第124話 祭りの神とラムぶっ刺しスイカとスイカパンチと
最近、ミカンちゃんの動画配信が炎上気味です。ただでさけ無駄に可愛いミカンちゃんの動画にこれまた美少女アズリたんちゃんの登場でSNSフェミニズムを掲げる人たちからの批判に対して、
「でも勇者、生まれた時からこの容姿なりけり、勇者人気者じゃなかった事ないから分からないかもー」
「クハハハハハ! 余の事を嫌いな奴など三千世界を探してもおらぬだろうな!」
とか言っちゃったもんだから、ミカンちゃんとアズリたんちゃんに対してブスやらなんやらかんやら言われているんだけど、
「クハハハハハ! 貴様、目はついておるのか? 余が治してやろうか?」
「えぇ、アズリたん言い過ぎかもー」
とナチュラルに煽るわけで……ちなみに私まで炎上対象になったわよ。ほんと、パック焼酎姉さんはキャラ付けでジャージ着てるとかってね。うん、安いからよ。
そして私たちの最後の良心、デュラさんが……
「勇者よ……探偵なる連中を雇う金をかしてはくれぬか? 殿下を侮辱した者共をまとめて地獄に送らねばなるまい」
「構わぬ! 飲み友のデュラさんの為に勇者は全財産を贈与せり!」
「世界を敵に回すやも知れぬぞ?」
「勇者、リサーチせり。この世界のベイグンなる連中の力、勇者とデュラさんが力を合わせればギリ勝てり」
ダメね。えらい事にしかならないわ。ここは私が何か手を打たないとネット世界だけじゃなくて全世界が本当に炎に包まれてしまいそうね。
そうね……ここは金糸雀さん、108の奥義を出そうかしら……
「ミカンちゃんはしばらくネット禁止! 代わりにこれを食べましょう」
私は大小のスイカを二つ用意する。当然冷蔵庫でめちゃくちゃ冷やしてる物よ。
「えぇ、勇者ねっとないと秒でしねり……勇者今更スイカくらいで喜ばずかも」
全く、とんだど素人ねミカンちゃん……二つ用意したのは小さい方はアズリたんちゃん用よ。そして大きい方……これに私は冷凍庫から取り出したお酒の瓶を見せる。
「バカルディ8よ。デュラさん、ミカンちゃん。これだけは見せたくなかったわ。とあるナイトプールのパーティーに呼ばれた時、私がこれを一人で平らげて、ドン引きされた二度と作る事はないと思っていたカクテル」
私をみてただ事ではないと感じたデュラさんとミカンちゃん、見せてあげるわ炎の神という名前がついた究極のパリピカクテル。
ガチャリ……
「クハハハハハ! 金糸雀よ、貴様。一体なんの儀式を行った? 神が来たではないか! 面白し」
そう言ってアズリたんちゃんが玄関に行くと連れてきたのは……チャラ男。
「はーい! こんちゃー! 俺ちゃんでぇーす! ちゃん魔王の娘ちゃんじゃん? 祭りの神、炎の神。俺ちゃんアグニを呼び出してなになに?」
あら、ガチのパリピ来ちゃったじゃない。まぁ、いいわ。私は大玉のスイカに蓋を開けたバカルディ8をそのままブッ刺した。
「「!!!!!」」
そりゃ驚くわね。飲むはずのお酒をスイカに飲ませちゃうんだもん。ブッ刺して5、6時間おくとスイカの水分が大体3L、バカルディが720m l。大体10%濃度のアルコールを含むスイカが爆誕するわ。
「ちょ、ちょちょちょちょ! 5、6時間って萎えない? 俺ちゃん、このお酒、このイカす果物に入れたげよっか? てか入れちゃうよん」
そう言ってアグニさんがバカルディ8の瓶に触れると、スイカの中に全部お酒が入ったわ。
すげぇ!
じゃあ、サクサクとスイカを切って、全員に渡して、アズリたんちゃんは普通のスイカね。
「じゃあ、やりますか! 最強の炎上対策はもう無視一択よ! んじゃスイカで乾杯!」
「ウェーイ! 乾杯!」
「かんぱいなりぃ!」
「乾杯である!」
「クハハハハ! 乾杯!」
さぁ、キメるわよ! スポーツドリンクみたいなスイカ、それにお酒が混ざると、なんかやばいくらい回るよね。
「ぷはー! 何これ、上がる! ちょーうめぇぢゃん! 勇者、ウェーイ! デュラハンウェーイ!」
「ウェーいかも!」
「ウェーいである!」
えぇ、ミカンちゃんとデュラさんがガンギまりしてる……アズリたんちゃんはスプーンで行儀良くスイカを食べながら、
「アグニよ。余の家来と勇者を貴様の祭り領域に引き込むのをやめよ! 宴とは野生的な本能で楽しむものであると、魔王アズリエルがもうしておったぞ」
「えー、空気に酔うのもまた祭りぢゃん? このスイカとかっていうお酒の入った果物ちょーうめーし、いいじゃんいいじゃん! 同じ愚か者なら魔法を放たねば損というじゃん?」
おどりゃな損的なね。
いいわ、アグニさん。嫌いじゃないわ! サクサクとスイカを私は両手で持って食べる? 飲むと、スマホを見せる。
「音楽かけるわよ!」
異世界の人はみんな基本的に音楽が好き。私たちが音楽に乗っていると、パリピ幻術にかかっているハズのミカンちゃんがぴくりと反応するわ。
ガチャリ。
「みなさん、こんばんわ! 女神ですよ! こんな毎日神がやってくる所は金糸雀ちゃんのお部屋だけなんですからね!」
ニケ様がそう言ってリビングにやってくると、アグニさんと目があって「あっ、ちゃんニケ。ちぃーす!」と挨拶するアグニさんを見てニケ様は、
「金糸雀ちゃん! 勇者、デュラハン! それに魔王の娘! この私という女神がいながら! 浮気ですかー! はしたない!」
「勇者、祭りの神の方がいいかもー」
「うむ、魔王軍にいる時のように心地よいであるな!」
「クハハハハハ! アグニは良く魔王軍に遊びに来ておったからな! デュラハン、貴様よりも上位の魔物達の宴の時にな! 物乞い女神と違い、アグニは舞う、歌う! 皆を楽しませる天才である!」
うん、さっきからいい感じの時に合いの手入れてくれるし、いい感じでチェイサーの水みんなに配るし、お祭りの神様、誰もが楽しめるように気配りできるパリピ、ギャルは優しいの典型ね。
今まで天使とかギャル何人か来たけどみんないい人だったわねぇ。
それに対して……そこで勝手に酒入りスイカ食べてる女神様……
「金糸雀ちゃん、なんですか? 捨てたハズの呪いの魔剣が戻って来たみたいなガッカリした目は!」
いや、そんな怖い事起きたらこんな目はしないわ。さしずめ誕生日会に呼んでない子がやってきた時の心持ちに似てるわね。
「ちょちょ! 金糸雀ちゃーん! ちゃんニケだけ仲間はずれ的なの俺ちゃん好きじゃないなー! はいはいちゃんニケも愚痴ってないで、スイカちゃんお食べ」
「ちょっとアグニ! どういうつもりですか! ここは私の女神の第二神殿ですよ!」
アグニさんす、すごい!
あの愚痴たれ女神を完全に受け入れてる。というか、私の部屋勝手に神殿にしてたのね。というか神殿で酔い潰れてリバースまでするの……
「金糸雀よ、喉が渇いたぞ! クハハハハハ!」
「あっ、アズリたんちゃん。三ツ矢サイダーあるからスイカパンチ作ったげようか?」
「なんだそれはクハハハハ! 良い!」
小玉スイカの半分をぐちゃぐちゃに潰して、そこに三ツ矢サイダーとトニックウォーターを使ったノンアルコールカクテル。要するにモクテルね。ここにレモン汁を少々。
「はい、ストローでどうぞ」
「うむ! ……これは美味いぞ! 金糸雀よ、貴様は酒狂いと思っておったが、色々と達者であるな!」
「あはは……私、そんな風に思われてたのね」
「魔王軍でも貴様ほど酒に命をかけている者もいまい! クハハハハ! 誇るといい!」
ミカンちゃんがソローっと私たちのところにやってくる。
「勇者もアズリたんが飲んでるの飲みたいかもー!」
「クハハハ! 飲むといい」
「勇者はこのラム酒入りスイカをハンドミキサーで一緒に混ぜてのめり!」
さすが炭酸大好きミカンちゃんね。これ美味しいのよね。ラムトニックのスイカ割りってとこね。フヨフヨっとデュラさんもやってきて、アズリたんちゃんの建前呑みたいとは言えないので、ミカンちゃんが無言で同じカクテルを作って、
「デュラさんのめり!」
「これは……殿下の……」
「クハハハハ! 許す。飲むといい!」
「で、殿下ぁああ! ありがたき幸せ!」
私はそんな三人に微笑みながら、ボトルのバカルディ8が少しだけ残っているのを見てそれをボトルごとクイっと飲み干したわ。
「ふぅうう! やっぱ8はストレートも美味しいわねぇ!」
トンと空になったボトルをテーブルに置くと、デュラさんとミカンちゃんが呆れた目でアズリたんちゃんだけが笑って、
「あっぱれである! 酒に狂いし者! 金糸雀よ」
まぁ、あれね。これはちゃんと訓練された私だからできる事で普通の人はちゃんと水とか氷で割って飲むか、ストレートにしてもチビチビ飲まないといけないんだからね!
「もう! なによそれぇ!」
異世界組、私がどれだけお酒のんでも引かないから好き! ニケ様とアグニさんを見ると、ぐずぐず愚痴をこぼして不貞腐れているニケ様に対してあれよこれよとアグニさんが楽しませようとしているわ。
地雷系の女の子相手でも一生懸命接客するホストの図みたいね。時折私たちにウィンクするアグニさん。
誰もがこの宴を楽しめるようにって事ね。
私とミカンちゃん、そしてデュラさんは心の中で合掌したわ。