第143話 ミネルヴァとイタリアンビーフサンドイッチとスプリッツアーと
更新予約めっちゃ忘れてました。
九時頃に閲覧い来られた方大変申し訳ありませんでした。
「らっしゃー! らっしゃー!」
「いらっしゃいませ、犬神様」
いろはさんとイフリータさんが出迎えてくれる。
そうです私は本日、みんなを連れていろはさんのタワマンにやって来ているの。かれこれ、デュラさんが出張料理人的にいろはさんの家に行ったりと、お互い異世界の同居人がいるから親戚付き合いみたいになってるわね。
「今日なんか作って欲しい物があるって聞いて来ましたけど、私とデュラさん二人がかりじゃないとダメなんですか?」
「いやーさー、めっちゃ部屋が汚れそうだからみんなでゴミ袋を切って敷いて食べようと思ってんだよねー、JK!」
本日のいろはさんの髪型は金髪にツインテ、前髪とツインテールの一部に別の色を入れている奇抜な物、アレかしら? 蝙蝠男に出てくる犯罪者のビッチかしら?
そんないろはさんはアズリたんちゃんを見て、
「何このやっばい美少女? ちょう可愛いじゃん? 誰かの子供?」
「クハハハハハハ! 余は闇魔界の大魔王アズリタン!」
「いろは殿、こちらは魔王アズリエル様の後継にしてザナルガランの殿下で在らせられるである」
「そうなんだ! 魔王とかくるの光栄じゃん! 今日は思う存分楽しんで行ってくれたまえ!」
高いいろはさんのマンションからの眺めにアズリたんちゃんもご満悦。ミカンちゃんはプレステ5でレーシングゲームを勝手に始めちゃったわ。
そんなガンとして手伝う気を見せないミカンちゃんを除いて手分けして床にビニール袋を裁断したものを敷いていく。一体何をいろはさんはしようというのかしら?
「そっちの端切って……えっ? このどちゃくそ美人誰?」
「金糸雀ちゃんのご友人ですか? 私は勝利の女神、ニケです」
「サモトラケのニケとかのあの? すげーじゃん! カナ、ビックネームじゃん! ウケる!」
いろはさん大興奮、イフリータさんも女神相手に萎縮しているけど、私たちはもうニケ様はなんかもう女神というかニケ様という存在として認識しているので……
「女神よ。我らが盟友、いろは殿にくれぐれも迷惑をかけぬようにな?」
とか魔物のデュラさんに言われちゃう次第だし……そんな状況にいろはさんは何かを察して腹を抱えて大爆笑よ。でも気になるわ。お酒が回ったニケ様といろはさん、きっと混ぜてはいけないんだけど……昔の人は言ったわね。
「好奇心はケットシーも殺すなりぃ」
猫をも殺す的なね。
「まぁまぁ諸君、この部屋はアタシの城ゆえゆるりとしておくれ! カナとデュラさんに今日作ってもらいたいのは、近所のお肉屋でこれ売ってたからさ! イタリアンビーフサンドイッチ作って欲しいの」
どんとバケツみたいな容器に入ったどちゃくそ薄くスライスされた牛肉。あぁ、聞いた事があるわ。兄貴がシカゴにいた頃に食べたアメリカらしいイカれたシカゴのソウルフードグルメ。
100%食べた後汚れるという事で、日本で食べられるところが限られていて私も……お気に入りにのワンピースが汚れた事でトラウマになったわ。
「こ、こんな雑な料理がいや、これは料理と言えるであるか?」
「ディッピングってやつです。アヒージョとかもそうですけど……イタリアの料理方法の一つです。いろはさん、ガチで作りますよ?」
その瞬間、いろはさんが狂気な笑みを見せた。あのアズリたんちゃんですら嬉しそうに髪を逆立てる程にいろはさんには迫力があったわ。
そして……私は体重計に乗る事を一週間はやめる事を誓い調理開始。
ガチャリ。
「ほいほーい、まぁ強固なセキュリティ突破してくる時点で向こう側の人だよねー! だぁれ? うぉ! クッソ美人!」
「ありがとう人間、でもクソと美人を一緒にする言葉はエレガントじゃないぞ」
そこにやって来たのは猛禽類のような瞳をした美女。白銀の長い髪を靡かせて耽美的にいろはさんの部屋に、そして……
「み、み、ミネルヴァ様ぁ!」
ニケ様が青い顔をしてるわね。あー、アテナ様的な感じの完全に上位互換の女神様がきた感じね。
ニケ様を見るとミネルヴァさんは微笑んで、ガランとナイフを投げた。
「ニケ、貴様にまだ女神としての誇りがあるならそれで自害せよ」
えぇええええ!
いろはさんはその突然の言葉に大爆笑。この人、ほんと凄いわよね。ミカンちゃんはレースゲームに夢中。アズリたんちゃんはイフリータさんに出されたプチフールを上品に食べて楽しみ、デュラさんは調理準備。
ニケ様……貴女、誰にも心配されてないですよ。大丈夫ですか? デュラさんが魔物だという理由で討伐されそうになった時とか、ミカンちゃんは必ず助けに入るのに……貴女、本当に女神なんですか? ニケ様は私を捨てたられた子犬みたいな目で見るので、あぁもう!
「あのミネルヴァさん、そのー、ニケ様はどうしようもない女神ですけど……そのお慈悲とか」
「人間の娘、優しいな? が、それは改心できる人間の話。象徴であり、全ての頂点にあるべき神の過ちは死以外にありえん」
ご、ごもっともー!
「まぁまぁ、ミネちゃん、アタシの顔に免じてまぁ許してやんなよ。それにここはアタシの部屋、アタシのフィールド。ルールはアタシだよ。どんちゃん騒ぎができない人はお帰りいただくぜ?」
ここに来てまさかのいろはさんがニケ様の矢面に立ったわ。それにミカンちゃんが「チッ!」とあからさまに舌打ちしてる。
しばらく見つめ合うミネルヴァさんといろはさん。
「神に楯突くのか? 娘」
「だーかーらー、この部屋ではアタシがルール。よってアタシが神。アタシはアタシが信仰する飲み会と騒乱の神だね。君たちの世界がどうなってるか知らないけどさ、アタシの生まれ育った国は八百万の神々、人間ですら神なんだよ。んでちなみにあっちのカナは飲兵衛と辛辣の神だね」
そんな神いやよ! 辛辣なのはガールズバーでだけでしょ! そんな屁理屈が通りにそうにないと思ったけど……ミネルヴァさんは凄い太陽のような笑顔を私たちに向けた。
「これは失礼した! 我が名は芸術と魔導の女神ミネルヴァ。アテナと共に女神達の長だ」
「いいねぇ! 話が分かるのは優れた神様の証拠さ! これからパーティーなんだよミネちゃんもやってきなよ!」
「あずかろう」
という事で私は殆ど調理を進めてしまっているデュラさんのお手伝い。割下とオリーブオイルそして隠し味に鷹の爪少々を使ってお肉を煮込む? 炒める? 雑な感じいいのよ。割下あるいはすき焼きの素が味は調整してくれるわ。日本よりになりすぎないようにニンニクやオリーブオイル。それをロールパンに頭おかしいの? というくらい打ち込んで……
「ほ、本当にやるのであるか?」
「はい、やっちゃってくださいデュラさん」
「食の冒涜のような気がしてならんであるな」
「かの有名な海原雄山という御仁は味覚音痴のアメリカン人と揶揄していましたからね……そもそもこのイタリアンビーフはアメリカに来たイタリア移民が作ったらしいですけど、カロリーモンスターです」
そう、甘辛く油で炒めた物をパンに挟むんだけどこれだけで十分美味しそうなのに、このパンをまさかのどっぷり肉汁と油の中に漬けて完成。シカゴでもちょんとつけるだけやさっと油に通すだけ、さらにひったひたに漬ける物もあるけど、今回は一番有名なひったひたのをいろはさんがご所望なので作ったわ。
ご丁寧にこの日の為だけに用意された折りたたみテーブルの上に私はお皿と紙を置いて全員分配膳完了。
「飲み物どうしますか?」
「なんかその辺に白ワイン転がってるでしょ? それ開けてスプリッツアー作ってよ」
「お酒はいろはさん作ってくださいよ。本業でしょ?」
めんどくせーなーとか言いながら、「これでいいや」とか言って拾ったいろはさん! 転がってるワインがマクラン(中々高額なイタリアワインよ)って……、この人お金周り本当にどうなってるのかしら……
いろはさんはお揃いのグラスを全員分用意すると白ワインのソーダ割り、スプリッツアーをさっと入れてくれたわ。
「付け合わせはオニオンとポテトのフライである!」
ここに、カロリーヤバすぎるおつまみが出揃ったわ。全員にグラスが行き渡ると、
「じゃじゃあ! ここにジャンクフードパーティーを開催するぜ! 一同乾杯!」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
あっ! アズリたんちゃん。普通にお酒飲んじゃったけど……
「クハハハハ! これは美味い! 酒はあまり好かんが、口に甘いなっ! が、余はスプライトの方がよし」
一応お酒飲めたのね。小学生くらいだからダメなのかと思ってたけど、本人がお酒あんまり好きじゃないだけだったのね。
さて……最高にいい白ワインで作ったスプリッツアーは美味しいけど、そろそろ現実に戻りましょうか……日本人は元来手が汚れる食べ物は嫌いな傾向にあるのよね。
ガブっ! 一番口はミカンちゃん、口から油が滴り、手もベトベト。
「こりゅ! うんみゃああああああああああ!」
久しぶりにミカンちゃんの絶叫、それを聞いていろはさんとイフリータさんもガブリと、アズリたんちゃんは上品にナイフで切って一口。デュラさんと私も齧り付いた。
うっ……やっばあ。なんというか身体に悪そうな物ってなんでこんなに美味しいのかしら? というかこんな物食べてるから私、全然痩せないのよね。
やや険悪なムードで見合っている女神様達、そのミネルヴァさんがガブリと意外に豪快にイタリアンビーフサンドを食べて、
「なんというか……うまいな……これは」
語彙力なくなってるわ。そしてスプリッツアーを一口。穏やかな顔をしてミネルヴァ様はもう一口。
「んぐんぐ、懐かしい、知らない食べ物なのに故郷の感じがする。んまい」
「いろはちゃん! 美味しいですぅ! お酒お代わり!」
ガンとグラスを置いてそう言うのでいろはさんはすぐにスプリッツアーのおかわりを入れてくれる。アズリたんちゃんのスプライトも冷蔵庫から持ってきて、みんなのグラスの空具合を見ながら完璧な動きね。
「いろはちゃん聞いてますかー!」
「はいはい聞いてますよー」
と言って全く聞いてねぇ! それにミカンちゃんとデュラさんが尊敬の眼差しでいろはさんを見つめてるわ。
「全く、むぐむぐ、ニケの奴はむぐむぐ。酒癖がむぐむぐ、悪いな。いろは、悪いがお代わり」
「おけまるぅ!」
結構、ミネルヴァさん行儀悪いわね。確かヨーロッパってマナーとかが浸透するの日本とかより随分遅かったんだっけ?
私たちはテーブル、床がビチャビチャになりながら一体どのくらいカロリーを食べたのかわからないイタリアンビーフサンドに舌鼓を打ち、スプリッツアーで喉を潤し、そして……
「ご馳走様! ふぅ、もうお腹いっぱい」
「うむ、初めてであったがこういう食べ物も悪くないであるな」
「口の中が油っぽいぞ! クハハハハ!」
「勇者あと四個はいけり!」
イフリータさんも満足そうで、ミネルヴァさんは酔っていろはさんにウザ絡みするニケ様の手を引くと、
「いろはよ。馳走になった。この愚かな女神は連れて帰ろう。迷惑をかけた」
「ミネちゃん、そいつぁ野暮だぜ? ニケちゃんはアタシに絡んでんだからアタシが相手をするのが筋ってもんだい! ここはアタシのフィールド、アタシがホストでみんながゲストさ、お帰りなら、お土産の一つでも持っていかないとね! はい、これあげる!」
「酒か?」
「跳ね馬の名前を持ったスパークリングワイン。フェラーリさ! 美味いぜ」
「このミネルヴァに袖の下とは……面白い人間の娘だ。うん、私は勝利の女神ニケなど見ていない酒癖の悪い女を一人、捨て置いたまでだ。邪魔をした! アディオス!」
そう言ってミネルヴァさんは去って行ったわ。いろはさん、ニケ様のウザ絡みを全然ウザいと思ってない。というかいろはさんも結構ウザ絡みするし、もしかするともしかするわね。
「いろはさん、ニケ様を助けてくれたんですか?」
「ううん、絶対ニケちゃんいた方がクソ面白いじゃん。この子絶対なんかやらかすでしょ? ギャハハハハハ! ウケる」
それに私とデュラさんとミカンちゃんがついつい反応してしまったわ。
「ウケねーよ!」
「笑えないであるな」
「えんがちょかもー」
そんな私たちを見て、いろはさんが、
「えっ、なんかごめん」