第183話 今どきの僧侶と柿の種とこだわり酒場のレモンサワー(定番)と
本日、朝ごはんを食べて、私とワタツミちゃんは学校に、ミカンちゃんはゲームの配信業、デュラさんは部屋の家事全般を、行い普通の一日を過ごし夕方、家に戻って来てこれまた普通に夕食、本日は回鍋肉をお酒無しで食べ終えたのよね。
そう、最近夕食と晩酌がごっちゃになっていて本日は夕食後に晩酌をしようじゃない!
という事でミカンちゃんが用意したお酒に対して私は最適解のオツマミを出すという謎の合わせプレイがこれから起きるのよね。
洗い物を終えたデュラさんもリビングに戻ってきて……
ミカンちゃんの事だから炭酸系のお酒一択なんで割とおつまみは狭めやすいのよね。
「準備よき?」
「良いであるぞ」
「いいれすぅ!」
「いつでもどうぞ」
日本シリーズが59年ぶりに西日本対決という事で、スポーツ大好きなミカンちゃんとデュラさんはテレビをつけながら応援。ちなみにどっちも応援している二人は本当にスポーツをただ観戦するのが好きみたい。野球以外も含めて異世界にはここまで凝ったスポーツは存在しないらしいのよね。
チラリと得点を確認した上でミカンちゃんはドンと一本のロング缶を置いたわ。
「勇者、こだわり酒場好きー! ななぱー!」
「こだわり酒場のレモンサワーね。7%買って来たんだ。部屋にいくらでも備蓄してるのに」
サントリー・こだわり酒場のレモンサワーは5(濃い旨)、6(追いレモン)、7(定番)、9(辛口)と度数が四種類あるんだけど、そのまま飲むなら5パー、氷入れて飲むなら6、7、9なんだけど、9はどうしても度数が高いから少しアルコール臭が他より気になるのよね。それが好きって言う人もいるけど、ミカンちゃんのチョイスはここにいる全員の好みを吟味した上での最適解と言えるわ……やるわねミカンちゃん。
「私がミカンちゃんの選んだお酒に合わせるのは、これね!」
数々のパターンを考えて、ベビーチーズだったり、シャウエッセンだったり、チーズおかきだったり考えたんだけど、ここは原点に戻りましょう。
「そのお酒の最適解は亀田の柿の種・梅味ね」
「こ、こだわり酒場なのに柿の種なり?」
ふふん、ここは私の部屋であって酒場じゃないわ。まぁ、下手な酒場よりお酒あるけども……宅飲みは数パターンに分かれるの。惰性で呑む時、その一杯に全てを込める時、そして……わいわい呑むパーティーのみ。この場合お酒がメインでおつまみは引き立て女房よ!
「以上の事から、私はミカンちゃんのチョイスしたこだわり酒場のレモンサワーを主役にするわ。そして時々口寂しい時の為の柿の種よ。梅味にしたのはパンチが聞いてるレモン味と喧嘩しないようにね。これ以上ない夜になりそうね! というか私、大学生だけど、学生の飲み会ってあんました事ないのよね」
ガチャリ!
来たわね。私が見に行くと……そこには……
「ちょー、やべー所来た。ここ何処?」
マスク、ビッグシルエット風ローブ、黒髪ツインテール。一部髪を赤く染めていて、耳に三連ピアス。これはあれね……某所で立ってる系の子……ぴえん系、いわゆる量産型地雷系の子来たわね。一つ、彼女が異世界の住人か、秋葉の住人だろうと思えるのは申し訳程度に持っている十字架の杖。
「ええっと私は犬神金糸雀、ここは私の部屋よ」
「へぇー部屋かー、まぁギリ有りだな。僕は、アルバス神教会の僧侶。フカ。ちぃーす」
あのヤバい聖女様の教会とは違うのね。
それにしてもこの僧侶、非処女感が凄いわね。本来地雷系って、自分に問題がある事を理解した上で媚びたような見た目を作る的なテンプレがあるのに、フカさんは神に仕える仕事してるのよね……これで、めちゃくちゃアンチ神っぽいのに……
「とりあえず、今から晩酌なんだけど……呑む?」
「酒かー、マジかよ」
あ! 僧侶だからお酒は無理なのかしら?
とかは私は絶対に思わないわ。何ならこの子、ストゼロとモンスターを一緒にストローブッ刺して飲んでそうだし、
「飲むでしょ? どうぞこっちへ」
「ちょ、カナ大胆!」
私がフカさんを連れてくると、デュラさんと目が合ったわ。これは悪魔と僧侶の切っても切れない宿命が!
とかも私は思わないわ。
「ちょ! ガチ悪魔いんじゃん! あと、神? と? 勇者? 何ここウケる」
フカさんは、メンヘラ系じゃなくてオラオラ系の方なのね。
実際の内面はクソ雑魚ナメクジなのにキツめの言葉とか使って強がるファッションビッチ系に多い地雷系の亜種ね。結局、最終的にはメンヘラ落ちしやすいから注意が必要よ!
「我を見ても払おうとはしないか……珍しい僧侶であるな?」
「僕の信仰する神は別に悪魔祓うの仕事じゃねーし、ところで酒どこよ?」
そういえば晩酌だったわね。こだわり酒場のレモンサワーと氷をがっちり入れたジョッキを用意。大きめのお皿に柿の種を思いっきり出して準備完了。
そういえば、柿の種ってデヴィ夫人みたいな上級国民も好きな間違いないオツマミなのよね。
「これが酒?」
「プルトップをこうして開けるのよ」
「クソ面白そう! えい!」
プシュ! 私が開ける様子を見せると真似してフカさんもプシュッと開ける。みんなそれぞれ好きな量を氷の入ったジョッキに注いで、
「じゃあ、フカさんと普通の宅飲みに乾杯!」「乾杯なりぃ!」「乾杯であるぞ!」「乾杯れすぅ!」「いえーい! それにしても綺麗な酒、本当に酒?」
まぁ、あれね。安定のこだわり酒場のレモンサワーね。普通に美味しいわ。これは氷を使った方がそのまま行くより何倍も美味しい気がするのは居酒屋気分が味わえるからかしら?
んぐんぐんぐと私とミカンちゃんがガンとジョッキを置く。
「プハー! 流石に美味しいわね」
「うみゃあああああ! 勇者、レモンしゅわしゅわ好きー!」
デュラさんもワタツミちゃんもほふーと安心したようなため息をついて、フカさんは……
「何これ何これ! しゅごい! ビビットくりゅ! 頭が精神感応系魔法で侵されてるみたい! ふぁあああああああ!」
異世界の人に、最初にレモンサワーを飲ませるのは不味かったかしら? ビールとかは麦酒と言って入りやすいみたいだけど、レモンサワーは私たちの国では基本中の基本だけど……異世界ではイレギュラー中のイレギュラーかもしれないわね。日本ですら缶酎ハイのレモンは依存者続出なのに……
「カナ、これお代わりは?」
「えっ! もう飲んだの? 結構度数高いのよ!」
「へーき、へーき! お代わりくれよー!」
トンとワタツミちゃんが冷蔵庫から新しいロング缶を持って来てくれたけど……
「どうぞれすよぉ!」
「ありがと、異教徒の神」
プシュ、そしてトクトクトクと自分のジョッキに注いでるから、何か食べさせようと思って私は柿の種、梅味を摘むと、
「フカさん、アーンしてください! これ食べて」
「カナエロいな! 僕の口に指突っ込むなんてさー、ヒック……」
ロング缶を殆ど一気したらそりゃ酔うわね。
※私とミカンちゃんは特別な訓練を受けているからグイッとやるけど、お酒飲む時は適量と飲み方に気をつけてね!
ポリポリと柿の種を摘む私たち、
「おぉ! 梅の優しい味とレモンサワーの酸っぱさが奇跡のマッチであるな!」
「ピーナッツもおいれすよぉ!」
風情感じるこの光景、でもミカンちゃんはごっそり摘むとポイと口の中に放り込んでボリボリと食べてるわ。口の周りに柿の種のカスやピーナッツカスがついてるのが何だかあざといわね。
喉を鳴らしながらゴキュゴキュと二杯目を飲んで、
「うんみゃい! 柿の種つよつよぉ!」
久しぶりにつよつよ出たわね。私も軽くつまんで食べようとした時、フカさんが柿の種を摘む私の指を持って、
パクリ!
「!!」
フカさんは柿の種梅味についている砂糖が私の指に付着していたのでそれもぴちゃぴちゃと舐めとってるわ。
「ちょっとー! フカさん、酔いすぎですよー?」
「これ、スッゲー美味い。カナ、お代わり!」
「もうダメですって、フカさん、お水飲んで」
そんなフカさんは上目遣いになって私に、
「カナなんでそんな事いうの? 死にたい……」
おや? メンヘラ落ちし出したけど……まさか女の私が面と向かってこんな事言われるとは思わなかったわね。私はこだわり酒場のレモンサワーを飲みながらどうしようかと考えていると……
「僕、ブサイクすぎて死にたい……勇者も異教の神も悪魔も可愛いのに、僕だけちょーブサイク」
私は? 私は可愛い部類なの? ちょっと教えて欲しいんだけど……
「死にたいとか言わないでくださいよ。フカさん僧侶でしょ? 逆にそれとめたり助ける側じゃないんですか?」
「え? 何でそんなこと言うの? 死にたい。あー、いつもそう。こういう事言うから嫌われちゃうのかな?」
はー、うっぜ……
「超うざいなりにけり! 死にたければ自爆魔法でも使えばよきよき!」
ミカンちゃんが煽り始めたわね。こんな子にそういう事言うと引くに引けなくなってガチで死んじゃうかもしれないんだから、
「ミカンちゃん、そんな事言わないで」
「やだ! カナ優しい! しゅき! カナは? カナは僕がいればそれでいいよね? 何その顔、まさか違うの?」
えぇ……病んでる子がタイプとか言ってるシャバ増が大学にもいたけど、これ本当に好きになれる? 私が男なら秒で関わらないわ。
「カナ二人っきりになろうよ!」
「そんなワガママ言ってるとフカさん、怖い神様がやってくるわよ!」
「なんでそんな事言うの?」
私は……ガチャリという音を聞いていたのよね。ミカンちゃんがこだわり酒場のレモンサワーのロング缶を一本冷蔵庫から抜いて部屋から逃げ出したのも見ている。
きたわ。本人もワガママを言うどうしょうもない怖い神様が……私からくっついて離れないフカさんを連れて、玄関に向かう。
そこでフカさんの顔が引き攣ったわ。きっと何かを感じ取ったんでしょうね? 私は挨拶がわりに9%のこだわり酒場のレモンサワーを玄関にいる綺麗な女性。
自称・勝利と豊穣の女神ニケ様に手渡した。
そして、そのニケ様は満面の笑みで私に、こう言ったわ。
「金糸雀ちゃーん! あ・そ・び・ま・しょ!」