第203話 ロキとギムレットとステーキジャーキーと
「うおー! うおー! 東京ヴェルディJ1昇格なりぃ!」
「やったであるな!」
スポーツ大好きなミカンちゃんとデュラさんが私からすればどうでもいいニュースで滅茶苦茶盛り上がってるわ。というかニュースに食い入るように見る子、ご老人くらいしかこの国にはいないでしょうね。
リンゴーン♪
とインターフォンが鳴るので、配達の人でも来たみたいね。むしろインターフォンが鳴らずに玄関が開いたら異世界からの住人がやってくるって慣れてる私もどうなのかしら?
「はーい!」
「配達でーす」
「サインでいいですか?」
私はサインをすると受け取った小包、何かしら? 狼碧ちゃんからだ。※金糸雀さんの従姉妹のバーテンダー
その中を開けてみると、そこにはまさかの……
「わー! 狼碧ちゃんが使ってるバーセットだー! しかもシェイカーツーピースじゃん! 嬉しい!」
私が前々から狼碧ちゃんの使ってる道具が欲しいと言ってたら、多分道具を新調したんでしょうね。前まで使っていたのを私に送ってくれたわ。これ多分、目が飛び出る程高いセットなんだけど……東京で高級ホテルのバーテンダーは稼ぎが違うのかしら?
「かなりあーそれ、この部屋にもあり!」
ミカンちゃんが兄貴の所有物、たまに私も使ってる全部で1万円くらいのバーセットの事を指してるんだと思うけど、
「ふふん! これは違うわよ。私の従姉妹の優秀なバーテンダーが使ってた道具なんだから! 今日はちょっと私がこれでカクテル作っていいかしら?」
「ほぉ、面白そうであるな! 是非、頼むであるぞ!」
「あれ? そういえばワタツミちゃんは?」
「学校という場所の課外学習とやらであるぞ! お弁当を所望されたので、重箱にて我が和洋中とおせち料理の練習がてら持たせたである」
相変わらず凄いわね。重箱弁当持っていく学生なんてアニメか漫画くらいだと思ってたわ。じゃあせっかくこの家がカウンターキッチンなのには理由があるよのね。兄貴が居酒屋ごっこをしたり、バーごっこをするのに選んだ物件。
「じゃあ準備するからちょっと待っててね」
ガチャリ。
誰か来たわね。ミカンちゃんとデュラさんの表情が強張るのでこれはなんか凄い人来た系ね。
「こんちゃー」
えーっと、すごーい。イケメン来たわ! 顔がニマニマするわねぇ、もうこのイケメンと美女に弱い性格治したいわ。
「いらっしゃいませー! この家の家主の犬神金糸雀です」
どうせキモいキモいミカンちゃんが言うんでしょ。
「ロリ金糸雀、クソ可愛いなりぃ!」
なんでよ! 元の私もそれなりには……コホン、なんという事でしょう! イケメンは私に跪いて私の手の甲にヴィズ。
「自分はロキ、悪神だとか悪戯の神だとか言われてるけど、人間に何故かクソ人気の神でぇーす! いえい!」
うわっ、ちゃっら! でも……嫌いじゃない! だってイケメンだもの! 基本的にイケメンは何をしても許される傾向にあるのよ。日本国憲法にも大概の事は赦す、ただしイケメンに限るって書いてあるし、
「かなりあぁ、少々顔のいい異性がくると知能指数下がれり」
うっさいわねー! 女子なんてみんなイケメンの前ではバッカになるのよ。ロキさん、すっごい細い狐目で笑顔が絶えないわねぇ。
「なになに? お酒飲む感じ? 自分も飲んでいい?」
「どうぞどうぞ! ロキさんこちらへ!」
「カナちゃん、ちょー優しい! うぇーい!」
「ロキさん、うぇーい!」
この部屋で作れないカクテル、出せないお酒はあんまりないので、バーテンダーのつもりで「なんにしますか?」と聞いてみると、ミカンちゃんは「勇者シュワシュワぁ!」というのでジントニックね。デュラさんは「わ、我はブッカーズ頼んでも良いであるか?」うん、二人とも私にシェーカーを使わせるつもりがないと……
ロキさんは、さすがにお酒の事あんまり知らないだろうから、
「ロキさ」
「じゃあ、自分はギムレット頂こうかな?」
ロキさん、できる人だわ! 私はミカンちゃんのジントニックをトンと、デュラさんのブッカーズを丸く成型した氷を入れたロックグラスに注いで、
「はいどうぞ」
ミカンちゃんとデュラさんの目が点になってるわ。私が本日したいのはシェーカーを使ったお酒よ。ギムレットはジンベースカクテル。私の部屋にはジンは沢山あるけど、ここは一番ベタなビーフィーターを使いましょうか、そしてライムジュースにお砂糖。氷を入れたシェーカーにそれら材料を入れて、斜め上、真ん中、斜め下。素早くシェイク、たまにバーで長々とシェイクするバーテンダーがいるけどシェイク系のお酒は味がボケやすいから手早く作るのがミソね。私の従姉妹の狼碧ちゃんの師匠のバーテンダーの人はどんなカクテルも2回しかシェイクしないの。氷をシェーカーに大量に入れて行う滅茶苦茶古い作り方なんだけどね。
「お待たせしました。ギムレットです。あと、おつまみはバーっぽく乾き物のステーキジャーキーです」
天狗マークが有名なアレね。私も自分のギムレットを作って、飲まないけど香りだけね。
「じゃあ乾杯!」
まずはみんな一口。私は香りでうん、これこれ。あー飲めたら最高なんだけどな。
「うんみゃあああ!」
「おぉ! くるであるなー」
「美味しいね。カナちゃんお上手!」
ありがたいんだけど、飲めないってのはほんと辛いわね。気を取り直して、ステーキジャーキよ。これは、普通のジャーキーと違ってステーキソース味がついて分厚いので食べ応え満点ね。
「干し肉勇者、あきたー」
「うむ、糧食といえばこれであったからなー」
保存食系に難色を示すの、異世界の人あるあるよね。こんなに美味しいのに、そんな中、ロキさんはパクリと食べて、
「おぉ! こう来るか。しょっぱいだけの干し肉でも美味しいのに、これはちょっと他の神々には教えられないなー」
「ですよねロキさん! お酒のおつまみの代表格でありながら、この安心感と安定感。そして初めてステーキジャーキ食べた時は驚きましたよほんと。
ぱきりとかじって、ギムレット。ロキさんは私の部屋を本格バーのように楽しんでくれるわ。
私たちが美味しくステーキジャーキを食べているのを見て、ミカンちゃんとデュラさんがそれをパクリ。
「うまうまーーー! 勇者こりゅえしゅきぃいい!」
「確かに、普通の干し肉ではない。これは嗜好品として食べる為に作られた物にて間違いない!」
むしゃこら食べながら、二人はお酒が進んでるわね。羨ましい。そんな二人を肴にロキさんはショートカクテルを飲み終えたので、私が飲めないでいたグラスをそっと持っていく。
「よければどうぞ。私、今はどうやらお酒飲めないみたいなので」
「うーん、悪魔の呪いかー、これは自分には治せない呪いだね。でもカナちゃんにここまでしてもらって何もしないとなると悪神としての名おりだかんねー! 特別にこの呪い解ける女神知ってるよ。ただ会えるかどうかは分からないけどね」
「女神様ですか?」
ロキさんは遠い目をしながらゆっくりと二杯目のギムレットを楽しんで、その名前を出したの。
「唯一、厄災の日に人間に味方をした女神・ニケ」
「えぇ! ニケ様、時間に関わることは解けないって言ってましたよー!」
「彼女は勝利と豊穣の女神だからね。でも呪いに関しては時間とか関係なく彼女ならやってのけるよ。まぁ、彼女は規律に厳しく、人間であるカナちゃん一人にそんな忖度はしてくれないと思うけどね。自分は悪戯の神、ロキ。ヒントはあげるけど、難しくてとてもじゃない事しか言えなくごめんね」
ポンポンと私の頭を軽く二回撫でるロキさん、イケメンに限って許される最強のスキンシップね。私はありがとうございますとロキさんを玄関で見送ったわ。
一体、一部の神様の中でニケ様がどういう扱いを受けているのか知らないけど……
「こ、こんにちわー! みんなの女神。ニケですよー……今日は入れてくれますかー?」
と流石に毎日追い返してたらニケさんが入れるか慎重になっている中で、私は、ニケ様を笑顔で接待。
「ニケ様いらっしゃい! 今日はなんでも食べて、なんでも飲んでもいいですよ! 好きな物なんでも言ってくださいね」
「か、唐揚げとか?」
「OKでーす!」
「シャンパンとかは?」
「兄貴のワインセラーから好きな物を!」
「アイスにハーゲンダッツなんて女神でも流石に出過ぎた真似ですよね?」
「ニケ様の好きなラムレーズン買いだめしてますよ!」
ニケ様が子犬みたいな目で私を見つめているので「ようやく金糸雀ちゃんは私の事を信仰するようになったんですね! もうなんですか!」とヌカよろびしているニケ様に私は超笑顔で、
「まず、呪い解いてくださいよ」
私の長きに渡る禁酒生活が終わりを告げ、そして子供の姿の私がドストライクだったらしいミカンちゃんがしばらくニケ様に文句垂れてたわね。
はー! やっとお酒飲める!




