第136話 グレーターデーモン娘とフードコートと自家製どぶろくと
さて、メディさんに教わった。ノビスの街から離れた場所にある元、迷いの森という場所を開墾してできた集落らしいんだけど……明らかにノビスの街より文明レベル高そうなんだけど……これは所謂、転生者や転移者が作った集落なのかしら?
ブティック、雑貨屋、ホテルかしら? なんか観光地みたいな感じね。そしていい匂いがするわ。
嘘でしょ……異世界にフードコート……というか、完全に私の世界の誰かが持ち込んだ何かね。
「あー! カナリアなのだぁ!」
あらこの声は……そう言って私を呼ぶ声を見ると、エプロンをつけた犬耳の女の子。クルシュナさんは獣人で、なぜか同じ様な姿なのに、彼女はモンスター。コボルトガールのガルンちゃんがめちゃくちゃ尻尾をブルンブルン振るわせながら私に手を振ってるわね。
まぁ、可愛い子に懐かれるのは悪くないわ! 私も手を振ってそこに向かうと、フードコートの椅子に座りながら、焼そばをモッモッモと食べている息を飲むくらい綺麗な女の子……
「なぁに? ガルン、誰なのこの人間の女は? 知り合い?」
「アステマ、ご主人の妹のカナリアなのだぁ!」
「え? 主、妹なんているの? へぇ、別の世界からやってきたとか嘘言ってたけど、普通に妹もここにいるじゃない! 主は見栄っ張りなんだからぁ!」
二人の話からしてこの美少女もまた兄貴の従者かなんかなのね。という事で私はガルンちゃんに再会のハグと、アステマちゃん? 彼女に挨拶。
「初めまして、私は犬神金糸雀。二人のご主人? 主? の妹よ。というかどういう関係?」
アステマちゃんはふふんと笑うと、
「主は私とガルンの名付け親よ。名前があるモンスターなんて中々いないんだから! 驚いた? いいわよ! ゆくゆくはアークデーモンになる私なんだからせいぜい媚を売りなさい」
自信満々な子ねアステマちゃん。私の袖をくいくいと引っ張って、ガルンちゃんは愛らしく牙を見せた。
「かなりあ。ボクとシェフのフードコートでご馳走してあげるのだ! こっちへ来るのだ!」
あぁ、そうね。お腹空いてきたし、お言葉に甘えようかしら? 兄貴の管轄にあるなら、食事はちょっと期待できるんじゃないかしら?
「ありがとうガルンちゃん、じゃあ頂こうかしら!」
フードコートには、ゴブリンとスライムがお手伝い……そして料理を作っている人は……多分人間ね。ガルンちゃんはエプロンに三角巾をして、
「いらっしゃいなのだ! 今日はご主人に教えてもらったチヂミとチーズダッカルビが人気メニューなのだ!」
あら! 韓国系のメニューね。さしづめ兄貴的には韓国料理フェアなのかしら? これはアジア系のエスニック料理やインドカレーフェアとかもやってそうね。
「美味しそうね! いただきま……」
う〜ん、こう言うとあれだけど、お酒くっそ飲みたいわね。でも流石にお酒もらっていいですか? とかいうのはちょっと……礼儀知らずの極みよね……たまには我慢しようかな。
「ねぇ、かなりあ。これ飲みたくなぁい?」
私が案内された席の対面に座ると足を組むアステマちゃん。ほんと綺麗な子ね。足も細くて綺麗だわ。さぞかし男の子にモテるでしょうね。まぁ、そんなことより今私の目の前にある物。アステマちゃんが持ってきた……お酒。
「そ……それは!」
「ふふん。気付いたみたいね。これは、主が作ったお酒よ! 飲んだ事ないでしょうけど」
兄貴の作った強炭酸の自家製ドブロクだわ。私にはこの味出せないのよね。ここは異世界だから酒税法を完全に無視したレベルで度数を上げているハズ。前に、海外旅行に家族で行った時、兄貴が作ってたのを一口もらったけど、あまりの美味しさに昇天しそうになったのよね。
マッコリの方が一般的にはドブロクより炭酸がきついんだけど、この兄貴が作ったドブロクはマッコリの炭酸なんて遥かに超えててもはやお米のビールみたいなお酒。
「それ飲んでいいのかしら?」
「飲みたい? だったら私も一緒に飲んでいいならいいわよ」
えっ? あー……はいはい、このアステマちゃん。多分未成年だから兄貴、お酒飲んじゃダメって言ってるのね。流石に私も飲んでいいとは言えないわね。
そんな時、私がよく知るスライムがやってきたのよね。というか、すごい字面ね。私がよく知るスライムって……
そのスライムは人に擬態していたけど、その姿を透き通った元の姿に戻るので私は名前を呼んだわ。
「す、スラちゃん?」
「まぁ! 金糸雀ちゃんじゃないですか! いらっしゃいませ」
まさか、スライムのスラちゃんまでこんな所にいるとは思いませんでした。そしてアステマちゃんがすごい青ざめた顔をしてるわね。
「アステマちゃん、もしかして私たちの北の王の教えに背いて、お酒を飲もうとしていましたか? お酒は大人になってからと王は言っていませんでしたか?」
「ち、違うのよスラちゃん! 主の妹が来たから私は振る舞おうとしただけんんだから! お酒を隠れて飲もうとなんかこれっぽっちもしてないんだから!」
※第四話参照のスラちゃん登場ね。
というか、アステマちゃん、小物感半端ない子ね。さっきまでめちゃくちゃ上から来てたのに……
「金糸雀ちゃん、アステマちゃんが持ってきたこの我らが王の作ったお酒一緒に飲みませんか? アステマちゃんとガルンちゃんはベコポンジュースですよ!」
「いいですね! 久しぶりに飲みましょう!」
マッコリ仕様で甕に入ったそれを私のマッコリカップに入れて、自分のカップにも……
アステマちゃんはジュースを持っている表情が腑に落ちないのがすぐに分かるけど、ポーズをとって、
「仕方がないわね! 普通の人間なら八つ裂きにしていたところだけど、主の妹だから私が言ってあげるのよ! ありがたく思いなさい! 乾杯!」
「乾杯なのだー!」
「はい、金糸雀ちゃん、乾杯!」
「えへへ、かんぱーい!」
美人に可愛い子に美少女に囲まれて呑むお酒はたまりませんな。全員モンスターだけど……というか、兄貴、なんなの? どういう状況でこうなったの?
というか……
「うんまぁ! 兄貴、腕を上げたわね。自家製でここまで苦味なく熟成させるってどういう事よ」
クイッと自家製ドブロクを飲み干して二杯目を注いでもらう私。日本の酒税法だとこんな10度以上のアルコールを作るのは違法なのよね。作るのはお米を少ない水で炊くか蒸してそれに麹と水とドライイーストでも入れてあげれば数日の内に出来上がるわ。度数を上げたければ砂糖をドバドバ入れれば、麹菌が糖を食べてアルコールに変えるんだけど、良い大人はそんな事しちゃダメね。
兄貴のこのドブロクは米も麹も水も厳選してあるわ。そして……ドライイーストじゃなくてワイン用の物を使ってるわね。
私が悦に入っていると、このフードコートの唯一の人間である初老のシェフが料理を運んできてくれたわ。さっきまで乾杯してたガルンちゃんもお手伝い。
「商王の妹さんだって? そりゃ作りがいがあるなぁ! はい、料理お待ち堂さん!」
「へぇ、おじさんが作ったんですか? 美味しそう! おじさんも一緒に飲みましょうよ!」
「そうだね。じゃあお言葉に甘えて一杯だけ」
まさか、本格的な分厚いチジミとチーズダッカルビが食べられるとは思わなかったわ。
「んんっ! このチジミ、魚とか貝が入ってる?」
「さすがは王の妹、金糸雀ちゃんね! 美味しいでしょう? 私も大好きなんですよ!」
「ふふん! 少しは味が分かるのね金糸雀!」
なにこれ……すんごい楽しいんだけど! 今まで、迎える側だったから迎えられる側ってこんな楽しかったのね。チジミのツケだれも辛すぎず、ドブロクによく合うわ。というか兄貴のドブロク売れるレベルでしょ。
「おかわりね? 金糸雀ちゃん! じゃあ私も」
「スラちゃん前から思ってましたけど強いですよね」
「そうですか? 体の構造的にすぐにアルコールが分解されてしまうので酔うという事を知らないだけですよ!」
「ねぇ、二人ともそれどんな味がするのよ? 教えなさいよ!」
と、お酒に興味津々のアステマちゃん、JKくらいの年齢かしら? ガルンちゃんとは仲良しみたいね。
あははは! うふふふと楽しみながら次はチーズダッカルビね。ジャガイモにサツマイモがスライスして入っているわ。トックの代わりに普通のお餅が入ってる。これ、食べる前から分かる。
これ絶対美味いやつだ。
私はシェフによそってもらったそれを一口、鶏肉が辛めのソースとそれをマイルドにしてくれるチーズでナイスな事になってるぅ! そしてドブロクで流すと……
「あぁ、おいし」
「ねぇねぇ、金糸雀ぁ。私にも少しだけちょっと飲ませなさいよぉ!」
「うふふ、アステマちゃん可愛い! 兄貴のところじゃなくてウチおいでよ! 勇者のミカンちゃんとか魔王軍幹部のデュラさんとかいるわよ。それにそうそう! 今は魔王の娘のアズリたんちゃんもいるから!」
私がアステマちゃんの太ももとか腕とか肩とかペタペタ触りながらそんな話をしていると、アステマちゃんの瞳の色が無くなっていく。
「……なっ、アズリたん様と魔王軍幹部? それにゆ、ゆうしゃあ……いや、その金糸雀……様?」
「別に金糸雀でいいわよ! そんな怯えないでよ」
あれ? なんかガルンちゃんもレイプ目でブルブル震えているし、スラちゃんも……
「金糸雀ちゃん、カップが空ですね。飲みましょう!」
スラちゃんは普通だなぁ。というかこの二人は割とビビりやすいのかしら?
「か、金糸雀! ここに何しに来たの? 主のいない間に……」
「そ、そうなのだぁ! 僕たちをどうするつもりなのだぁ! 怖いのだぁ、怖いのだぁ!」
あらあら、こんな怯えちゃって……私は素面なら落ち着いて! とか言ったのかもしれないけど、ちょっと二人をからかいたくなったので、二人をギュッと引き寄せてから耳元で、
「二人を食べちゃおうかなぁ?」
「ぎゃあああ!」
「こ、怖いのだぁ!」
と脅かしていると、スラちゃんに頭をぺしっと叩かれちゃいました。
「金糸雀ちゃん、めっですよ! 一応、二人はこの集落の幹部なんですから! 私より偉い二人をイジメないでください!」
えっ? そうなの? 完全にスラちゃんがママみたいになってるのに、という事で私はみんなに元の世界に帰る方法を探してここまでやってきた事を伝えたの。
「キャハハ! 金糸雀も主と同じ事言うのね! 別世界なんてある訳ないじゃない!」
「そうなのだ!」
「そうねぇ……」
異世界は存在しないというのが異世界の定義、なんか腑に落ちないわねぇ。私はドブロクを一口飲んだところでそれをぶっと吐き出した。
「私は怪しい者ではありません! 離しなさい! 魔物の分際で無礼ですよ! 私は勝利の女神・ニケ! 金糸雀ちゃんに用があって来たのです!」
笑顔でやってきたニケ様、その姿を見て、スラちゃんは真顔に、ガルンちゃんも嫌な顔を、そして口を開いたのがアステマちゃん、
「ちょっとー、またアンタ、たかりに来たわけ? 迷惑なんだけど、女神としてのプライドないのかしら?」
ごもっともね。
「ボクのフードコートの食べ物が盗られるのだ! 隠すのだぁ! クソ女神がきたのダァ!」
「集落全員に連絡、第一級戦配置、目標・女神ニケ」
もう! もうニケ様、なんでこんな異世界というか貴女の元の世界で嫌われてるの? もしかして勝利じゃなくて貧乏神とか死神とかじゃないんでしょうね!