第126話 酔いどれハイエルフとチートスギルティチーズ味と東スポ驚愕レモンサワーと
こんにちは、金糸雀です。本日、いろはさんがアズリたんちゃんとデュラさんをTDLに連れて行ってくれたので……というか私も行きたかったのにミカンちゃんが部屋のエアコンが壊れた事でぶーぶー言っているのでしかたがなく修理業者さんを待っている留守番組です。
この怒りを何にぶつければいいのか分からないので、私はドンキで購入してきましたとも。昨今、ストロング系のお酒離れが進んでいると言うのに時代に逆行したお酒を出した魔界からやってきたストロング系酎ハイ。
「ミカンちゃん、今日は呑むわよ。これ買ってきたから」
「うおー!うおー! 勇者、それネットで知って飲んでみたいと思えり!」
「そうね。私もまさか自分で買ってくるとは思ってもみなかったわ。この東スポ驚愕レモンサワーを」
13%とかいうどうしてそうなったか分からないお酒をドンと置く。ミカンちゃんは私以上にお酒強いから大丈夫でしょう。デュラさんはストロング系との相性が悪いので彼の前では出せないというのも環境が揃ってしまったのね。
ガチャリ。
こういう時にやってくるのは……ニケ様じゃないとありがたいんだけど、玄関を見に行くと……おぉおお! おおおおおお! ちょっと、ちょっと久しぶりに美人がやってきたじゃない。
「君は……誰だ? 犬神さんは?」
「わ、私は犬神金糸雀です。この部屋の家主です。えっと、もしかして犬神さんって言うのは私の兄貴でしょうか?」
「あー、あー! 犬神さんの妹さんか! はじめましてだな! 私はセラ・ヴィフォ・シュレクトセット。セラと呼んでくれ。かつて、犬神さんの部屋に世話になっていた……ハイエルフだ。宜しくな、金糸雀氏、そして君は……まさか勇者か?」
なんとセラさん、兄貴の部屋にいたって……やっぱりこの部屋には昔から異世界の人がやってきていたんだ。えー、でも兄貴。こんな美人と一緒に暮らしてたの? どういう関係かしら、もしかして兄貴、きゃああああ! な関係かしら。
「懐かしいな。この酒しかなくて、人間の生活を全く感じさせない部屋」
「これでも随分片づけてマシになったんですけどね。セラさん、今からちょっとお酒をミカンちゃんと飲もうと思ってるんですけど、ご一緒にいかがですか?」
「もちのロンだよ金糸雀氏!」
やっぱりお酒好きなのね。ハイエルフって……エルフの中で上位種。凄い人なのね。でもそんな凄い人に13%の落伍者向きのお酒なんていいのかしら……
「今日はこのお酒を飲もうと思ってるんですけど……何か好きなお酒とかってあります?」
私が東スポ驚愕レモンサワーを申し訳なさそうに見せると、セラさんは目を輝かせて、
「おいおい! 13%? ストゼロが出だした時も驚いたのにマックス。サンガリアの12%だと思ってたのにこんなの出たのか! 飲もう飲もう! 私はレモンサワーに目がないんだ!」
「そ、そうなんですね。それは良かったです。オツマミは……ちょっとこんな物しかないんですが」
「チートス! 大好きだよ! スコーンのバーベキュー味も好きだったけど、チートスのチーズ味はぶっ飛びそうだった……えぇ、ギルティチーズ味? ニンニク味もついてるのか! 時代は進化したなぁ!」
凄いわ。ハイエルフのセラさん、ミカンちゃんと同じで私の世界の文字理解しているのね。エルフって賢い種族なんだっけ? 懐かしい懐かしいと喜んでいるの可愛いわね。兄貴、こんな美人と同棲してたとか、なんで私に言わないのよ。というか、言えない関係だったの?
「まぁ、じゃあジャンクなお酒でジャンクなオツマミをやりましょうか! ここはやっぱり缶ごとですね」
「当然なりけり」
「金糸雀氏、分かってるぅ! それじゃあ、皆さん乾杯です!」
なんだか予期せぬ女子会が始まったわ。
「「「かんぱーい!」」」
コッコッコと私達は喉を鳴らして飲み、これはアレね。完全にストゼロだわ。9パーか13パーかの違いでしかない。まぁ、こういうお酒だと思えば普通にいけるわね。異世界組のお二人は?
「うんみゃい! なんか辛いけど、うまうまなりにけりぃ!」
確かにこれ随分辛口よね。セラさん大丈夫かしら? セラさんはうっとりした表情で、
「よきだな! なんかこう、昔住んでいた302号室の住人とパチスロで散財した時に公園で咽び泣きながら飲んだストゼロを思い出すよ!」
えっ? 今なんて?
「あの、セラさん。今パチスロって?」
「うん、あの頃はお金を入れたら倍になって返ってくると思ってたんだけど、買った記憶より負けた記憶の方が多くてよく犬神さんに叱られたっけ」
「えぇ、兄貴はギャンブルの類が嫌いですからね。よく一緒に住んでましたね」
「で、でも凱旋門賞は一緒に見たんだぞ! 国産馬が優勝しそうで二人で盛り上がったんだ!」
あっ、この人ヤバい人だ。もう既に東スポ驚愕レモンサワーの缶が空になって振ってるもん。
「金糸雀氏、お代わり」
「勇者もお代わりなりけり! チートスもうみゃあああああ!」
「うは! この次の日の口臭を完全に無視した潔さ。最高だな? 勇者」
「不同意。勇者は加護で口臭とかないにけり」
でたわね! ご都合主義の加護。ミカンちゃんだけずるい! チートス。強烈な匂いがするわ。こんな、えーこんなの食べながら東スポ驚愕レモンサワー飲むとかどんだけなのぉ! まぁ、今日は飲んじゃうけど。
「あの、セラさん。兄貴とは仲良かったんですか?」
「犬神さんですか……そりゃあぁ、まぁ……私の初めてを奪った人ですし……」
「えぇええ! あの兄貴が……ちょっとどういう状況ですか」
ミカンちゃん、缶に口をつけたまま興味津々で聞き耳を立ててるわね。まさか兄貴が……
「犬神さんは、ほんと強くて……私から誘う事が多かったんですけど、よく付き合ってくれました。でも最後は優しくてさすってくれるんですよ」
「ふ、ふーん。で、どんな風にその……アレを?」
「勇者も興味ありにけり! 魔王城の場所とかより注目の瞬間」
私とミカンちゃんがどんなピンク色の話が聞けるのかと思っていると、セラさんは顔を真っ赤にして手で顔を隠して、
「二人とも意地悪だなぁ! 何度も飲みつぶされてゲボ吐いて、トイレに走る私を介抱してくれたっけ……」
超ヤバい人確定。
兄貴って、酒呑み友達多いけど、限度知らないくらい飲んでも止めないから。そしてこのセラさん。結構な酒カスね。女神様とどっこいどっこいかもしれないけど、ウザ絡みをしてこない分セラさんの方がマシね。
「あの、お代わりいいか?」
「あー、はい」
でも強いわね。ミカンちゃんは地雷系の女の子みたいにストローで飲み始めてるわ。このほうが回りやすいって言うけど……全然酔わないミカンちゃんもある種酒カスね。
私は……ちょっとお酒が好きな女子大生よね? 私は酒カスじゃない! うん。でもこのギルティチーズ味。凄いわね。未だかつてこんな味の濃いチートス食べた事ないわ。これとストロング系酎ハイ。邪悪な組み合わせね。明日の口臭心配になってきた……
「勇者もお代わりなりぃ! チートスがニンニクとチーズととうもろこしの味わいで勇者を無限の食べごごちに連れていけり! そしてこのシュワシュワでぷはー。うまし!」
セラさんもギルティチーズをサクサクと食べながら「プハー、おいしー!」とジタバタし始めたわ。もしかしてかなり回ってるんじゃ……
ガチャリ。
「こーん、にーち、わー! みんなの女神。登場ですよ!」
来たわね妖怪。じゃなくてニケ様。ニケ様がリビングにくると、ニケ様を見たセラさんが東スポ驚愕レモンサワーをゴクゴク飲みながら手を上げる。
「おや、女神か。珍しいな」
「貴女はハイエルフのセラ・ヴィフォ・シュレクトセット。かつて行方不明になったと聞いていましたけど、どうしてここに?」
「さぁ、今は気がつけば色んなところを転々としているからな。しかし、女神までくるようになったのかここは、私が住んでいた頃は冥府の王とか女神の中でも絶世の美女とか来ていたなぁ……うっ、ぎもぢわる! 金糸雀氏、雪隠どこ?」
お手洗いね。
「こっちですよ」
兄貴、よく毎回こんな人の面倒見てたな。もしかしてガチで好きだったとか?
「うぉおおおおおええええええ!」
うん、ないな。
ピンポーン!
「あ、はーい」
「あのエアコンの修理に来ました。うっ、ニンニクくさっ!」
あっ……そういや、今日エアコンの修理来るんだった。すっごい私の事を引いた目で見てるわ。そして追撃の……
「金糸雀ちゃん! なんですか! 私をほったらかしにて! 誰ですかその男は! こっちに来て二人とも座りなさい」
「うぇえええええええ! 気持ち悪いぃ、頭痛ぃい!」
あっ、控えめに言って地獄だわ。ミカンちゃんはきっと壁抜けでもして逃げたんでしょうね。そうでしょうね……。
私はエアコン修理のお兄さんに無言で土下座をするくらいしかできる事がなかったわ。この酔いどれハイエルフのセラさん……これからちょいちょいやってくるという地獄の追撃がある事を私はまだ知らなかったのよね。