第207話 ドラゴニュートとドライパイナップルとホットゆずかりん(アサヒ飲料)ジムビーム。
こんなに月が綺麗で大きな日は不思議と目が覚めるのよね。昔、と言っても何年か前、兄貴が私の部屋に住んでいた時は結構な頻度で飲み明かしていたらしいわ。このマンション、その頃は有名な飲兵衛御用達だったらしいから、さてこの死ぬほど寒い中で部屋から出るというのはおバカなのかもしれないけど、コートを羽織って、部屋にあるお酒とか適当に持って部屋を出ようとした時、
「かなりあ、どこへいけり?」
「あら、ミカンちゃん起こしちゃった?」
「ホット牛乳飲みすぎたり」
丁度、お手洗いに行こうとしてたのね。私は静かな寝息を立てているワタツミちゃんと置物みたいになって寝ているデュラさんを起こさないようにミカンちゃんにトートバックに入れた物を見せる。
「ちょっと屋上で一杯暖かいお酒でもと思ってね」
「勇者もいけり!」
「外かなり寒いわよ?」
ミカンちゃんはコートを着て、マフラー、手袋と完全防寒ですぐに戻ってきたので、私達はマンションの屋上へ、かなり寒いけど、ミカンちゃんが灯油ストーブ運んでくれてるので、キャンプチェアーを置いて、間に灯油ストーブ。
「熱燗飲めり?」
「それもありなんだけどね。こんなのどうかしら?」
カルピスとかの容器に入っているアサヒ飲料のホットゆず・かりん。そしてバーボンウィスキーのジムビーム。
私は灯油ストーブでお湯を沸かす。ミカンちゃんは「さむさむの外でストーブ、つよつよ!」とこの状況を気に入ってるみたいね。月は綺麗で空気は乾いて冷たくて、こんな夜中に外で飲むって結構アレね。
「ふぅ、お湯が沸いたら。ホットゆず・かりんの原液をお湯に対して4分の1、そしてジムビームを45ml、超絶簡単な冬のカクテル。ホットゆずかりんウィスキーよ」
ガチャリ。
誰か来たわね。と思ってたら、マンションの住民じゃなくて……頭に雪を乗せた幼い女の子。でも背中に翼があるわね。それも天使的な奴じゃなくて、もっと何というか、
「くちん、くちん、寒い寒い……あの、その焚き火、当たってもよろしいか?」
「どうぞどうぞ。暖かい飲み物もあるので是非」
「かたじけない」
そう言ってやってくる女の子の頭と体の雪を払ってあげると、鼻を赤くした女の子は可愛らしく笑った。
「痛みいる」
「ドラゴニュートなり」
「いかにも、ドラゴニュートのプリーツと申す」
「この建物の部屋に住んでる犬神金糸雀です」
「勇者なり」
と、自己紹介もそこそこにかなり震えているので、私は今し方作ったホットゆずかりんウィスキーをプリーツさんに渡して、私とミカンちゃんも同じ物で、
「乾杯は無しでどうぞ。身体が暖まりますよ」
んっんんっと私達は寒い夜空の下で湯気の立つホットゆずかりんウィスキーを堪能。生姜とか入れても美味しいんだけどね。
「ちょこっとつまむのにこんな物持ってきました」
私はみんなのお酒が入ったコッヘルにドライパイナップルをポトンといくつか落としてフォークを渡してあげる。
「お酒でドライパイナップルを戻しながら食べると美味しいですよ」
「これは、何と美味なお酒。それに乾燥した果実?? おいくらゴールド程……」
「プリーツ、野暮なり。冒険は持ちつ持たれつなりにけり! ほふぅ、熱々酒うまし!」
流石に夜だからミカンちゃんも吠えないわね。
というか、完全に引きこもっているミカンちゃんが冒険とかいうのちょっとウケるわね。
冬の夜でもストーブがあって暖かいお酒があるとポカポカになってくるものね。プリーツさんが申し訳なさそうにリュックから硬そうなパンを取り出して、
「こんな物しかないけれど、焼いて食べようか?」
「焼きパン旨し!」
とミカンちゃんは言うけど、多分異世界のパンが日本のパンより美味しいという保証は0ね。世界一美味しいパンを作る日本のパンで慣れた私の舌を楽しませるには少し手を加えないといけないでしょうね。
「ミカンちゃん、部屋から牛乳持ってきて、どうせなら美味しい物作りましょ」
「ラジャーなり!」
とは言え、今ある材料は硬いパン、お湯を沸かすのに使ったミルクパン。キャンプ用の兄貴の調味料がいくつか、まぁ、いけるでしょう。
「戻ってけりぃ、牛乳うまー」
「もう、つまみ食いして。じゃあプリーツさんのパンでパン粥作ってみましょうか?」
私はミルクパンに牛乳を入れて、一口大に千切ったプリーツさんのパン、そしてドライフルーツのパイン、さらにホットゆずかりんの現役、隠し味にジムビールを15ml。そしてシナモンパウダーをかけてゆっくりコトコト煮込んであげると、
「うまそうな匂いなり」
「ほんとだ!」
離乳食にパン粥はいいらしいわね。こんな手の込んだ物作るよりちゃんとした離乳食買った方が栄誉バランスいいんだろうけど、お酒の入ったフルーツ薫パン粥の完成ね。これもお酒を飲み終えたコッヘルにそのまま入れてスプーンを配っていただきます。
「フーフー、はむ! おいしー、金糸雀さん、コック?」
「いえいえ、普通の学生ですよ。でも適当に作った割にはいい味出ましたね」
「うみゃー! 勇者これスキー」
ストーブの火で暖まり、お酒とパン粥で内臓から温めてポカポカが全身に広がってきたわね。たまには寒い日に外に出てみるのもありかもしれないわね。
ガチャリ。
ミカンちゃんのアホ毛もとい妖怪アンテナもとい、ニケ様アンテナがピンと逆立ったわ。
「クソ女神来襲……」
扉から出てきたのはニケ様、私たちが暖かそうな場所で暖かい物を食べているのをみて、ブワッと泣いたわ。
何があったのよ。
「金糸雀ちゃん、女神にも暖かい物をください」
「えぇ、とりあえずこれ、パン粥ですけどどうぞ」
「金糸雀ちゃんは長生きしますよ!」
と言ってガツガツとパン粥を食べてから、しばらくストーブの前で温まっているニケ様、お酒が入ってないので今のところミカンちゃんが逃げ出す準備をしながら警戒してるわね。
「一体どうしたんですか?」
「天界の気温を調整する神々が流行病のゴッドインフルに次々と罹患してめちゃくちゃ寒いんですよ。このままでは勇者達の世界が雪の世界となって終わるでしょう」
「なるほど、それであの大雪だったのか」
「貴女はドラゴニュート種ですか、寒さに弱い種族でしたね」
「うん、この未曾有の危機をどうにかしないといけなくて」
こういう時、多分。勇者。すなわち、ミカンちゃんの力が必要になってくるんじゃないかしら? 私はミカンちゃんを見ていると、ミカンちゃんは首を横に振る。
「神々が蒔いた種なり、神々が咲かせるか摘ませるべきなり」
えっ、なんでそんなちょっと哲学的な話に持っていくわけ……そこまでして引きこもりたいのかしら?
「まぁ、勇者程度の力ではどうにもなりませんけどね」
「クソ女神ウザし! 死ねり!」
「まぁ勇者、女神になんて口を聞くのですか!」
「ちょっとミカンちゃん、死ねはダメよ。流石に死ねは」
そんないつもの私たちの会話の中で、プリーツさんはある人物を探して旅をしていたという。
「この局面、天候すらも操れる。神々を超えた超魔導士ドロテアであれば世界を救ってくれると思ったんだ。だけど、ドロテアは世界を滅ぼす魔導士、そこで起源神であるワタツミ様の力であればあるいは……」
なるほど、フラグが立ったわ。
私はとりあえず、「ホットゆずかりん、飲む人!」と言うと全員が手をあげたので、そろそろ部屋に戻ろうと思うわ。




