第115話 魔王の娘とチャーハンと“こどもののみもの”と
新章突入します。
魔王の娘から、お楽しみください
本日、冷や飯をストックする日なのよね。半升炊きの炊飯器で目いっぱい炊いて200gのご飯をサランラップでくるんで冷まして冷凍するという神聖な儀式よ。
「金糸雀殿! お米、やや柔めに炊けたである!」
「ありがとうございます。ジャンジャン包んでいきましょう!」
私とデュラさんの共同作業、それをスナック菓子を食べながら見つめるミカンちゃん。本日は冷凍庫にある冷や飯とご飯を交換するので、残っている冷や飯と冷蔵庫の残り物を使ってチャーハンを作る予定。もし、ミカンちゃんに料理スキルがあればここで野菜とかを切ってもらうところなんだけど、ミカンちゃん料理スキルは壊滅的なのよね。
私はニンジン、ソーセージ、かまぼこを細かく切って卵を3個、いえ4個取り出す。最近卵やばいくらい高いのよね。これ値段上がり続けられると困るわねぇ。
「金糸雀殿、お米全てラップに包んだである。今日は焼きめしであったな! お米の解凍も完了であるぞ!」
「助かるぅ! そうなのよね。ボソボソしている冷や飯で作るより一旦解凍してふっくらせた方が何故か美味しい謎よね! ちょっと火力がいるから、秘密兵器を持ってくるわ!」
私は兄貴のキャンプグッズからシングルバーナーを持ってくる。チャーハンをパラッパラに仕上げるのに家のコンロや電気ヒーター系じゃ若干火力が足りないの。そんな時はこれ!
「そ、それは! ソロキャンプ動画でよく出てくるやつである! まさか、その秘密道具を金糸雀殿がお持ちとは……わ、我に使い方を」
「あーはい! じゃあ、デュラさん使い方教えますのでチャーハンづくりお願いしていいですか?」
「任されたである!」
ガチャリ、さぁ。今日は誰がやってきたのかしら……
「かなりあ、そこを動くなと勇者は言えり……」
「こ、この圧倒的なプレッシャーはま、魔王様?」
いつか来るとは思ってたけど魔王様ついに来たか、さぁどんな人かしら? 私はミカンちゃんと共に玄関に向かう。
「クハハハハハ! 誰か、おらぬかぁ!」
「きゃ、きゃわわわわわわわ!」
なにこの美少女! 可愛い! セーラー服みたいな恰好にマント。キューティクルのきいた黒髪にオッドアイ。ギザギザの歯で満面の笑顔。
「で、殿下! アズリタン殿下!」
「クハハハッ! デュラハン、何故首だけか? 余は愉快である! 余は魔王アズリエルの子、大魔王アズリタンである!」
自信満々にどーんとポーズを取るアズリたんちゃん。魔王様の娘って事? という事は、魔王様って超イケメンなんじゃ! えー、どうしよー! 私も魔王軍に入ろうかしら!
「殿下、どうしてこのような所に?」
「クハハハハハ! アズリエルが魔王城より消えた故、余が探してやっておるのだ! どうだ? 余は偉いであろう?」
「ははっ! 殿下程偉い子などいますまい!」
「クハハハハ! そうであろう! そうであろう! 首しかないのだ。面を上げよ! して、こやつらは?」
笑顔がとーっても可愛いアズリたんちゃんが私を見るので、
「私はこの家の家主の犬神金糸雀お姉ちゃんよ。宜しくねアズリたんちゃん」
「勇者は勇者なり」
勇者という言葉を聞いてアズリたんちゃんは嬉しそうに嗤った。
「勇者であるか? ならば余と力比べをしようではないか!」
「えぇ、勇者そういうのはいいかもー。今からご飯なり、コバラベリーなりぃ」
「食事とな?」
ちらりと私とデュラさんを見るので、私はアズリたんちゃんの目線に合わせて、
「アズリたんちゃん、残り物のチャーハンだけど食べていかない? デュラさんが作ってくれたから美味しいわよ!」
「で、殿下に我の手料理とは恐れ多い」
「クハハハハ! 喰おうではないか! デュラハン、出すといい!」
そう言って、アズリたんちゃんは、リビングに来ると、普段ミカンちゃんが独り占めしているソファーにデーンと飛び乗った。
「ああん、そこ勇者のコーナーなりぃ!」
「ミカンちゃん、一応年上なんだからアズリたんちゃんに譲ってあげなさいよ!」
「えぇ……」
「金糸雀、貴様物分かりがよし! 余の家来にしてやろう!」
「えぇ、ほんとにぃ! 嬉しいなぁ!」
飲み物あったかしら? ジュースとかでいいんだけど、アズリたんちゃんが飲めそうな物……あったわ! サンガリアの“こどもののみもの”なんでこんな物を買ったのか……あぁ、ニケ様用か! 本日はこれね。
デュラさんが真剣な顔でご飯を卵で包むようにパラパラのチャーハンを作ってるので、私はビールジョッキに“こどもののみもの”を四人分。アズリたんちゃん以外のには宝焼酎を入れて“おとなののみもの”に進化させておくわ。なんか、おとなののみものってやらしぃネーミングね。
「殿下! みなのもの! お待ちどう様であるぞ!」
デュラさん特製、マヨネーズと鶏ガラスープに黒コショウで隠し味をしている中華料理店風チャーハン。それに私はこどもののみものの入ったグラスを用意する。
「か、金糸雀殿。殿下に麦酒はまだ」
「デュラさん、これは見た目ビール風のリンゴジュース。“こどもののみもの”ですよ!」
「おぉ……金糸雀殿の世界、子供も大人と同じような物が飲めるとは、なんという配慮! 気配り、感服する」
私達は席につくと、ジョッキを掲げる。それにアズリたんちゃんが嬉しそうに眼を輝かせて、立ち上がった。
「クハハハハハ! 面白し! 人間と勇者と食事を囲むのは初めてである! 乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
んぐんぐんぐんぐ。かー、見た目ビールのリンゴサワーね。私が三人分お酒を入れている事をデュラさんとミカンちゃんが気づいたみたいね。
「うまい! クハハハハハ! これはうまいぞ金糸雀! どれ、デュラハンの作りしこのかぐわしい食べ物も」
アズリたんちゃん、キャラクターの顔がついたスプーンでぱくりと食べる。すると目を大きく開いてバタバタと足をばたつかせる。
「うまい! うますぎる! 魔王城の食事がカスに思えるではないか! クハハハハハ! デュラハンでかした」
「殿下もったいのうお言葉である」
チャーハンとこのサワー系のお酒ってなんか合うのよね。あとビールとか? それもデュラさんのプロ仕様みたいな味。これひょっとして私が作るより美味しいかも。毎日暇さえあればデュラさんは料理動画とか見てるからね。
「デュラハンよ! お代わりである!」
「は! 只今!」
デュラさんが嬉しそうにチャーハンを作っている姿。魔王軍のみんなにより美味しい物を食べさせてあげたいという気持ちから料理にハマったんだったわね。チャーハンを再び作るとアズリたんちゃんの元に戻ってくる。
「殿下、こちらカニカマを入れたカニカマチャーハンである!」
「クハハハハハ! カニカマとはなんだぁ! うまい!」
そりゃカニカマ知らないわよね。
「殿下お口周りにチャーハンが」
「ん!」
拭けという事でしょうね。顔を持って行くのでデュラさんがティッシュでお米の粒を丁寧に取り除くと再び食べ始め、手を止めたわ。どうしたのかしら? お腹一杯になったとか?
「金糸雀よ! この飲み物がなくなったぞ! クハハハハ!」
「あーはいはい、ちょっと待ってね!」
私がこどもののみものを持ってくるとそれをジョッキに注いであげる。すると、アズリたんちゃんがデュラさんを見て、私を見てこういったの。
「クハハハハハハ! 気に入った! デュラハンを連れて帰るついでに金糸雀、貴様も余の家来であるから連れて帰ろうぞ! 毎日が美味しいご飯を食べられる!」
あー、そういうね。それにデュラさんが……
「殿下、お言葉ですが金糸雀殿はこの家の家主、いわば領主である。故に、殿下の家来となろうとここから離れるわけにはいかぬである。我だけがついていくであるぞ!」
そっか、デュラさん。アズリたんちゃんの警護も含めて一緒に帰らなきゃね。そりゃそうよねと思っていたら、アズリたんちゃんはチャーハンをぱくぱくと食べて、こどもののみものをぐいっと飲み干すと、
「クハハハハハ! そうか、ならばこの御所に余が住めばよい! 勇者もいることである! 飽いはこぬ! くはははは! 余は賢いからな! どうだデュラハン、凄いであろう?」
「はっ、殿下の賢さは三千世界にとどろくである」
デュラさんがウィンク、それに私とミカンちゃんの表情が明るくなる。私はこどもののみものにドバドバ宝焼酎を入れたサワー。おとなののみものを作ると再び、ジョッキを掲げた。
「じゃあ、アズリたんちゃんの歓迎会をかねて乾杯!」
「かんぱいなのー!」
「乾杯である!」
「クハハハハハ! かんぱい!」
そんな楽しい食事のひと時を恨めしそうに見る人影、そう。アズリたんちゃんを中心にわいわいがやがやと楽しんでいるところにニケ様登場。そんなニケ様を見てアズリたんちゃんが、
「クハハハハハ! 物乞いをしにくる女神である! これデュラハンよ。恵んでやるといい!」
「はっ! 畏まりました」
「金糸雀ちゃん! なんで私の歓迎会はしてくれないのに魔王の娘の歓迎会はしてくれるんですかっ!」
えぇ、怒るところそこ? いや、もう歓迎会もクソもないじゃないですか……という事で魔王様のご令嬢、アズリたんちゃんが私の部屋の新住人になりました。