第127話 フェンリルと芋饅頭とティーロワイヤルと
「プリキュア、仮面ライダー、ワンピ、昼は競馬、ユーフォ。日曜日は忙しけり」
「クハハハハ! 忙しいのもまた良い。許す」
ミカンちゃんとアズリたんちゃんがテレビの前に正座待機。デュラさんは競馬新聞を広げて「おぉ、今日はブボくんが出走するであるな! 是非今回こそ優勝を祈ろうではないか!」とテンションが上がってるわね。
競馬は異世界にもあるらしく、私たちの世界から行ったのか、それとも異世界から輸入された遊びなのかまた一つ私の中で不思議が生まれたわね。
ミカンちゃんとアズリたんちゃんが並んでテレビに夢中になっている中で私とデュラさんは並んで朝食を作るわ。
「デュラさん、この前の残りのカレーを冷凍庫に入れておいたのでパン粉つけて揚げましょうか?」
「おぉ、では金糸雀殿。食パンに挟んで揚げてカレーパンを作ってはいかがか? この前動画で作っている者を見かけてな」
「あぁ、いいですね。じゃあ作りましょうか」
デュラさんは超能力で物を動かすので、本来手が汚れる作業という物を担ってくれるので手を洗う回数も減るし大助かりなのよね。
作業分担ができるので結果出来上がるのも早いわ。一応私も動画を確認すると、クッキングパパという漫画に登場する漫画飯のアレンジね。
簡易的にカレーパンを作れるという面白い試みね。
「ミカンちゃん。アズリたんちゃん。朝ごはんにしましょ」
女児向けアニメを食い入るように見る二人。昔は私もこういうの観てたわね。というか私が生まれた頃からこのシリーズ放映してるのよね。これもある意味伝統ね。
伝統といえば……
「デュラさん。今日のオツマミ。郷土料理でも作ってみますか?」
「郷土料理であるか?」
「はい。ガールズバーのバイトの一人が教えてくれた食べ物なんですけどちょっと興味深い料理なんですよね」
「ほう、教えていただけるか?」
もちのロンよ。
ガチャリ。
おや? このタイミングなのねアズリたんちゃんはアニメを見ている最中だというのに玄関に向かっていく。
「クハハハハ! どうした腹でも減ったか?」
「魔王の娘か……久しいな」
「否。余は大魔王である!」
なんか知り合いっぽい人きたわね。リビングに、アズリたんちゃんを背に乗せた真っ白で巨大なシンリンオオカミみたいなの来たんだけど。あれね。四つ足シリーズ来たわね。しかも今回は人語を理解しているみたい。
ミカンちゃんがノシノシと足音で振動する事にイラついて振り返ると、
「おぉ! おぉ! もふもふなりけり! 勇者も! 勇者も乗れり!」
「勇者……だとぉ! このフェンリル。勇者に封じられ300年。その怒りと悲しみを忘れた事はない!」
「えぇ、それ勇者じゃない勇者。勇者違いなり」
ややこしいことになりそうね。
「金糸雀殿。これら材料をどう使っていくであるか?」
「デュラさん、たまにデュラさんも自分の探究欲を優先する時ありますよね? 嫌いじゃないですよ私」
何やら背中の方で揉めてたり口論してるけど、私は芋饅頭作りに専念する事にしたわ。要するに。甘辛く煮たじゃがいもを小麦粉で包んで蒸しあげるお饅頭。前に食べさせてもらったけど滅茶苦茶美味しかったのよね。本来はお茶請けとして食べるらしいんだけど、私からしたらこの味付けは完全にオツマミ。
作り方は簡単だから蒸すを待って完成ね。
「あのー、こんにちは。この家の家主の犬神金糸雀です」
いつの間にか仲良くなったのか三人並んでテレビを見ている所、私は声をかけてみた。すると大きなシンリンオオカミみたいな人がくるりとこちらをみて、
「我が名はフェンリル。全ての生命に終焉を迎えさせる者。だったが数百年前に勇者に封じられてどうでもよくなった。今は自分の好きな事をして生きている。邪魔をしている犬神殿。なんだか他人とは思えぬ名前だ」
そりゃねぇ……というか、モンスター的な人もアーリーリタイアみたいな人生選んじゃうんだ。でもミカンちゃんみてると勇者ってなんかヤバい人そうだし、そんな気持ちにもなるのかもね。
「フェンリルさんはお酒とか、やる口ですか?」
「酒か、それが一滴も飲めない」
珍しいわね。私の部屋にやってくる人で過去2回くらいしか下戸の人っていなかったんじゃないかしら?
「そうですか。ではお茶なんてどうです?」
「犬神、お茶は目がない! いただけるか!」
「はい!」
私もそうなんだけど、兄貴も酒好きは突き詰めていくとコーヒーやお茶にもこだわり始めるのよね。F &Mの茶葉を瓶から取り出すと私は紅茶をいれる。今日のお酒は決まったわ。1000円くらいのブランデーを使ってティーロワイヤルにしよう。
芋饅頭ができたみたいで蒸し器にデュラさんがフヨフヨと浮いて加減を見てくれているので、私はその間にお茶の準備。私がアズリたんちゃん用にフランフランで買ったティーカップとソーサーのセットを用意、フェンリルさんは器かなと思ったら、
「犬神、我もティーカップで構わんぞ」
えぇ! どうやって飲むの? と聞き返しそうになったけど、そう言うならとアズリたんちゃんと同じセットを用意。私たち飲兵衛組は耐熱グラスね。
「おぉ、よく蒸されておるである! うん、いい匂いであるな!」
そう言ってデュラさんは芋饅頭をザルに入れてもって来てくれる。ちなみに、とうもろこしも一緒に茹でておいたわ。とうもろこしの塩茹ではデュラさんが大好きなのよね。
「それでは、ちょっと田舎のお茶請け風な飲み会という事で! 悠々自適な生活をされているフェンリルさんの歓迎をかねて! かんぱーい!」
「「「乾杯!」」」
流石にカチャンとカップや耐熱グラスをぶつけるのは品がないので、やや上にあげるだけでゴクリと。
あっあっあ……ひっさしぶりに飲むけど、ブランデーの紅茶わり美味しいわねぇ。アズリたんちゃんはソーサーも持って本当いいところのお嬢様って感じで画になるわねぇ。フェンリルさんは……あぁ、デュラさんと同じ謎超能力で優雅に紅茶を楽しんでる。
「ほぉ、暖かいお茶に焼きワインとは、焼酎のお茶割りとはまた違った美味さであるな!」
その洋風ってだけなんだけど、確かに格式ありそうな味よね。お酒一つ、お茶一つとってもお国柄って感じるわよね。異世界のお酒やお茶ってどんな感じなんだろう。
さてさて、芋饅頭は……外はもちもち、中はふっくら、味付けは濃いめ。これは、間違いなく。
「うんみゃああああああ! 勇者、侮っていたり! これ勇者スキー! つよつよ!」
久しぶりにミカンちゃんのミカンセレクション受賞最高評価が出たわね。実際、ミカンちゃんもっとジャンクな方が好きな傾向あるから、この反応は驚きね。デュラさんはアズリたんちゃんの為にナイフとフォークで切り分けて、
「殿下、どうぞお食べくださいである」
「クハハ、ご苦労。うむ、甘くて美味い! フェンリルよ! 余の家来、金糸雀は中々の腕あろう! クハハハハ!」
「犬神が家来と……魔王の娘。世界一つと犬神交換せぬか?」
「せぬ! 世界などいつでも余なら手中に収められる! そうであろうデュラハン!」
「殿下であれば余裕であるな!」
私、自分の意思とは関係なしに取引に使われてるわ。でも悪い気はしないわね。世界一つと同じくらいの価値だなんて言われるのは、まさかそこにミカンちゃんが口を挟んでくるとは思わなかったけど。
「えぇ、勇者。金糸雀の家に永久就職なり、金糸雀がいなくなると困れり」
そう言ってミカンちゃんが私の腕を組む。そういえば毎日親の顔より見ているから忘れてたけどミカンちゃんも結構美少女なのよね。アズリたんちゃんも。多分、デュラさんやフェンリルさんもその界隈ではイケメンよね?
もう、困っちゃうなぁ。私モテモテじゃん! お願いします神様、この数パーセントだけでもいいので世の中の男性……いえ普通の人にモテるようにしてください。
「犬神!」
「フェンリルさんどうしました?」
「このとうもろこしとやら、美味いな!」
「あはは、身の詰まったの選びましたからね! いいとうきびですよ」
「金糸雀よ。砂糖が足らぬぞ。クハハハ!」
「はいはい、角砂糖を二個入れようね?」
「かなりあー! 勇者しゅわしゅわで飲みたい!」
「金糸雀殿。この芋饅頭焼いてみてはいかがか」
「いいですね。何個か焼いてみましょうか?」
今日はなんなんだろう。人生最初のモテ期かな? なんかこうわいわいと楽しんでいると大体こう時にやってくるのって、
ガチャ。
「金糸雀ちゃん! なんだか今日はお昼時に来たくなりましたよ! さぁ、美味しそうな匂いですね!」
ニケ様なのよね。
まぁ、別にいいんだけどミカンちゃんが街を徘徊する時にいつも使うリュックに荷物まとめ始めたわ。ミカンちゃんのこういう潔い所、日本人は学ぶべきね。
ガチャリ。
あぁ、今日は二段構えですか……そうですか……レヴィアタンさんとルーさん……じゃない。
ひょこっと顔を出したのは、ポストニケ様と私が心の中で呼んでいてかつ、もう当分来ないだろうと思っていた酔いどれエルフ。
「金糸雀氏、久しいな! 数日ぶりくらいか?」
嘘でしょ……ミカンちゃんの姿は消え、デュラさんとアズリたんちゃんはセラさんの事を知らないので、歓迎ムード。
ここで私は理解したのでした。
モテ期じゃなくて、今日厄日だ……と。