第201話【200話突破特別編 魔王様と純喫茶と酔いどれエルフと】
おはようございます。天童ひなです。最近魔王様はモーニングにハマっています。なんでも近所の老人会の皆さんの腰痛や肩こりを魔王様の魔法的な力で癒してあげたお礼にと、異様に朝早起きなご老人達に連れられて純喫茶のモーニングをご馳走になったらしいです。
「ひなよ! モーニングに参るぞ」
「今週もですか……ここ最近毎週ですね」
「不服か?」
「いえ、美味しいからいんですけど」
「くーはっはっは! 良い、美味しいは正義である! 余は美味しいものが好きだ」
私も好きですけどね。朝からモーニングとコーヒー……ではなく、老人会の方々はアレなので朝からビール飲んでるんですよね。それを覚えた魔王様は、
「本日はスクランブルエッグとビールが良いかもしれんな」
「私はソーセージセットにしましょうか」
まぁ、私も飲みますけどね。本日休みですし、そんな風にいつもの純喫茶に向かっていると、フードを頭からすっぽりと被った女性がこちらに歩いてきます。そして魔王様とすれ違う瞬間。
「死ね魔王! エルフ秘伝魔法中の秘伝! ブラストル・ファイアー!」
「ムムッ! 貴様は数百年前余に立ち向かった勇者パーティーのエルフか? くーはっはっは! 久しいな!」
と旧友に会ったそうです。自らエルフと言っている彼女の魔法的な何かを魔王様はポイと振り払ってぎゅっとエルフの方を抱きしめました。
「離せ魔王!」
「貴様、セラであったな? このような場所で何をしている?余と同じでひなに召喚されたか?」
そうでした! そうでした! 私、ストーカーに襲われた時、偶然魔王様を召喚したんですよ。という事はこのセラさんというエルフの方も……、
「私は……魔道具に触れてここの世界にやってきてしまったのだ……」
「そうかそうか、苦労したであろうな? 今、余はひなとモーニングに参る! 貴様も来るといい! 同郷の者には施すのが余である」
魔王様って元の世界では魔物達の王様じゃなくてなんか凄い王様なんじゃないかと最近思うんですよね。そんなこんなで私たちは純喫茶にやってきました。
年配の女性の店主さん、笑顔が素敵です。
「マスター! おはようだ!」
「おはよう魔王さん、それにひなちゃん。もう一人の美人さんは?」
「セラ・ヴィフォ・シュレクトセット。ハイエルフだ。店主、この事は内密にだぞ」
ウィンクをしながらそう言うセラさん、私も指輪物語とかや魔王様のお知り合いのダークエルフさんとかでエルフという存在が美形だという事は存じていましたが、セラさんは本当に絵に描いたような金髪碧眼の美女エルフさんです。みているだけで役得……とは私も自称女神様の件より警戒しています。
「マスター! 余はスクランブルエッグのモーニングセットにビールである! コーヒーはシメにいただくぞ」
「私はソーセージセットとビールで同じくコーヒーは最後に!」
「はーい! セラさんは?」
「私はピラフとナポリタンをいただこう! あとビール」
モーニングですらないのに、店主さんは「はーい」とまずはウェルカムドリンク代わりにジョッキのビールを三杯持ってきてくれるので、朝から私たちは落伍者ばりに、
「くーはっはっは! 旧友とモーニングに乾杯である!」
「わーい朝からビールだ! 乾杯!」
「誰が旧友だ魔王! 私はと貴様は好敵手だ乾杯!」
ガツンと昔ながらの大きい昭和の中ジョッキ(現在の大ジョッキ)で私たちは乾杯し、ごきゅっと一口喉を鳴らします。朝から飲むビールはその背徳感と目覚めの一杯に最高でした。まぁ、朝からビールなんてお正月以外基本ダメ人間のレッテルですからね。
「くあー! 最高だー! 朝っぱらから麦酒だなんて無敵がすぎるだろー!」
美人だけど、ちょっと荒っぽい喋り方で可愛い感じですね。魔王様もニコニコ、久しぶりのお友達に嬉しそうです。
「はい、魔王さん、スクランブルエッグセットお待たせ! ひなちゃんもソーセジセットね。セラさんはすぐ持ってくるからちょっと待ってね」
「おけまるだー!」
魔王様はみんなの料理が揃うまで手をつけないのが律儀ですね。なんというか、みんなでご飯を食べることにこれほどまで強い意志を感じるのは昭和時代のお父さんみたいです。
「ピラフお待たせ!」
「うおー! うまそうだ!」
という事でみなさん手を合わせていただきます。魔王様はスクランブルエッグをトーストに乗せてケチャップをたっぷり、そしてビールで合わせてます。
「くーはっはっは! マスターのスクランブルエッグは絶品である!」
「こんなジジババしか来ないお店でそんな風に美味しく食べてくれる若い人がきてくれると元気が出ますよ!」
「そうか? マスターなどまだまだ若いではないか!」
「うん、そうだな。魔王や私に比べればまだ子供と言っていい」
そう言ってセラさんは顔を赤ながらビールをグイグイ飲んで、おつまみにピラフって、オムライスにビールみたいな組み合わせなんでしょうか? 海外ではお米は野菜ですからね。
さて、私はまずソーセージだけでポキンと、そして粒マスタードで一口。ビールを追っかけます。
「至福です」
現代の大ジョッキであり、このお店の中ジョッキビールが無くなったところで、私は「魔王様、大行っときますか?」魔王様は付け合わせのトマトを美味しそうに目を瞑って食べると、「良い! 頼むといい」というので、私は「セラさんはビールのおかわりとか」「いただこう。ひなさん、魔王が飲んで私が飲まないなんてありえないからな!」と言うので私はまだ朝の8時半なのに「すみませーん! 大ジョッキ3つお願いします」と注文。
「はいセラさん、ナポリタンね。あと大ジョッキ。若いわねぇ」
店主さんのテキパキとした姿勢、私もガールズバーで見習わせてもらいます。大ジョッキ、その辺のお店でのメガジョッキを三つ持ってきて「ごゆっくりね」と言って他の年配のお客さんの接客に戻っていかれます。
「ひなよ。なぜ、この店のビールはこのように大きいのか?」
推定1Lは入っている大ジョッキ、かつては他のお店もこのくらいの量を出していたそうですが、
「酒税法という法律、この国のルールの問題ですね。昔はビールが安かったので量が多かったんですが、値段が上がったのでお値段そのままで量を減らしている感じですね」
「セブンイレブンの上げ底弁当じゃないか! 許すまじ!」
「む……、ではマスターはビールを出すだけ損ではないのか?」
それにはカラクリがあります。
「こちらの純喫茶は常連さんがメインターゲットなので、お値段をしっかりあげていますので、問題はないハズですね。これは私のガールズバー友達の金糸雀さんがこのお店のメニュー料金を見て言ってました。さすがは経済学部の大学生さんです」
「ほぉ、ならば気兼ねなく飲めるであるな! くーはっはっは! 気に入った! 大ジョッキおかわりである!」
えっ? 魔王様、1Lはある大ジョッキをグイッと飲み干してしまいました。普段はゆっくりと楽しまれるのに、……はっ! 魔王様は昭和時代のビールの飲み方を楽しまれているようです。なんだかんだ言って日本人のお酒の飲み方は海外では異常な量を飲まれていますからね。海外のアル中の人の飲酒量より飲みサー大学生の飲酒量の方が多いくらいですし……ですが魔王様、節度のある量をご自身で知っているので、トーストにバターを塗りながら食事も楽しまれています。
「くそー! 私だって負けないんだからな魔王!」
グイグイと大ジョッキを一気飲みしようとするセラさん、これはいけませんね。お酒は楽しく飲むもので量を競うものじゃないです。ですが、ガンと飲み干して「お代わりだ! ご婦人!」と真っ赤に顔を染めながらセラさんもおかわりです。その間にナポリタンをちゅるちゅると「んまぁい!」と完全に酔っ払いです。二杯目の大ジョッキは魔王様はゆっくり残りのスクランブルエッグをおつまみに楽しまれていますが、セラさんはフラフラで「セラよ、見苦しい。その辺りにしておけ」「何を言ってるんだ。魔王、私はなぁ! 貴様の魔法を唯一受け流したハイエルフなんだぞぉ……」「うむ! あの時は見事であった。がしかし、店に迷惑である」と魔王様は自分の大ジョッキを飲み干すと、セラさんの分もクイっと飲み干してしまいました。
「マスター! お勘定である! 本日もご馳走になった。コーヒーはもう結構だ。迷惑をかけたな」
「はーい、全然大丈夫よ。いつもありがとうね」
魔王様は泥酔したセラさんを背負いながら、ニコニコといつも通り笑っています。
「魔王様、その人どうしましょう?」
「うむ、酔いが覚めるまでひなの家に連れて帰るとしよう」
まぁ、そうなりますよね……と思っていると、見知らぬ、目つきが悪い、お兄さんが近づいてきて、なんでしょう? 絡まれるんでしょうか?
「あの、すみません。そいつウチの居候なんですよ。迷惑かけたっぽいですね」
「良い! セラは余の旧友である。セラの面倒を見てくれているのか? 余の方も礼を言う」
「セラの知り合いなのにまともだ……あっ、俺のマンション、すぐそこなんでよければコーヒーでもどうですか?」
セラさんの泥酔で飲めなかったコーヒーが飲めると言う事で私たちはこのセラさんの保護者であるという青年の家にお呼ばれしました。
それにしてもこの街、一体どうなってるんでしょうね?




