第189話 サタナキアと餃子の皮おつまみとバルデモンテボックスワインと
本日デュラさんはいろはさんの所におつまみを作りに行くがてらあの広いキッチンを使わせにもらうとゲームセンターに行くミカンちゃんと共に部屋から出て行ったわ。いきなり寒くなってきたここ数日。
この時期になると、私の部屋で恒例的に置いておく物があるの。私はその準備……は殆どする必要がないから大学の授業で使うテキストでも読みながら来年から始まる新NISAの成長枠を何に使うか考えようかしらとか思ってたら、ワタツミちゃんが私の元にやってきたわ。
ルームウェアでも狙ったようなガーリーなワンピとかを着るあたりワタツミちゃんには並々ならぬ誇りすら感じるわね。学生時代の男の子って人生で一番頭悪い時期だからあざと可愛いワタツミちゃんみたいな子に優しい言葉をかけられて微笑まれたら秒でコロッといくんでしょうね。
あぁ、これが宗教なのか。
「コーヒー入れたけどワタツミちゃんも飲む? ビスケットとかは無いからお茶うけピーナッツとかだけど」
「金糸雀お姉ちゃん、教えてほしい事があるのれすぅ、あと私わぁ、ミルクと砂糖多めのカフェオレがいいれす!」
「はいはい」
逆にホットミルクにコーヒーを少し入れて角砂糖は4個お皿に乗せてワタツミちゃんに渡すと一個、また一個と角砂糖を入れて3個目で気に入った味になったのか上品にゆっくりと飲む。こういうところはいいところの……というか神様なんだけどお嬢さんなんだなと思ってると、
「何かぁ、簡単で美味しいお料理を教えてほしいのれす」
「え? 卵かけご飯とか?」
「今度ぉ、学校で野外学習があるのれすぅ」
ピラりと見せられた懐かしいフリー素材満載の学校の先生が作ったであろうクソみたいなプリント、懐かしいわね。今にして思うと学校の先生ってこういうの作る才能皆無ね。今の時代メールとかで送らないのね。
「ワタツミちゃんキャンプ学習あるんだ。いいなー」
「そうなのれす! 必要な物は日本政府さんが用意してくれるのでもーまんたいなのれすよ!」
外国の人だけじゃなくて異世界の人にもお金を垂れ流すウチの国の政府ってほんとガチね……その内異世界人生活保証特措法とか作りそうね。
「ここなのれす!」
「どこのなのれすか?」
「金糸雀お姉ちゃん、私のぉ、口真似はやめて欲しいのれす!」
ははーん! 夜の夕食作りに家から持ってきた芋とか焼いてもいいよ的な事を書いてるわね。そこで、料理上手な私を男子達に見せつけてさらに信者を増やそうって魂胆ね。ほんと……面白そうね!
「夕食の料理はカレーね。調理時間を考えてもそこまで時間はかからないから、今回はデザートの類はパスね。メスティンとか使ってチーズケーキとか作れたらいいんだけど、カレー調理時間よりかかる上にちょっと材料増えて面倒ね。となるとピザが無難なんだけど……あー! あれ作る? 数分で作れる優れものよ」
「あれ? れすか?」
ふふん、私は冷蔵庫から餃子の皮を持ってくる。最近はデュラさんいるから小麦粉使って二人で一から作ってるけど、足りなくなった時ようにこれも一応買ってるのよね。
「餃子の皮はね? 最強の時短料理材料の一つよ」
私は餃子の皮、コンビーフ、ツナ缶、とろけるチーズ、ゆで卵、いちごジャム、生クリーム、マヨネーズ、ブラックペッパー、塩、ケチャップ、タバスコを用意する。まだまだ使える材料は一杯あるんだけど、このくらいでとりあえずはいいかしら。
「まず一品目ね。トマトケチャップとタバスコを混ぜて即席ピザソースを作るわ。それを餃子の皮に塗って、適量のコンビーフと適量のとろけるチーズをのせてオーブントースターへイン! キャンプ場だと小さい網を使ってね」
2、3分でチーズが溶けて餃子の皮がパリパリに焼けてきたら完成。
「二品目はツナ缶とゆで卵マヨネーズにブラックペッパーを和えるの。ブラックペッパーがなければ一味とか七味でもいいわよ。で、指に水つけて普通に餃子を作ります」
ニンニクやニラを入れてないから口臭対策もバッチリよ。カレーをかけて食べても美味しいわね。
「三品目はただ餃子の皮を揚げて塩ふるだけよ。某メーカーのポテチみたいになるわ!」
「オーザックみたいなのれす!」
「せっかく某って言ったのに、ワタツミちゃんったら」
あははと笑いながら、最後の四品目はデザート。タルトを作る焼き方に餃子の皮を敷いてオーブンで焼いて型取り、そこにいちごジャムと生クリームを乗せて即席フルーツタルトね。
「金糸雀お姉ちゃん、凄いのれすぅ! 魔法使いみたいなのれす! 短時間で四品も」
「あはは、おつまみ作る知識を総動員すればこんなもんよ。じゃあ、丁度リビングに設置したボックスワインもあるから味見がてら一杯やりましょうか?」
3L入っている通称箱ワイン、冬のシーズンは私の部屋はこれを設置して好きな時にいつでもワインを飲めるようにしてるの。これは兄貴の文化の名残ね。鍋が美味しいこの時期、兄貴の部屋には飲み友が入り浸っていたらしくて、ボックスワインを常備してたとか……
「好きにお代わりして飲んでね」
「はいれす!」
ガチャリ……誰か来たわね。ワタツミちゃんが「見てくるのれす」と玄関に向かって、
「ちょっとサイアクー! なんで神の類がいるのよ! どういう事? えぇ!」
五月蝿そうな女の子来たわね。やや低めの声だけど、声だけで可愛い事が伺えるわ。ワタツミちゃんとやってきたのは、グレー色の髪に短いツインテ、背中には小さな黒い羽、未だ頭がハロウィンかハッピーセットみたいな私、悪魔ですよ! という頭悪そうなコスプレ美少女きたわ。
多分コスプレじゃないんでしょうけど、
「こんにちは、私はこの家の家主の犬神金糸雀です」
「犬神ぃ! アンタも神なの? というかどんだけ神いるのよ。天使共は神は一人だって言ってたのに」
「あぁ、それはキリストとかイスラムとか一神教系の神様の考え方ですね。ちなみに私は人間です。アイヌの考えだと私も神様ですかね」
「て、敵地……」
ぶくぶくぶくと泡を拭いて倒れた悪魔少女……ではなかったの。この子、男の子ね。最近怖いわー、女の子より可愛い男の子いるのよね。男性ホルモン仕事しなさすぎでしょ。
「んんっ……」
「気が付きましたか?」
「犬乃神金糸雀」
「日本の神様みたいなニュアンスになったわね。とりあえず今から試食を兼ねた飲み会なんですけど、あなたもどうですか……えっと名前は」
「私はサタナキア! 大悪魔にしていずれ悪魔の頂点になる者よ!」
「サタナキアさんは男の子なのに可愛い感じなんですね」
「ふふん、当然。あなた達女は、醜いオバさんになっていくけど、私は素敵なおじさんになっていくんだから! 今は可愛い自分を楽しんでるの」
ポリコレが卒倒しそうで、フェミさん達が発狂しそうな子ね。
サタナキアさん、ググるとどうやら女性を操る事ができる悪魔らしいわね。すでに自分を操っちゃってる迷走した悪魔って感じだけど……
「そんな可愛いサタナキアさん、今から飲み会なんだけどワインなんていらんかね?」
ワイングラスになみなみと入れたそれを見せると、サタナキアさんは目にハートを宿したわ。
「えぇ、どうしよっかなー、犬神がそこまで言うなら飲もっかなー」
「決まりですね。じゃあワタツミちゃんも乾杯しましょ!」
「はいれすぅ!」
この類のワインを飲むときは一般的なワイングラスじゃなくてもっと大きい物を使った方が味が開くの! 高級ワインに匹敵する楽しみ方ができるからここポイントね!
ワイングラスを掲げて、
「「「乾杯!」」」
バルデモンテはデイリーワインに飲んでる人も多い、1000円前後で720mlボトルが売ってるけど、このボックスワインは3Lで3000円切ってるからコスパは上々なのよね。日本人の口にも料理にも合うピノノワール。
はっきり言ってテレビで格付け芸能人に銘柄伏せてこれ出しても多分分からないわね。
「血の黒に近いワイン、ふふ。私にぴーったり、それいとっても美味しいわ。さすがは神々が飲むワインね。これはとっておきでしょ? ルシファーに自慢しちゃお」
「わわ、美味しいれす!」
「ほらほら、ボックスワインに感動してないでおつまみも食べましょ」
まず餃子の皮の一口ピザ、
パリっとサクっとした食感がたまらないわね。そこに追っかけ赤ワイン。ボックスワインの蛇口撚れば無限(3L)に出てくるからお代わりも自由よ。でもボトル四本くらいだから私たちが普通に終日飲んだら1日で無くなりそうね。
「ちょっとちょっと! この丸い料理、むちゃくちゃ美味しい!」
男の娘、の方だけど胃袋掴んだわね。ワタツミちゃんは大きめのワイングラスに鼻を近づけて香りを楽しんだ後に餃子の皮ピザをパクリ。
「うわー! 美味しいのれす! んんっ」
やっぱりワタツミちゃんも飲兵衛ね。すぐさまワインお代わりね。次にサタナキアさんが気にしたのは餃子の皮チップス。
「なにこれぇ? 血を吸い尽くした人間みたい! ペラペラじゃな……美味しすぎるでしょコレェ!」
口に手を当てて驚くサタナキアさん。仕草とか完全に女の子なのに、頭がバグりそうね。ワタツミちゃんも続いて餃子の皮チップスを食べて、両手で口を隠して「わわ! なのれす!」とあざとさとあざとさのチキンレースでもしてるのかしらこの子達。
まぁ、私としては可愛い子を前にお酒飲めるから全然アリなんだけどねぇ。よく考えれば学生時代、あざとくて同性から嫌われてた女子とでも私は普通に仲良かったわよね。
ツナマヨ餃子をお箸で摘んで私はパクリと……
「あぁ、んまぁ! ゴクゴク」
こういう謎料理に合うのはやっぱり大衆酒、デイリーワインよね。そろそろみんなのお腹もいい感じで膨らんできたところで、私は耐熱グラスを三つ用意。ブルーベリージャムにレモン汁を用意して、熱したボックスワインにブルーベリージャムを溶かしてレモン汁を垂らすと……
「寒い日にはこれよ! 即席、グリューワインとデザートに餃子の皮フルーツタルト!」
「きゃああ! 可愛いじゃない! 犬神ぃ!」
「ふにゃああいい匂いなのれすぅ!」
ツンツンしたペンギンと甘え上手なうさぎみたいな二人、グリューワインもいい感じだし、餃子の皮で作ったとは思えないスイーツ感たっぷりのタルトも女子会感を出してくれて私は満足よ。
とか幸せな時間は長く続かない事くらい私も知ってるわ。どうせ、そろそろくるんでしょ?
ガチャリ……ほら来た。
駄々をこねられてもうっとーしいから私がお出迎えに行くと、そこには黒いドレス、四対の黒い翼、漆黒ストレートの綺麗な髪、私を見るとお辞儀。
「えっ? 誰ですか?」