されてるのよね。ニケ様が嬉しそうな顔してるわ。
「アポロン、いいでしょう! 貴女の気持ち届きましたよ! でもその前に私を信仰する者達からのこれらを頂いてからにしましょう!」
「ニケ様、超引くのれすー」
ワタツミちゃんがへの字にして嫌がってるのを無視してワイングラスを掲げたわ。
「神々の世界を救いに! 乾杯ですよ!」
「はっはっは! ニケ様乾杯だ!」
「……か、かんぱーい!」
アポロン君以外みんなが何故か続かないので私がこうやって盛り上げてあげないとダメよね。私がそう言うと、デュラさんが空気を読んで、
「乾杯であるぞー!」
「乾杯なりにけり」
とミカンちゃんも、プリーツさんも乾杯ですとグラスを掲げる中、ワタツミちゃんだけが口を開けて呆然としてるわね。
みんな太陽の涙を口にした瞬間。
「「「「「「ウマっ!」」」」」」
と口を揃えて感想を述べた後、今日のメインはお酒じゃなくてパインケーキよ。みんなナイフとフォークでパインケーキを一口大に切り分けて、パクリ。
あぁ、美味しい。ホットケーキミックスをここまで味を変えれるのってどうやってるのかしら。
「うんみゃあああああ!」
ミカンちゃんお雄叫びにデュラさんも思わずニヤリね。ニケ様はパクパク食べて、「まぁ、悪魔にしてはよくやりましたねデュラハン!」とどこ目線の感想なのか、「おぉ! 悪魔殿が作られたこのケーキ、実にうまい。ほっぺたが落ちそうだ。そしてこの酒、甘露とはこの事を言うのだな」とアポロンさんが褒め称えるのでデュラさんも照れてるわね。
「あのみなさん、私はぁ、留学中なのれすよー」
珍しく怒っているワタツミちゃんそうプンプンとしているので、私は一口大にしたパインケーキをワタツミちゃんに食べさせてあげる。
「もむもむ、わぁ! デュラお兄ちゃんのケーキ美味しいれすー」
「まぁ、あれであるな。ワタツミ殿、金糸雀殿の世界は魅力の塊であるが、それでも我らの世界の危機であれば救うべきではないであろうか? 我ができるのであればいの一番に向かう所存であるが……これはワタツミ殿の天運というもの、なぁに、いつでも戻ってくるといいである。我も勇者も、金糸雀殿もいつでも待ってるであるよ」
「デュラお兄ちゃん!!」
本来であれば、こういう事をニケ様は言わなければならないのに、大悪魔のデュラさんがそ言ってワタツミちゃんはパクパクとパインケーキを食べて、太陽の涙を一口。
綺麗に食べ終えると、
「よぉーし! アポロンちゃん、ニケ様、神々の世界救いにいくれすですよー」
ワタツミちゃん、多分今から男の子とデートのはずなんだけど、スマホで電話をかけて「今度は二人っきりで埋め合わせするのれすよー」とか思わせぶりな電話をして玄関から帰って行っちゃったわ。
というか、留学中なんだけど大丈夫なのかしら。
「金糸雀ちゃん! パインケーキがありませんよ!」
おっと、ワタツミちゃん、アポロン君、忘れ物ですよ……




