第193話 獣人再びとかっぱえびせん甘エビ100%使用と金麦限定醸造 円熟の深み
私はお酒が好きだ。あらゆるお酒が好きと言っても過言じゃないわ。だから私は兄貴が新製品が出たらとりあえず1ケース届けてもらうようにしているのに関して感服を覚えてるわ。私ははっきり言って発泡酒や第三のビールよりもちろん普通のビールが好きなんだけど……本日届いたのは金麦。第三のビール界のアイドルね。その新製品が兄貴と契約している酒屋さんから届いたわけ、本日はいろはさんの家で飲み会をしようという事になっているので、お酒を受け取ったら私もその足でいろはさんのマンションに向かうと思っていたんだけど、
「金麦の限定醸造か……なんだか懐かしいわね」
そう、今でこそ誰が来てもなんとも思わなくなった私のこの部屋に一番最初にやってきて私を驚かせ、そして楽しく飲めた獣人で銀細工師兼ギルドで働いているクルシュナさん。金麦初めての限定醸造を一緒に飲んだのよね。
ガチャリ……
おっと……
「すまない宿を貸してはくれないか? か、金糸雀じゃないか!」
それはとても懐かしい声、そして凄いずぶ濡れだったので私はバスタオルと、着替えを貸して再び私の部屋にやってきたクルシュナさんに温かい紅茶を出した。
「クルシュナさん、お久しぶりです。また迷われたんですか?」
「いやぁ、今回。銀細工の依頼の品を届けていたところ、山の天気が急に悪くなってな。それで霧まで出てきて右も左も分からなくなってしまった。流石にこのままだと不味いと思った時に、あの時と同じ扉があったから開いてみたんだ」
クルシュナさん、あいかわずクソ美人ね。私の服、ブカブカなのに胸の部分だけが窮屈そうなのはきっとクルシュナさんのスタイルがモデル顔負けだからだと思いたいわ。
「食べ物とかはどうしてたんですか? お腹空いてますか?」
「あぁ、このバックの中に入っているからそれを食べながら凌いでいた。だから別段空腹じゃない」
「じゃ、再会の証に呑んでいきます?」
「……いいのか? あの麦酒、忘れられなかったんだ」
私はトンと今年の新製品。金麦限定醸造・円熟の極みをクルシュナさんにポンと渡す。
「おぉ! これだこれ……入れ物の色が青いな。前は赤みがかっていたが」
「今年のモデルです。あれから時間が結構経ってるのでこれもさらに味に磨きがかかってると思いますよ」
プシュ!
初めて会った時、プルトップに戸惑っていたクルシュナさんも今ではプシュっと簡単にそれを開栓して、
「クルシュナさんとの再会に乾杯!」
「可愛い金糸雀に出会えた奇跡に乾杯!」
うひゃああああ! この金麦、おいし! 二種類の麦芽を使って以前のコクにさらにまろやかさも追加してしまったみたい。クルシュナさんは色っぽくペロリと舌を出して、深いため息。
「はぅ……やはり美味い。これだな」
第三のビールばかり出すのはなんだか失礼かなと思ったりしたけど、安い酒だからまずいわけでも高い酒だから美味しいわけでもないのよね。
その人にとってフェイバリットたらしめるかどうかは本人にしか分からないし……
「お腹空いてないみたいなので軽く摘める。かっぱえびせん。それも甘エビ100%使用です」
「面白い形の食べ物だな。いただこう」
ポリっと食べ、クルシュナさんの犬系の耳がピンと立ったわ! なんというかこういう反応超可愛いわね。
「ふふ、さすがは金糸雀の出す物だ。なんという旨み。今まで味わった事のない歯応え、そしてこの麦酒に狂おしい程よく合う」
グイッと金麦限定醸造・円熟の極みを飲み、かっぱえびせんを時折食べる。こんなのお金のない大学生の宅飲み様式のハズなのに、クルシュナさんが飲み、たまに指についた塩味を舐めるだけで、雑誌の取材のワンシーンみたいになるのは何故かしら……
「お代わりいいか?」
「遠慮せずにどうぞ!」
2本目、私も頂こうかしら。そういえば今、いろはさんの家で飲み会だったんだけど、まぁあっちは朝までやってるだろうし、クルシュナさんとのひと時を楽しもうかしら。
「んぐんぐ、ふぅ。あれから色んな地で麦酒を呑んだがこれ程の業物には出会えなかった。むっ! 金糸雀。その髪飾り」
「クルシュナさんに貰った物ですね。気に入っているのでいつもつけてますよ」
流行を選ばない名も知らないお花をモチーフにしたデザインのそれを私は本当気に入って使ってるんだけど、流石にジャージには合わないわね。
私を見ながらクルシュナさんは満足したように顔を赤らめて金麦限定醸造・円熟の極みを舐めるように呑んでるわ。
そういえば、クルシュナさんはあんまりお酒強くなかったのよね。このあたりで止めておかないとまた酔い潰れちゃうわね。
なんかこう、酔い潰れるって可愛い言葉よね。
「うん、美味い。お腹がいっぱいでも手が伸びてしまう。やめられない、止まらないだな!」
カルビーかっぱえびせんのキャッチコピーよ! さすがはカルビーね。異世界の住人相手でも軽々と虜にしてしまうんだから! 私は止めようとしたけど、一足遅かったわ。
プシュ。
3本目、クルシュナさんのデットラインは前回もこのあたりだったハズ、もうすでにフラフラと船を漕ぎ始めてるし……山道歩いてたって言うし、疲れてるんでしょうね。
「……金糸雀、もう少しお前と話したかったんだ……」
「そうですね。でもそろそろ難しそうなので、寝室行きましょ。ゆっくり休んで目が覚めたらお届け物を届けえてあげてください」
「……かたじけない」
私はクルシュナさんを私のベットに運ぶとそこで横にさせる。水とレモンをお盆に用意して起きた時に酔い覚ましに使って貰えばいいわ。
「さて、クルシュナさんいるし、流石にいろはさんの所には行けないわね。仕方がないわね」
スマホでいろはさんに連絡、かくかくじかである事を伝えて、いろはさんから私の不参加をみんなに伝えてもらう事にしたわ。
なぜなら……
ガチャリ。
「こーん! ばーん! うわっぷ!」
「ニケ様、少し静かにしてください」
「女神の口を押さえるとは何事ですか?」
「すみません、でも私の友達が寝てるので」
「おや、それは私も失礼したのですよ」
自分の家か何かだと思っているニケ様はリビングに向かうと、今まで私たちが飲み食いしていたものを見て、
「金糸雀ちゃん!」
「金麦はもうないですよ。代わりに残ったかっぱえびせんでも摘んでくださいよ」
「お酒がないと始まりませんよ?」
知りませんよ。
さすがにサシでニケ様と飲むのは嫌ね。カルピスでも飲んで帰ってくれないかしら?
「金糸雀ちゃん、ところで他の皆は?」
「みんなは私の友人の家で飲み会してますよ。ニケ様もそっち行ってもらえればきっと沢山飲めますし、食べれますよ?」
私のこの発言に対してニケ様はうーんと少し考えるような仕草を取ってる。ほんと、酔ってないとこういう仕草一つとっても絵になるのにニケ様は飲酒する事で信仰対象失っていると思うのよね。まぁ、神でも狂わせる麻薬がお酒という事なのかしら?
「寝室で寝ているのは……お酒に潰れてしまったんですか?」
「えぇ、お酒好きな方なんですけど、弱いんですよ。ニケ様と同じで」
「私は弱くありませんよ?」
お酒あるある。弱い人程、自分はお酒が強いと思っているアレ、別にお酒が強いから偉いわけでもないけど素面でいる人は他者に迷惑をかけないからいいのよ。量を飲めるだけで酔っぱらう人は大抵迷惑かけるから飲んじゃダメなのよ。
ポリポリとニケ様はかっぱえびせんを食べて、
「あら! これ美味しいですね! エビの味がしますよ」
「鯛が実際に連れるらしいので凄いエビ入ってるみたいですよ。それもこちらは甘エビですし」
「本当においしいですねー!」
うん、可愛い。こうやって無邪気な表情で微笑むだけで、どれだけ信者を集められるのか未知数ね。ニケ様、本気でお酒禁止にしようかしら? 私が多分気持ち悪い笑顔でニケ様を見ている時、ニケ様は見つけてしまったのよね。
「これは、綺麗な缶ですね! 第三の麦酒。金麦じゃないですか!」
「チっ、見つかった」
「今舌打ちしましたか?」
「いえ、くしゃみです」
ニケ様は自分でビールグラスを持ってくると、そこに金麦限定醸造・円熟の極みを注ぎ……先ほどまで爆上がりだった私のニケ様の株を大暴落させてくれたのは言うまでもないわね。
ちなみに酔いが醒めたクルシュナさんは私に銀細工でブレスレットを作ってくれたのに対して、ニケ様は他の女神に自慢をするのだと金麦限定醸造・円熟の極みをひと箱勝手に持って帰ったわ。
さて、いろはさんの家に向かおうかしら……深夜3時だけど……