第157話 フランケンシュタインとカレーパンとハイネケンマグナムボトルと
「ちわー、宅配でー」
この適当な感じで配達しにくる人は兄貴とバーテンダーをしている従姉妹の狼亞ちゃんが贔屓にしている酒屋さんのなんと七代目。元々兄貴の飲み友達の酒屋さん。酒屋さんだから酒屋さんなんでしょうね。
「なんですか? 何も頼んでないんですけど」
「いやー、お兄ちゃんの方がこれ入ったら届けといてって言われたからね。お代はもらってるからよく冷やして飲んでねー。じゃねー金糸雀ちゃん。彼氏できた? できてないよね」
殺してぇ!
なんだこいつ、てかこのお酒何よ? スパークリングワインかしら……えっ! ハイネケンのマグナムボトルじゃない! これって確か非売品よね?
あー、150周年記念で限定販売されてるのね。
てか……何本兄貴買ったのよ。
「ちょっとお酒運ぶの手伝ってー!」
「ウス」
ヒョイヒョイと部屋の中にマグナムボトルのハイネケンを運び込んでくれる。マグナムボトルで24本あるわね。何これ? 缶ビール飲むくらいの感覚で買ったのかしら、私の兄貴ながらほんと頭おかしいわね。
「ありがとう……うえぇえええ! 誰ぇええええ!」
いや、私この人知ってるわ。面識があるわけじゃないんだけど……多分、日本人が一番知っている人造人間といえば、あるいは世界の人が一番知っている人造人間。
「あ、フランケンシュタインっす。すんません」
女流作家メアリー・シェリーが、作家たちの会合の時に発表した史実最初の世界系SF作品“フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス“の主人公、
「えぇええ! フランケンシュタインさん! いらっしゃい! 私、犬神金糸雀です! メアリー・シェリーの作品はマチルダも初版も復讐も全部読んだわ! 作品の最後でフランケンシュタインさん、いなくなりましたけど、恋人は見つかったんですかぁ?」
あぁ、ダメねダメダメ。お酒以外の私の趣味は小説を読む事だけど熱くなりすぎたわ。世界初のSFが日本の竹取物語なら、フランケンシュタインは世界初の世界系。一旦落ち着きましょう。
「かなりあキモい声出してり……巨人種?」
「キモくないし! こちらは巨人っちゃー巨人よね。現代のプロメテウスだし、フランケンシュタインさんよ。どうぞどうぞ入ってください! 狭いかもしれませんけど」
「いんすか? 自分、フランケンシュタインっすよ?」
「当然じゃないですか! この部屋、いろんな人来てるので今更ですから、さぁ入って入って!」
フランケンシュタインさんを部屋に招くと、ワタツミちゃんはSNSで流行っているダンスの練習。デュラさんはアズリたんちゃんに指示をされたので料理本を沢山積んで料理長に相応しくなる為修行中。
そんな二人がフランケンシュタインさんが入ってきて、即反応したわ。
「金糸雀お姉ちゃぁん! その方神様の眷属ですかぁ?」
「金糸雀殿、そのお方は何者であるか?」
フランケンシュタインさんはモンスターじゃないのね。いや、怪物という意味ではモンスターなんだけど異世界的なモンスターじゃないって事ね。
「フランケンシュタイン、でかいなりぃ!」
「勇者さんはちっこいのに凄い力っすね」
フランケンシュタイさんとミカンちゃんの腕相撲対決。これは激アツね! ずっと見てたいけど、せっかく来てもらったので、何か出してあげないと……おあつらえ向きのビールは今日送られてきたので、お酒はハイネケンのマグナムボトルでいいわね。
「デュラさん、ハイネケンのボトル、氷の魔法で冷やしてくれますか? キンキンにしてないとおいしくないので」
「分かったである!」
「何か食べ物を……」
私がそう言うとワタツミちゃんが部屋から出ていき、隣の自分の部屋にからおっきな袋を持って戻ってきたわね。
「ふっふっふぅですぅ、金糸雀お姉ちゃん。私のぉ、秘蔵のお夜食ぉ、提供しましょう。神楽坂でぇ、買ってきましたぁ」
海外にも展開している。チェーン店パン屋さん。リトルマーメイド、そのカレーパンじゃない! というかワタツミちゃん、何個カレーパン買ってるのよ。某カードゲーマーでもあるまいし……
「こんなにカレーパン一人で食べたら太るわよ! ふふっ」
「私わぁ、代謝がいいのでぇ、大丈夫オケ丸なのですぅ! 加護で太りませんしぃ!」
出たわね。太らないチート加護。
「金糸雀殿、ハイネケン冷えたであるぞぉ!」
「フランケンシュタインさん、ミカンちゃん! お酒飲みましょ! 引き分けということでこっちきて!」
ミカンちゃんとフランケンシュタインさんの二人には謎の友情が芽生え、それぞれカレーパン。そしてマグナムボトルのハイネケンをフランケンシュタインさんは一人一本で、私達はシェア……いや私達ならマグナムボトルくらいキュッと飲むわよね。
「じゃあ、異世界組とフランケンシュタインさん、あるいは現代と古代のファンタジーに乾杯!」
フランケンシュタインさんはヒョイとマグナムボトルを持ち上げてグビグビと飲み干す。大きなフランケンシュタインさんが持つと普通の中瓶くらいに見えるわね。
「こりゃうまいビールっすね」
「でしょでしょ! いやぁ、さすがはイギリス作家さんの登場人物ね! ビールの味がわかるんだもの」
私も二杯目をグラスに注いで……って、
「ミカンちゃん、デュラさん、何やって……」
フランケンシュタインさんと同じく持ち上げて飲んでるわ。
「フランさんと同じ飲み方なりぃ!」
「フラン殿の豪快な飲み方、キタコレ! であるな!」
すぐに影響されるんだから!
ワタツミちゃんはシャンパングラスに注いで足を組んで飲んでるわね。まさにホストクラブ通いのぴえん系女子ね。学校のみんなにこの姿を見せたいわ。
「カレーパンも食べてくださいね! ワタツミちゃんのバグっている夜食量から、フランケンシュタインさんが食べても全然いけそうな量あるので遠慮せずにどうぞ!」
ハイネケンを飲む手を置いてみんなリトルマーメイドのカレーパン。その名もザ・カレーパン。
実食!
「うんみゃああああああ! このかれぇぱんつよつよなりぃ!」
「おぉ、いつもフジパンのカレーパンでもクソ美味いと思っていたが、これは半端ないであるな」
「おいひぃれすぅ!」
さてさて、フランケンシュタインさんがカレーパンを持つとやばいわねぇ! 一口ドーナツみたいな大きさね。ワタツミちゃんが狂ってる程買ってるからほんと遠慮せずに食べてるわね。
「うめぇっす! これは本当にうめぇ!」
「フランケンシュタインさん、ビール空じゃないですか! ほら、どんどん飲んでくださいね」
「いいんすか? 自分、滅茶苦茶怖がれるんで……こんなに怖れられないなんて……初めてで」
ミカンちゃんがカツンとフランケンシュタインさんのマグナムボトルに同じくマグナムボトルをぶつけ、
「フランさん、飲め飲めなりぃ! 勇者とフランさんは飲み友なりぃ」
「我も飲み友であるぞぉ!」
「私もれすぅ!」
これ、私だけ仲間はずれ感あるじゃない! 私もーって思った時……なんでニケ様、最近間が悪く来るのかしらね。
知らんふりしておこうかしら……
「金糸雀ちゃん、ちょっとこっちにいらっしゃい」
私も混ぜてくださいって言えばいいのに、
めんどくせー女神様だなぁ……