第145話 キュベレーとホワイト餃子とオリオン75ビールと
「ただいまなりぃ! 暑すぎワロタりぃ!」
「クハハハハ! 今帰った! 者共出迎えよ!」
お揃いの麦わら帽子を被ったミカンちゃんとアズリたんちゃんの帰宅。東京競馬場でお馬さんと触れ合いイベントにアズリたんちゃんをミカンちゃんが連れて行ってくれたのよね。
最初はブーブー言ってたミカンちゃんだったけど、
「馬、クソ可愛いけりぃ!」
「うむ、愛い奴らであった!」
デュラさんのお願いを聞いてミカンちゃんがアズリたんちゃんを連れて行ってくれたけど、ミカンちゃんも滅茶苦茶楽しんでるじゃない。
「おぉ! 殿下、それは良かったである! 我のスカルパイコーンでも呼べれば良かったであるが……」
「クハハハハハ! 貴様の馬は首がないではないか! クハハハハハ! デュラハンよ。土産である!」
「ありがたき幸せである」
そう言ってアズリたんちゃんのお土産……あれはまさか……知る人ぞ知る、東京というか神奈川のソウルフード。
「ホワイト餃子じゃない。帰りに買ってきてくれたのね?」
「ムフフなりぃ! この前オフ会で連れて行ってもらいみんなで食べたいと思えりぃ!」
ミカンちゃんナイスね。目を瞑って親指を上げる仕草が凄いキャラ盛り盛りだけどそれがミカンちゃんの素よね。冷凍のお持ち帰り用ホワイト餃子。東京だとファイト餃子で購入できるのよ。日本全国津々浦々餃子はあるけど、どこも美味しいのよね。
そんな中で少し不思議な形状をしているのがこのホワイト餃子。
「今日はビールね。何かあったかしら……あれ? 75ビール(ナゴビール)なんて買ってたかしら?」
「あぁ、それは金糸雀殿がクソ女神の陰謀にて我らの世界に行っていた際、勇者と沖縄という地へ探しに行った時に買ってきたものである! 飲もう飲もうであるぞ! 殿下には宮古島雪塩サイダーである」
えぇ! 沖縄行ったの? ずるい! 私も行きたかったんだけど……で、でも私を探してくれてたわけだし……
「食べましょう! せめてビールくらいは沖縄を感じたいし……」
ガチャリ……
「誰か来たわね。ちょっと見てくるわ」
最近、ニケ様がやらかした事で神様ばっかりやってくるパワースポットと化した私の部屋……扉を開いた先には……
でっかいヒヨコに乗ったキツそうな性格をしてそうなレモン色の髪をしたお姉さん。もとい、きっと女神様なんだろうな?
「人間の家屋か? 人間の娘、ここに女神ニケが隠れているだろう? さっさと連れてこい」
「ええっと、私はこの家の家主の犬神金糸雀です。貴女は? 女神様なんですかね?」
チッと舌打ちをすると手に持っている矛を私に振りかぶる。あっ、この人、話通じない系の人だわ。と思ったら、バチバチと黒い稲妻が私とこの女神様(仮)の間を走る。
「クハハハハハハ! 剛の者か? 良い余と力比べをしよう!」
「魔王の娘か、このキュベレーと力比べ? フン、嫌いじゃないぞお前のそういう威勢のいいところ」
キュベレーさん。生と死の女神、要塞の意味を持ち、ローマ信仰においては最上神の一人、色々な側面を持つけど、やっぱり豊穣の神様。
そしてさっきからニケ様の気配を全く感じないのは何故かしら?
「ニケ様、キュベレーさん来てますよ? ニケさまー?」
「娘、ニケを信仰しているのか?」
「違いますよ。あんな女神様信仰する人いるんですか? なんも知らない童貞くんとかならワンチャンあるかもしれませんが、それでも一回酒癖見たら無理でしょうね。とにかく自分が女神であることにへばりついてますし」
「そうか、ニケはそこまで俗物に落ちたか、概ね、私が来た事に気づいて逃げ出したんだろう。邪魔をしたな娘」
「あのキュベレーさん。ホワイト餃子を今から焼くのでご一緒にどうですか? 美味しいですよ」
「ぎょうざ? ぎょうざ……カナリア焼きの事か?」
※38話参照。ポーターのテオさんが餃子を異世界で作ってからそんな風に呼ばれている事を私はそう言えば思い出したけど……
「そうです。その圧倒的に美味しい版です」
「ほぅ、興味深い。出せ」
リビングにキュベレーさんを連れて行くと、アズリたんちゃんはニコニコと、デュラさんとミカンちゃんは驚いた顔をする。
「凶暴な女神なりぃ!」
「うむ、我ら魔王軍もどれほど被害にあったか……」
ん? んん?
ニケ様の時もそうだったけど、結構女神様って色んな人が知ってるわよね。キュベレーさんはまぁ、見た感じらしいわ。
「勇者にデュラハンか、仲良くならんでお料理とは笑えるな!」
「勇者は怒りに打ちひしがれり!」
「女神風情が我をよくもまぁバカにしてくれたものである!」
ゴゴゴゴゴ! と今から喧嘩でも始まりそうだけど、私はさっさとビール飲みたいのよね。
「キュベレーさん、ミカンちゃん、デュラさん! 75ビール! アズリたんちゃんは宮古島雪塩サイダーよ! どんどん焼いて行くから食べましょ!」
ギロりと私を睨むキュベレーさん。だけど、ミカンちゃんとデュラさんは普段通り食事モードに切り替わり、アズリたんちゃんは行儀良くニコニコと笑っている。
「ふん、ここで私が何かすれば私が一番品がないか……人間風情がうまく立ち回った」
「キュベレーさん、そこ座ってください」
そしてプシュっとプルトップを抜いて……
「じゃあキュベレーさんと、沖縄の風、そしてホワイト餃子に乾杯!」
「「かんぱーい!」」
「クハハハ乾杯だ!」
「気安いな。乾杯と言ってやろう」
75ビール、うんまぁ! オリオンビールってどちらかというと薄めに感じて辛口のビールに一歩劣るよなぁとか思ってたけど、同じオリオンビールでも75ビールは別格ね。
「ぷはー! なりぃ!」
「うむ、向こうで飲んだオリオンビールも美味かったであるが、これも中々」
「クハハハ! しょっぱくて甘くて美味い!」
そんな喉を鳴らしながら飲んでいる私たちの中、キュベレーさんはちびちびと……人それぞれ飲み方の違いはあると思うけど……
「もう少しグイッと飲んだほうが美味しいですよ?」
「女神に口答えとは恥を知れ俗物!」
「キュベレーはグビグビ飲む事ができぬと見たり!」
ミカンちゃんに煽られて、キュベレーさんが、
「このキュベレー舐めてもらっては困る!」
あぁ、なんかどこか聞いた言葉だなぁとさっきから思ってたけど、絶対それダメな奴よ! ゴクゴクとビールを飲み干しすわった目で私を見つめる。
「カナリア焼きはまだか?」
「あー、はいはい」
ホワイト餃子は俵形の餃子なのよね。一見すると揚げ餃子にも見えなくない焼き色が特徴的なの。とにかくビール泥棒と言ったくらいに美味しいのよね。
「はい! お待ちどうさま!」
64個の大きなホワイト餃子を前に私たちの食欲と理性は原始に帰るわ。私は思うのよね。日本に生まれて良かった。地球に、重力という引力に引かれる愚かな地球人で良かったって、
「うんみゃあああああああああああ!」
ミカンちゃんの叫び声からそのサバトにも近い私たちの食事が始まった。
「美味い。美味すぎるである! 餃子とビールは日本のカルチャーである!」
「クハハハハハ! 熱々で美味い! 金糸雀よ。サイダーお代わり」
「はーい! アズリたんちゃん、ラー油辛いから入れすぎないようにね?」
私は全員分の75ビールと宮古島雪塩サイダーを持って戻ってくる。2本目の75ビール。キュベレーさんには、
「キュベレーさん、お水かアズリたんちゃんと同じサイダーにしますか?」
「黙れ! 貴様もアテナと同じだ!」
どうやらキュベレーさんは完璧超人女神のアテナさんにコンプレックスがあるみたいね。仕方がないから75ビールを渡してホワイト餃子も食べてもらうと、
「これはカナリア焼きではない。なるほど、そういうことか……」
一口食べる事に笑顔になるキュベレーさん、なんかキツイ美人が酔って弱くなるのたまらないわね。普通に可愛いわ。ニケ様の酔い方がいかに人に迷惑をかけるのかが良くわかる見本ね。
それにしてもホワイト餃子がいる間に75ビールを、75ビールがいる間にホワイト餃子を……口の中を火傷しないようにしないように……
「くぅううう! なんでこんなにビールと餃子って合うのかしら!」
3本目、4本目と飲み干したところでキュベレーさんが船を漕ぎ始めたので……
「キュベレーさん、お水飲んでベッドで休んでください!」
「ニケは確かに優れた女神だが、アテナへの無礼を許すわけにはいかない!」
とか譫言を言ってる。そして私に抱きつくと「アテナ、私と来てくれれば……」あっ、鼻血出そう。
いやいやいや、私はノータッチ・イエス美人なのよ。
すーすーと寝息を立てているキュベレーさんを少し堪能すると残りのホワイト餃子を焼いて第二ラウンド。75ビールもまだまだあるわよ!
と思って私がリビングに戻った時、とんでもない物を目の当たりにしたわ。
「ミカンちゃん、デュラさん……それは?」
二人は固まって声も出ない。宮古島雪塩サイダーを飲みながらニコニコとアズリたんちゃんがテレビに映っている人物を見てこう言ったわ。
「物乞い女神のやつ、てれびに出てなにをしているのだ?」
ニケ様、地下アイドルになって信者を増やしてるぅうう!
どういう事?