第204話 スカベンジャーとシャコとアンリ ド ブルソー シャブリと
「うおー! うおー! クワガタ強し!」
「凄まじい力であるな! 魔王軍に引き入れたである」
「私わぁ、オオスズメバチが好きれす!」
動画サイトで昆虫バトル動画に盛り上がっている三人。よくまぁ、虫を直視できるわよねと思ったけど、ミカンちゃん達はあれの何倍も大きい昆虫みたいなモンスターとかを見たりやっつけたりしてるわけよね。本日、同じマンションの大学講師をしている凛さんから頂いたあれを食べようと思うんだけど、虫を見た後だと少しばかり食欲が失せるのよね。
「みんな、凛さんがシャコくれたので茹でてたべましょう」
ミカンちゃんがちらりと私を見て「かなりあ可愛くない」と失礼な事を言うのよね。ちなみにミカンちゃんの言う可愛いはマスコット的な可愛さが私からなくなったというだけで、私自身が可愛くないという意味じゃないからね……そうよね?
「金糸雀お姉ちゃん、シャコさんを食べるんですか?」
あっ、ワタツミちゃんって海の神様とかその類だから海の生物を食べるのは気が引けるとかそういうのあったっけ? ちょっと考えてなかったけど、これはまたワタツミちゃんのいない時にでも食べましょうかと思ったら、
「私わぁ、シャコさんは握りで食べるのがすきれすー! リトルマーメイドに登場しないのが不思議れす」
食べるのね。ワタツミちゃんが主人公のリトルマーメイドとかはウツボとかも食べられるし、別に魔女の力とかなくても足も作れるだろうし、いまいち面白くないでしょうね。
じゃあ食べれるという事で私はシャコの入った箱を冷蔵庫から取り出すと、塩を用意するわ。私が調理準備中にお腹をすかせたミカンちゃんがシャコを見て、「げ! 気持ち悪し」というので。「エビみたいな味よ」と言うけど、「じゃあ勇者エビがいい」と子供みたいな事を言ってるので、「ミカンちゃん、シャコは白ワインが合うから何か適当に選んできて」と言ったところで、ガチャリと来訪者ね。
「みてけり」
と珍しくミカンちゃんが玄関に向かったところ、「クズ拾いなり!」と「おぉ、勇者様! お久しぶりです」とミカンちゃんの知り合い来たわ。ミカンちゃんの知り合いって総じて変人が多いのよね。と思ってやってきたのはゴーグルを首からぶら下げたなんか土木作業とかしてそうな感じの女の子やってきたわね。
「いらっしゃい。私はこの部屋の家主の犬神金糸雀です」
「こんちわ。自分はスカベンジャー。ダンジョンのクズ拾いです。宜しくです」
「クズ拾いって?」
と私が聞いてみると、異世界大辞典のデュラさんが説明してくれたわ。要するに、ダンジョン攻略やお宝発掘が目的じゃない捨てられたアイテムや、壊れた武器、武具なんからを拾ってお金にしている人たち。ストリートチルドレン的な生き方をしている人たちね。
「大怪虫に追いかけられて逃げた先に扉があったんで、えいや! と飛び込んだらここにでました。マジ助かりですぜ」
とそんな大ピンチも大きく口を開けて笑っているスカベンジャーさん。ぐぅとお腹が鳴ったので、「スカベンジャーさんはお酒はやれる口ですか?」「クズ拾いが終わったらすぐにギルドの酒場に行くつもりでした」という事なので、私は塩を入れたお湯で茹でたシャコを大皿に乗せて、ミカンちゃんが適当に選んだ白ワイン。
「シャブリじゃない」
アンリ ド ブルソー シャブリ。シャルドネブドウから作られるワイン、シャブリの入門タイプのお酒ね。よくブルゴーニュ産のーという謳い文句が有名なあのワインの一つもシャブリね。このシャブリは開くと、りんごや洋ナシのような甘い香りが広がるのよね。酸味も後を引かずに上品。海鮮に合わせやすいのも人気の一つよね。
「勇者様、モンスターらしき方がいるんだけど……」
「デュラさんは勇者の呑み友なり!」
「うむ、この室内では不戦を決め込んでいるである。スカベンジャー殿もゆるりとするがいい」
「はぁ……」
まぁ戸惑うわよね。本来は殺し合いしてるハズの勇者と魔王軍幹部が肩を並べて食事取ってるんだから、
「まぁ、そういう事だから今はゆっくりしていってください。白ワインで乾杯しましょ」
チューリップグラスに適量注ぎ、グラスをかかげて「じゃあ、スカベンジャーさんの危機一髪に乾杯!」
わー! 乾杯! とみんなアンリ ド ブルソー シャブリを口にする。うん、いいわねぇ。口の中で完成するワイン3000円くらいからワインってぐっと味が変わってくるの。
「わわっ! この白ワインおいしいれすー! 私、これ一番かもれす!」
珍しくワタツミちゃんが感動してるわね。このワインであればいくらでも飲んでいいわよ。あと何本かストックあるはずだから。
「口の中がしまるであるな。ふむ、ふーむふむ。ゆっくりと押し返してくるような余韻。見事であるな」
もうデュラさんは一体どこまで行くのかしら? ソムリエみたいな回答になってきたわね。まぁ、アンリ ド ブルソー シャブリもここまで楽しんでもらったら満足でしょうね。実際、価格も手ごろで味わいもよく、香りもよし。
ん? スカベンジャーさんがぷるぷると震えているわ。
「あのスカベンジャーさん?」
「こんなワイン……私、お金払えませんよ……」
物凄い目が泳いでるわね。そりゃ、フランスのシャブリだもんね。異世界のワインと比べたらニケ様曰く、天界の神々が作ったお酒ですら霞んで感じるって事らしいし、スカベンジャーさんが、鞄から小銭の詰まった袋を出してるので、私はすっとスカベンジャーさんの手に触れて、
「金糸雀さん?」
「それは野暮よ。ここに来た人はみんな美味しいお酒とオツマミを食べて帰ってもらってるの。だからお次はシャコをどうぞ! 海の掃除屋って言われていて、そうですね。スカベンジャーさんと同じような仕事をされている生き物です」
ある種同族食いだけど、私はシャコの剥き方をみんなにレクチャーするわ。頭の付け根をちぎってお腹を上に身に沿って尾をぷちんと抑えながらお腹の皮を頭側から剥いて背中側の殻を次は尾側から剥いてあとはパクリ。
そして、そこにおっかけシャブリよ!
「んんっ! さいこー!」
私が美味しいと目を瞑っているのを見て、みんなシャコの皮むきに挑戦ね。デュラさん、超能力でも少し苦戦してるわね。そう、苦難の果てに自分で剥いたシャコは美味しいわよ。みんなそれぞれパクリと食べて、シャブリを一口。ミカンちゃんが目を丸くして、
「うんみゃあああああああああ!」
はい、うんみゃあ頂きましたー
デュラさんも美味しさに目を瞑って味わってるわ。ワタツミちゃんは「握りが食べたいれすねー」と生じゃないのが少し残念そう。そしてスカベンジャーさん、自分に似ていると聞いて愛着でも湧いたのかしら? しばらく見つめて口にしてるわ。
「うん、美味しい。自分達って底辺の仕事だから、このシャコって食べ物食べて美味しくてうれしいです。自分にも役割あるのかなって」
「そうねー、スカベンジャーさん、どんな仕事にもいい面と悪い面はあると思うわよ。もし、スカベンジャーさんの仕事が底辺だと言われて底辺だと思っているなら、その仕事にしかないメリットを書き出してそこからその仕事の評価を上げていければいいんじゃないかしら? だから、自分だけは自分を卑下しない方がいいと思いますよ。ちょっとお説教みたいになっちゃったけど」
「いえ、金糸雀さん、ありがとうございます! 元気と勇気と仕事への誇りがもてました」
私は知らない。
この後、スカベンジャーさんが、カナリア・クズ拾いカンパニーというベンチャー企業を起こして一山当てるのを。




