第172話 ティアマトとガーリックチーズトーストと数量限定サントリーパーフェクトビール黒と
私の部屋、リビングではワタツミちゃんが学校の宿題をしているわ。来たばかりなのに日本の数学と第二外国語である英語とを殆どマスターしているのには驚きね。
「金糸雀お姉ちゃん、この問い3がわかりません」
「ええっとなになに? 最近の高校生難しい問題してるわね。等号成立条件って確か……そうだそうだ。微分法を使ってもいいんだけど、ノートにワタツミちゃんがしっかりとってる相加相乗平均の不等式を使えば、エックスの最小の値が出てくるわよ」
「あー! ほんとれすぅ! その方がわかりやすいれす!」
てか、相当な難問だけど、ワタツミちゃんの留学してる学校ってそんなレベル高いのかしら? 勝手な想像でアホな子の集まりみたいな学校だと思ってたわ。
「そういえばミカンちゃんいないわね」
「勇者様わぁ、モデルのお仕事れすぅ。最近雑誌とかにも載ってるんれすよ」
「来るところまで来てるわねぇ」
そう言ってワタツミちゃんが持っているティーン向けファッション雑誌をペラペラめくっているとミカンちゃんが滅茶苦茶写ってるわ。ボケーっとした表情が女子中高生に人気なんだとか、正直さ。美少女って何着せてもどんな顔させても可愛いから世の中っておかしいと思うのよね。秋の正解勇者コーデとかいう意味不明なキャッチコピー考えた人の頭、おかしいわね。
「ぶっ!」
「どうしたんれすかぁ?」
「ワタツミちゃん、ニケ様も写ってるんだけど」
「わぁ! ニケ様、見た目だけはお美しいれすからねぇ」
ワタツミちゃん時々辛辣な事言うわよね。そういえばニケ様って一度だけ地下アイドルやってた事もあったわね。そもそもアイドルの語源って信仰心からだからある意味ニケ様からすればこういう人に見られる仕事は天職なのかしら?
次にページを開くと、セラさん……ちょっとこの人制服着てるんですけど! なんか犯罪臭感じるのは私だけかしら? というかこの雑誌何?
ガチャリ。
「たのもー」
「はーい」
私が玄関に行くと、そこには太ももや腕、胸元がやたら透けているキャバドレスを着ている中学生くらいの女の子。最近こういう格好の女の子ほんと多いわよね。でも普通の女の子じゃないなと思うのが背中から生えているドラゴンっぽい翼。
「そちがカナリアかい?」
「はい、犬神金糸雀です。初めまして」
「うん、素直でいいね! 僕はティアマト。女神達に聞いてカナリアに会いにきたよ!」
そう言って私をぎゅっと抱きしめるティアマトさん。
えっ? なになに? この可愛い生き物。これは私もぎゅっとしていいやつかしら? ティアマトさんとは……日本で言うところのイザナミね。と言うか神話類似しすぎね。どっちかが源流なのかしら?
「わー、ティアマト様ぁ!」
「おぉ、僕の可愛いワタツミか! レヴィアタン殿は元気かい?」
「えぇ、元気すぎてわらしも困ってまふー」
あまり自分に自信がない感じのレヴィアタンさんが元気って全然想像つかないけど、神々には分かるような何かなのかしら?
勉強中のワタツミちゃんにオヤツを作って持ってきたデュラさんが今日だくの声をあげたわ。
「おぉおおおお! おぉおおおお! 魔王様の一撃を受け止めたティアマトである!」
「おや? 君は確か天界に魔王達が遊びにきた時にいたデュラハンか? 久しいね。しかし何故首だけなんだい? 身体をどこに忘れてきたのかね?」
「ティアマト様ぁ、デュラ兄様はかくかくしかじかなのですぅ」
「なるほど、苦労したみたいだね」
「痛みいるである……」
すごいわね。かくかくしかじか……これだけ習得すれば全ての意思疎通可能なんじゃないかしら……それにしても異世界の横のつながり凄いわね。大体顔見知りなんだもんね。
「ところで私に会いにきてくださったと言うのは?」
「この前、女神の女子会があったのさ」
あー、嫌な予感しかしないわね。もうこれ絶対あの女神様絡みの話よね? まぁでも凄い懐いてくれる美少女的な女神様が来てくれたのは役得かもしれないけど。
「はい、それで?」
「そこで皆が持ち寄ったお酒を楽しんでいたんだ。僕はミードと神の使いのヤギの乳で作ったパン、それぞれ美味しいオヤツとお酒を楽しんでいたんだけど、女神ニケが酔い始めるとお酒もおつまみも美味しくないといつものように駄々をこねてね」
もうほんと、ごめんなさい。ニケ様が各方面でお酒で迷惑をかけるのなんか私関係ないはずなんだけど、私が責任を感じるのは何故かしら。
「いつも駄々を捏ねるであるか……最悪なクソ女神であるな」
「わふー、ニケ様。めっ! れすねぇ」
「まぁ、いつもの事さ。僕もみんなも女神ニケの事は好きだし、尊敬もしているよ」
「えっ! あのティアマトさん、どこに尊敬する部分があるか教えてもらっていいですか?」
「そうであるな。我も軽蔑をする事はあっても尊敬した事は今まで一度としてなかったのであるが……」
ティアマトさんが八重歯を見せて少年のように笑ったわ。何この可愛い生き物。もう私のところに置いてていいのかしら? そして美しい花びらみたいな唇が動くと、ウィンク。
「僕も女神ニケが言うようにとっても美味しいお酒とオヤツを食べたいんだけど? ダメかな?」
ズキュン!
「いいです! いいです! さぁ、今すぐ飲みましょう! と言うかウチの子になりませんか? ティアマトさん」
「ははは、面白い子だねカナリアは」
「ところでどんなお酒が好きですか?」
「うーん、少し苦めのお酒かな? どうしても女神の女子会はミードみたいな甘いお酒が好まれるからね。でも僕はあんまりお酒は強くないから。何かあるかい?」
「ありますとも! デュラさん、おつまみは少し甘辛な物できますか?」
私の無茶な要求に私の相棒と言っていいデュラさんは眼光を光らせてこう答えてくれるのよ。
「任せるである! 丁度、ガーリックチーズトーストをおやつに作ったである。これにハチミツソースを別途作るであるぞ!」
「さすがデュラさん、今日選ぶお酒はこちらです! 限定版サントリーパーフェクトビール・黒です」
10月3日販売される新商品なんだけど、某所よりサンプルを1ケースもらったのよね。※リアルにもらいました。当方も驚きを隠せません。
発売されたばかりなので殆ど情報のないこの黒ビールがスタウト系なのか、シュヴァルツ系なのか飲んでみないとちょっとわからないのよね。なので冷蔵庫に入れていたものを少し常温にならしてどっちでもいけるようにしておくわ。
そこの深いビアグラスを用意して全員に注ぐと、
「じゃあ滅茶苦茶キュートなティアマトさんに乾杯!」
「照れるね。乾杯!」
「乾杯れすぅ!」
「乾杯であるぞ!」
あぁ! あぁあぁ、こう言う感じね。これは黒ビール初心者におすすめしたいかも。サントリーパーフェクトビールって糖質がない分、味わいがしっかりしてるんだけど、黒は麦芽の味とほんとり甘味を感じながらコクが強くてほろ苦さが少なめね。
「いや、参ったね。女神ニケの言う通りだよ。おいし」
そう言って上目遣いに私をみるティアマトさん、もう超可愛い。と言うか女神様ってこう言う感じよね? ニケ様なんか違うのよ。
「わー、この黒い麦酒。美味しいれす」
「我はどちらかというと琥珀色の麦酒が好きであるが、この黒。悪くないであるな! エスプレッソを楽しんでいる気分である。さぁ、この麦酒に負けないようなおつまみを用意したである!」
うわー! ガーリックチーズトーストだけでも美味しいのに、それに蜂蜜ソースかけるなんて……これ絶対うまいやつじゃない。
という事で私たちは手が汚れないようにフォークでパクリと、
「んー! んー! んぃしい!」
背中の翼がパタパタしながらティアマトさんが大喜び。全体的に可愛いわ。なんだろうデュラさんも懐かしそうな目でティアマトさんを見ているのは、多分アズリたんちゃんがいた頃を思い出しているのかしら……
「わー、デュラ兄様、うまうまですー」
「おーワタツミ殿。そうであるか? 作ったかいがあるである」
「いや、でもこれマジでPSBの黒に合うわ。デュラさん、天才ですか?」
「褒めても美味しい料理くらいしか出ぬであるぞ!」
もっもっもとティアマトさんがPSBの黒を飲み干して「ふぅーおいし」と深いため息をついてるわ。ビール空になっちゃったみたいだし、
「ティアマトさん、お代わりは?」
「うんもう結構。こんなに美味しい物を沢山飲み食いするのは欲張りさ! また来てもいいかい?」
「毎日来てください」
「あははは、大袈裟だなぁ。でもそう言ってくれるカナリアと会って分かったよ。女神ニケはいつも自分を信仰している君達を何よりも大事にしてるってさ! そういうところ、僕らは女神ニケを尊敬しているよ」
へへっと少し恥ずかしそうに笑って帰っていくティアマトさん。私たちはティアマトさんが帰っていくのを名残惜しく感じていたけど、ティアマトさんの言葉は1ミリも心に響かなかったわ。と言うか、私たちニケ様を信仰してないし……あの感じだとティアマトさん次に来る時は絶対結構後だし……
ガチャリんこ。
「わー! パチパチ、みなさんの女神。今日も今日とていらっしゃいましたよー! さぁ、今日はどんなお酒とおつまみでしょう? 期待が膨らんでいます」
と言うテンションで入ってきたニケ様に私は、
「あの、ニケ様。毎日くるの控えてくれません?」
と言ってみたんだけど、クンクンと匂いを嗅いでニケ様は、
「誰か違う女(神)連れ込んでましたね? ダメですよ? 私以外の女神は何を考えているか分からないですからね! いいですか? 金糸雀ちゃん、女神と言っても邪悪な神。邪神に片足突っ込んでいる者も中にはいますから! とにかくそのあたりのお勉強を今日はしましょうか? まず、お酒を」
もしかすると、いつの間にか自分が邪神になっていても分からないものなのかもしれないわね。あと、ちょっと嫉妬深いの本当にニケ様、面倒臭い彼女みたいになってきたわね……