第158話 ヤルダバオトとうなぎもどきとスーパー偽ハイボール(ノンアル晩酌ハイボール➕ホイス)と
「金糸雀お姉ちゃん、この世界は嘘にまみれてますねぇ」
それはワタツミちゃんの一言。22歳と申告している女性芸能人が7歳もサバを読んでいるとワタツミちゃんの鑑識眼なるスキルでテレビを見ながら私にそう話しかけてきたわ。というかそのスキルそんな事に使うの勿体なくない?
「人間というのは少なからず嘘を塗り固めて生きているのよ」
「それわぁ、金糸雀お姉ちゃんもですかぁ?」
「まぁ、そうね」
体重の申告とか、特にね。本日はミカンちゃんがモデルのバイト、デュラさんはインプットした料理の知識をいろはさんの家でアウトプット。何気にワタツミちゃんと二人っきりって初めてなのよね。
「ワタツミちゃん、今日は何か食べたい物ってある? なんでもじゃないけど大体作れるわよ」
「私ぃ、気になっている食べ物がぁ、あるんですぅ」
「へぇ、キャビアとかトリュフとかはウチにはないけどキャビアの代わりに海ぶどう、トリュフの代わりに乾燥マッシュルームとトリュフソルトで代用くらいはできるけど?」
「そうですねぇ、精進料理という物を食べてみたいなぁと、思いましたぁ」
しょ、精進料理……がんもどきとか、そういうのよね……うーん、なんか冷蔵庫にあったかしら……山芋。昔、兄貴が友達と鰻丼食べてるのを見て私にも作ってもらったら鰻じゃなくて鰻もどきだった事があったわね。そういえば精進料理だったと思うんだけどあれってどうやって作るのかしら。
スマホでググってみると……ははーん、結構簡単なのね。すりおろした蓮根や山芋を蒲焼のタレをつけて焼いて皮の代わりに海苔を乗せてご飯にインね。
「じゃあ、今日は精進料理を作るわね。精進料理といえば般若湯(日本酒)だけど、ここは偽鰻に合わせ、偽スーパーハイボールでも作ろうかしら」
「すーぱーはいぼぉるですかぁ?」
この最近の子の滑舌の悪い喋り方って流行ってるのかしら? きっと可愛いんだろうけど、私割と受け付けないのよね。
「うん、スーパーハイボールはブレンデッドウィスキーにそのベースのウィスキのシングルモルトをフロートする飲み方なんだけど、今日はこれを使うわ」
ノンアル晩酌ハイボール。
「ノンアルコールのハイボールね」
「ふぇえ、お酒飲まないんですかぁ?」
いいえ、飲むわよ! ※125話登場のウィスキー代用品ホイスを使います
「ノンアル晩酌ハイボールにウィスキーの代用品である幻のお酒の一つ。ホイスをフロートするの」
ガチャリ。
おいでなすったわね。ワタツミちゃんがお出迎えに行ってくれるので、私は偽鰻の蒲焼と偽ハイボール。
もとい、スーパー偽ハイボールを用意して待っていると、
「こんにちはこんにちは! ワタツミの様子を私的に見にきましたよ!」
うわー! バテレン大名みたいな人やってきたわ。高山右近みたいな派手な格好をしたワタツミちゃんの知り合い。
「ヤルダバオトおじさまぁ、いらっしゃいませぇ」
という事でヤルダバオトさんという人がやってきたけど、私には全く面識もなければ彼への知識もないわね。とにかく、間違った宗教法人の創始者みたいなおじさん。
「私は犬神金糸雀。この家の家主です。ヤルダバオトさん? はどういった類の方なんですか? 人間……じゃないんでしょうね」
「うーん、まぁこちらさんの世界的に言えば道徳の神様ですわな。私的には」
「こっちの世界の事知ってるんですか?」
「まぁ、なんでも知ってますよ。私的には」
なんかこの人の口癖もイラっとくるなぁ。道徳の神様ってどういう事? 大抵の宗教の神様は道徳の神様的要素があるけど。
「ヤルダバオトおじさまわぁ、別名偽物の神様ですぅ」
ははーん。読めたわ。今回私が用意した偽物ペアリングで召喚されたのかしら? 私もちょっとファンタジーな事を考えちゃったわ!
とか思っていたら、
「やはり、それですね。私的に」
ヤルダバオトさんが指を指した先にあるのは偽鰻の蒲焼と偽スーパーハイボール。まさかまさかと思うけど、
「私を呼び出す召喚儀式がそこで完成していますね。それも高度な水準で、私的に」
おちおち晩酌もしていらない部屋になってきたわね。まぁ、これは食べる為に用意したんだから、それに召喚されたヤルダバオトさんにお出しするのが筋よね。
「これ、両方とも本当の食材に真似て作った偽料理と偽お酒です。口に合うか分かりませんがどうぞ」
するとグラスを掲げて、ヤルダバオトさんが、
「この世界のすべての偽物に乾杯!」
「かんぱいですぅ!」
「かんぱーい!」
んぐんぐんぐ、ノンアル晩酌ウィスキーうまっ! 完全にウィスキーじゃない。スピリッツエキスが入ってるだけあって違うわね。そこにホイスをフロートしてあるから完全にスーパーハイボールよこれわ。
「おぉ! このお酒、今まで飲んできたあらゆるお酒を凌駕しますな。私的に」
「ぷ、っはぁー! 美味しいれすぅ!」
「ほんと、なんか上品なハイボールよね! どうぞどうぞこの偽鰻の蒲焼も食べてくださいね!」
うはー! ヤルダバオトさん、お箸の持ち方キレー! なんか上品なおじさまね。口元を隠してパクリ。ゆっくりと咀嚼してヤルダバオトさんは、
「かつて、異世界に迷った時、兄デーミウルゴースと共に食べた鰻という魚を思い出しますね。私的に」
鰻食った事あるんかい! 口元を拭きながらヤルダバオトさんは上品に偽スーパーハイボールを一口。
「ふむ、ごちそうさまでした。目麗しい金糸雀嬢」
「えぇ、まだまだ飲み食いしてくださいよぉ! 目麗しいだなんて」
「私的、お世辞です」
「……そうっすか」
でももっとゆっくりしていけばいいと思ったんだけど。
「遠い親戚のワタツミが異世界で楽しくやっているようで良かったですはい。私的には、もし理不尽に虐められていたら、世界を滅ぼすところでした。私的には、かつて私と兄が異世界に来た時は安倍晴明、そして蘆屋道満という外道の如き人間にそれはそれは酷い扱いを受けましたからね。私的に」
陰陽術師と宿曜術師の有名な人ね。この前、古い実写映画見たわ。ワタツミさんの頭を撫でて、ヤルダバオトさんは懐から一枚の金塊を取り出したわ。
「困ったらこれとおにぎりを交換しなさい。昔、異世界に迷い込んだ私達もこれを見せれば人間達は優しくなったものです。私的に」
おにぎりどころか米農家そのまま買えるわよそれ、そりゃそんな金塊出されて優しくならない人多分今の時代でもいないわね。
「それではさらばです。ワタツミ、犬神さん! 私的に」
「さよーならー!」
「おじさまぁ、またねぇ」
さて、ヤルダバオトさんが帰り私は多分生涯みることも無いような。いえ、海外の海賊映画とかではもしかしたら見たことあるかもしれない。巨大な金の塊。それを前に落ち着こうと偽スーパーハイボールを呑むわ、「金糸雀お姉ちゃん、私もぉ、お代わりですぅ」とかいうので、ワタツミちゃんのお酒も作ってあげて、
「ただいまなりぃ!」
とミカンちゃんが戻ってきて金塊を見て?顔で、
「換金して鰻重でも食べり? 麦酒できゅーっとやるとうまし」
とか言うんだけど、私は一つ。やばい事実を頭の中でよぎったのよね。よく物語とかで異世界の金をこっちの世界に持ってきて換金するとかあるじゃない。
あれ……基本無理だから。
ごく少量ならまだしもこのレベルの金塊相手だとでどころを聞かれるし、そもそも異世界からとはいえ密輸なのよね。
懲役10年以下、若しくは1000万円以下の罰金又はその併科なのよね。これ、今までの異世界から来た人の置いていった物の中でとびきりヤバい物なのよね。とりあえず漬物石にでもするか。