第117話 踊り子とチョコボールと銀河鉄道999メーテルのヴァイツェンと
ミカンちゃんとアズリたんちゃんは何気に仲良しなのよね。精神年齢が近いからかしら? 大体ドンキとコンビニ、映画に行くくらいなんだけど、たまにラウンドワンに寄って帰ってきていると思われる巨大なヌイグルミが私の部屋に増えてきてるのよね。
「クハハハハ! 余はこのサメという物の形状が好きである!」
「サメは可愛いの!」
小さい子ってサメの形状好きよね。アンパンマンしかりあのまるっこい感じが安心感を与えるのかしら? 謎ね。ソファーに寝っ転がるミカンちゃんとキチンと足を揃えて座っているアズリたんちゃん。なんかこー、育ちの違いを感じるわね。
そういえばこの前、首相官邸でやらかした一族を見てデュラさんが私にこの国やばくない? 的な事をソフトに聞いてきたけど、なんとも言えない気持ちになったわね。
お昼はミカンちゃんが買ってきてくれたドーナッツを食べたので、軽くオヤツ飲みね。
「アズリたん。チョコボール開けり!」
「勇者よ。それはいかに?」
あぁ、ミカンちゃん。銀のエンゼル集めてるのよね。玩具の缶詰という一体何が入っているのか謎のアレを手に入れる為に……不思議な事に集まりそうな時に無くなるのよねアレ。
ちなみに金のエンゼルは見た事ないわ。まぁ、あれって金と銀のエンゼルは別で来て
店で働いているバイトとかがパクってるんじゃないかと邪推した事があったわね。
ドーンとミカンちゃんがチョコボールを30箱くらい買ってきたので、銀のエンゼルは1枚くらいは出そうね。
チョコボールかぁ、小さい頃はよく食べたなぁ。というか大人になるとただのお酒のオツマミなのよね。チョコボールよりでん六のポリッピ―チョコの方がコスパよくてよく買ってたけど。久しぶりに食べると美味しいわね。チョコボールといえばビール。
「デュラさん、夜の準備はもうできたので、私達も一休みしましょうか? この前バイト先の信者くん、じゃなくて常連さんからもらったビールあるんですよ」
私が見せたのは、あの松本零士さんの名作。銀河鉄道999とヒロインメーテルが印刷された缶ビール。その名も、
「銀河鉄道999メーテルのヴァイツェン! プレミアムクラフトビールよ! アズリたんちゃんはなっちゃんね!」
なっちゃんのリンゴジュースを用意して私は同じクラフトビールを飲む用のグラスを4つ用意する。アズリたんちゃんは同じくらいの年の子と違ってワガママは全然言わないけど、同じように扱ってあげた方がいいかなと思って同じグラスにしてるわ。
ガチャ。
はい、いらっしゃい。本日は誰かしら……
「こんにち……うわぁ」
すっげぇ、スケベな。いやいや、どエロイ恰好をしたお姉さん入ってきたけど一体何この人。
「すみません、私踊り子のアイナと申します。ミヒルカン最果ての領主様の屋敷にてお花を摘みに行ったところ、ここに、早く領主様のところに戻らないと……」
「クハハハハ! 踊り子か! 良い、舞ってみせよ人間」
アズリたんちゃんが立ち上がってそう言うとアイナさんは腰を追って目線を合わせると、
「ごめんね? お姉さん、偉い領主様のところで舞をしなきゃいけないから……」
「人間、この殿下を誰と心得る? 魔王アズリエル様のご令嬢にして、次期魔王様にあらせられるアズリタン様であるぞ!」
「きゃああああ! 魔物!」
「クハハハ! デュラハンよ。踊り子を驚かせるでない! 先約があれば仕方があるまい! 余は寛大な心で許すとしよう」
うわぁ、出来た魔王様になるわねぇ。それに困ってるし今回は帰ってもらうのが一番ね。私の部屋の玄関から出れば帰られる事をお伝えしようと思ったところ、
「ミヒルカン最果ての領主とは、オークの如し見た目の領主なり?」
「え、えぇ」
「民衆をイジメていたところ、勇者来りて誅を行使したなりけり、故。勇者の名を出せばたちまちに小人のように縮こまり!」
そうだ。ミカンちゃんってかつては異世界で勇者を一応してたんだった。私の部屋ではネオニート化してたから忘れてたわ。ミカンちゃんという抑止力を得た事で、私はアイナさんにトンと銀河鉄道999メーテルのヴァイツェンを一缶プルトップを開けてグラスに注いでわたした。
「という事なんで飲んでいきません?」
よほどその領主のところで仕事をするのが嫌だったのか、ぱぁあああと花が咲いたようにアイナさんは笑顔になった。という事で乾杯の音頭を……と思ったらアイナさんが、
「皆さま、盃をお手に! それはこの踊り子めが僭越ながら! 舞わせて頂きます。その前に乾杯! んんっ、なんですかこの麦酒、ほのかに果物のような」
ヴァイツェンだからね。きっとメーテルをイメージしたのかしら? わりとキレ味があるのに、後味はほのかにフルーティーなのよね。うん、美味しい。
「ほほー、これはまた珍しい味の麦酒であるな」
「うんみゃい!」
アズリたんちゃんはなっちゃんのリンゴ味を一口飲んで、頷いてるわね。なっちゃんは大人になってから飲んでも美味しいし、オツマミはミカンちゃんが買ってきた大量のチョコボール。それをお皿に入れて、
「適当につまんでくださいねぇ!」
なんか、こう踊り子の人を見ながらお酒飲むってお座敷遊びしてるみたいねぇ。アズリたんちゃんが凄い楽しそうに手を叩いて喜んでいるので、きっと楽しいんでしょうね。ゆっくり私達の元にやってきながら、上目遣いに私を見つめるアイナさん。
美人に見つめられるの弱いのよねぇ。お皿からチョコボールを一粒とるとパクりと食べてアイナさんは驚いた顔を私達に見せる。美味しかったのね。
ミカンちゃんはひっくり返りながらアイナさんを見ていると、アイナさんがミカンちゃんに手を振るので、
「おぉおお! 勇者どっきり!」
と言ってアイナさんに手を振るミカンちゃん。そりゃあんなサービスしてもらったらお酒が進むわよね。いいないいなーと私が思っていると、
「クハハハハハ! アイナ、貴様も座って飲むといい! 舞い堪能したぞ! なぁ? そうであろうデュラハンよ」
「はい、殿下。誠、見事な舞であった!」
パンパンとアズリたんちゃんが自分の隣を叩くので、アイナさんはそこにお辞儀をして座る。心なしかアイナさんも嬉しそう。そりゃ、豚領主を相手にするより、アズリたんちゃんみたいな美少女相手にした方が楽しいわよね。
「チョコボールうまうまー! この麦酒もウマー! かなりあおかわりなの!」
「クハハハハ! 金糸雀! 余もだ!」
「殿下はこの我がつがせていただくである!」
となっちゃんのペットボトルを浮かせるデュラさん。アズリたんちゃんは嬉しそうにグラスになっちゃんをついでもらってそれを口につける。
「金糸雀様、このお菓子、とってもおいしゅうございますね?」
「あー、チョコボールですか? 美味しいですよね。まさかこんな大人になって大量のチョコボール見る事になるとは思いませんでしたが、ミカンちゃんいくつかお土産にあげなさいよ」
「よきよき! 勇者、何個でもあげり!」
とスーパーの小袋に5箱入れてアイナさんに渡すミカンちゃん。踊り子さんは私達の世界で言うところのアイドル的な感じなんでしょうね。
三本目の銀河鉄道999メーテルのヴァイツェンを開けながら、思ったんだけどアイナさん結構お酒強いわね。あー、アイドルって思ったけど、お水系の側面もあるんでしょうね。だから結構飲まされるのかな?
「ふぅ、こんな美味しい麦酒。はじめてです」
「普段はこんな良いビール飲んでませんよー! 偶然貰い物なんでどんどん飲んじゃってください! 置いとくとこの部屋お酒で埋まっちゃうので」
私は、スマホで音楽をかけて、それに合わせてアイナさんは踊る。アズリたんちゃんを踊りに招いて、アズリたんちゃんの両手を持って一緒に踊る。私も空き缶を割り箸で叩きながらセッションし、チョコボールを食べながらミカンちゃんもデュラさんも楽しそう。
「沢山楽しみましたが、そろそろ流石に領主様のお屋敷に戻らないと」
「ほぉ、楽しい時間とはすぐにすぎるものであるな! クハハハハハ! 今度は余の城にくるといい! 丁重にもてなそう」
「えぇ、勇者もっと踊り子と遊びたいー」
と当然懐かれる踊り子さん、お別れは寂しいけど、まぁまたあえるかも知れないし、とそんな状況にやってくるのは当然、女神のニケ様。ニケ様が来た事で私は、デュラさんにアイコンタクト、デュラさんは私の考えを理解し静かに頷く。
「よっ! ニケ様! 遅いじゃないですか! さぁ、このお誕生日席へどうぞどうぞ!」
「クソめが……ではなく女神ニケよ。さぁ、本日の麦酒は特別であるぞ!」
と私とデュラさんで接待。そんなお出迎えに気分をよくしたニケ様は、
「まぁ! 女神を大切に扱うとは当然の事をなぜ、今までしてこなかったんですか? 少しそこに座りなさい!」
といつのもお説教をしているニケ様を立たせると、私はアイナさんと一緒に玄関に向かう。
「女神に易々と触れるとは一体なんですか? まだ、私麦酒を1杯しか飲んでませんよ!」
とまぁ、訳のわからない事を言っているニケ様をですね。アイナさんと一緒にご帰宅いただくとどうなるのか……
「アイナさん、ミカンちゃんの名前を出してもダメな場合はこの女神様を領主さんに押し付けちゃってください。私達はまぁ、そこそこニケ様耐性ありますけど、ない人からしたら目にみえる地獄ですから、踊り綺麗でした! 楽しかったです!」
「金糸雀様、ありがとうございます。で、でも女神様? え?」
私達は勢ぞろいでアイナさんを見送ったわ。ギャーギャーと喚いているニケ様と共に。それから、しばらくして民衆から愛されている貴族の人が私の家にやってくるんだけど、その人が異世界の都市伝説を教えてくれたわ。
私服を肥やす事や意地悪ばかりしている領主の所には、裁きの神がやってきて一日中何を言っても叱られるというのだ。
私は、その話を笑顔で聞きながらこう思ったわ。
うん、知ってる。と




