第186話 預言者とカップ焼きそばUFOとCASSビールと
「あれ? 今日はワタツミちゃんお出かけ?」
「今日わぁ、ガッコーのお友達と水族館れすぅ!」
ワタツミちゃん……量産型地雷系ファッション(ピンクの方ね)っていうのは狙ってるのかしら? どうせお友達は男子だろうから思わせぶりな態度取りそうね。いつか刺されるわよ。
「勇者、ゲーオフなりにけり」
ミカンちゃんはコーデが殺人的すぎるから私がパーカーワンピにデニムジャケットを合わせてボーイッシュ感を出しつつもミカンちゃんの可愛さを前面的に出せるように明るめのニットを合わせてみたわ。
「我はハイエルフのセラ殿に呼ばれて帰れない同盟に食事を作ってほしいと言われているので勇者にワタツミ殿に送ってもらうである」
帰れない同盟、そんなのもあるのね。私の知っているだけだといろはさんのところのイフリータさんとセラさんだけどもっといそうね。
という事で私一人だけになっちゃったわね。
スマホの通知を見てみる。
“カナちゃん、暇? 美味しい焼肉屋があるんだよね?“
これはガールズバーの常連で数少ない私推しのお客さん。焼肉か、悪くないわね。最近いいお肉食べてないし。
ええっと……
“なんてお店ですか?“
“喰喰っていうお店で“
すたみな太郎の亜種じゃない。というか返信早いわね。せめてブルズくらい誘いなさいよ。あのお店、私やひなさん、いろはさん以外は結構人気のキャバ嬢とかが繋ぎでバイトしてんだから……
“あっ、行きません。私お肉嫌いでした“
次は……いろはさんだ? なんだろう? 遊びに来いとか言うんじゃないでしょうねぇ。仕方ないわねぇ行ってあげるわよ。
“カナ、変な犬いた。ウケるー“
明らかに地球上には存在してはいけないサイズの犬を写真に収めているいろはさん……
“なんですかそれ? ところで今日私暇なんですけど“
待てども待てども既読はつかず。屍のように返事がないわ。こういう人いるわよね。ネタを送りつけるだけ送りつけて放置プレイしてくる人。
こうして私はなんだかみんながいない休日はやる事がないという事に気づいたわ。まぁ、こういう日は……
「ゆっくり酒でも煽るか」
ガチャリ。
まぁ、私は一人でお酒を飲む事ができない運命の星に生まれたみたいね。とか思いながらるんるん気分で玄関にお出迎え。
女の人、無表情でツインテール。そして気になるのは腹筋が凄い割れてる。顔は可愛いと思うんだけど、なんだろうこの狂気的さを感じる肉体ね。
歴戦の戦士的な人かしら?
「ピンと来ました。ここ異世界ですね」
「ええっと、多分そうだと思いますよ。私からすれば貴女が異世界の住人ですけど、私はこの部屋の家主の犬神金糸雀です」
「申し遅れました。こちらは見ての通り預言者のセツナです」
異世界の預言者ってマッチョなのかしら? いや、服装が……ヘソ出しルックのどう考えてもファイターにしか見えないんだけど……今日、聞ける人もいないしな。
「ところでずーずーしいんですが、お腹ぺこりーななので何か恵んでくださるとありがたいです……あぁああああ!」
「えぇえ? どうしたんですか?」
突然天井を見上げてセツナさんはラリり始めたわ! ハッピーターンの粉キメすぎたのかしら?
「ピンときました。金糸雀様、貴女今寂しいですね。是非お食事ご一緒しましょう」
ちょいちょい予言してくるわね。まぁ、別にいいんだけど……食べ物何かあったかしら? あっ、ミカンちゃんが大量に買ってたカップ焼きそばUFOのバレルサイズあるじゃない。
アレンジすればおつまみになるわね。
「セツナさんはお酒は飲める人ですか?」
「えぇ、母の乳より飲んできました。お料理、お手伝いしましょう……ピンときました。お湯だけで……料理ができる? これは実に奇妙な予言です」
「セツナさんがグラップラーではなく、ガチ預言者である事だけは確信したわ」
私はカップ焼きそばUFOに大量のお湯を入れて放置、その間にちょっとしたアレンジをしようと、ピーナッツ、アーモンドを砕き、クルミの殻を割る道具を探していると、
「これをわればよろしいですか?」
「そうなんだけど」
セツナさんはクルミを摘んで「ふん! 破!」メキ! と軽々とクルミを全部砕いてくれたわ。それも砕いて、フライパンで目玉焼きを二枚、フライパンの脇でソーセージも焼いちゃって、
「よく水切り、ソースを絡めた焼きそばに各種砕いたナッツを振りかけて、お皿に分けて、目玉焼きとソーセージをトッピングすれば完成ね」
「恐ろしい速度でご馳走が出来上がりましたね。金糸雀様はこちらを導く女神でしょうか?」
「えぇ、女神とかやめてくださいよー! あんまりいいイメージないんですよー! うふふ」
「…………ピンと来ました! この部屋、神々の意思すらも超えた程にお酒があります。そして金糸雀様がお持ちされるのは麦酒」
「正解でーす! 本日は買ったのはいいけど飲むのを忘れていたCASSビールよ」
そう、カルディに寄った際に売ってたので買ってみたのよね。兄貴は韓国系ビールは向こうの料理が濃いめに合わせて味が薄めだから手を加えた方がいいと言ってたので、一応塩とレモンあたりを用意しておこうかしら、
「じゃあジョッキ用意しますねぇ!
確か韓国って氷入れてビール飲むんだっかしら? ミカンちゃんのかき氷機でふわふわの氷も作っておくわ。
ジョッキにCASSビールを注いで、ふわふわの氷をフロート。
「金糸雀様のように美しい麦酒ですね」
「えぇ! そんな風に言われてもお酒とおつまみしかでませんよぉ! じゃ乾杯しましょう」
ジョッキをガッツんこ。
「「かんぱーい!」」
そして、異世界も共通言語の、「「ぷはー!」」成程、韓国ビールはあれね。どちらかというと東南アジアのビールの系譜ね。風味や味わいは少し癖がアゥてクラフトビールっぽいけど、味は日本のビールと比べるとかなり薄いわね。特に辛口好きの私みたいな飲み手は好き嫌いが分かれそう。まぁ、私的には全然アリね。CASSビールのメリットは異様な強炭酸と泡の持続性。これはグラスに塩ぬってライムかレモン絞ってあげればめちゃくちゃ美味しいわね。
「金糸雀様、なんて上品な麦酒なんでしょう。この口当たり、少し寝かせたような酸味、そして刺激的なソーダ感。クリーミーな泡立ち、さぞかしお高いのでしょう」
うん、超安かったわ。韓国バドワイザー買うより遥かに安いのでこっちを買ってアレンジする方がコスパはいいかもしれないわね。
「UFOも食べましょう」
私が目玉焼きを潰して黄身に絡めるように焼きそばを食べて、CASSビールを追いかける!
これはやばいわね。合法なのかしら?
セツナさんは、フォークで上品にちゅるちゅると食べて、開眼。
「ピンと来ました。これ絶対麦酒に合います」
「予言しなくてもわかる未来ね」
「ふふ、ですね」
おっと、セツナさん結構イケメン女子ね。ソーセージをしばらく見つめてポキリと小気味いい音を立てて食べるセツナさん。「これも恐ろしく美味しい」って感動してるけど、皮無しソーセージだから私たち的には普通なんだけど、異世界の人ってやっぱりこっちの食は破格のおいしさなのね。
「CASSビールお代わりいりますか?」
「いただいてよろしいですか? 金糸雀様」
「いくらでも飲んでください」
次はレモンを絞ってジョッキ周りに塩を塗ってみた物を出してみたわ。セツナさんは塩をペロリと舐めて「塩も美味しい」って感動してるけど、塩もその辺の普通の粗塩なのよね。
ゴクゴクと喉を鳴らして、セツナさん開眼。なんかみてて面白いわね。
「これはちょっと、久々に大予言ができそうな気がします。金糸雀様、何か予言してほしい未来はおありですか?」
えぇ! それじゃあ私がイケメンに出会える未来とか……なんかそんな未来ないとか言われたら嫌ね。
無難な事聞いてみようかしら?
「じゃあ、これから起こる何かちょっとした事件とか教えてもらえますか?」
「仰せのままに! ピンと来ました!」
セツナさんは少し暗い顔をしているけど、何か大事件でも起こるのかしら? 私はセツナさんの手を握って、「何が見えたんですか? 教えてください」と聞いてみると、
「でも、金糸雀様……この未来はあんまりだ」
「えっ? 何? 私、死ぬの? 兄貴の下段酒飲んどこうかしら……」
「違います。これより、私が帰った後金糸雀様は人ならざる美しき何か等に囚われ、延々の呪詛めいた何かを聞かされることになります」
なんだニケ様か、驚いて損したわ。もう最近私はニケ様は壊れたラジオか何かだと思っているからまぁ、許容範囲よ。
「セツナさん、久しぶりに楽しい飲み会でした。また機会があったら来てください……おっとセツナさん?」
急に抱きしめられてしまったわ。というか逞しい身体ねぇ。
「是非、異世界にはアットホームな金糸雀様がいる事、布教して参ります」
「あはは、やめて、じゃあね」
「はい」
嗚呼、ほんと一人で部屋にいるのもたまには悪くないわね。飲み直そうかしらと思った時、私は……ヤベ! と思ってしまったわ。セツナさんの予言は人ならざる何か……ではなく何か等と複数形だったの。
「金糸雀ちゃん! お出迎えは無しですか!」
「金糸雀ー入るぞー、水ー!」
「初めましてー、お邪魔しまーす! 酒ー」
「ここがあのこぞーの部屋かー宴の準備をせよ」
「「「えとせとら・えとせとら」」」
出来上がってるニケ様にセラさん、それ以外も同等の何かがめちゃくちゃ押し寄せてきたわ。
何これ、私、今日死ぬの?