第121話【8万PV感謝特別編】魔王様と神谷バーとオタサーの姫と
こんにちは、最近ガールズバーのお客さんからappleウォッチをもらった天童ひなです。これで私も時計マウントの世界から解放されると思うと大変助かっています。
そんな、本日ですが魔王様の家来のダークエルフさんが私達にご馳走をしてくれるという事で、魔王様と珍しく二人でダークエルフさんと待ち合わせをしている東京メトロの浅草駅前に向かいます。
「寄るな! 下郎共! 私を誰と心得ている! フン、卑しい人間め!」
姿が見えていなくとも、ダークエルフさんがいるなというのが分かります。足がながいダークエルフさんはテーパードとジャケットを羽織っているだけでモデルのようです。長い耳を隠す為のキャスケットがまぁよく似合いますね。
めちゃくちゃ声をかけられていて、中には怪しげな芸能事務所の人もいそうです。
「くーはっはっは! ダークエルフの奴、めちゃくちゃ絡まれておるな!」
「ですね。とりあえず助けましょうか、ダークエルフさーん!」
と私が手を振ると、キッ! と睨んだ後に魔王様を見て、キリリとした表情に変わると、浅草で、片膝をついて、ダークエルフさんは、
「魔王様、ご機嫌麗しゅう。本日も千の言葉をもってしても」
「そのような口上はよい。貴様おススメの店とやらにゆくぞ! 案内するといい」
「仰せのままに!」
また、浅草って渋いなぁ。なんだろう。揚げ物系かな? とか思っていると、まさかまさかのお店にダークエルフさんは私達を連れてきてくれました。
「どうぞ、魔王様。私が贔屓にしている店です。神谷バーという場所なのですが、お口に合えば」
「くーはっはっは! ひなの世界の食べ物で余の口に合わなかった物はなし! 期待させてもらおう」
ほんと魔王様、何食べさせても美味しいって言ってくれるので、助かるんですよね。逆に嫌いな物ってあるんでしょうか?
私達が席につくと、ダークエルフさんが、
「ふん、ヒナ。貴女は魔王様の召使である後輩であるから人間であるが、私がご馳走してやろう。泣いて喜ぶといい」
「はぁ、結構ガチよりに一食浮くので感謝してます」
「そ、そうか。分かればいい」
ダークエルフさん、今現在ビジネスホテル住まいです。私の部屋はさすがに狭すぎるので三人は難しいと思ったところ、魔王様が自分で稼いだお金を全部ダークエルフさんに差し出されました。なんと、ダークエルフさん、そのお金を元手に今現在ノマドワーカーです。魔王様は一度出したお金を受けとる事はしないので、こうして定期的にご馳走してもらっています。
席についた私達を前にダークエルフさんは食券を買ってくると席を離れます。そう、このお店、出銭はゲンが悪いからか先払いシステムなんです。そんな私達の元に見知らぬ女の子が……
「あぁ! 魔王ちゃん、久しぶりぃ!」
そこには大学生くらいでしょうか? 可愛らしい女性が、ん。んん? よく見ると金髪のツインテ―ル、黒いリボンに黒いフリルのワンピ、凄いデカい瞳のカラコン。結構極端なファッションの方ですね。ファッション関係の方かもしれません。
「おぉ、貴様は姫と呼ばれている庶民の女か! 名前は確か」
「ふぇえええ! 姫は姫なんだぴょん!」
おや、特殊な感じのお友達ですね。私は軽く会釈する。どうか絡まないで、絡まないで、絡まないでぇ!
「あれぇあれ? 魔王ちゃんの妹さん? だれだれぇ? そのかわいいおんにゃのこ」
絡まれたぁああああ! こういう時、いろはさんなら上手く対応するでしょうし、金糸雀さんならどぎつい一言で追い払うんでしょうか? 小者である私はただ笑うしかできないですね。ハイ。
「そやつはヒナ。余の家来である! くーはっはっは!」
「ふにゃあああ! 魔王ちゃん、姫とはちっとも遊んでくれないのに、ヒナちゃんとは遊ぶんだぷー!」
「貴様は無意味な非言語を多用する故、つまらんからなぁ! くーはっはっは!」
し、辛辣ぅ。いやぁ、その“ふにゃああ”とか無意味な非言語は私可愛いでしょアピールなんですよ。少しは考えてあげてください。そして、私は現状、もう一つ猛毒が戻ってくる事を忘れていました。
「魔王様、ご覧ください。こちら大皿ソーセージに、エビグラタン。そしてアサヒの生中と電気ブランでございま……こちらの方は?」
「くーはっはっは! 姫を名乗る庶民の娘だ。名前は確かノ」
「だーかーら! 魔王ちゃん、姫は姫なのだー! ふぎゃあああ!」
「そうですか、魔王様から離れるといい、雌豚」
ダークエルフさんにそう言われて、姫さんは少し考えられてますね。あー、これは泣いてダークエルフさんを敵にしてしまおう作戦とお見受けします。
「ふぇええ」
「よし! 貴様ら! 座ると良い。乾杯をするである! くーはっはっは!
生中と聞いたがでかいな! そして中々に美味そうな食べ物だが、はてこれは何か?」
そうなんです。神谷バーの生中は大生くらいのサイズがあるんですよ。そして電気ブランですねぇ。実はこのお店、金糸雀さんと一度来た事があるんで知っていますが、ここはダークエルフさんに説明をしてもらいましょう。
「魔王様、こちら電気ブランと申し、麦酒と共に飲む珍しいお酒で御座います! とても甘いこの電気ブランを一口飲み、苦みのある麦酒で口直しをするというなんともまぁ、乙なものでございます」
「ほぉ! それは面白い。ノブエ、貴様も座ると良い。飲むぞ?」
「ひ、姫ってよんでぇ!」
ノブエさんなんですね。魔王様はビールがみんなに行きわたるとビールジョッキを掲げて、
「くーはっはっは! 乾杯である!」
「かんぱーい!」
「かんばいでございます」
「か、かんぱいだにゃん」
こうして中々強烈な飲み会が始まりました。まずは魔王様がソーセージをパキリと齧って、「うむ、うまい!」と一言。電気ブランを一口、そしてビールで流されます。私もソーセージを……嗚呼、おいしー。
「ぷはー、美味しいですね」
「姫わぁ、お口が小さいから細かく切って、あ……あちゅ」
ドン!
「水です。口の火傷ははやく処理した方がいいですよ。雌豚」
ダークエルフさん、ここで姫さんもといノブエさんの可愛いアピールを善意で殺しに来ました。
「ふにゃああああ! ダークエルフちゃん? 優しい」
「えぇ、それほどでもあります。私程気が遣えるダークエルフはいないでしょう」
おや、魔王様をチラ見してここぞの評価をあげに行きましたね。さて、私はビールが無くなったので、
「ひな、麦酒のお代わりであるか? 余の分も所望する」
「あ、はーい」
ガタン!! 私はいきなりの事にビクっと反応してしまいました。ノブエさんとダークエルフさんはお財布を持って、
「仕方がありません。ヒナの分も私が買ってきて差し上げましょう」
「いいよいいよ。姫がぁ、二人の分のびぃる? 買ってくりゅからぁ」
これは何だか面白くなってきましたね。私はソーセージをパキりと食べながら、二人が走って券売機に向かうのを見ていると、魔王様は海老グラタンの前でニンマリと笑います。
「魔王様、グラタン好きですもんね?」
「うむっ! 余の後継であるアズリタンにも食させてやりたい物だ! くーはっはっは! グラタンよ。褒めてつかわす」
そう言ってパクリとスプーンですくって食べる魔王様、よほど美味しかったのか「うまい!」と喜んでます。それにしてもスプーン持ってるだけなのに、様になるなぁ。テーブルマナーはお箸も含めて完璧なんですよね。
「なんだひな、そんなにグラタンが食べたいか? よかろう! 余が食べさせてやろう! クハハハハ! あーんである!」
「えぇ、いいですよ」
「くるしゅうない、さぁ食すといい」
「もう、じゃあ……あー」
ほらぁ、絶対こうなると思ってましたよ。ダークエルフさんとノブエさんがすんごい目で私を見てるじゃないですかぁ、なんか既視感あるんですよねこれ……
「ヒナ、魔王様になにをさせている? 死にたいのか?」
「ちょっとヒナちゃん、そういうのいくないにゃあ」
私の言葉を待たずに、魔王様はスプーンを私の口に入れる。あぁ、このエビグラタン超美味しい。
「くーはっはっは! なんだ。ダークエルフとノブエも食べたいのか? 仕方があるまい! 余が食わせてやろう!」
魔王様はビールを受け取るとそれをひょいと受け取り飲んでからエビグラタンをスプーンですくった。
結局、二人は魔王様に食べさせて貰い、お怒りは鎮まられたようです。私達はそれから何度かビールと電気ブランを楽しんでいると料理がなくなったので、
「魔王様、何かお食べになられますか?」
「そうであるな」
と魔王様はメニューを見ます。私たちの言語を完全にマスターされた魔王様、頭も凄いいいんですよね。さすがは魔王軍という巨大企業の経営者だけはあります。
「このビーフシチューと、そしてハチブドウパンチをいただこう」
さすが、魔王様。そこに目をつけるとはさすがです。浅草パンチという名前で缶も販売されている。もう一つの神谷バーの名物です。電気ブランがスピリッツ系のリキュールに対して、ワイン系のリキュールを使ったカクテルです。それに合わせるのがビーフシチューって、金糸雀さんと同じチョイスですね。
「魔王様、私が」
「いいえ、姫が」
「くーはっはっは! 良い、静かに待っているといい。余が買ってやろう、そこな店員!」
魔王様はそう言って、その場で現金を払う。しばらくすると薄いピンク色のカクテルを4杯、そしてビーフシチューが運ばれてくる。
そうなんです。通になると店員さんに直でお金渡しちゃうんですよ。魔王様、さては常連ですね! 一人でずるい!
かちゃりと魔王様はビーフシチューを食べて、ハチブドウパンチを一口。
「これはいい! 貴様らもやると良い!」
「美味しいですねぇ! 魔王様」
「ふにゃああああ! 美味しいにゃああ」
「これは、実に口に合います」
いつしか、オタサーの姫だったハズのノブエさんも魔王様主体の立ち回りに変わり、みんなに満遍なく平等な魔王様にダークエルフさんも中々に上機嫌です。
これが真のカリスマというやつなんでしょうね。
遠くで、「うまいかもーーーー!」「殿下、どうぞあーんである」と変な声が私には聞こえるんだけど、魔王様の両サイドで色々言っているノブエさんとダークエルフさんのおかげで魔王様には聞こえてないみたいです。
魔王様が聞いてたらあの酔っ払い達に絡みそうなので、ほっと胸を撫で下ろしました。
「さて、ビールお代わりしましょう!」
と私がハチブドウパンチを一気飲みしてそう言うと、ノブエさんはうわぁという表情を、ダークエルフさんは呆れ顔。魔王様だけが……
「くーはっはっは! 良い飲みっぷりである!」
とかいらん事を仰ったので、お二人が魔王様の前で飲み比べなんて始めちゃうので、お店に迷惑がかかる前に、魔王様が二人を摘み出して店外に出ていくので私も仕方なく着いて行きました、
もう少し、ビール飲みたかったんですけどね。
東京、浅草に来たときは是非、神谷バーにだなんて今度ガールズバーで言ってみましょうか!