第196話 二口女とさつま揚げと魔界への誘い(芋焼酎)
「勇者ポテトサラダ食べたし!」
「ミカンちゃん、今日デパ地下に来たのは私のガールズバーの同僚の※天童ひなちゃんの誕生日だからサプライズでケーキをあげようって話になったのよ」
※キリ番特別編等登場の魔王様と住んでる別主人公
という事で、ケーキを見繕って帰るつもりだったんだけど、ミカンちゃんが「うおー! うおー! ちまきなりけり! あっちは鳥のもも肉!」とデパ地下にテンションを爆上げしているので餃子くらい買ってあげようかと思っていると……
「くすくす、あの子、お姉ちゃんなのに妹ちゃんに迷惑かけてる」「お姉ちゃん、可愛いな」「妹ヤンキーかよ。こわっ」「全然似てない姉妹だな。お姉ちゃん可愛いな」「妹こっち睨んだこわっ!」
と、ほとんど私の誹謗中傷とミカンちゃんへの賛美なのは少し腑に落ちないけど、私は今現在ミカンちゃんより子供の中学生くらいの見た目なのよね。この子供サイズになって分かったけど、ミカンちゃんガチで目を離してたら速攻でいなくなるわ。
「かなりあー! お団子あり!」
「そりゃあるでしょうね」
ミカンちゃんがお団子を二つ買って私の元に戻ってくる。「あげり!」「どうも」と二人してしばらくもっちゃもっちゃとお団子をベンチにかけて食べる。そこで私はミカンちゃんに話しかけたわ。
「ミカンちゃんあのね」
「ん?」
「私もう、我慢できないわ。今日お酒飲む」
「酒カスの極みなり……」
連日連日、私だけ麦茶とかカルピスとかジンジャートニック(ジンジャエールとトニックウォーター)とか……体がどう考えてもお酒を求めてるのよね。
「それでね?」
「うぬぬなり」
「今日飲むお酒にあったおつまみをここで選ぼうと思うの、というか、ここで買ったおつまみに合うお酒を飲むわ」
「……シークレットミッションなりけり」
私たちはあれこれ試食を重ねたわ。中華か、洋食か、はたまたスイーツ系か……肉か魚か野菜か……揚げ物、天ぷら……そして今回私たちのメガネに適ったのは……つまみ揚げ。
要するにさつま揚げね。
「かなりあ、この食べ物はビールなり?」
「うーん、も悪くないわね。家に帰って私の最適解を教えてあげるわ」
家に帰る。妖怪を拾う。
ラノベとかにありそうなタイトルね。明らかに瘴気を帯びている着物を着た女性。ミカンちゃんが蹲っているその女性に、
「大丈夫なり? 空腹と見たり」
「お腹が空いたの、それ分けてくれないかしら?」
「いいですよ」
一つ、二つ、三つと……この女性の人、めっちゃ食うわね。明らかに人外だなぁと思うのは顔にある口ではなくて首の後ろにある口に髪の毛で食べ物を摘んで食べている事。
「あの、モンスターなんですか?」
「妖怪よ」
「へぇ、まぁいいや。そこウチなんで飲んで行きます?」
「妖怪久しぶりに見たり! モンスターとの違いは謎なりけり!」
「えっ? 貴女達怖くないの?」
「別に私たちをとって食おうというわけでもないですし、私は犬神金糸雀、こっちは一応勇者のミカンちゃん」
「よろよろなりー! かわゆし! 名前は?」
「可愛いだなんて……二口女よ」
あぁ! 結構メジャーな美人妖怪よね。江戸時代に人気になったとかなんとか言う創作物ね。
話しながら私のマンションまで戻ってくると、ミカンちゃんは壁抜けして入っていく。「!!!!」二口女さん驚愕の表情。私は鍵を開けると「どうぞいらっしゃい」と普通に二口女さんを招き入れる。
「お帰りであるぞ!」
「きゃあああ! 首だけお化け!」
うわぁ、懐かしい。この感じ、最近来る人。デュラさん見てもなんとも思わないものね。
「そうなのであるよ! 首を手に持つ騎士のお化けの筈が、首だけ騎士お化けが現在の我であるな」
デュラさんも絶妙に天然な返しをするのよね。彼、真面目だから。そしてひょこっと顔を出したのは神様であり留学生のワタツミちゃん。
「か、神様……」
「ワタツミれすぅ! さては妖怪の方れすね? 初めましてれす!」
そして、ミカンちゃんの叫び声。
「ああぁあああなりぃいい! 二口女がさつま揚げ全部食べたりぃい」
あらら、そんな事だと思ったわ。それに二口女さんは「あの、その……私、そういう妖怪で」、きっと人間相手ならそこそこ畏れを抱く対象だったのかもしれないけど、
ワタツミちゃんは驚き、デュラさんは真顔になる。それをみて二口女さんは土下座。
「おぉ、お許しください」
「金糸雀殿」
「何かしら? デュラさん」
「二口女殿は大層な大食漢とお見受けしたである。手伝ってはいただけるか? 無限さつま揚げである」
「分りました。ワタツミちゃん、ミカンちゃん、二口女さんに麦茶でも出してあげて、デパ地下を超えるさつま揚げ用意するわ」
「はいれす!」
「えぇ、勇者めんどい」
つまみ揚げは要するにおでんで言うところのボール。それそのものとしてもおつまみになる事から鳥ごぼうやイカ、野菜と鰯などパターンは色々あるわね。私の知識、技術、そして現代の利器フードプロセッサー。そしてデュラさんの超能力があれば……百人前だって瞬殺で作れるわ。
「お待ちどう様であるぞ! 軽く塩だけ振ってあるである! 熱々なのでデパ地下に勝らずとも劣らぬ自負はあるぞ! して金糸雀殿。合わせる酒は?」
私はかつて限定のお酒、現在はどこでも入手可能な……一本のボトルを取り出したわ。
「魔界への誘いでキメましょう。これのストレートね」
トクトクトクとみんなのグラスにそれらを注いで、「金糸雀殿はお酒はアウトであるぞ! ノンアルコール焼酎で我慢である」
マジか……「えぇ、でもデュラさん」「金糸雀殿、我儘をいいなすまい。殿下ならそのような事は申しませぬぞ!」「は、はーい」
というかどこのどいつよ。ノンアルコール焼酎なんてもの生み出してくれた奴は……まぁ、買ってる私も私だけど……焼酎を作る過程でアルコールを飛ばして作ってて味だけは焼酎なのよね……本来ウォッカを混ぜて高アルコール焼酎作る為に買ったのに……
「じゃあ乾杯」
「勇者しゅわしゅわがいい! 乾杯なり」
「わー、いい香りの焼酎れす! 乾杯れす」
「乾杯であるぞ! ささっ、二口女殿も」
「は、はい。乾杯」
ぷっへぇええええ! とかミカンちゃんが言ってたり、口の中が天国れすぅとかワタツミちゃんが言ってたり、ほほっ! さすがは金糸雀殿のチョイスであるな! とかデュラさんが言ってたりするけど……私は魔界への誘いの香りを嗅ぎながらノンアル焼酎。鰻屋の前で白米食べてる人みたいね。
「わぁああ美味しいけどきついお酒……」
「ささ、熱いうちにさつま揚げもどうぞである」
いざ、実食!
うん、素材の歯応えを殺しすぎないようにフードプロセッサーで潰した材料の中にわざわざ別切りした食材を混ぜて油の些細な変化すらも丁寧に調整した匠の一品ね。もはやおつまみというか料亭で出てきそうな仕事だわ。
「うきゃあああああ! うんみゃい! 熱々でうまうま」
「わふー! ハフハフれすねぇ。美味しいれす」
「あらぁ、さっきのより本当に美味しい」
パクパクと二口女さん凄い勢いで食べてるけど、山のように積んであるさつま揚げは中々無くならないでしょう。デュラさんも満足の出来だったみたいね。
「しかし、二口女殿は何故道端で倒れていたであるか? 油断させて人間を喰らうおつもりだったとか?」
デュラさんがサラッとモンスターらしい事を言うけど、二口女さんは少し怯えた顔をして食べる手を止めないわ。止めないのね。そりゃ前の口で喋って首の後ろで食べてるんだものね。
「私は人を殺したりする妖怪じゃありません。こうして食べ物を頂いたり、この食べ方が見つかって驚かすようなそんな妖怪なんですけど……ある人物に調伏されかけていました」
霊能力的な人かしら? 妖怪がいるならそういう人もいるでしょうね。
「ダークギャザリングなり! 二口女をぬいぐるみに閉じ込めて共食いさせり!」
「わふー、あの漫画面白いれす!」
最近の漫画ってなんて漫画あるのよ。そんな二口女さんはやはり食べる手を止めずに、
「薄い黄金の髪をして尖った耳を持った人間。それが、私の話も聞かずにモンスターと呼び襲ってきたのよ。命からがら逃げる事はできたんだけど……食べ物を食べられなかったらあのまま消滅していたわね。ありがとう。金糸雀さん、ミカンさん。そしてデュラ様」
デュラ様! あっ、これ恋する乙女な顔だ。ははーん。胃袋を掴んだのね。そういう事なら私も一肌脱ごうじゃないの。
「二人ともお酒進んでませんよ。どうぞどうぞ!」
「ありがとう」
「すまぬである」
めちゃくちゃ食べるという点を除けば二口女さんは器量良し、性格よし、大和撫子。これほどまでにいいお嫁さんはいないわね。デュラさんも隅におけないわ。
そんな和やかな宴会中。
ガチャリと扉が開き、ミカンちゃんはサッと席を立つ。そして二口女さんが震え出す。
「何か凄い浄化の力を感じるわ。私の霊格を保っていられない程に……あぁあああ」
私が玄関まで行くと、マフラーにコートを着たお洒落ニケ様が両手をあげて「女神が来ましたよー!」
「帰ってください。ニケ様がくると大変な事になりそうなので、いやいつも大変な事になってるんですけど、今日はガチな奴なので」
「どうして女神を最近入れてくれないんですか! 浮気ですか? さては他の女神がいるんですね!」
「お引き取りください」
「がなりあぢゃんがづめだいぃいい。うわーーーん!」
さて、嵐は去ったわね。するとミカンちゃんが壁抜けで戻ってきたわ。現金なミカンちゃんめ! さて、私がデュラさんと二口女さんを酔わせたい理由はただ一つよ、
さ、魔界への誘い飲も!
リビングに戻ると、酔い潰れた二口女さんを介抱するみんな。そして魔界への誘いは空。
どうやら運命は私にお酒を飲ませる気がないらしいわね。