第151話 サテュロスと無限キャベツと金麦・秋の琥珀2023と
「はぁーい、来週のサンデーですねぇ、おけおけれすぅ。ではでは」
高校の制服にカーディガンを腰に巻いたワタツミさんは、淡麗を飲みながら学友とスマホで話してるんだけど、凄い絵面ね。SNSにアップしようものなら秒で大炎上よ。
それにしても異世界組の制服可愛いわね。アズリたんちゃんも何故か私服がセーラ服っぽいし、ミカンちゃんはフリースばっかだけど、一昔前のギャルっぽい格好とか似合いそうねぇ……私は……イメクラにしか見え無さそう……
「クハハハハ! デュラハン、パックンチョを与えてやろう! 口を開けると良い」
「殿下ぁ!! 我、噛み締めていただくである」
アズリたんちゃんはおやつをゆっくりデュラさんと楽しんで、なんかゆったりとした休日ねぇ。ワタツミさんの高校編入に私が何故か保護者としてついて行ったり、ちょっとしたイベントがあった今週だったけど、今日は何か簡単で美味しい物が食べたいわね。
「みんな今日何か食べたい物ってある?」
「勇者、さかなー! あら汁うましー」
絶妙に渋い所をチョイスしてくるわねぇ。アズリたんちゃんは「クハハハハ! 家来の金糸雀が作るものにまずい物はなし!」と、「我は金糸雀殿を手伝うであるぞ?」という感じなので、
「ワタツミちゃん、何か食べたい物ってある?」
「金糸雀お姉ちゃん、私わぁ、パスタが食べてみたいれすぅ。こんど学校の男の子達と一緒にランチでパスタなのですぅ」
男の子達、たち……って何かしら? ちょっとミカンちゃんもオタサーの姫だし、ワタツミちゃんは……こういうとアレだけど……同性に嫌われそうねぇ。
それにしてもパスタか、乾麺は結構あるし、アーリオーリもいいわね。
「金糸雀殿、よろしいか?」
「はい?」
「ミートソースを作って良いであるか? 殿下が、この前勇者とファミレスで食し、非常に気にいられているである」
ミートソーススパゲッティ、実は私、大好きなのよ。あの混ぜ混んでなくてカレーみたいに上にかけて出てくるアレ!
はっきり言ってイタリアのボロネーゼよりその辺の喫茶店のミートソースの方が遥かに美味しいとすら思ってるわ。
「いいですね! 作りましょうか? 冷凍してるひき肉出しておいてください。トマト缶にトマトケチャップ、玉ねぎのみじん切り、お願いしていいですか?」
「任されたである」
「金糸雀お姉ちゃん、デュラお兄ちゃん、何か手伝いませうかぁ?」
「ワタツミちゃんはそうね。トマト缶を開けてくれる?」
「助かるであるぞワタツミ殿」
ガチャリ。
「たのもー! たのもー!」
あら、誰か来たわね。
お出迎えに行く前ににゅっと顔を出したのは……これは確か、ツノの生えた人。
「ミノタウルスさんのお友達ですか?」
「はーぁー? あんな迷宮の牛なんかと一緒にされては困る! これだから人間の無細工な小娘は……僕は由緒正しきサテュロス! バッカス様の第一の弟子だ! 驚いたか人間に……な、なんだここぉ! 勇者に大悪魔に、魔王の娘に、海神の妹……」
なんか色々説明ありがとうございます。サテュロス、サテュロス……あぁ! ものによっては悪魔とかなのね。
「私は犬神金糸雀。この家の家主です。ワタツミちゃんはホームステイで来ている学生さんで、その他はなんだろ、居候?」
「…………」
「?」
どうしたのかしら?
「犬神金糸雀嬢、よく見れば見麗しい」
「あーあ、そう言うのね」
「ベヒモスの威をかるゴブリンなり」
虎の的なね。
「とりあえず、今。ひき肉たっぷりのミートソーススパゲッティ作ってるのでご一緒にいかがですか?」
「金糸雀嬢、僕は草食なんで、お肉系はちょっと……」
あぁ、マジで? 今まで草食系っぽい亜人さんもみんな普通に肉も魚もいけたんで気にした事なかったわね。
「じゃあ、スパゲッティは明日にして、何かないかしら……無限キャベツ、これ作ろっか?」
キャベツの千切りにラーメン系のお菓子を崩して調味料であえれば完成ね。こうなるとお酒はジャンクなので……金麦の新商品が冷えてるわね。
「じゃあ、今日は急遽メニューを変更して無限キャベツと金麦・秋の琥珀で乾杯しましょうか? アズリたんちゃんはファンタグレープね。サテュロスさんはお酒はいけますか?」
「バッカス様の弟子ですよ? 大好きです」
金麦は第3のビールだけど、赤のラガーが出てから一気に変わったのよね。ビールとは全く違うんだけどたまに飲みたくなるお酒なのよね。この季節限定の秋の琥珀はコクがあってこれまたビール感はないんだけど美味しいのよ。
「じゃあサテュロスさんとの出会に! 乾杯」
かんぱーい! と秋の琥珀をゴクゴクと飲み、反応したのはサテュロスさんとワタツミさん。
「こ、こんな美味い麦酒飲んだ事がない」
「いやぁ、美味しいれすねぇ!」
お代わり! と二人は秋の琥珀を早々に二杯目。まぁ、美味しいんだけどね。そんな滅茶苦茶感動する程じゃないのよね。
なんというか私たち的には、
「ほぉ、今年の金麦はこうくるであるなぁ!」
「いつもより尖ってりぃ!」
「そうね。想定内って感じの味に落ち着いてるわよね」
まさに金麦ソムリエね。この金麦ってお酒は各メーカーがビールテイストにしている中で何故か面白い味に仕上げてくるのよね。青の金麦だけだった頃は微妙だったのに……
「このお酒に合わせると、お通しみたいな無限キャベツが滅茶苦茶合うから試してみて!」
「では、草や野菜には結構うるさい僕ですけど、いただきます」
もしゃ、っとそんな音が響く。ん? という顔をするとサテュロスさんは再びお箸を無限キャベツに向けてパクリ。再び、ん? という顔。
これは……
「どうしよう金糸雀嬢? 食べる手が止まりません!」
「そんなに美味しいんれすかぁ? むしゃむしゃ」
自分で食べる咀嚼音を言っちゃうあたりワタツミさん、あれねぇ……そんなワタツミさんも黙々と食べ続けて……そして時折金麦・秋の琥珀をごくりと……入ったのね。
「これはやめられない、止まらない。れす! うぅ、そこでこの麦酒が美味しいれす!」
じゃあ私たちもお箸を伸ばして、無限キャベツを楽しみましょうか、初めてミカンちゃんに与えた時、キャベツ三玉は食べたわね。絶妙な塩加減に歯応え、そして味。第三のビールの女房に相応しい立ち位置よね。
「お代わりなりぃ!」
「我も!」
「クハハハハ! シャキシャキして美味い」
私も余裕を持って2本目。なんかアレね。金麦に感動している異世界の人を見るの懐かしいというか、初めて異世界から来た人と飲んだのも金麦だったわね。
「サテュロスさん、ワタツミさんお代わりどうです?」
「いただきます!」
「私もぉ、いただきますぅ」
早くも三本目、これからワタツミさんは色々なお酒を飲むことになるんだろうな。金麦は決してまずいお酒じゃないけど、世の中にはもっと美味しいお酒が沢山あるから今日の思い出は大切にしてほしいわね。
「ふぅー本当に美味しいれすぅ。金糸雀お姉ちゃんお代わりいいれすか?」
「はやっ! ペース大丈夫? お水も飲んでよ」
金麦と一緒にお水を出して一息ついてもらうと、ピリリリリとワタツミちゃんのスマホが着信。
「はーい、今れすか? ホームスティ先のみなさんの所でお食事なうれす。えぇ、私の声が聞きたかったれすか? 私もれす! ほんとれすよぉ!」
男ね。男からの電話だわ。それも金麦を片手に思わせぶりな事を言っている姿……やばいわね。
「友達れすか……?」
そしてワタツミちゃんは私と目が合うと、次はアズリたんちゃん、そしてミカンちゃんをみて、
「いいれすねぇ。四対四でそのゴウコーンという素敵な会を行いませう!」
ん? もしかして合コンするつもり? 高校生のガキんちょ相手に私達で? ないない……案外高校生を未来の旦那に育てる逆光源氏もいいかもしれないわね。
「じゃあさよなられすぅ! チュ」
絶対、電話先の子、勘違いしてるでしょう。ワタツミちゃん、かなり邪悪な子ね。コンと金麦の缶をテーブルに叩きつけるように、サテュロスさんが、
「か、金糸雀嬢……おきゃわりぃ……」
「流石にもうやめときましょうよ? ね? フラフラじゃないですか」
「らいじょりゅ、らいじょ……きゅぅうう」
ばたりと倒れたサテュロスさん、ちょっと私たちのペースで飲ませちゃったわね。デュラさんの超能力で運んでもらおうと思ったら、
「金糸雀お姉ちゃん、おかわりれすぅ!」
この子……本当こわっ……5分後に別の男の子から電話がかかってきて、同じような話をして……本当にレヴィアタンさんの妹?