第181話【15万PV 感謝特別編】魔王様と秋の味覚と梅酒ハイボールと
「ちゃー、たくはいれーす。はんこくらしゃー」
「はーい。なんだろう? 実家からだ。あー、これは……」
こんにちは、天童ひなです。氷水に入ったままの秋刀魚が実家がより届きました。これはありがたいです。秋の味覚といえば、様々ありますが、一回は食べておきたいのが秋刀魚です。スーパーでも売ってますが、異様な小ぶりでしかも一匹200円から高い時で300円はしやがるんですよね……
「ひなよ。何が届いた? ん? 魚の死骸か? くーはっはっは! 今死んだような新鮮な死骸だな。飼うのか? 蘇生魔法は苦手だが余が試してやろうか?」
「魔王様、違いますよ! これは食べるんです。そういえば魔王様、秋刀魚食べた事ないんじゃないですか? これ、生でもいけるんですけど、秋刀魚は世界一焼き魚が美味しい魚です。私、調べです! 次点で鮭です。という事でこれを今日は焼いて食べましょう」
「ほぉ、細長くて美しい魚だな。生きている時の姿もさぞかし美しかったのだろうな? くーはっはっは! 良い! 気に入った。しかし沢山あるな。どうせ腹を空かせておるだろう、ダークエルフと雑魚天使のサリエルも呼んでやるとしよう」
「いいですね! お酒は……買いに行かなきゃですね」
失敗しました。今日は魔王様の大好きなせんべろか、ハッピーアワーを楽しみにいくと思っていたので、昨日買い物してなかったんですよね。
ゴンゴンとノックの音。私は玄関に行くと、そこにはお隣さんの留学生。まさかの金糸雀さんと同じ大学に通っていて二人はお友達のジウさんが大きな瓶を持って立ってます。
「ジウさんこんにちは! どうしました?」
「ひなさん、こんにちは! 梅酒をね? 今年の5月頃に犬子に教わって漬けたんだけど、犬子、頭おかしいから7瓶も漬けていったんで永遠に消費できる気がしないので貰ってくれませんか?」
※果実酒の譲渡は意外とグレーなラインです。犬子とはジウさんの金糸雀さんの愛称らしいです。
「えぇー! いいんですか? 遠慮なくいただきます。あっ! ジウさん、秋刀魚って好きですか? 実家から超鮮度よくて大きいの沢山届いたんで食べませんか?」
「マ? いただこう! 高級魚ですね!」
魔王様がひょこっと顔を出して、ジウさんと目が会う。するとジウさんはお辞儀。
「ジウか! くーはっはっは! 貴様、暇か? 共に秋刀魚を食そうではないか! 貴様の働く、店。実に面白かった!」
「魔王様、本日はご機嫌のようで、お二人が構わないのであればご一緒しましょう。是非またお店の方にも起こしください。従業員皆魔王様をお待ちです」
ジウさんはコリアンバーで働いてます。クラッシクバーよりパリピ向けで韓国のクラブを意識したようなお店ですね。向こうのクラブは一定以上の美形じゃないと入店できないお店が結構あるんで(整形の国所以ですね)、それを真似て日本のコリアンバーも従業員は美男美女が多いんですよね。ジウさんも未整形でかなりのアジアンビューティーです。
「どうせなら屋上で七輪で焼いて食べない?」
「ジウさん、七輪とか持ってるんですか?」
「犬子が置いて行ったからあるよ。この前、屋上でジンギスカンしたんだ」
金糸雀さん……行動力が流石ですね。そう、私の住むマンションは屋上がBBQができるようになっています。申請を出さないといけないんですけど、多分当日でもいけるでしょう。私たちは材料を持って屋上に上がります。
準備ができたところで、魔王様がスマホを取り出して連絡ですね。
「もしもし、余である! ダークエルフよ。今より、秋刀魚を焼いて喰らうのだが、来れるか? 何? 日雇いの仕事中だがくる? バカを言うでない! 貴様が抜けたら迷惑がかかるであろう? 誇り高き魔王軍の雑用係とあろう者がよそで無礼を申すな! 仕事を終えてからくるといい。余も秋刀魚も逃げぬ。うむ! ひなの家であるくーはっはっは! 勤めご苦労、では後ほどな」
どうやらダークエルフさんは遅れてくるみたいですね。それにしても魔王様は自分が呼んでいるから何よりも優先して来い的な事は言いませんね。日本の権力者達に見せてやりたい姿です。
「もしもし、余である! 余を殺す? くーはっはっは! 天地がひっくり返ってもできぬ事を申すでない。雑魚天使よ。今より秋刀魚を焼いて喰らうのだが、来れるか? ほぉ、ベビーシッター中か、天使の貴様であれば良い仕事だな。赤子は憂からな! 終わったら来るといい。秋刀魚が嫌い? 行かない? 余は嘘が分かる。行きたいのであろう? 食べたいのであろう? 遠慮をするな! 余も秋刀魚もひなも待っておるぞ! ではな」
お二人は遅れてくるようです。魔王様はどんどん聖人になっていくような気がするのは私だけじゃないハズです。ゆくゆくは魔王様は勇者という人と雌雄を決するそうです。どちらかが滅びると言っていますが、話し合いで解決できないものなんでしょうか? とか思っていると……
「全く、屋上で貴女達は何をしているんですか? おや? 邪悪の根源、魔王。それに魔王に魅入られし比類なき落とし子ヒナちゃんですね」
……S級にヤバい方が何故か呼んでもないのに現れましたね。一応、女神を名乗っているんですが、ウザ絡みをしてくる綺麗な女性、ニケさん。
「無茶苦茶綺麗な人だな。魔王様とひなさんのお知り合いか?」
「いや、どうでしょう。知り合いかと言われれば魔王様の知り合いですけど」
ニケさんは、秋刀魚をチラリと見て、梅酒の瓶もチラリと見て、目を瞑ると胸に手を当てて、
「私は勝利の女神。そして豊穣の女神の顔も持っています! どうもここで旬の幸を感じ、私が召喚されたようです」
「くーはっはっは! 嘘をいうでない! 貴様、好きにやって来れるであろう。その癖、余を元の世界に戻す事はできぬポンコツであるからな!」
「魔王! 言っていい事と悪い事がありますよ! 謝ってください!」
なんだろうこの人……本当になんだろう。多分謝れと言われれば魔王様は、
「くーはっはっは! 気に障ったのであればすまないな! 貴様が存外役に立たぬところも余は嫌いではないぞ! 魔王城に来ては何かと理由をつけて食材と酒を持って帰っておったと料理番のヴァンパイアロードが嘆いておったわ。今日も秋刀魚が食いたいのであろう? 良い! 共に食そうではないか!」
ジウさんはびっくりするくらいの手際の良さで七輪に練炭を入れて編みをして人数分秋刀魚を焼き始めるので、私は大根おろしを作ります。
そして……オンザロックでも美味しいんですけど、梅酒カクテルを作ります。
氷を敷き詰めたグラスに梅酒を半分くらい注いで、ソーダ水。レモン汁を入れて梅酒ハイボールです。
「じゃあ皆さん! 秋の味覚に感謝して! 乾杯です」
「くーはっはっは! 乾杯だ!」
「ご馳走になる。乾杯!」
「わー美味しいそうですね。乾杯!」
ん……んん! この自家製梅酒……これは……
「美味い! こんな美味い梅酒。余は初めて飲んだ!」
「犬子の配合レシピで作ったから、めちゃくちゃ美味しい」
ニケさんにあんまりお酒飲ませたくないんですよね。ずーっと同じ話するので、でもこの人お酒好きなんですよね。
「はーーー! 美味しい! 犬子さんとやらは大した方ですね。女神の加護を与えてあげましょう。それにしてもお魚はまだ焼けないんですか?」
「あー、多分もういい感じですよね。じゃあ食べましょうか?」
屋上ウッドデッキに備え付けてあるテーブルに紙皿を用意して私たちは秋刀魚と向き合います。みんなが私を見ているので……コホン! ではご説明しましょう。
「秋刀魚は食べ方があります。このように、頭の隣、骨にそって身を食べていきます! この時、最初の一口目は何もつけずにどうぞ」
みんな私に言われた通り、一口目。嗚呼、美味しい。秋刀魚、私が死ぬまでは大衆魚でいてください。油の乗り方、味、香り。全てにおいてパーフェクトな焼き魚ですね。
「おいしー! これが七輪で焼いた秋刀魚!」
「うむ、そのままでも味がしっかりしていて美味い! くーはっはっは! 気に入ったぞ秋刀魚、この梅酒ともよく合う!」
「おいしい! 魔王、いいですか? どうしていつもこんなに美味しい物を貴方は食べているんですか! 私はですねー!」
「くーはっはっは! 秋刀魚も美味いが皆と喰らう事でより幸も輝きを増のであろう! 女神ニケよグラスが空いておる。これひな、梅酒を入れてやるといい」
「あっ、はーい!」
ちょっと梅酒少なめでハイボールを作っておきましょう。魔王様が相手してくれるから実質被害ゼロなんですけど、ガールズバーの要注意客くらいのヤバさはあるんですよね。ニケさん。
「ひなさん、表の身を食べ終わったらどうすればいいんだろう?」
「ジウさん、魔王様、ニケさん、決してひっくり返してはいけませんよ! ふっふっふ。気持ちいい体験をしましょう!」
「「「!!!!」」」
私がそう言うと、ジウさんが少し困った様子で……
「ガールズバーで働いているひなさんが言うとエッチだ」
「ひなよ。時と場合を考えると良い! くーはっはっは!」
「ひなちゃん! 聞いてますか? かつて、異界からきた魔物を退治する際に私が先陣をですねー」
やればみんな、気持ちいい体験になるハズです! 私は皆さんの言葉を無視して、秋刀魚の首の辺りから骨をゆっくりと引き上げていきます。綺麗に尻尾まで外れると……
「骨は上に置いて、裏面も同じように食べていくんです。さぁ、皆さんもどうぞ! ここからは大根おろしも全力で使ってください」
私の見せた骨取りを見て、三人ともお箸で上手につつつと骨を綺麗に取っていきます。
すると……
「ほんとだ! き、気持ちいいいい!」
「くーはっはっは! これは病みつきになる! ひなに嘘偽りなしだ」
「ひなぢゃああん、異界の魔物に私はこう言ったんです。私の身はどうなっても人間と世界は……私が守ります! と、そして秋刀魚の骨とりきもぢいいい」
皆さん、秋刀魚の虜になりましたね。梅酒ハイボールと秋刀魚の合う事。半端じゃないですね。それにしてもこの梅酒、恐ろしく度数が高い気がするんですけど……
「ジウさん、この梅酒、なんで漬けてあるんですか? ブランデー? ホワイトリカーじゃなさそうですね」
「ん? 私が強いお酒で作りたいって言ったんで、犬子がスピリタス大量に持ってきて漬けたよ」
ん? という事は度数が少し落ちたとしてもストレートだと80度くらいはあるのかもしれませんね。純粋なウォッカなので、梅と砂糖の味が染みてアルコール感あんまりないですけど……これ、お酒弱いニケさんは……
秋刀魚を完食したニケさんはウッドデッキに突っ伏して寝ちゃってますね。
「くーはっはっは! 日頃の激務で疲れでもでたか? 女神ニケよ。今日はもう水を飲んで帰るといい」
「魔王、貴方が異界の魔物と対峙した際に……加護を与えたのは誰だと思ってるんですかぁ……」
「うむ、その時は感謝しておる。また飲もうではないか。そして貴様を慕うサリエルもたまに来る故、顔を見せてやるといい」
「……じゃあまたぁ」
今、ニケさん。明らかに素面になって戻って帰られましたね。サリエルさんはこのニケさんを大変信仰していますから……醜態を見せたくなかったんでしょうか?
そんな中、遅れているお二人が到着です。
「魔王様、大変遅れました! 魔王軍雑用係、ダークエルフ到着です! こちら、バイト代で近所のスーパーより買ってきました。八海山の一升瓶です。どうぞお納めください」
「全く、魔王め。殺戮の天使を呼び出すとはいい度胸だ。あー、あとこれ、手ぶらとかアレかと思って焼き野菜とアルトバイエルン。貴様を殺した後に焼いて食べようと思って買ってきたから」
「くーはっはっは! 良い、役者は揃ったな! もう一度乾杯といこうではないか!」
秋刀魚メインのちょっとしたバーベキューが始まりました。ジウさんも人外の方だらけなのに、全然動じませんね。まぁ、お酒を一緒に飲んでいる間はどんな人でも飲み友ですからね。
私はオンザロックで梅酒のグラスを月と星に掲げながら、それらを飲み干すように一献。
これはききますねぇ。金糸雀さんにもお裾分けしてあげなきゃですね。
「ひなよ! 日本酒を開けるぞ! 早くこっちへ来い! 愉快だ! くーはっはっは! 飲み明かすぞ。ひな、ジウ、貴様等酒が強い故、余に付き合え」
「がってんです魔王様」
たはは、まぁ明日は仕事もないし、私も付き合いましょう。魔王様は魔法で大量に水を出して、チェイサーもちゃんと用意してますね。
「はーい、今行きますよー!」
名月や、秋の味覚を、飲み友と!