第156話 リビングメイルとロコモコとソルクバーノとお別れと
「クハハハハハ! 余もついに帰る時が来たか」
アズリたんちゃんがそう言うのでデュラさんも「殿下がそう仰り、シレイヌス様がお手を煩わせていただくのを無碍にはできぬであるな」
帰っちゃうのか、なんか少し残念ね。でもいつかはこういう日も来るんでしょうし、笑って見送ってあげないとね……なんか前にもこういう事があったような。
「分かりました。じゃあ最後に何かご馳走作りますので是非食べていってくださいよ」
「金糸雀殿ぉ、我も手伝うであるぞ」
「ありがとうございます! ロコモコなんてどうですか? 簡単でかつ美味しいです」
ロコモコ、日本ではロコモコ丼として有名なご飯にハンバーグと目玉焼きが乗ったアレね。凄い既視感のある食べ物だなと昔から思ってたけどハワイの日系人の人が作ったからアレ実はほとんど日本食なのよね。
ちなみに豆知識としてマカダミアンナッツチョコレートも日本人考案なのよね。
「大きめのハンバーグつくりますのでデュラさんはグレイビーソースの代わりにデミグラスソース作ってください」
「了解であるぞ!」
私とデュラさんの料理の連携は本当にいい感じよね。なんなら私より上手い部分も沢山あるし、きっと魔王軍に戻ったらモンスターの皆さんに美味しいご飯を作ってあげれるんだろうな。
「ご飯は炊けてるから、あとは目玉焼きね」
ガチャリ。
本日は誰かしら?
「クハハハハ! 余が見てきてやろう」
「アズリタン様がそのようなことは不要です。このシレイヌスが」
シレイヌスさんがエロい尻を振るように玄関に向かって、
「何者か? 死にたいのか?」
凄いお出迎えね。ガシャンガシャンと金属の擦れる音が聞こえるわね。「フン、貴様か何用だ? 死にたいのか?」と二言目にはそんな事を言いながらどうやら知り合いの人みたいね。
リビングにやってきたのは、リビングメイルだったわ。
ほんと親父ギャグみたいになったけど、事実なんだから仕方がないわよね。私でも知っている有名なモンスター、あるいはゴーストなのかしら?
「おぉおお! リビングメイル殿ぉ! 久しいであるな!」
「…………」
「悪魔の古城で勇者を待っているが全然来ぬと? わははははは! そうであろうな! 勇者ならあそこで横になって雪の宿を殿下と食べているである」
うわぁ、不憫なモンスターさんね。ミカンちゃん、いろんなダンジョンとかでモンスターさん待たせまくってそう。というか勇者パーティーの皆さんはミカンちゃんがいないと攻略しないのかしら……
「お皿にご飯盛ってソーセージもつけ合わせちゃいましょうか?」
「ならば殿下の好きなスパゲッティーも良いであるか?」
「あれね。ロコモコお子様ランチスペシャルね!」
トマトを切って野菜も足してあげましょうか、なんかこう料理を作ってて楽しかったのってデュラさんが来てからよね。私からすれば料理は全ておつまみだったから何かを考えて作った事なんて無かったわ。
「お酒は……ロコモコに合わせてビール……はちょっとありきたりすぎだからカクテルにしましょうか」
トニックウォーターとグレープフルーツジュース。そしてハワイのホワイトラムで作るソルクバーノね。アズリたんちゃんも今日はアルコールを飛ばしたラムでノンアルコールソルクバーノにしてちょっぴり大人体験ね。
「じゃあ、アズリたんちゃんとデュラさんの送別会と、リビングメイルさんに乾杯!」
「かんぱーいなりぃ!」
「乾杯ですぅ」
デュラさんは感慨深い様子で「乾杯である」とアズリたんちゃんは珍しく静かにノンアルソルクバーノを口にしても何も言わないわね。
そして当然空気を読まないのは、
「このお酒、うんみゃああああああ!」
ミカンちゃんは変わらないわねぇ。無言でおかわりを私に所望。でもこのくらいの方がいいわよね。
「じゃあロコモコ食べましょ!」
全員分取り分けて食べたくなったらお代わり方式で……ふと思ったんだけどリビングメイルさんってどうやって食べるんだろう?
そーっと見てみると、甲冑の兜をとってそこにソルクバーノを注ぎ込んで……地面は濡れてない! お酒飲んでる!
「我と金糸雀殿。最後の合作である! 是非、殿下にも楽しんでほしいであるぞ!」
なんかそんな事言われると少しうるっときちゃうじゃない。みんなハンバーグを一口サイズに切り分けて口の中に、全員の反応。
というかリビングメイルさん、めちゃくちゃテーブルマナー綺麗ね。というか食べれるのが心底不思議よ。
「おぉ、これは中々」
デュラさんの言葉を皮切りに、「美味しいですぅ!」「…………」多分、リビングメイルさんも親指立ててるので美味しいんでしょうね。ミカンちゃんは「うまうま! おかわりなりにきり」と二杯目。シレイヌスさんも上品に食べて「まぁまぁの味だな」とシレイヌスさんのまぁまぁは滅茶苦茶美味しいって事。今どき珍しいツンデレよね。
私もお神酒としてソルクバーノを飲んでから目玉焼きとハンバーグを一緒に……ハンバーグソースと絡まって美味しいわねぇ。
そんな中、アズリたんちゃんがカチャンとナイフにフォークを置いた。
「不味いな」
「「「「!!」」」」
今まで何を食べてもアズリたんちゃんは美味しいって言ったのに、グラスに注いだノンアルソルクバーノも「これもちっとも美味くない」と言い放つ。それにシレイヌスさんが、
「アズリタン様ぁ! お口に合いませんでしたかぁ? なんという事でしょう。貴様ら、すぐに何か作り直せ! ここにミスリルの大結晶がある! これを金に変えてでも最高の食材を用意せよ!」
「…………!!!」
ミスリルの大結晶とやらを見てリビングメイルさんが滅茶苦茶驚いてるから凄い高価な代物なんでしょうね。でもこの国の質屋に持っていっても二束三文でしょうね。
「アズリたんちゃん、口に合わなかったかしら? 何か食べたい物作ろっか?」
「良い。今や何も食しても上手いと思わぬだろう。クハハハハ! 今までの貴様らと食した物、飲み干した物の数々。実に美味かった。して、余は気づいた。貴様らと食し飲み語らう事が何よりの幸。余を待つ家来達が余がおらず鉛のような食事をとっている事、余は気づいた。金糸雀、毎日貴様の気遣い。実によくできた。魔王軍最高幹部の地位をやろう。そしてこの部屋で精進するといい。勇者よ、余は貴様と共にいて心から勇者という存在の大きさを知った、あらゆる事を知っている貴様といる時間。何よりも楽しかった。龍神の妹よ。貴様はクハハハハ! よく分からぬが金糸雀に迷惑をかけるでないぞ。そしてデュラハン」
「はっ!」
「貴様には魔王軍大幹部の地位を剥奪する」
「な……んですとである」
「貴様は魔王軍超大幹部。悪魔軍兼余の料理番としてもうしばらくここで修行をせよ」
「……御身を受けるである殿下」
アズリたんちゃんは駄々をこねるわけでもなく別れを受け入れていたのね。なんて大人! ミカンちゃん見習って欲しいんだけど、
「いやぁあああ! 勇者、アズリたんともっと一緒にいるぅううう!」
逆、逆ぅ! アズリたんちゃんにしがみついて泣き喚くミカンちゃん。それにシレイヌスさんがキレ散らかす。
「貴様、アズリたん様に汚い手で触れるな!」
「良い、シレイヌスよ。皆の者別れではない。余が世界も金糸雀の世界も統べれば良い。クハハハハハ! さすれば皆共にあろう! シレイヌス、リビングデット、行くぞ! 世界征服の狼煙をあげる! クハハハハハ!」
「アズリたんちゃん! いつでも遊びにいらっしゃいね!」
私がそう言うとキラッキラなオッドアイと虫歯ひとつないギザギザの歯を見せて笑った。そして魔王様の娘、アズリたんちゃんが異世界に帰って行ったわ。
ぶっちゃけ、アズリたんちゃんやそのパパの魔王様(?)に世界征服、この日本も統治された方がいいかもしれないわねと思っていたけど、玄関の入り口で入れ違いで立っていたニケ様に私は声をかけるべきか考えてから、
「ロコモコありますけど食べます?」
と聞いて喜んで食べながら、アズリたんちゃんがニケ様には何も言葉を残していない事を聞いてヤケ酒で一日お説教タイムだったんだけど、デュラさんだけはニコニコとニケ様の説教を聞いてたわ。
というか、私もデュラさんがまだいてくれてちょっとホッとしている自分がいたりするのよね。