第132話 【特別編】魔王様とルサルカとボンディーのカレーでビールと
※作者リゾート地にてロケハン中の為 突如特別編となります。魔王様回は実は当初カレーネタばかりをやろうと思ってボツにした物を加筆しています。
みなさんこんにちは、天童ひなです。最近熱くなってきたので、虫が出てきましたよね? 虫コナーズ的なやつを私は部屋につけているのですが、全くもって効果がありません。というか凄いサイズの虫がきました。
魔王様はニコニコと笑いながら、ひやしあめを美味しそうに飲んでます。
「魔王様、なんだかすごい虫が入ってきました。お願いします。退治してください」
「貴様の世界には面白い格言があろう? 一寸の虫にも五分の魂とな。むやみやたらに命を殺めるものではないぞひなよ! くーはっはっは!」
はい、ウチの魔王様は大変人(?)がよくできています。怒った所を見た事がないですし、本当に魔王様なのかと最近は疑っている自分がいるくらいです。そんな魔王様は今、ひやしあめを飲み終え水出しの麦茶を作ってくださっています。そして私の目の前にいる大きな虫。
「ねぇねぇ、このあたりにオレンジーヌという女の子はいなかったかい?」
んん? この虫、喋りましたね。
「魔王様、喋りました! 虫がしゃべりましたー!」
「くーはっはっは! 虫ケラが喋るのは世の常である。気にする事もなし」
虫って喋りましたっけ? んん? よく見ると小さい女の子に虫ケラの羽が生えてますね。温暖化の影響というより、これ魔王様関係じゃないでしょうか……
「あの、虫さん」
「失礼な人間だな! 僕は勇者オレンジーヌの従者ルサルカだよぅ!」
「それはすみません」
「分かれば結構。というか、さっきから魔王様、魔王様って……うわぁああああ! ま、魔王ォオオオオオオオ!」
やっぱり魔王様は魔王様なんですね。大声で名前を呼ばれた魔王様は水出し麦茶を冷蔵庫の中に入れて、私たちの方を向きました。
「ほぉ、珍しい。こちらの世界のセミはルサルカのような姿をしておるのだな! くーはっはっは! アズリタンに見せてやりたいものよ! その短い一生楽しむと良い!」
ルサルカって、有名な作曲家のドヴォルザークさんのオペラにありましたよね。あれも確か、妖精の物語。というかリトルマーメイドの物語にそっくりなんですよね。ディズニーのリトルマーメイドの元ネタでしょうか、
「僕はルサルカだよ! セミとかいうのじゃないやい!」
「くーはっはっは! バカを申すでない! ルサルカであれば人間に姿を変えられるであろう? 王子を好きになり、男なのに王子に抱かれに行った妖精が余の知り合いにおるぞ! 実に面白し」
えっ、魔王様。そのBL詳しく!
「人間にくらいなれるやい!」
ファアアアア! と光が輝き、ルサルカさんは……えっ?
「めっちゃイケメンじゃないですか!」
「そうかい? 人間の感性ってあんまりわかんないや。これでどうだ! 魔王! さっきの言葉撤回してもらうぞ!」
ルサルカさん、妖精の姿だと女の子だと思ってたんですが、人間の姿になると、細いのに腹筋もしっかり主張して、魔王様程じゃないけど綺麗な顔。魔王様は美人、ルサルカさんはイケメンと言った棲み分けが……はっ! これはもしやBL展開では! ニコニコ笑っている魔王様は、
「誠であったか、これは余が一本取られた! くーはっはっは! 良い! 一つ貴様の願いを叶えてやろう! 申すと良い」
「僕が恋した勇者オレンジーヌに会わせてくれ!」
「うむ、分かった。ボンディーでカレーをご馳走してやろう! くるといい」
「……魔王の力を借りるとは、一生の不覚」
ええぇええ! 今の話噛み合いました? 魔王様はこの前、ロフトで一目惚れして購入したがま口を取り出すとマントを羽織る。
「行くぞ! ひな、それにルサルカよ!」
ボンディーって……高級カレー屋さんじゃないですか(私の中で)ここ壱ですら行くか迷うレベルなのに、東京住まいの私ですが、実はまだ一度も食べたことないんです。あとはスマトラとか行ってみたいですね。
魔王様は私以上に東京グルメを制覇しているんでしょう。お給料の9割を私に入れてくれるのでどうやってお小遣いをやりくりしているのか全く分かりませんが……そもそものお給料が半端ないのかもしれません。ガールズバーで割とフルで働いている筈の私の稼ぎがギリギリなのに……
そう鬱々していると、ボンディーに到着です。平日から凄まじい並びです。海外の人も大勢いらっしゃいますね。ですが、さすがは東京というべきか、回転が早いです。並んでいる最中にオーダーも同時に受けるという効率的なお店側のテクニックも相まって30分もすれば私たちが呼ばれました。
「うわぁ、お洒落な店内ですね」
「うむ。余は数あるカレー屋の中でもボンディは5本の指に入ると推しておる! くーはっはっは! 時にルサルカは酒は行けるのか?」
「バッ、バカにするな! 妖精はお酒好きなんだ!」
「良い!」
えっ? ここカレー屋さんですよね? お酒って……まぁ最近はありますよね。
「お待たせしました。ビーフカレーとビールです」
「えっ、チーズとジャガイモは頼んでません!」
オーダーミスです。これだけ人が沢山いれば仕方がないでしょう。東京住まいのシティーガールである私は魔王様とルサルカさんに代わりそう指摘。すると魔王様が、
「ひなよ。ボンディーではカレーを頼むとジャガイモが、ビールを頼むとチーズがついてくるのだ! くーはっはっは! 常識である! 店員よ。余の家来が無礼を失礼した」
えぇええええ! ハズカシィいいい! そうなんですか? なんですかカレー頼むとジャガイモ出てくるとかビール頼むとチーズ出てくるとか……
「くーはっはっは! ではルサルカと初ボンディーのひなに乾杯である! ゆるりとやるといい」
「か、乾杯!」
「これ、食べていいのか? 遠慮なく、乾杯」
私たち三人はビールで喉を潤す。あぁああああ、この為に生きてますねぇ。チーズもおいしぃ。魔王様、ハッピーアワー好きですけど、貧乏性じゃないのが私との違いですね。いいお店に行く時は行ってるんですね。
「このカレーライスも中々麦酒に合う。余はジャガイモが大好きである! 魔王軍の連中に喰わせてやりたいものよ」
ルサルカさんは、
「うんまっ、なんだこの麦酒。というかこのチーズも……妖精界じゃ絶対再現できないや……」
「そうであろうそうであろう! くーはっはっは! 愉快! さぁ、カレーを食べてみるといい」
魔王様は上品にカレーライスをパクリと食べ、ビールを一口。そして口元を拭います。そして「うまい!」と一言。それを見て私もルサルカさんも同じくカレーを……
「あっ、あっ……これは昇天しそうなくらい美味しいです。ビ、ビールを!」
もはや私の中のカレーライスという概念が家庭料理から宮廷料理に変わった位はあります。じゃがバタを食べながらビールをゴクリと……無くなっちゃった。
「店員よ。麦酒。一つ追加である!」
すぐさまビールを注文してくれる魔王様。ルサルカさんは……
「ルサルカさん!」
カレーを一口食べたルサルカさんは、60度斜め上を見たまま……死んでる。
「あっ、一瞬、先代精霊王が手を振っているのが見えたよ。なんだこのバチくそ美味い食べ物。それに麦酒。いや、何もかもが……美味しすぎる。僕も麦酒の……」
「店員よ。ビール追加である! くーはっはっは! 貴様ら、あまり飲みすぎるでないぞ? でざぁとがあるのであるからな!」
私たちは放心を繰り返しながらカレーとビールを飲み終えると、魔王様は近くにいた店員さんを呼び、
「焼きリンゴ3つである。あと白ワインとグラスを三つ」
まさか、まさかの焼きリンゴがデザートであるんですね。というかなんですかそのお洒落なチョイス。しばらくすると私たちの前に……私の知らないゴージャスな焼きリンゴと白ワインが運ばれてきました。
「あまーい!」
「ほんとだ美味しい!」
というか、私の語彙力のなさが泣けてきますね。ですが、魔王様はそんな私たちの反応に、
「くーはっはっは! 余も最初これを食べた時、思わず美味いと連呼したものよ。本当に美味い物を食べた時に感想などはない。ただ美味いと思うのだなとな」
世の食通全員を敵に回すようなセリフですが、確かに美味しい物ってあらゆる事象を通り越してただ美味しいしか感想ないですよね。また、酸味がやや強い白ワインがよく合います。今回はお酒の量を控えているのはここは居酒屋でもなければ定食屋でもなく、単純に主役はカレーだからなんでしょうね。
私たちは焼きリンゴで白ワインというデザートを食べ終わると、店を出ます。それにしても魔王様とルサルカさん二人と歩くと目立つなぁ。特に女の子は殆ど振り返ります。
「ま、魔王。ご馳走様でした」
「うむ。腹が減ったら食事くらいは余が食べさせてやろう。達者でな」
「あの、魔王。じゃなくて、魔王様。その、僕……」
ルサルカさんは妖精の姿に変わると、
「魔王様、しゅき!」
「くーはっはっは! 余は皆から好かれるからな! 良い、貴様も家来にしてやろう」
ちょっとぉおおおおお! ルサルカさん! どうして人間の姿でそれ言わないんですかぁああ! ショタ物は私の範囲外なんでスゥ! やり直してください!
「ひなよ。妬くな、妬くな! くーはっはっは!」
「ち、違いますよ! そもそもですねぇ! 最近BLっておかしくないですかぁ? なんですか男の娘ジャンルってあれ! 私は認めませんよ! そもそもですねぇ! ちょっと二人とも私の部屋にきてください!」
小一時間、BLがなんたるか、歴史上。すでに幕末時代にはBL本があった事など私が講釈した結果、めちゃくちゃ引かれました。
私は天道ひな。海外就業目指して頑張るフリーターです。最近金糸雀ちゃんがずっとガールズバーの出勤休んでるのが気になりますが、今日も一日頑張ります!