第119話 魔法少女と551の豚まんとのどごし生と
「ギャハハハハハ! ウケるわー! パック焼酎姉さんやん!」
「やめて、ツバメちゃん。そしてその格好は何? メイドさん?」
「知らんの? リゼロのレムやん。コスプレイベント行くから先に金糸雀ちゃんに見せたろーと思って着て来たんやん! あっ、そろそろ時間やん! はいこれ、お土産の蓬莱の豚まん。また泊まりに帰ってくるわ!」
そう言って嵐のように出て行ったコスプレイヤーの従姉妹。同い年か一個上だったハズの犬神燕ちゃんは、私の家をホテルや民宿代わりにするらしいわ。
聞いてないけど……
「みんな出てきていいわよ!」
ぞろぞろと私の寝室から出てくる異世界組。突然やってきた燕ちゃんとこの三人を会わせるのはなんだか得策じゃないと思った私。燕ちゃんは最近ベターになりつつあるリア充系オタク女子ね。外交的で人気もあって友達も多く、オタク趣味を大々的に公言して受け入れられている種族ね。
そういう子程、ガチ異世界の人とか見たら気絶しそうな気もするので、隠れてもらったわけ。
「かなりあー、なにそれー? 肉まん?」
「そ、それは……金糸雀殿ぉ! もしかして、551の豚まんではないか? 一度食べてみたいと思っていたである」
「そうですね。やばいくらい買ってきてくれてるんで、レンチンして食べましょうか?」
「豚まん、肉まんとの違いは何か! クハハハハハ!」
ええっと、グーグル先生によると……
「西日本の方では、肉というと牛肉をさすので豚肉を使ってある肉まんは豚まんという説が濃厚みたいね。要するに同じ物のようね」
お湯を張ったお皿に菜箸を置いてそこに豚まんを並べて、ラップをする事、個数かける分。
出来た! と思った瞬間……
ガチャ!
「今回ばかりはゼーったい許さないから! ワルダモン! あれ? ここって……」
飛び出してきたのは、瞳がカラコンでも入れているのかハート柄、どこに行けば売っているのか、とんでもないフリルの入った服。そしてハート柄のステッキ、どこに行けばセットしてくれるのか、どえらいキューティクルの効いた金髪の巻き毛。
「ま、ま、魔法少女なりけり!」
「クハハハハ! プリキュアの亜種か!」
はい、異世界組の中でもニチアサファンのミカンちゃんとアズリたんちゃんのテンションが爆上がりね。
そして、デュラさんは、
「とんでもない魔法出力を持っているであるな……一体何者であるか!」
首だけのデュラさんを見て、魔法少女(仮)さんはビシっと指を向けて、
「ウチ、じゃなくて私は、愛と勇気の代弁者! 好きな物はアンパン、嫌いな物はバイキン。魔法少女・マジカルスワロー!」
この人、ひゃく。燕ちゃんだぁあああああ!
「あの燕ちゃん、何してるの?」
「あっ! やっぱここ金糸雀ちゃんの家……いえ、私はマジカルスワロー。燕ちゃんという美少女の事は存じ上げません。その方、どこ中ですか?」
「いや、うん。燕ちゃんの出身校とか知らないけど……燕ちゃん、今二十歳超えてるわよね……美、少女ってのは……ねぇ」
やばいよやばいよ! 燕ちゃん、焦ってるよ!
「そ、そんな事より、電子レンジ鳴ってますよ?」
ピーピーと鳥の雛のように私たちに主張する電子レンジ、そういえば551の肉まん、もとい豚まん温めてたんでした。
「お酒は、のどごし生しか冷えてないわね。まぁいいか、アズリたんちゃんは、CCレモンね」
あんまり炭酸飲料を育ち盛りの子に飲ませたくないんだけど、アズリたんちゃんは魔王様の子供だし、それにCCレモンはビタミンCがたっぷりなので少しくらいならいいでしょう。
「という事で、燕ちゃんものどこし生でいいかしら?」
「ウチ、じゃなくて私は、魔法少女なので苺ミルクで」
「そんな飲み物、ウチにはないわね。もうのどごし生でいいでしょ?」
そう言って私は四人分のどごし生とアズリたんちゃんのコップを用意してそこにCCレモンを入れると豚まんを用意。
「じゃあ食べましょうか、乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
のどごし生ってまぁ第3のビールって感じの味がするわね。決して不味くないんだけど、これは決してビールではない何かという味。
なんだろう。私は第3のビールといえば金麦赤派なんだけど、久しぶりに飲むとのどごし生あざといわね。確かに喉越しいいわ。
「うんみゃぁい!」
「うむ、美味いであるな!」
異世界組からしたら十分美味しい麦酒なのよね。で、彼女が燕ちゃんならこう言うハズ。
「ちょ、ザ・モルツないん? のどごし生て。ちゃんとしたビール飲もうや!」
「燕ちゃんね。本当にありがとうございました」
「あっ……もうええわ。金糸雀ちゃんには教えとくはウチは魔法少女やってんねん! 陰ながらこの世界を守ってんねん」
「おぉおおお!」
「クハハハハ! 魔法少女よ! 余の家来となれぇ!」
「で? 金糸雀ちゃん、この子等と、そこのバケモンなんなん?」
「まぁ、551の肉まんでも食べながら」
「豚まんな?」
私たちは551の豚まんにかぶりついた。肉の餡がたっぷり入っていて、普段コンビニで食べるそれとは明らかに違うわね。からしやポン酢で味変しながら食べる。
「おいしー!」
「クハハハハ! 美味い!」
「ぶたまんつよつよなりぃ!」
「おほほ、これはいい」
燕ちゃんは私たちが551の豚まんに舌鼓を打っている姿を見て、満足したようにのどごし生に口をつける。
魔法少女が飲酒してるのヴィジュアル的に中々ヤバシュールね。
「そやろそやろ! 肉団子に焼売もこうてきたかってんけどな。今度、東に来る時はフルコース持ってきたるわ。で? 金糸雀ちゃん、この子らなんなん?」
まぁ、燕ちゃんが魔法少女とかいう痛い事してるなら、まぁ教えても大丈夫でしょう。
「ウチの家、飲み会するとちょっと不思議な人がやってくるというか? 今回に至っては燕ちゃんやってきたし、そういう感じみたいよ。というかそろそろもう一人やってくるはずね」
ガチャリ、
ニケ様に燕ちゃんぶつけたらどうなるのかしら、とドキドキしていたら、そこにやってきたのはルーさんとレヴィアタンさん。
「お邪魔します」
「金糸雀、邪魔するけどいいか?」
「あー、お二人でしたか、どうぞどうぞ! 豚まんは沢山あるんですけど、のどごし生はもう無いので、ウィスキーでもいいですか?」
「あぁ、なんでも構わないぞ」
そう、この賑やかなパーティーをミカンちゃんが勝手にまたしても配信していたのよね。
私のあだ名がパック焼酎姉さんから4Lウィスキー姉さんに進化しました。