第163話 【13万PV 感謝特別編】魔王様とニューメキシコ料理と殺戮の天使サリエルと
こんにちは、天童ひなです。魔王様が今日は少しご機嫌斜めです。と言っても魔王様は常に笑顔で私や周囲にあたったりするわけじゃないので分かりにくいのですが、食事を食べるのが遅かったり、考え事をしていたり、そんな風ないつもと少し様子が違う時、機嫌が悪いとダークエルフさんが言ってました。
「魔王様、どうかなさいましたか?」
「くーはっはっは! 余の後継のアズリタンがこの世界にいたようだが、余が顔を見にいく前に元の世界に帰ったらしい。アズリタンに何か美味い物を食べさせてやろうと思ったが、無駄になったな! よい、ひなよ! これで何か食べに行こうではないか」
あー、娘さんの為にへそくり貯めてたけど娘さんが元の世界に帰っちゃったので少し寂しかったのね。私も一度魔王様の娘さん見てみたかったですね。多分、引くくらいの美少女か美女だったんでしょうね。
「じゃあ、魔王様。最近見つけたニューメキシコ料理でも食べに行きませんか?」
「良い! それが何処か知らぬが、ひなが食したい物を選ぶといい」
魔王様と私は駅近くにあるニューメキシコ料理のお店に向かう途中、ザワザワと騒がしいですけど……なんでしょう。
「ちょっと貴女、署まで同行いただけますか?」
「死にたいのか人間?」
すごい翼を生やしたアイマスクをした外国の人。秋葉と間違えたんでしょうか? そんなヤバい人を見て魔王様は、
「おぉ! 貴様は天界に攻め込んだ時にいの一番で余に屠られた雑魚天使ではないか! 久しいな!」
と手を振る魔王様、今まさにお巡りさんに連れていかれそうなその雑魚天使さんは魔王様を見て、
「貴様……闇魔界、ザナルガランの盟主。アズリエル! ここであったが3001年と221日。忘れもせんぞ! この私を踏み、踏み台にして!」
魔王様がやってくると雑魚天使さんはゴゴゴゴゴ! と怒りを露わにしてますけど、お巡りさん達は笑顔になっていく。
「なぁーんだ! 魔王さんの所の知り合いだったら早く言ってくださいよ! では本官達はこれで」
「うむ! いつも街の治安維持御苦労である」
魔王様とお巡りさんは敬礼をして別れましたが、そこに残った雑魚天使さんは魔王様を物凄い睨みつけてますね。並々ならぬ因縁……が雑魚天使さんにあるんでしょうか?
「ここであったが3001年と221日目! 覚悟しろ魔王!」
熱りたつ雑魚天使さんですが、膝をつき……ぐぅううううう! とお腹から凄い音が、
「ほう、腹が減ったか?」
「違う! 断じて否だ! これは私の腹の音ではない……そうだ! この世界の滅ぶ音。アポカリックサウンドに他ならん! 私と魔王、天と地の激突が今より始まろうとしているんだからな!」
「良い! 神々とも知らぬ仲ではない。その家来である貴様もまた余の家来のようなもの。共に来ると良い! 飯を食わせてやろう」
「ば、バカにするのも大概にしろ! この殺戮の天使、サリエルをここまで怒らせたのはお前と、お前の直属の家来と、その下の家来と、お前の娘と、勇者と、ラストダンジョン前の村人達と! 同僚の天使達と、ええい! 数えたらキリがない!」
毎回怒ってるんでしょうかこの雑魚天使さんもといサリエルさん、さっきもお巡りさん相手に激怒してましたし、魔王様はニコニコと笑いながら、
「ここかひなよ」
「そうですね。駅から3分、ほんとすぐでしたね」
「くーはっはっは! 興味深い、行くぞ雑魚天使」
「貴様の施しなど受けん。が、食べ物を粗末にするのは主に反するからな」
施しを受けるんですねぇ。私たちが入ったお店はメキシコ料理、ではなくアメリカのニューメキシコ州のニューメキシコ料理という事に入店して気づきました。小さいお店にはお客さんが沢山です。大きなテレビモニターではアメリカンフットボールの試合が流れてますね。
どうやら店主は日本語を殆ど話す事のできないマスター、長い会話はポケトークを使うらしいです。
「We apologize for the inconvenience, but we are currently receiving a large number of orders and there will be a delay in serving your food」
“ご迷惑おかけしますが、現在沢山の注文を受けていて料理をお出しするのが遅くなります“
「くーはっはっは! 構わん! ゆるりとするが良い! 飲み物でも飲みながら待とうぞ!」
メニューを差し出されるので私は魔王様にビールでいいか、そして、
「あの雑魚天使さんもビールでいいですか? あっ、サリエルさんでしたっけ?」
「貴様ぁ! 土塊人形の分際でぇ! ビールでいい!」
という事なので、私はマスターに、
「えくすきゅうずみぃ! てかて、すりー!」
と指を3本見せると「OK!」と承諾してくれました! どうです! この私のグローバルな会話は!
マスターが持ってきてくれたテカテビール、グラスに塩がついてライムもついてきました。これは同じバイト先の金糸雀さんに教えてもらいましたよ。ライムを絞ってそのままポトンパターンか、塩を舐めてビールを飲んでライムを齧るパターン。
私が魔王様にお伝えしようとした所、
「How long have you been in Japan?(貴様、日本にきてどのくらいだ?)」
「Five years(五年ですね)」
「I hear that five years is a long time for humans(土塊人形の五年間は長いと聞くな)」
「I love you all, it's fun(私は皆さんが大好き、楽しい!)カンパーイ!」
「「「かんぱーい!」」」
まさかの魔王様もサリエルさんも《《私と同じ》》でペラペラじゃないですか……
「んんっ! このビール、めちゃくちゃ美味しいぞ! 天界で飲んでやつがクソみたいだ」
天界にもビールあるんですね。確かに、テキーラ飲むみたいにしてビール飲んだの初めてですけど、これは美味しいです。
「ビーフファフィータ!」
おぉ、いつの間にか魔王様が注文していた。ニューメキシコ州の料理です。トルティーヤとスキレットに入った牛肉、そして赤いのはサルサですかね? この緑色の物は?
「マスター、わぁっつ(What)?」
「ワカモーレ!」
あぁ! ワカモレ! これがあの! トルティーヤにサルサとワカモレ、牛肉を乗せて食べるわけですね。
「では魔王様、巻いて差し上げますね」
「くーはっはっは! では余がひなと雑魚天使の分を巻いてやろう」
「魔王! 貴様の手は借りん! 自分でやる!」
私たちはそれぞれビーフファフィータを作って、実食。
「!!」
「くーはっはっは!」
「これは……」
私達は揃えたわけじゃないのに、この日本では中々食べられない本場のガッツリとした味わいに、
「「「うまい!」」」
どんな食レポよりもおそらくそのお店を褒め称える言葉があるとしたらこれでしょう。なんでしょう、ほろほろと柔らかい牛肉に全然辛くない味わいのある香辛料。これがメキシコ料理ではなく、ニューメキシコ料理なんですね。
サリエルさんは泣きながら、
「うまい、うまい! もう二週間ぶりの食事がこんなうまいものとは食べなかった事を主に感謝したいくらいだ」
「雑魚天使よ、ビールはお代わりか?」
「雑魚じゃないもん! サリエルだ! おかわりぃ!」
という事でテカテビールを私も便乗して「テカテー、つー!」と指を2本上げて答える。一応これでも私は海外で働く為に夜のお仕事してますからね。
こういうグローバルなお店も慣れておかないといけません。
「メキシカンピッザ!」
続いてのメニューは……えぇ! これがメキシカンピザ? タコスが上下に生地になっていて、中はひき肉と豆のペースト、これも辛くないスパイスで、ビールが進む。
「くーはっはっは! これもまた美味だ! 駄菓子っぽさのある料理だな! ビールが進む」
魔王様は塩を舐めて、ビールを飲んで、最後にライムを齧ってます。ほんと様になりますね。さっきからずっと泣いているサリエルさんはもしかすると泣き上戸かもしれませんね。
「さぁ、サリエルさんも沢山食べて、それにしてもどうしてこんなところに?」
「貴様に言っても分からんだろうが、女神ニケ様というそれはそれは美しい女神様がこの街にお忍びでこの世界を救う為にきているという噂を聞いたのだ。そんなニケ様が間違いを犯した為、主がニケ様を抹殺する指令を私にお与えになられたが、ニケ様に限ってそのような事はない。きっと、誰かの罪を悪事を、ご自分で被られたに違いない。私はそれを証明する為に彷徨い、探しているのだが、未だニケ様の姿見つからず」
大変ですね。それにしても凄い尊い女神様がいたものですね。
「その冤罪、晴れるといいですね。応援してますよ!」
「土塊人形のくせに、私にそんな事を言っても何も出ないぞ? 文無しだしな」
そう言ってテカテビールをクイッと飲みほすサリエルさん。そんなサリエルさんに魔王様は、娘さんに使おうと思っていたお金、諭吉さんで三十人をサリエルさんの手の中に乗せる。
「魔王、なんだこれは?」
「くーはっはっは! 当分の生活費の足しになろう! 取っておくといい」
「ま、魔王の施しはうけぬ!」
「女神ニケとも知らぬ中ではない。そやつに貸しという事にしておいてやろう。遠慮をするな! 君主の為に真面目に働く奴は余は大好きである!」
ポンポンとサリエルさんの頭を撫でる魔王様に再びサリエルさんは泣きそうになり、お腹も一杯になったところで魔王様がお支払い。
私は、グローバルな挨拶をして、
「べりぃでぇりしゃあす!」
「……??? おぉ! ありがと! またきてね!」
ふっ、通じましたね。
お店を出た後、私は少し珍しく、私を真面目に見つめる魔王様の表情を見ました。何事かと思うと、
「ひなよ。貴様に至らぬ点はあまりないが、語学はもう少し学ぶといい。控えめに言ってクソであるな! くーはっはっは! 余以外の存在は欠点があった方が可愛げもあろう! 良い、許す!」
えぇ! 魔王様、私の英語完璧だったでしょ! と、少しだけ納得いかない感じで家で飲み直すのにサリエルさんも誘って、どうせだからとダークエルフさんにも後で電話をして寄せ鍋でもしましょうという事になりました。
せんきゅう。べりぃ、まっち!