第120話 ガルーダと肉巻きみたらし団子と花鳥風月ビールと
本日はミカンちゃんが出かけていきました。何故か?
「たまには朝から女神がいるのもいいものですね!」
という事で、ニケ様が早朝からやってきました。珍しく早起きしていたミカンちゃんは歯磨きを持ったまま逃げ出し今にいたります。そんなニケ様ですが、何をしに来たのかというと、サブスクの海外ドラマにハマってしまい、アズリたんちゃんと一緒に一日マラソンするつもりです。
某コメディホラー映画のスピンオフだけあって私も面白いなとは思ってるけど、それでいいのかしら女神様って……
「物乞い女神よ。余のコアラのマーチをわけてやろう! ありがたく思うといい!」
「あら、魔王の娘。女神になんという口の利き方ですか! いただきます」
もらうんかい。と私はツッコミをいれそうになるのを我慢して麦茶を飲みながら私も一緒に閲覧。それにしても異世界の人ってテレビ好きよね。まぁ、そんな文化ないから珍しくて仕方ないんだろうけど、ちょっと……ニケ様。
さっきからアズリたんちゃんのコアラのマーチ食べすぎじゃないかしら? アズリたんちゃんが一つを味わって食べている中で、ひょいパクひょいパクと食べ続けてるけど……ほら! アズリたんちゃんのコアラのマーチが無くなっちゃったじゃない!
「クハハハハハ! 貴様、喰いすぎである! なくなってしまったわ!」
ニコニコと笑っているアズリたんちゃんの為に私はミカンちゃんに通話アプリのメッセージを入れた。
“ニケ様がアズリたんちゃんのコアラのマーチ全部食べちゃったから帰りにドンキで買ってきて”
秒で返信が返ってきたわ。スタンプ付で。
“く、クソ女神の極みっ 了解なり”
という事でいつもニコニコ怒らないアズリたんちゃんがあまりにも可哀そうなので、今日は金糸雀お姉さんが一つ美味しい食べ物を作ってあげようじゃない! と冷蔵庫を開ける。買い出しする暇なかったから、冷蔵庫の中は絶望的ね。白菜と豚バラのミルフィーユ鍋作ろうとして買った具材と鍋の元があるだけ……おや? ミカンちゃんが買っていたみたらし団子があるじゃない。これ、レジ横とかにあって買わされるスーパーの罠よね。
「金糸雀殿、料理であるか?」
「うん。ニケ様がアズリたんちゃんのお菓子全部食べちゃったから何か作ろうかなって」
「く、クソ女神の極みっ……殿下のお菓子を」
勇者のミカンちゃんと魔王軍幹部のデュラさんに同じ事言われてますよニケ様。まぁ、私の世界の食べ物が特別美味しいってみんな言ってますけど、でも大人げないわ。
冷蔵庫の中を見て、デュラさんが私に提案した料理。
「金糸雀殿。このまえ、動画サイトで見たのであるが、肉巻きみたらし団子作ってみぬか」
出たわね。デュラさんのネットでやってた料理再現シリーズ。てか肉巻きみたらし団子ってヤバみしか感じないんだけど……
「それって美味しいの?」
「あまじょっぱいという味付けであるな。金糸雀殿も好きな味覚と思っていたが」
なになに、みたらし団子に豚バラ肉を撒いて塩コショウで味付けして焼くだけ。肉じゃが的な味付けと思えば確かにいけなくはなさそうね。肉巻きおにぎりだってあるんだし……
「じゃ、じゃあ作ってみましょうか!」
「さすがは金糸雀殿!」
という事で、レッツクッキング。もう、3分間クッキングより楽勝ね。ミカンちゃんが買い貯めているみたらし団子5パック、15本に豚バラ肉を撒いて塩コショウを振ってフライパンで蒸し焼きにしていくだけ、普通に美味しそうな匂いがするので、これはビールね。
「これ消費期限近いので飲んでみようと思うのよね。東北限定のアサヒビール。花鳥風月よ! 兄貴のお酒の前出し(消費期限が近い物を前に出す)してて出てきたのよね」
「兄貴殿は一体これほどの量の酒をいかにするつもりだったのであろうか?」
「えっ? 飲む為よ」
「えっ? この量をであるか?」
「えっ?」
「えっ?」
と私とデュラさんはおなじみのギャグを一通り話してる間に薄い豚バラ肉は火が通ったので完成ね。それをお皿に盛って、私達は海外ドラマを楽しんでいる二人の元へ持って行く。アズリたんちゃんのジュースも東北限定のファンタ白桃味よ! 多分、兄貴はこの花鳥風月と割ってピーチシャンディガフを作るつもりで買ってたのね。
「お待ちどう様」
ガタガタガタ! 私達が肉巻きみたらし団子を運ぶと同時に玄関が騒がしい、それにアズリたんちゃんが「余が迎えにいってやろう」というので、私とデュラさんは微笑ましく見ていると、真っ黒く玄関からはみ出すくらいの大きさの鳥の顔がこちらを……
「クハハハハ、ガルーダである!」
「おぉ、ガルーダ! 怪鳥王シレイヌス様の配下であるな!」
「ちょっと、ちょっとちょっと! 大きすぎて入らないじゃない」
部屋が壊れると思った時、ガルーダさんはカラスくらいの大きさにかわり、アズリたんちゃんの頭の上に乗ったわ。
「こ、これガルーダ! 殿下のお頭に乗るとは無礼であるぞ!」
「よい! 許す! クハハハハ! デュラハンよ。貴様も乗るか?」
ぶわっとデュラさんが泣く。「なんというお慈悲、殿下は闇魔界一の殿下である」みたいな感じで、でもほんとアズリたんちゃん、素直ないい子よね。
「金糸雀ちゃん! それはなんですか? 美味しそうですねぇ!」
悪い意味で自分に素直な女神様もいたの忘れてたわ。グラスを人数分用意、ガルーダさんは器とかの方がいいのかしら?
「とりあえず乾杯しましょうか?」
花鳥風月はエールビールなんで中々いい香りがするわね。それにしてもアサヒビールが花鳥風月って名前はなんかしっくりこないわね。京都醸造のビールっぽい名前よね。それにしてもこのビール。
「あら、この麦酒すっきりしてますねぇ」
「おぉ、エールという奴であるな」
「ですねぇ、味もアサヒっぽくないですね。東北の方向けにしたのかな?」
私達大人組は花鳥風月に喉を鳴らしながらというか、ニケ様とデュラさん。日本のビールに関して慣れすぎでしょ。
さぁ、アズリたんちゃんちゃんとガルーダさんはファンタ白桃を飲んで、炭酸を楽しんでるわね。
じゃあ、本日の謎料理、肉まきみたらし団子。
実食ね。
全員一串持って……アズリたんちゃんがお肉と一緒にお団子を一口。そして一つ分フォークで切ってガルーダさんに食べさせてあげてる!
きゃわわわわ!
「クハハハハ! 美味い! ガルーダもどうか? 美味いであろう?」
「ぎゅるるる!」
バタバタとはねるガルーダさん。アズリたんちゃんはそんな反応を見て、「そうであろう! そうであろう! デュラハン、そして金糸雀よ。褒めて遣わすぞ!」
「殿下、痛みいるである!」
「あら! これ美味しいじゃないですか! 金糸雀ちゃん! 麦酒のお代わりを女神は所望しますよ! 聞いてますか?」
っせーなホント、ニケ様飲むとやたら構ってちゃんになって、最後は説教上戸になるのホント直して欲しいわね。
私も肉まきみたらし団子を恐る恐る食べてみる。同じく口にしたデュラさんと目が合った。
これは、やられたわね。めちゃくちゃ美味しいじゃない。甘いお団子がトロトロに溶けてそれが塩胡椒振ってる豚バラ肉にやばいレベルで化学反応を起こしてくるわ。
こんなの、花鳥風月まった無しよ!
ゴキュゴキュと喉を鳴らしながら私は花鳥風月を空にすると、デュラさんとニケ様の分も冷蔵庫から出してくる。
「うむ、これは手軽で殿下のオヤツにも丁度良いであるな! なんと言っても恐ろしく美味いである」
デュラさんも二缶目、ニケ様は既に三缶目に突入して目が据わってきてるわね。この人、お酒弱いんだからペース考えて飲んだらいいのに……
「クハハハハ! 物乞い女神よ。貴様、女神であるなら金糸雀に何か施しはしているのか?」
「魔王の娘、金糸雀ちゃんは私が遊びにくる事が施しなのです! それ以上は金糸雀ちゃんは配慮しているのです! 分かりますか? 魔王の娘よ! 女神が顕現してこうしてやってくるのは奇跡なのです! 金糸雀ちゃんは嬉しくて言葉もでないんですからね! 分かりますか? 魔王の娘……」
う、嬉しくねぇえええ!
いや、ニケ様が普通に遊びに来るのはいいんですよ。
綺麗だし……でももう今現在早く帰ってほしいわ。
「異なる事を申すな女神よ! 金糸雀がどれほどの寛大な心を持っているか余は計りかねるが、余であれば物乞いしかせぬ女神など家には入れぬぞ! クハハハハハ!」
アズリたんちゃん、みんなが言えない事をさらりと言ったわね。それに合わせて、ガルーダさんも「ギャルルル! ギャルルル!」とどうやらアズリたんちゃんに賛同しているみたい。それに喜んだアズリたんちゃんは肉まきみたらし団子をガルーダさんに食べさせる。
「クハハハハ? 美味いかガルーダよ! このシュワシュワの飲み物も飲むといい!」
ほら、施しっていうのはこういうのを言うんですよ? ニケ様、両手に肉まきみたらし団子を持ってばくついている女神様の姿なんてみんな見たいでしょうか? あ、花鳥風月からになったわね。
「金糸雀ちゃん! ちょっとここに座りなさい! 気がつくと麦酒がなくなりました!」
トン。
私は秒でニケ様の手元に花鳥風月を置く。私たちはまだ2本しか食べてないのに、ニケ様ががっつくからもう肉まきみたらし団子あと3本しかないじゃない。アズリたんちゃんなんてガルーダさんとシェアしてるから一本も食べてないんじゃないかしら?
手を伸ばすニケ様から私はお皿を遠ざけると、涙目になって……
「金糸雀ちゃんなんですか? その態度は!」
「これはアズリたんちゃんに食べてもらいましょうよ! ニケ様、さっきコアラのマーチ沢山食べたでしょ?」
「なんですか! 口を開けば、魔王の娘、魔王の娘って! 女神の事をもっと大切にしなさい! かつて厄災の時に私はですね! 勝利の女神としてですね!」
「……女神よ」
「なんですかデュラハン! 今は女神が話をしているのです!」
「もうその厄災の時代は終わったである。過去の栄光にしがみつくのはやめるといい」
厄災の話、一体今まで何回聞いただろうか? 要するに人類が絶望した頃合いを見計らってニケ様がやってきて人類を率いて厄災の魔物をやっつけたとかそういう与太話ね。
本日のニケ様は私とデュラさんを見て、ブワッと泣いた。
もう、めんどくせぇ女だなニケ様。
「どうして、魔王の娘ばっかりぃ! 女神は女神なんですよ!」
私が遠ざけたお皿をアズリたんちゃんはスッとニケ様側に押した。
「クハハハハ! よほどひもじいのであれば食べさせると良かろう! のぉ? ガルーダよ!」
もう、この子が女神でいいんじゃないかしら? 可愛いし、素直だし、家来のさらに配下が頭に乗っても許せちゃう寛大な心を持ってるし、
「ただいまなりぃ! アズリたんの為に勇者、お菓子を盛り合わせて買ってけり!」
とミカンちゃんは笑顔でパンパンになったドンキの袋を二つ見せる。全部お菓子? 買いすぎでしょ! と思った時、
「もういい! もう知りません! もう女神はみんなを知りませんからね!」
と言って、小学校の先生が突然職員室に帰っていくアレみたいな行動を起こして尚且つ。
「あぁ! 勇者の買ってきたお菓子が」
とミカンちゃんの持っているドンキの袋を強奪してニケ様は私の部屋から去って行きました。
どうせ数日も待たずに普通にやってくるんでしょうけど、今日のニケ様、自分よりちやほやされるアズリたんちゃんに嫉妬の炎丸出しで、
私も思わず……
「く、クソ女神の極み」
と言ってしまったわ。