第125話 ドレイクとオキアミ料理と幻の酒ホイス
本日はアズリたんちゃんとスーパーに来ています。私の手を握ってしっかりと言う事を聞いてくれてこんな娘欲しいわ! とか思うんでしょうね。ミカンちゃんは既にお菓子売り場に走っていくので、なんだろう。ミカンちゃん!
「クハハハハハ! 小さいのに人間共の都の市よりも品揃えがよいな! 面白し!」
アズリたんちゃんの話だとずらりと並んでいるお店、でも半数以上は取り扱っている商品が被っているんだって、まぁみんな同じような職業についているとそうなるでしょうね。確かに専門店は専門店の強みがあるけど、複合店の方が何かと便利で安価だから淘汰されつつあるのよね。
「おぉ、エビであるな! 余の中で今、エビが来ておる」
「じゃあ、このエビ買って帰ろうか?」
「金糸雀よ。それはエビではないぞ」
「えっ?」
私が掴んだ“あみえび”と書かれているエビ、よく見るとオキアミって書かれてるけど、オキアミってエビじゃないの? 見た目完全にエビじゃない。こういう時は、物心ついた時からお世話になっているグーグル先生に教えてもらうわ。
なになに……えっ! 分類学上全く別の生物なの! こんなに似ているのに近縁種ですらないんだ……動物性プランクトン? プランクトンってこんなに大きいの? 謎は深まるばかりね。じゃあ戻してエビを……
「クハハハハ、金糸雀よ。一度手に取った物を戻すなどという無粋な真似をするでない! 良い。そのエビもどき食してみたくなった」
という事で今回はオキアミという食材を使ったオツマミね。そうね。レンコンと山芋もかってはさみ揚げでも作ろうかしら!
本日このオキアミというエビに似て非なる食材を買った事が全ての始まりだったのかもしれないわ。アズリたんちゃんが喜ぶかと思って、インカコーラとかいう私の知るコーラとは全く違う謎の飲み物を購入してしまった私。家に帰るとデュラさんがとても懐かしい物を持ってきたわ。
「金糸雀殿ぉ! 掃除をしておったら不思議な物を見つけたである」
「ホイスじゃない!」
ホイス、それはホッピー等と並ぶ代用系のお酒……のハズなんだけど何故かホッピー程の知名度がなく忘れられた割り材とも言われているわ。ホッピーに焼酎を入れて飲むとビール的な飲み物になるけど、ホイスと焼酎と炭酸水を混ぜる事で、ハイボールの代用品となるホイス。あるいはホイスキー。何気に今は安価なウィスキーがあるからホイス使う方が高くつくのよね。
「うまいのであるか?」
「うーん、まぁ美味しいわね。今日、呑んでみますか?」
家に帰ってデュラさんと並んで調理開始、山芋をすって、レンコンを切る。そしてオキアミを山芋と一緒にフードプロセッサーにかけてペーストが出来上がるとレンコンで挟んでバッター液にさっと通して180度に熱した油に投入よ。
「デュラさん随分手際がよくなってきましたね!」
「ううむ、金糸雀殿の教え方が上手いからである……というより金糸雀殿、動画で料理を作っている連中と同じくらいには色々知っているであるな」
「まぁ、オツマミ作る為に色々研究しましたからね。食べに行きたいけどお金がない、なら作ればいいじゃないって感じね」
私の自論に感動しているデュラさん、なんだかなぁ。基本的に酒飲みは料理に手を出すのよ。そこそこ作れるようになるし、私の兄貴は突き詰めるタイプだから調理師免許にバーテンダーの資格取りに行ってたわね。お店開くわけでもないのに……
ドンドンドン!
はさみ揚げが出来上がる絶妙なタイミングでやってきたわね。今日は誰かしら? ビーズクッションに突っ伏しているミカンちゃんに対して来客がくると出迎えに行くアズリたんちゃん。魔王軍とはいえ一国の姫は違うわね。由緒正しき柑橘類農家の姫は終わってるわ。
「くははははは! ドレイクがやってきたぞ! 入ると良い」
ドレイクって何? ええっとなになに……恐らく日本にはじめてドラゴンが伝わった最初の名前……“だらあか” そうなの……ってドラゴンって入れるのかしら?
「あ、こんちゃ。ドレイクです」
真っ白いフードつきのローブを着た女の子。瞳は縦割れしてるトカゲみたいね。アズリたんちゃんにエスコートされながらリビングに、
「こんにちは、私はこの家の家主の犬神金糸雀です。で、そこで終わってるのが勇者のミカンちゃん、でこっちが首だけのデュラハン、デュラさん。今手を繋いでるのが魔王の娘のアズリたんちゃんです」
「えぇ……そして人間の金糸雀さん……なにここ、ドラゴンバレーを目指してたら霧に入って気が付けばここに」
「うん、よく色んな人が迷い込んでくるんですよ。丁度ご飯時なんでドレイクさんも一杯どうですか? 今日は幻のお酒を用意しました」
デュラさんは興味津々に、ネオニートの娘みたいになっているミカンちゃんは欠伸をしながらご飯の匂いにつられてのそのそと起き上がってきたわ。
「ハイボールの素と言われているホイスを2割、焼酎を3割、炭酸を5割で割ります」
かつてはネット販売が一時期されていたので兄貴がその時に買っておいておいた物ね。これ飲んだらダメなお酒のラックにないから飲んでもいいのよね? というか、お店行けば飲める店もいくらでもあるから兄貴的にはそこまで希少価値は高くなかったのかしら?
見た目は完全にハイボール。されど香るボタニカルさ、どちらかといえば電気ブランに近いようなお酒ね。大体8%から9%くらいのホイスハイボールが完成。アズリたんちゃんには子供用ジョッキに金色のインカコーラを、
「おぉ! 黄金の飲み物であるな! 面白し! 勇者よ乾杯の音頭をとる事を許す」
「まかされたり! 今日一日クソがんばったみんなに乾杯なりけり!」
「「「かんぱーい!」」」
ん? ミカンちゃん何か今日頑張ったのかしら? 疑問は残るけど、ホイス……なんというかアレね。うん、ウィスキーではない美味しい何かね。
「う、うんみゃあああああああああ!」
ミカンちゃんがお目覚めね。デュラさんも「おぉ、なんとも不思議なハイボールであるな」とアズリたんちゃんはインカコーラを飲んで「クハハハハ! 甘い!」と笑ってるわ。さてさてドレイクさん。
「ぷはー! これ、美味しいお酒ですねぇ……」
フードを取ると頬に鱗があったり、それを隠していたのね。でもこのメンツだとそんなの気にする必要もないもんね。
「ウィスキーってお酒の代用品なんだけど、いつしかこっちの方が珍しいお酒になっちゃったのよ」
「はひー、私と同じですね。ドラゴンより危険性がないから一時期乱獲されてドレイクは数を減らしているんです」
意味深な表情をしてドレイクさんはホルスハイボールを飲んで遠い目をしてるわ。あー、なんか悪い方にお酒が入っちゃった感じかしら?
「まぁまぁ、さぁ! オキアミと山芋の入ったレンコンの挟み上げ、厚いうちにどうぞ! お塩やタルタルソースでどうぞ!」
さてさて、エビもどき……実食ね。私達はサク、パリパリといい音を立ててレンコンの挟み揚げを食べる。
「あー、まぁ普通に美味しいわね。というか味は完全に海老じゃん」
「勇者、これ好きかもー!」
「美味いであるな! ささ、殿下も我がフーフーしたのを食してくださいである」
そう言って超能力で動かしているお箸で挟み揚げを摘むとデュラさんはフーフーとアズリたんちゃんが火傷しないように冷ましてから食べさせてあげてる。
「クハハハハ! これは美味い。歯応え、味もうしぶんなし! えびもどき。余は好物だ!」
ドレイクさんはフォークで挟み揚げをブッ刺して見つめる。虚な目で、
「へぇ、これも何かのもどきを使ってるんですねぇ。まるで私みたいですね……ドラゴンとドレイクの境目ってなんなんでしょう」
多分、察するに種族が違うんでしょうね。オキアミとエビが近縁種じゃないみたいに。パクリと食べて、「あー、美味しいなー。こんなに美味しいのに、本物はもっと美味しいんだろうなー」
病んでるわねドレイクさん。かつて私の友人に、すぐに死にたいという子がいたけど、あの子を思い出すわね。ドンとジョッキを置いてミカンちゃんが、いつも通りおかわりを所望ね。
「かなりあー、勇者おかわりかもー」
「はいはい! デュラさんも入れますね。ドレイクさんはいりますか?」
「……いる。というか滅びたい」
「えー、滅ばないでくださいよー」
と聞いてみると、
「だって、みなさんだって私じゃなくてドラゴンが来た方が嬉しかったでしょ? はぁ……」
2杯目をドレイクさんは据わった目でちびちび飲みながら、ネガティブな事を話します。こういう時にニケ様来たらヤバそうね。説教上戸と病み上戸。
アズリたんちゃんがタルタルソースを挟み揚げにつけて上品に一口大に切るとそれを口に運ぶ。ゆっくりと咀嚼してインカコーラで喉を潤す。
「クハハハハ、美味い。してドレイクよ。何故余達がドラゴンが来たら嬉しいと思うのか? 答えてみよ」
「ドラゴンは強くて、怖くて、優秀で、美しいじゃないですかー! それに対してドレイクは弱くて、微妙で器用貧乏で、可愛くないもん!」
再びアズリたんちゃんが挟み揚げを食べながら、
「それは貴様の考えであろう? 余はドラゴンがこようとドレイクがこようとさしてなんとも思わぬ。クハハハハハ!」
「アズリタンでんかぁああ!」
デュラさんと私は目を合わせて、アズリたんちゃんのおかげで一件落着だなと、冷蔵庫から2本目のインカコーラを持ってきた時、ガチャリと来客。最悪のタイミングでニケ様来たかと思ったら。
「金糸雀様、お邪魔します」
「金糸雀? 来ちゃったけどいいか? 美味しいお酒を手に入れたからお前達と
飲もうと思ってなー」
「あー、ルーさんにレヴィアタンさん」
控えめな感じだけど、ニケ様とかと同じで神様みたいな位のレヴィアタンさん、ちなみにドラゴンがやって来たわ。それにアズリたんちゃんが……
「なんと! レヴィアタン! クハハハハハ! 面白し! 余と力比べをしようではないか!」
目をキラキラっに輝かせてレヴィアタンさんの元へと向かうアズリたんちゃん。ドラゴンはドラゴンでも相当高位のドラゴンだってミカンちゃんとかデュラさんとか言ってたもんね。
「なんだこの子供、あー。魔王の所の……また今度にしてくれ、今日は飲みに来たんだ」
「クハハハハ! 連れぬ事を言うな! 余の力を受けられる者などそうそういまい! クハハハハ! 良いではないか!」
一瞬でレヴィアタンさんに懐いたアズリたんちゃんを見て、私とデュラさんはヤバいという表情をする。さっきまでうみゃーうみゃー言ってたミカンちゃんの気配がないは……
あっ! 玄関に向かって逃げるつもりね!
「あーあ、口ではあんな事言って、ドラゴン来たらそっち行ったじゃないですか……もう滅びたい。ハァ……」
ほらチラチラ私たちに構ってオーラ出してるじゃない。私とデュラさんはニケ様以外でここまで面倒臭い相手をしたのは初めてで、翌日記憶がなくなるまで飲みましたとも。