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【38万PV感謝】宅飲みすると必ず異世界の人が相席してくる件  作者: アヌビス兄さん
未来のおじいちゃんとタイムダイブ編
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第180話 犬神家のブラウニーと旧ジョニ赤とちくわきゅうりと

「まぁ、予想はしてたわ……ここ、ウチの実家ですよナナシさん。ここのダイヤルロック。1253(いぬがみ)なんですよ」

 

 私はそう言って実家のロックをガチャリと開ける。すると私の喉元に長刀が向けられるわ。カレンダーは1993年らしいわ。

 

「ブラウニーさん、ストップ! ストップ! 私です。金糸雀です!」

「は? 誰ですか金糸雀って泥棒なの? 死ぬの?」

「おや、あなた。人ではないですね。珍しい、家につく妖精ブラウニーですか」

 

 えっ? ブラウニーさんは犬神家に長い事住み込みでお手伝いしてくれる人だと思ってたんだけど……人間じゃなかったの? 

 

「あれ? 会う度に年齢も上がってるように見えるけど……」

「見た目くらい普通に変えられるんですよ金糸雀ちゃん、あなた方に説明するのは難しいかもしれないですけど、この家で将来生まれるハズの娘さんになります」

 

  ブラウニーさんは英国式メイドの装い。そこには薄い本なんかで有名な日本固有のメイドのエロティックさはなく、エレガントさを感じさせる佇まい。

 うっすらそばかすに澄んだ青い瞳。ブラウンの髪、歳の頃は二十代は前半くらいかしら? 私は年配のブラウニーさんしか見た事なかったけど……未だ怪訝な表情をするブラウニーさん。しかたがないので私は家族写真をブラウニーさんに見せる。目を細めてブラウニーさんが私のスマホを奇怪な物を見る目で受け取って見つめ、


「お嬢たま?」

「その言い方懐かしい! 小さい頃はそう呼んでくれたのに、今は金糸雀さんなんだもん」

「それにしても未来からの来訪とは驚きですね。そのような怪異がいるとは聞いた事がありますが」


 かくかくしかじか私はブラウニーさんに状況を説明、現在平成でパパとママが結婚しているから私の時代に近づいたといえば近づいたんだけど。この時代兄貴もまだ生まれてないからタイムパラドックスが起きる事もなさそうね。


「ところでパパとママは?」

「お二人はお買い物にいかれています。帰るのは夕飯前だと思いますので、お嬢たま達はどうされますか? お待ちされますか?」

「いやいやいや、まだ兄貴も生まれてないのに20になった娘がどーんと現れたら詐欺かなんかだと思われるよ。というかパパとママが私と年あんまり変わらないし」


 私がパパとママの娘と分かった途端、ブラウニーさんがずっと私を見つめているわ。それも嬉しそうに、どうしたのかなと思ったら、


「お嬢たま。何か冷たい物でもご用意しましょうか?」

「なにこの瓶、お酒?」


 私は水玉の包装紙に包まれたビール瓶みたいな容器に入った物を見せられ、ブラウニーさんじゃなくて、ナナシさんが代わりに答えてくれたわ。


「カルピスですね」

「えぇー! カルピスって昔こんなのにはいってたの?」


 後で調べたけど、2011年までは瓶の容器で販売されていたらしいわ。私はプラスチップの容器の物やペットボトルのカルピスしか思い出がないから知らなかったけど、瓶のカルピスってなんかお洒落ね。


「わーい! いただきまーす!」


「お菓子もどうぞ!」


 英字ビスケットにカルピス。なんだろう、童心に帰るわね。もしゃもしゃと私が食べている中……パパとママとブラウニーさんの三人で撮影した写真が飾られ、その隣に……旧サントリーローヤル……そして終売品のゴールドタッセル。これは多分、兄貴の呑んじゃダメお酒置き場にあるのかしら? 私がお酒のボトルを眺めていると、


「お嬢たまはお酒をお飲みになられますか?」

「あはは、お恥ずかしい。ブラウニーさんとも実家帰った時は一緒に飲んだよ。そうだそうだ! そこにあるジョニーウォーカーの赤。旧ボトルがブラウニーさん好きだったから、帰る時はジョニ赤とジョニ緑持って帰ってるんだー」


 私のその話を聞いて、ブラウニーさんがぱぁあああああ! と花が咲いたように嬉しそうな顔をして、ジョニ赤の旧ボトルを取り出すと、ロックアイスにアイスペール、トングを用意してくれる。そう、昔の家って何故かアイスペールとトング必ずあるのよね。


「簡単なおつまみ用意しますね」


 この時代のジョニ赤のオツマミといえば、和風の居酒屋では中々おみかけしない……ちくわにきゅうりを突っ込んだお弁当とかに入ってるやつが出てくるのよね。


「おまたせしました!」


 出た出た! きゅーちく。それにサラミが切ってあるわ。この頃ってカルパスってあんまり日本ではメジャーじゃなかったのよね。ローストビーフも名前すら知らなかった人が多くて、代わりに牛のタタキというカツオのタタキみたいな食べ方の方が有名だったりするのよね。よくかんがえると、1990年代の人っていい物食べてるわね。


「はい、お嬢たま。飲み過ぎないでくださいね? あと……不思議なお客様も」


 トクトクトクとジョニ赤を注いでくれるブラウニーさん。香りが今売ってるジョニ赤と全然違う。私はブラウニーさんにもグラスにジョニ赤を注いであげる。


「私は結構ですよ!」

「そんなそんな! いいじゃないですか! 普段いつも付き合ってくれてるんですからぁ!」


 犬神家にいる人は、お手伝いの人外ですらお酒好きなのね。20年生きてはじめてブラウニーさんがそういう存在だって知ったけど……近くに外国人街があってそこの知り合いだとか聞いたけど、パパとママは知ってたのかしら?


「それじゃあ、若くて愛くるしいブラウニーさんに乾杯!」

「お嬢たま! お戯れがすぎますよ! 乾杯!」

「ははっ、でも二人とも可愛いですよー! かんぱーい!」

 

 ごくんと喉を通るジョニ赤。今でこそ、ハイボール御用達のブレンデッドウィスキーみたいに言われているけど、この頃のレッドは……確かにオンザロックがよく合うわね。というか、この頃の日本人がオンザロックでウィスキーを飲むのが主流だったのよね。

 

「おつまみもどうぞ! お嬢たま」

「ははは、なんか照れますね。いただきます……んんまい!」

「ほぉ、これは確かに、ちくわは味わい深く、きゅうりはシャキシャキと本物の味がしますね」

「スーパーで売られている物ですけどねぇ、そんなに美味しかったですか? 良かった」

 

 世の中進むにつれて良くなっていくけど、その過程で失われていくものもあるのかもしれないわね。だってこのきゅうり、別に路地物でもなくスーパーで売っている物がこんないい味出してるんだもの。この頃って食品偽装も結構やり放題だったハズなのに、当たりの物は極めて質がいいわね。

 

 クイッとジョニ赤を飲み干すと、ブラウニーさんが「ささっ、お嬢たま! どうぞ」と言ってくれるので……

 

「えぇ、ありがとー!」

 

 可愛い女の子に私が弱いのは一体誰に似たのかしら? 兄貴でもパパでもないとすれば……ママ? というかこのウィスキーって一体……

 

「パパもママも好んでウィスキーなんて飲まないのに、これらってなんなんですか?」

 

 ふふんとブラウニーさんが自信に満ちな表情を見せると、

 

「お嬢たまのお父様とお母様、旦那様と奥方様ですね? お二人のご両親、お嬢たまからすれば祖父母のお二人が海外に旅行にいくのが好きで、その時のお土産としてウィスキーやブランデーを送ってくださるようですが、これらはどちらかというと私が好んで飲むので旦那様と奥方様が私にくださった物です! 時々しか飲みませんから、今日はよく減って驚かれるかもしれませんね! ふふふ」

 

 へぇ、お婆ちゃんとお爺ちゃんめちゃくちゃ元気ね。ナナシさんはなんだか嬉しそうな表情でそれら洋酒ボトルを眺めながらジョニ赤を口にするわ。

 

「ふぅー、美味しい。これはいいお酒ですね。ブラウニーさん、ところでご相談なのですが、この家の魔力を少しお貸しいただけますか?」

 

 私の実家って魔力とか帯びてたの?? ナナシさんの質問にブラウニーさんは少し困ったような顔をして「ご自由にどうぞ」と言うのでナナシさんは魔法を使い始めたわ。

 

「この家と金糸雀ちゃんの縁があれば、元の世界に戻れると思いますよ!」

「えっ? そうなの? やったー!」

「魔法が完成するまで少し時間がありますので、ゆっくりとこのお酒を楽しみましょうか?」

 

 そう言ってナナシさんはひょいと懐からソーダ水を取り出した。そこには日本語じゃない文字の羅列。

 

「手にするものを冷やせ! コールド! さぁ、若い頃の金糸雀ちゃんのママの部屋から持ってきたソーダ水で旧赤ラベルのハイボールなんてどうですか?」

「まっ! また持ってきてたんですか? ほんと、魔法使いじゃなくてシーフか何かじゃないんですか?」

「ブラウニーさんに金糸雀ちゃん、ハイボール作ってあげてはいかがですか?」

 

 私にそう言うので私はレモンをもらって、三人分、旧ラベルのジョニ赤でハイボールを作って見せた。それをブラウニーさんはゆっくりと口につけて……

 

「お嬢たま、美味です!」

「やったー! この時代のブラウニーさんも喜ばせれた!」

 

 と私が喜んでいる中、ブラウニーさんが手を振る。そっか、魔法が始まったのね。なんとなくだけどまだ家に帰れる気がしないわねとそう思ったら、案の定。

 そこには若かりしお婆ちゃん。犬神鶺鴒の姿が、そこで当時はまだ珍しかったウィスキーを飲ませてもらい、私は一人で元の時代に戻った。

 戻る瞬間のタイムリープ中、私はお婆ちゃんに看取られるお爺ちゃんの姿を見たわ。彼は凄いいい歳の取り方をしたナナシさん。

 息を引き取る前のお爺ちゃんが、「孫の二人と飲みなかったナア」だなんて笑って逝くんだもん。もしかすると今回のタイムリープはお爺ちゃんの想いだったのかしら?

 

 私はそんな事を考えながら、目を開けると……そこにはプテラノドンが飛び回り、ティーレックスが野をかけ……うん、これはあれね。

 

「お爺ちゃん! お爺ちゃん、魔法間違えてますよー! 私帰れないんだけどぉー!」

 

 まぁ、二週間程恐竜のいる時代で過ごして、原始人の人たちの集落をまとめていた時、多分心配してくれたミカンちゃんがミラクルゲートで私を引っ張り出してくれたので、元の部屋に帰って来れたんだけどね。

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