第133話『特別編』マジムンと異世界組と最南端の多良川酒造見学と
こんにちは本作の傍観者アヌビス兄さんです。今、当方はミカンちゃんとデュラさんと沖縄は宮古島は最西端の酒造。多良川酒造さんまで向かっています。
今後、機会があれば日本全国の酒造メーカーさんに遊びに行き報告をしていこうかなとか思いますが、予定は未定です。
ちなみにアズリたんちゃんはいろはさんに預かってもらっています。
「アヌビス兄さん、かなりあがいないかもー」
「うむ、飛行機なるガルーダのような乗り物、誠に驚いたである」
最近飛行機速いですよね。ちょっと遊びに行くくらいの距離で沖縄に行けるようになりました。東京からでも3時間、宮古島まで4時間ですかね。
はい、そんな金糸雀さんは現在異世界にいます。いつ帰ってくるんでしょうね? 当方は傍観者なので知りませんが、人間はお酒があればそこが都になります。
本作を読んでいただいている方でお酒を飲まない人は多分、いないと思いますけど、お酒は薬物ですので付き合い方には気をつけてくださいね。
当方が言ってもあんまり言葉に強みはないかもしれませんが、お酒と長く付き合う方法は美味しいお酒を少量にかと思います……
そんなこんなで宮古空港からタクシーで30分程。
「多良川酒造、事務所の前でいい?」
「良き良きなりぃ!」
「運転手殿、ここまで苦労をかけたである!」
「いくらですか?」
「大体2000円くらいね」
安っ! 初乗り460円、これが最南端か……三人で乗っているので一人700円くらい、それでも随分高くなったと海人の運転手さんはおっしゃていました。
「じゃあ行きましょうか? 二人とも、金糸雀さんを探しに」
さぁ、いるわけもない金糸雀さん探し、長い旅が始まりそうだ。
そんな当方達の前、多良川酒造さんの事務所兼売店前に、クソビッチ……もとい……明らかに人間じゃないんだろうなという人がいらっしゃいます。
「ムムッ! かなりの剛の者がいるであるな!」
「勇者、なつかしみを感じれり!」
露出の激しいサマードレス、首掛けの麦わら帽子、普通ならありがとうございますというべき姿ですが、髪が……ハブなんですよねぇ。宮古島ってハブいないんじゃなかったでしたっけ? サンゴで出来たアルカリ性の宮古島はハブが嫌うとかなんとか……
とりあえず無視しよう。
「はいさーい!」
秒で話しかけてきた。
「はいたーいなの!」
「ハイサイである!」
異世界組は秒で挨拶を返しましたな。明らかにヤバい感じの美女は挨拶する二人を見てうんうんと笑顔で頷き、当方を見つめる。
これはあれですな。
「は、はいさーい」
すると、彼女はうんうんと頷き。
「めんそーれー宮古島んかいめんしぇーやびたん。わんねーマジムンやいびーん!」
なんて?
「おぉ、マジムン殿と申されるか! この辺りのラミア……いやティアマト殿クラスの存在とお見受けする」
「ニケぬぬみどぅしやいびーん。ぐすーよーあんねーさびらやー」
なんて?
「えぇ、勇者。あのクソ女神よりマジムンの方が好きかもー」
ミカンちゃんとデュラさんは謎の言語認識能力があるらしく、当方は何言っているか全然分かりません。当方、沖縄に来た事は何度かありますが、こんなうちなーぐちを聞いたのは生まれて初めてです。
「はい、ということで、三人とも宮古いいとこよー! 今日は、あーしが案内しようね?」
普通に喋れるんかい! 要するにこの人はマジムンさん、沖縄の悪霊だったり蛇の神様だったりとそういう感じのね。で、当方は会った事ありませんが、女神ニケの飲み友達だそうです。
「今日はね。ここ多良川のお酒をあーしが案内しようね? まずは試飲よ」
我々が事務所に入ると、そこには東京や愛知、栃木、北海道、果ては中国や韓国などから来たという当方と同じお酒ファン達が多くいらしていました。
※取材させていただいた皆様ありがとうございました。
「これ、試飲なんですか?」
「うむ、試飲というレベルではないであるな!」
「えぇ、勇者全部飲みたいかもー」
テーブル二つに主力商品から変わり種まで数々のボトルが普通に置いてあり、紙コップでいただけるようになっているじゃあないですか……
観光地ヤベェな。
「ジンとラムもある……」
「そのラムは宮古のサトウキビと宮古の水を使った純然たる宮古100%のラム、マクガンね? まーさんよ!」
という事で、我々……沖縄風の……
「カリー(乾杯)!」
「カリーである!」
「カリーなりけり!」
うわっ! このラム……癖つよっ……そもそも日本のラムとジンは異様に癖強いのが多いんですが……味と香りがヤバい。これが宮古のサトウキビなんですな。
ジンも恐ろしくスパイシー。これは当方並にお酒が好きじゃないと厳しそうですな。
「うんみゃああああああ!」
「これは金糸雀殿にも飲ませてやりたいである」
おぉ、さすがは恐るべし飲み方をする部屋の人達(?)
「イムゲーも飲んでみてよー!」
とマジムンさんが言うのですが、イムゲー? なんそれと当方が見ていると、マジムンさんが説明してくれました。
「イムゲーは芋の下と書いてイムゲーさね? みんなが飲んでる泡盛は本来高級酒よ? 庶民はイムゲー。100年前までは飲まれていたのがようやくさ復活したんさー!」
コンセプトは泡盛でもない、焼酎でもない。イムゲーだそうで、確かに不思議な口当たりのまぁ、焼酎の作り方にさらに三次仕込みまでする庶民の酒どころか手の込んだ上品なお酒ですね。
これは甘いのが好きな異世界組は……
「うんみゃい!」
「ほほぅ。これは金糸雀殿の部屋でも飲んだ事がないであるな」
当方等はこのまま試飲を続けようとした所、マジムンさんに瓶を取り上げられる。当方も異世界組も飲兵衛ですから、そこにお酒がある限り呑み続けますわ。
「今日、ここに来たのは酒造見学さ? そろそろ行こうね?」
という事で我々は冒険の旅に出るのである。宮古島の日差しは恐ろしくきつい、そして思った以上に湿度も高い。そこで多良川酒造さんはこの見学の際に……
「みんな、そこの普通の傘を日傘代わりに使おうね?」
「「「はーい!」」」
という事で、我々は普通の傘をさして泡盛を熟成させている洞窟に向かいます。その間……
「ほら、ヤギを飼ってるので見ていってね! 大きいヤギは繁殖用。小さいヤギは食用さ」
ヤギは大きくなるとお肉が硬くなるとか、ミカンちゃんとデュラさんは美味そう美味そうと小ヤギをビビらせて、進んでいきます。
「これはバナナの木ね! なんか勝手に自生してるんさ。あっちはクワズイモ。食べられない芋がなるからね」
宮古島のゆったりとした時間とマジムンさんの植物や動物の説明を受けながら我々は洞窟へと進む扉の前に到着した。なんでも元々存在していた洞窟らしくて、そこで泡盛の熟成をしているとか……
「さぁ、異世界にレッツゴーよ! みんな足元気をつけてね? 動画撮りながら入った人が転んで怪我したっさ」
ミカンちゃんはデュラさんの首を抱えて、サンダルで、当方は運動靴でゆっくりと未知の世界へと続く洞窟に足を踏み入れた。
「ひんやりしてり!」
「おぉ、涼しいであるな!」
そう、この洞窟、びっくりするくらい涼しいのである。そしてすでにズラリと保存されている泡盛の瓶と甕、
「壁を見てー! 黒くなってるでしょ? これは酒蔵の人の麹菌が繁殖したんだって、みんなの目の前に広がっているお酒。これは有名人や芸能人もここで保存してるんよ」
おぉ、確かに某監督とか、某選手とか、某お笑い芸人とかいろんな人がお酒をこの宮古島に置いて古酒を作っているみたいです。子供が成人したらプレゼントをするとか、還暦を迎えたら飲むとか、素敵ですね。
我々が洞窟から出ようとした時、マジムンさんに止められる。
「この10本のボトルを見て欲しいんさ。2011年、東北地方太平洋地震が会った年よね? 多くの人が亡くなったね? 多良川酒造の社長さんは何かできる事がないかと宮古の子を十人厳選な抽選で選んでお酒のプレゼントをしたんよ。成人した18年後に渡せるようにね。大人になれなかった人や、成長を見れなかった人達の為の供養よね?」
ミカンちゃんとデュラさん、当方はそれを静かに聞いて、この10本のボトルを成人した時にもらえる方々の健康と、東日本大震災で亡くなったすべての方に哀悼の意を伝えました。
そして洞窟から出て次はお酒のタンクを見せてもらいます。そこにはたくさんの泡盛のボトルが置かれています。
「これは2020年のコロナウィルスで学校行事がなくなったり、色々あったから多良川の社長さんが、宮古の中学生を対象に泡盛をプレゼントしたんよ」
沖縄の県民性とかではなく、多良川酒造の社長さんはとても人間が出来た人なんだなと飲兵衛思考しかない当方はやや反省もしつつ、この見学を終えました。
「すみません、マジムンさん! 当方もボトルをあの洞窟に入れたいんですけどいいですか?」
「それはあっちの社員の人に言ってね?」
はい、という事でガチで宮古島の洞窟にお酒を1本入れてきました。5年後に連絡がきて取りに行くか、そのまま熟成させておくか選べるそうです。
本作があと5年続くとは思えませんが……これは読者プレゼントとして残しておきましょう。5年物の泡盛古酒ですから結構いいお値段しますよ。
また機会があればこのお話はさせていただきます。
宮古島に行った際、この洞窟に入られた時は一升瓶のプレートを確認してみてください。
“宅飲みすると必ず異世界の人が相席する件“
と書いておきましたので、
我々は酒造見学を終え、お酒を沢山買いました。流石に最南端の島なので届くのに四日程かかるそうです。
「じゃあ、ミカンちゃん、デュラさん。このあと当方の驕りで飲みにいきましょうか? 沖スロでびっくりするくらい勝ったので好きなだけ飲んでいいですよ!」
そう、そんなことを言った筈ですが……気がつくと当方、宮古島から那覇に行く飛行機の中でした。
果たしてこれが夢なのか、幻なのか……洞窟に入れたお酒と、色々購入したお酒の領収書、そして飛行機の中でオリオンビールの缶が5缶程空いているのは現実のようです。
ではでは、今後もまた“宅飲み“可愛がっていただければ幸いです。
宮古島お酒探求の旅、お疲れ様でした。