第173話 【ブクマ200達成特別編】魔王様と女神様と日本酒のお祭りin 西日本と
「ほぅ、ふくしまの酒祭りとな。来週ではないか」
「東京は色んな日本酒のイベントやってますからね」
こんにちは、天童ひなです。最近遊びにくる野良猫を撫でながら魔王様はポストに入っていたチラシを見てそう呟きました。日本酒といえば私の地元も中々有名な酒どころでしたね。
「10月の第一土曜日から二日間私の地元の灘五郷でも日本酒のお祭りやってましたね。まぁ、流石に東京から行こうと思うと新幹線で二時間半くらいかかりますからね」
「ほぉ、では行くか二時間半であれば大した時間ではあるまい! くーはっはっは! ダークエルフの奴も連れて行ってやろう」
いつ買ったんでしょうか? 魔王様はスマホで電話をかけてます。「もしもし? 余である。今より酒のまつりに行くが貴様もくるか? むっ、高熱で伏しているが来ると、馬鹿を言うでない! 家来に無理をさせる魔王がどこにおろう? よく寝てよく食べ休むといい。土産は期待していると良い! くーはっはっは! やはりダークエルフはよわよわ種族であるな。うむ、ではな」
どうやらダークエルフさん体調不良みたいですね。大丈夫かな? すると再び魔王様は電話をされます。
「もしもし? 余である。ミカンよ。今日は暇であるか? む、東京ディズニーランドに行くであるか! よきよき、楽しんでくると良い」
ニコニコと笑いながら、魔王様は少しがっかりしてそうですね。野暮かもしれませんが、サリエラさんでも誘ってみてはと言おうとした時、
「サリエラは日雇いのバイトか……では多忙かもしれんが女神でも呼んでみるか?」
ガチャリ。
私の家の扉が開きました。鍵閉めてましたよね? するとやってきたのは……うわー、超美人が来ましたけど。目を瞑っている神々しい美女。きっとこの人が女神様なんですね。
「魔王、女神ニケに何用ですか? 本来であれば私と貴方が出会えばどちらかが滅ぶまで一千年は続く死闘となるでしょう」
「くーはっはっは! 早い到着であるな! 日本酒の祭りに共に行こうぞ!」
ええっ、なんかそんな雰囲気じゃないですよ。女神様、激おこっぽいんですけど、魔王様大丈夫なんですか?
「……日本酒の祭り……ですと? 魔王、冗談も休み休み言いなさい。私を呼び出したのはそれですか?」
ほら、怒ってますよ。
「うむ。貴様の空間移動は見事の極みと言える。余もできぬ事はないが、貴様程的確に操れる神もいまいな! くーはっはっは! 行くか?」
「わかりきった事を……いきまーーーーーーーーす!」
行くんかい。
新幹線に乗るのかと思いきや。身支度を済ませると、魔王様は私に手を差し出してくれます。
「女神ニケに掴まり玄関から出れば目的地である」
そんな馬鹿な。私は私の地元である兵庫県西宮市、日本全国の戎神社の総本山が目の前にあります。副男レースで毎年盛り上がり、消防隊員の不祥事のせいで年々面倒な事になっているあそこです。
“酒蔵フェスティバル“
懐かしいですね。神社が会場になってるんですよ。清酒生産量日本一の酒どころです。日本酒作りに最も適した宮水、なぜか西宮の街の中で平然と湧いている日本百名水の一つです。そしてあらゆる日本酒に使用されるお米として最高峰の山田錦。私は灘の日本酒が日本一美味しいとは言いません。むしろ日本全国全ての日本酒が甲乙つけ難い美味しさです。
ただ、世界中にファンがいる程、日本酒らしい日本酒を作る土地だなと思いますね。
「特に入場料とか入りませんので、有料試飲を購入して、おつまみを購入して用意されたブースで楽しむ感じです。一杯100円から高くても300円で4勺(70ml)程のましてもらえるので楽しいですよ」
「ほぉ、ではひなよ。余達を楽しませる物を用意せよ」
「お願いします。天童ひな」
えぇ、困ったなー。舌が肥えた魔王様と、なんかお綺麗で毅然としている女神様に選ぶお酒か……ぱっと見来ているのは、日本盛、白鷹、白鹿、徳若、松竹梅、大関、寶娘ですね。そういえば東京では伝説のお酒と化している櫻政宗も西宮のコンビニとかで普通に売ってるんですよね。
「今回は日本盛と大関は省きましょうか……うーん、白鹿の山田錦は飲んで欲しいですけど、ここはやはり寶娘ですね。すみません! 六種盛り。三人分お願いします」
「はーい!」
まずは酒蔵フェスティバルは寶娘の六種盛り、大吟醸、純米原酒、絞りたて原酒、にごり酒、原酒の原酒(色んな酒造でもここでしか飲んだ事のない原酒の原酒。23度を誇る日本酒※酒税法の関係で22度を超えるお酒はリキュール扱い。実際最高度数の日本酒は40度程の物が新潟に実は存在します)、そして梅酒です。みんな梅酒を除いた五種盛りを購入する人が多数なんですが、
「ふふっ、もぐりですね! 酒蔵フェスティバルでサーバーで売ってるアサヒスーパードライを飲むくらいモグリです!」
酒造メイカーの作る梅酒は日本全国ご当地梅酒を作るべきだと私は思うくらい美味しいです。家では再現不可能な味わいなんですよね。
私はお酒を魔王様達が待つ所に戻ると……
「ま、魔王様これは……」
「くーはっはっは! そこでスーパードライを売っていたので購入したのだ! ひなの分もあるぞ。あと蟹味噌の瓶やらをそこの連中がくれた」
手を振るご老人達、そう。この日本酒のお祭り隣に来た人と妙に仲良くなったりするんですよね。
「あの、猪肉コロッケ買ってきたので、そちらの皆さんもどうぞ」
「いいのかい? ありがとー」
「美男美女で芸能人かい?」
またまたご冗談をぉと笑いもとれたところで、私は魔王様達に購入してきたお酒を見せます。
「これらをちびちびやりながら、この辺でしか買えない松竹梅の灘一の小瓶と枡も買ってきたのでこれを飲みましょう」
「酒で酒を飲むのか? おもしろし!」
小さい枡に灘一を注いで、
「仕方がないのでビールもおつまみにしましょう。では10月。日本酒の月に乾杯です!」
「乾杯である! くーはっはっは!」
「乾杯」
プハー、いやぁ久し振りに飲みましたけどこの灘一。なんなんでしょうね。主張を全くしない日本酒らしい日本酒。よく言えば万人受けして悪く言えば面白みがないお酒。だからこそ、喧嘩しないんですよね。寶娘の大吟醸から、
「きゃあああ、おいしー!」
「うむ、普段ひなが飲んでいる“まる“より舌触りが良いな」
“まる“も美味しいんですけど、比べ物にならないと思いますよ魔王様。ところで女神様は? うわー、やっぱ様になるなぁ。両手で枡を持ってゆっくりと飲んで、唇エッロ!
私はどんな綺麗な言の葉を女神様は乗せてくれるんだろうと期待してたんですが、
「魔王! なんですか! 女神をタクシー代わりにして! この日本酒が美味しくなかったら戦争でしたよ! 死にたいんですか!」
「くーはっはっは! 女神ニケよ。貴様、魔王城でも余しか話し相手がおらなんだからな! その絡み酒、面白いがいい加減治したほうが良いぞ! のぉ? ひなよ」
「えっ? え……」
「ひなちゃん!」
「はい……」
「にごり酒美味しい!」
なんでキレてんでしょう。でも美味しく飲んでくれていて良かったです。私はふーふーして魔王様に猪肉コロッケを渡します。
「揚げたてですので気をつけてくださいね! 猪のお肉なんであったまりますよ!」
「ほほう、サクサクだな……んん? 珍しい味の肉であるな。幻獣種にこんな味の者がいたぞ!」
「わー、魔王にばっかりフーフーして女神の私にはしないんですか? ひなちゃん!」
なんか小さい子みたいですね。女神様ってみんなこんな感じなんでしょうか? 私は女神様の猪肉コロッケもフーフーしてから渡します。
「はいどうぞ」
「ありがとう! ひなちゃん、かつては女神が降臨するという事は街を
挙げてのお祭り騒ぎだったんですよ! 私はですね」
「はいはい、女神様、原酒の原酒も美味しいですよ」
そう、キツイんですよね。お腹がぽかぽかしてきます。でもこれがまたいいです。ハグハグと女神様はコロッケを食べて「美味しい! なんですかこれは!」と何故か怒ってますね。魔王様、蟹味噌をペロリと食べてから純米原酒を一口。
「うむ、これはウラボラスが好きそうだな。こっちのにごり酒はデュラハンが好きそうだ! くーはっはっは! 奴らの土産に今度買ってやろう」
なんかこうあれですね。魔王軍が魔王様信仰してる気が分かります。何故なら、魔王様。もうすでにダークエルフさんのお土産のお酒とおつまみを買ってあげてるんですもん。
有料試飲の六種を飲み終えてた頃には女神様がうつらうつらと眠そうにしているので、ちょっと早いですけど、
「魔王様、帰りましょうか?」
「うむ、ん? 少し待てひなよ」
「はい?」
魔王様は白鹿の有料試飲に並ぶと、琥珀色のお酒を持って戻ってきました。ラベルが貼ってあります。あー、山田錦古酒。高級な紹興酒みたいな味なんですよね。
「日本酒の古酒とは普段飲まぬ故気になった! こいつを最後にやって帰るとしよう。余から返盃である! 心して飲むといい」
「ありがたくいただきまーす!」
くっはー、うまー! なんですかこれ、ナイトキャップに良さそうですね。優しい口当たりと日本酒が古酒になった事で癖が強くなってます。最後とか言ったんですが、結局私たちは大関の生搾り酒を飲んだり、白鷹の宮水の郷を飲んだり、全ての酒蔵を楽しんでから家に帰るわけですが……
「まおー、わかりますか? 私がいかに異世界の魔物と戦った時、先陣を切ったのか!」
「うむ、あの時は勇敢であったな」
「あなた達魔物が不甲斐ないから、人間、魔物の混成部隊に私たち神々も出てくることになり。私がいかに異世界の魔物と戦った時、先陣を切ったか!」
「貴様は勝利の女神であるからな!」
「そうですよ! 私は勝利の女神ですからね。私がいかに、異世界の魔物と戦った時先陣を切ったか!」
なんか、女神様はずーっと何千年か前に神様と人間と魔物とみんなでなんらかの脅威に立ち向かった話をしてますね。私でも無視しそうなのに、魔王様は毎回相槌を返してます。それもニコニコイラつかずに。
「魔王様、そんな状態の女神様で家帰れますか?」
「良い良い、余が空間転移をすればよし! では我が家へ帰るとしよう」
ガチャリと適当な扉を開けた先は私の部屋でした。私のベットで沈むように眠っている女神様を魔王様はじっと見て笑っています。魔王様あれですね。絶対友達多くて誰からも嫌われないタイプですね。
だって、女神様の力無くしても今回のお祭りの参加も行こうと思えば行けたのにわざわざ女神様を呼んであげたんですよね?
多分、この女神様、結構敬遠されてそうですし。
「ひなよ」
「はい?」
「来週は東京で行われる“ふくしま酒祭り“これに行くぞ! 津々浦々、日本酒はうまい!」
「そうですね。行きますか!」