泥に咲く血の花
こちら不定期更新になります
人間、誰しもが憧れる存在がある。
著名人、尊敬できる知り合い、架空のキャラクターに動物。
理由はなんであれ、些細なことでも憧れたことはあるだろう。
その者をよく思う人がいるのならば悪く思う人もいる。
それは当然のことで、物があり、光があるのなら影ができるのと同じ。
夢物語の主人公に憧れる彼女らは、それを通り越し、実在する正義のヒーローを撲滅する。
名を、鮮血少女。
今日、新たな血塗れた物語が始まる。
父は酒に入り浸り、母は生活を養うために死にそうになりながら労働。
兄弟姉妹も居ない、父からの暴力に怯えながら過ごす。
学校もつまらない。
私は除け者、直接いじめられている訳じゃないが明らかな仲間外れ。
ずっと私は独りだった。
「死のうかな。」
自分ですら気づかないほどに、口から漏れでた言葉。
あとから気付き、自分に納得した。
「そっか、死ねばいいのか。」
誰もいない教室で1人結論に至る。
その瞬間から肩の重荷が外れた。
体が軽すぎてフラフラする。
今にも浮いてしまいそうなほど軽い体を動かして、立ち入り禁止の屋上へ向かう。
時間は放課後。
皆が部活動などをしている最中。
屋上の扉を開けた。
体で押すようにしないとあかないほど錆びていた。
風が一気に入り込んでくる。
私を歓迎しているみたい。
「世界も私にそんなに死んでほしいんだ。」
頭の隅に残っていた生きたいという意思もどこかへ消えた。
風に飛ばされたんだろう。
止まらずに申し訳程度の飛び降り防止用のフェンスまで歩いた。
人の騒ぐ声がする。
フェンスを乗り越えた。
1歩前に足を出したら落ちて死ぬ。
数秒、息を飲む。
誰も来やしない。
ようやく覚悟ができた。
私を助ける人なんで本当に誰もいなかったということを認識した。
「クソ喰らえ。」
頭から落ちるように、力を抜いて倒れるように飛び降りる。
死ぬことが出来る高さ。
━━━━━━━━ああ、こんな私でも、走馬灯はあるんだ。
ゆっくりと見える景色。
心做しか、視界から色が消えていく。
綺麗に見えていた夕焼けも白黒に変わる。
……異変は起きた。
『あらあら、まだこんなヘドロみたいな方いましたのね。』
『私らより酷いんじゃない。どーでもいいけど。』
聞こえる謎の声。
完全に、時が止まっている。
落ちる寸前の私の体。
傾いている。
なのに私は止まっている。
「誰?」
『貴方、本当にそのまま死んでいいのかしら?したいこととかありませんの?』
やけに綺麗な言葉を使う女の声。
「……ない。」
とりあえず、私は答える。
『あー、まあ。自殺を止めようって訳じゃない。死にたいなら死んでいいさ。ただちょっといい命の道があるのを教えてあげたくてさ。聞いてから死なない?』
「……さっさとして。」
『そんなんだからまともな生き方出来なかったんじゃありませんの?』
綺麗な薔薇には棘があるという言葉を体現したかのような悪口。
人の心を全く考えない会話。
「勝手に言ってなよ。」
『実はさ、この世界にヒーローがいる。正義っていう概念。私らはそいつらを皆殺しにしてる鮮血少女って言うんだけど。』
「あっそ。」
『興味無い?』
「ない。」
『ここにいるヤツら全員皆殺しにできたとしても?』
「意味無い。」
『……あんた何を楽しみに今まで生きてたの?』
「ないから今死のうとしてたんだけど。」
どこからかいまだ分からない声が響き続ける。
2つの大きなため息が聞こえた後。
『じゃ選んでよ。このままクソつまらないまま死ぬか。私達とおままごとして死ぬか。』
「……さっさと戻してよ。」
『ムカつきますわねこのクソアマ。無理矢理こちらに引き入れませんこと?』
『賛成、いい戦力なのは間違いないからね。』
否応関係なく、話は進んでいく。
死ぬことすら許されないっての?
いいよ、そうなったらとことんクソな生き方してやる。
いずれ神だって見つけ出して殺してやる。
「で、なんなの。」
『本当に死にたいって言うなら私たちは引く。私たちに着いてきてもいいと思うなら、背を向けて飛び降りてね。』
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ふと、自意識があるのに気づく。
飛び降りる寸前の自分。
時が戻ってる?
よく分からないけど、さっきの記憶はある。
時が止まって、謎の女共に話しかけられた記憶はしっかりと。
私がおかしくなって幻覚が見えたって言う説もあるけど。
ホントにしろ嘘にしろ、私は飛び降りる。
…………。
でも、私をこうした奴らに一泡吹かせられるなら悪くない選択なのかも。
フェンスを超え、背中を向けた。
脱力、そのまま体から魂が抜けるほどに。
一瞬グラついて、そこからバランスを取れず。
取らずに後ろへ倒れていく。
落ちる、落ちていく。
ビュウっと、風の切る音が聞こえる。
1秒もしないうちに私は死ぬのだろうが。
「……。」
少しだけ、顔が歪む。
来るだろう痛みを想像して。
そして、空を見上げながら落ちていた私に見えたモノ。
屋上に見える、知らない女2人。
そして、何かが落ちてくる。
それは私が地面を体にうちつけるより速くこちらに向かってきた。
そして私の腹を貫いた。
「カハッ。」
腹を貫通した。
見てみれば長い武器のようだ。
分からない、痛みが分からない。
痛いこと自体は分かるが、その痛みがどんなふうなのか分からない。
若干空中で体勢を崩した。
待つ暇も無く、次に落下の衝撃。
比喩じゃなく、頭が割れる痛み。
普通なら、このまま死ねるのに。
私を襲うのは無限の鈍痛、おぞましいほどの吐き気。
車でも乗っかっているのかと言うほどの体の重み。
そして徐々に理解する痛み。
腹が熱い、頭が割れる。
腕がへし折れて、全身打撲。
「……。」
元気だ。
ハッキリと意識がある。
あまりの苦痛にいっそこのまま消えてしまいたいのに意識がある。
意識が途切れるどころか明確になっている。
保てていたものも全て崩れていく。
「ごぶぉ、ごえ……っ。」
吐血、呼吸ができないくらいに口から溢れる。
体は武器で固定されて、腕も足も使い物にならない。
体の筋肉さえ融通が効かない。
死ぬ苦痛を与えられ、死なずに意識だけある。
「がぷっ……ごぽっ……!」
血の味、鉄の味、胃から止まらないし、呼吸が出来なくて苦しい。
でも、永遠と意識が途切れるような気配がない。
わかる、分かる。
明確にわかるのは、今の私は死なない。
拷問でも受けないだろうと思うような苦痛を受けながら考えた。
アイツらは?
「本当にこっちを選びましたわね。物分りが案外いいんですのね〜。」
「おめでとう、鮮血少女の仲間入りだよ。その腹に突き刺さってるのが君の相棒。」
一切助けるような素振りは見せない。
吐血が治まってきて、ようやく意識が朦朧とし始める。
「立てる?あ、立てないか。刀刺さってるし。」
そう言われて初めて私の腹にあるのが刀だと認識する。
通りでよく刺さる。
自分でもびっくりするほどに、朦朧としていたはずの自分の意識が回復するのを感じた。
体はバカみたいに痛いけど、動かせる。
右腕が完全にぐちゃぐちゃだったから、左腕で何とか刀に手を伸ばした。
「お上手ですわね〜。がんばれがんばれ、ですわよ〜。」
パンパンと2つ拍手をして私を応援する。
黙って手伝えよ。
臓器を貫いている感覚をしっかりと感じながら、少しだけ体を起こして、手を伸ばし柄を握って腹から抜いた。
また吐血する。
1回吐いただけで収まったけど。
起き上がるのが面倒なので抜いてそのまま倒れる。
気絶してしまいたいのに、出来ない。
「鮮血少女ってのは随分ブラック企業なんだ。」
「どちらかと言うとブラッドではありませんこと?」
「知らないよ。」
無駄口叩けるほど私は元気になってた。
面白くない。
「さて、虐めるのはこれくらいにしておくよ。その刀は君の武器。私達鮮血少女は武器と器で一心同体。手放しちゃダメだよ。」
訳の分からない知識だけを詰め込まれていくが、どうせ他に信じるものもないので言われたことを正しいと思うことにする。
「とりあえず回復しようか?こう唱えて、ブラッドヴァイト。」
キモイアニメでしか言わないような臭いセリフを吐けと言われる。
正直さっきのやつ含めて1番嫌だけど。
「ブラッドヴァイト。」
そう発言した瞬間、血溜まりだった私の周囲の血が宙に浮いて、私と刀に吸収される。
そこからみるみる、体の痛み、怪我、気持ち悪さ全て消え失せていく。
周囲が綺麗になった時には、不快感すらなかった。
何事も無かったかのように起き上がる。
そうしてやっと、初めて2人の姿を認識した。
まず1人目を見る。
「絵に書いたような金持ちキャラ。」
「高笑いした方がよくて?」
嫌ににやけてこちらを見る。
明らかに金持ちのお嬢みたいな奴。
金髪で長い髪。
カチューシャしてて、佇まいが淑やか。
「それと、男と女の融合体?女子にもモテるタイプの。」
「素晴らしい評価どうも。」
濃い青色の髪。
アシメの前髪で、コンパクトにまとめられたポニーテール。
言わば王子様系の女?
凛々しい系?
「……死にかけを見捨ててる時点で凛々しいわけないか。」
「ご名答。ただのクズさ。」
そして両方とも、この学校の制服を着ている。
だったら最初っから目をつけられてたのか、さっき誰かから奪ったのか。
分からないけど。
「さて、人目を集めては行けない。君も鮮血少女として覚醒したばかりだ。とりあえず休んでもらう。」
割とキレイめな体制で項垂れていた私をひょいと持ち上げて、ありえない脚力でジャンプ。
そのまま空き教室の窓へ侵入した。
「……何が何だか。」
「そりゃそう。ま、おいおい話すよ。まずは流石に自己紹介からしようか。」
片付けられた机、何故かある高級そうなソファー2つとテーブル。
テーブルには飲みかけのカップ、お菓子。
ほかは何も無い。
そこに私を寝かせた。
「……っと。私は一応ここの学生、3-Bの神崎凛音。リオだよ。よろしく。」
向かい側のソファーに座って挨拶した。
その隣にもう一人の女も座る。
「私がキリカ。西園寺霧香、2-A。」
当然と言った形で自己紹介が始まっていた。
私は未だに全てを理解していないが。
「来栖きあ。きあは平仮名。1-Aにいた除け者。」
「最低限の礼儀はあるんだね。ないと思ってた。」
「人としてのあるべきものが無い人らに言われても。」
なんせこっちは腹刺された上に放置プレイだ。
「返す言葉もない。さて、体の具合はどう?」
「気持ち悪いくらい良いけど。私人間じゃなくなってるってこと?」
「そ。人間じゃなくて鮮血少女だからね。簡単に言ったらほぼ死なない化け物と思ってもらっていいよ。」
「……で、目的はなんなの?」
軽く起き上がる。
頭はズキズキするけど、それくらい。
「覚えてるだろうけど、正義を名乗るヤツらを全員消し去る、殺す、叩きのめす。それだけだよ。私達は悪の手先って訳。」
何が目的でそんなことをやるんだか。
善人なら放置しとけばいいのに。
「なんでやるのかって顔してる。理由なんかないよ。そういう存在なの私達は。存在しないなにかにに操られるお人形。強いて言えば暇つぶし。」
「愉快犯ってことでしょ。」
「愉快犯なんてもんじゃありませんわよ。大罪人ですわ。正義のヒーロー殺していくんですもの。」
鮮血少女も正義のヒーローも未だに理解出来てないけど。
「さて、戦い方は自分で学んでね。鮮血少女の機能だけ教えておくよ。」
そう言って各々が武器を取り出した。
「私らは器、武器とふたつで完成する生き物。戦う時はこういう。鮮血解放。」
リオのもっていた筒のような武器が突然変形。
体の大きさ以上はある大鎌に変化した。
他に変化はない。
「これが鮮血解放状態。武器は自分の力が試されるけど、運動能力とか動体視力、反応速度に膂力。全てバケモノレベルになる。」
あのジャンプ力はこれ由来か。
厨二病みたいで耳にタコが出来そうだけど、事実なのが。
「ちなみに武器はその人に1番会う武器が勝手に降ってくるらしいんですのよ。あなたの場合は刀が降ってきましたわね。」
「あんたらが投げたんじゃないのか。」
「そこまで人道踏み外してないよ。そして、さっきも使ったブラッドヴァイトだけど……。」
そう言って自分の大鎌で、手首を切った。
血がたらーっと流れて落ちる。
「自分の血、もしくは他人の血で発動できる。1日1回使える。怪我とか全部完治した上で血を吸収して自分を強化状態にする。」
「ブラッドヴァイト。」
金髪が嫌に煌びやかに見える。
CMでも撮ってるのかと言うくらいふわっとする髪。
「このように血を全て吸収できる。わざわざありがとうキリカ。」
「いえ。」
平然と受け答えする2人。
吐き気がする。
「……お前ら一見普通の人に見えるけど。」
「人は見かけによらないですわよ。」
「そ、外見が良かったらそれに反比例して性格はクソだ。キリカは嫌いなものを目の前にすると話聞かない快楽殺人鬼になる。」
「リオも殺すよりどれだけ苦しめることが出来るかしか考えてないファッションサイコパスですわ。」
互いに見つめあって気味の悪い笑顔を向け合う。
「……何、漫才でもやる気?私は本当におままごとするために来たんじゃないけど。」
「はは、面目ない。まあでも今日はゆっくりしてってよ。どうせ君みたいな人間は帰っても歓迎されてなかったりするんだろう?ここで適当に時間潰していいから。」
「あっそう。……じゃあ寝る。起こさないでよ。」
「お布団貸しますわよ。」
高そうな毛布が来るのかと思いきや思い切り安物のやつ。
その上キリカ自身はソファーに座っていかにも高そうな毛布を自分で羽織る。
人間性が終わってる奴らしかいないってことだ。
「ひとつ言い忘れてた。鮮血少女は血からしか栄養を取れない。普通の食べ物飲み物は口に入れても吐いちゃうから気を付けてね。」
「……最悪。今のところ私にデメリットしかない。」
「これからメリットが増えるとでも思ってる?」
なんてことないように吐き捨てたそのセリフで、何となく今の現状を理解する。
待遇が良くなっただけで今までの自分の環境と何ら変わりはしない。
少しの考え事をしているうちに意識の糸が途切れ、気絶したように眠った。
「……ん…。」
ふと目が覚める。
時間は夜で、部屋はずっと明かりなし。
外から入る月の光のみが私達を照らす。
「おはよう。」
「そういう時間でもないでしょ。」
テーブルを挟むように置かれたソファー。
片方に私、もう片方にキリカ。
テーブルに行儀よく座ってるのがリオ。
「珈琲、飲む?」
湯気が出て出来たての珈琲がある。
意外と気が回るらしい。
「ん。」
私に向けて差し出されたカップ。
一口飲んで、同時に思い出す。
「てめえッ!おええええっ……!」
体が拒否した。
若干寝ぼけていたせいで忘れていた。
私はもうまともな食事は出来ないんだった。
味はしっかりと感じるのだが、勝手に吐いてしまう。
「はは、引っかかったね。」
「殺していい?」
「できるものなら殺して欲しいですけどね?」
間髪入れずにキリカが返事した。
余程、恨みがあるのか、なんなのか。
「キリカと私じゃ相性が悪すぎるからね。」
「なにが。」
「戦いの。私は鎌、キリカはライフル。バヨネット付きとはいえメインは射撃だからね。バリバリ距離詰める私とはやりにくいでしょ。」
「7割負けてますわ。」
そんな関係のヤツらが平然と同じ部屋で寝たり飯食ってる事実がすごいけど。
……と、気になって自分の武器を見る。
血のように赤黒い刀身。
今気付いたけど、鞘がない。
普通刀って仕舞うものじゃないの?
ただ知識不足?
とりあえず手に取る。
「私、刀は愚か棒きれだって振り回した事ないけど。」
「今から振り回すといいよ。」
「はい。」
なんかもういいやと思ってリオに向かって刀を振り下ろす。
剣戟が鳴り響く。
鎌特有の長い柄の部分で受け止めた。
「重い。……なかなか。」
私は軽く振り下ろしたはずだが、相当な威力らしい。
私の力なのか、刀の力なのか分かりはしない。
「喧嘩はしたことある?」
「親となら。」
「じゃあ今から私と喧嘩しよう。床舐めたら負けね。」
「喧嘩に勝ち負けなんかな━━━━━━━━━━━」
返答を待つ前に一瞬で私の目の前。
大きな鎌を振りかぶって今にも私の首を掻っ切ろうとしている。
見えている、鈍臭いはずの私がそれを見切っている。
いやでもどう避ければいいの?
1秒もしないうちに私の首は飛んでしまう。
左右は当然ダメ、変わらない。
脳は判断を待っている。
ただ、私はもう人間ではなかった。
体が動いている。
勝手にとも言えるほどに体が反撃に出ている。
手に持っていた刀を抜刀、私の左側から来る鎌を飛んで避けた。
驚きと共に失笑。
どうやら私はこの仕事に適任らしい。
分からないが、体は動いてくれる。
私が考えるべきは、どうこいつをシバくか。
とりあえず、ぶった斬る?
技術もクソもなく、ただ思い切り落下とともに思い切り振り下ろす。
「おっと、室内で本気出しすぎ。」
カウンターっていうのは本当にどうしようも出来ない。
大きく振りかぶってる私の腹に綺麗に蹴り上げを食らわせた。
「がふっ……!」
「喧嘩だからね?私達本気出したら余裕で学校崩壊するんだから。」
足の先に私を乗せたまま説教まで喰らわせられる。
痛みはあったが、既に回復している。
「まあ、実力は十分だね。その時がきたら正義を語る馬鹿達を殺しに行くから身構えといてね。学校に通うもよし、君をその境遇にさせた人らを殺すもよしだけど、用が済んだらここに帰ってきてね。」
「なんで門限があるんだよ。」
「死に行く君を助けてあげたのは私だけどね。」
「ありがた迷惑だよ、いっぺん死ね。」
ソファーに倒れるように座る。
「できるなら最初からやり直させてくれたらいいのに。」
「それはエゴだよ。今の君の性格があるから変わろうにも変われないだけ。頭強くぶつけて記憶なくしてみたら?優等生になれるよ。」
「あんたの方が記憶なくしたがいい。その減らず口を聞かずに済む。」
「確かに、それは賛成ですわね。ここに黒板消しありますわね、投げます?」
笑顔で黒板消し2つ持ってきた。
武器使えよ。
「リオ。」
「……なんだい?」
「彼処にUFOがいますわ。」
「おお。」
「ベタすぎる。」
当然気をそらすことなどできるはずもなくキリカはそのまま黒板消しをひとつぶん投げた。
なにやってんの本当に。
「きあさん、喧嘩とはこうしますのよ?」
リオはそのまま黒板消しをキャッチした。
が、もうひとつを恐ろしいスピードで詰め寄って顔に押し付けるようにして殴った。
「ぶはっ。」
「このままチョークの粉で化粧いたしましょうか?」
「けほっ……可愛くお願い。」
「承知しましたわ、因みにリップは血ですわよ。」
どこからともなく手に現れた銃を口の中に突っ込んだ。
やっぱり喧嘩じゃないでしょ。
これを馴れ合いって言うんだったら私が今まで見てきた世界はなんなんだ。
……私が付け入る隙も失ったので、ソファーで観戦することにした。
目の前で起きてる世紀末な出来事を傍観していたら、再び眠気が来る。
「睡魔は来るんだ。……鬱陶しいなぁ。1番いらないのに。」
横になって寝ようとする。
私の刀を自分の近くに立てかけようとした。
「なんて名前なんだろう。」
刀ってよく名前ついてる気がした。
コレにも名前がある?
『おう、やっと俺に目を向けてくれたな。』
どう見ても、刀が喋りかけてきてた。
男の声だし、私に男の関わりはゼロだし、こんな異常な状況だ。
それくらい有り得る。
「……にしてもキモ。」
『ちょいちょい、その言い草はないだろう!』
「なんでもいいけど、しつこいからもう二度と喋らないで。」
『当たりが強くないか?』
「どうせ私が貴方を使わなければただの鉄の塊でしょ。黙って言うこと聞いて。」
『お、お前……思いやりというものがないのか……?』
当然表情がないからどんな顔してるのか分からないが、声色は感情の起伏が激しい。
こういうタイプ嫌いなんだけど。
「物に情を注ぐのは子供だけ。喋らずに使われてよ。」
『名前だけでも覚えてくれないか……。』
「なら、とっとと言って。私眠いんだけど。」
『血咲だ。』
「そう。あたしが許可するまで二度と喋らないで。」
『ちょ……。……はあ、噂にゃ聞いてたが鮮血少女ってのは終わってる奴が多いな。』
どうせ何言っても変わらないし、そのまま寝ることにした。
「……ん…。」
『うおおっ!?なんだ!?』
「今度は何?」
『いや、急に俺を抱き抱えるからよ。』
「……ああ、癖。」
昔から、何かを抱いて寝るのが癖。
身近にあるものならなんでも。
今までは、ぬいぐるみを抱いてたけど。ここにはそんなものもない。
気付けばコイツを抱えてしまった。
「性別あるのか知らないけど、女の子に抱かれてるんだから嬉しいんじゃないの。」
『お、おう……。』
「寝る、喋らないで。」
『まだ何も説明出来てないんだがな……まあいいか。』
何か言われた気がするが、睡魔が先に私を暗闇へ誘った。
暗く、暗く。
深く、深く。
ただの睡眠のはず。
私の意識は、何かの奥深くに進んでいる。
暗い……?
……赤黒い。
暗闇じゃない。
突如、水中にいるような感覚。
体の感覚はある。
どんどん沈んでいく。
息苦しくなって口を開けた。
途端、理解した。
水じゃない、血の中だ。
なにかの鼓動が強く聞こえる。
ドクン、ドクンと響く。
ここはどこ。
自然と目が開く。
そこには比喩なく、鎖で縛り付けられた心臓があった。
また分からないことだらけだ。
真相を探るなんてない。
私は息が続かなく、肺が血で満たされる。
苦しいのに、それが心地よかった。
血の味がする。
──────美味しい。
「──────あ……きあ。」
「ッ……。」
誰かに揺さぶられて目が覚める。
気持ちの悪い朝だ、良くない夢を見た気がする。
「酷くうなされていたけど、大丈夫かい?」
「……ん。」
視界にははだけた制服姿のリオがいる。
準備中なのか、ナニをしていたのかは知らないけど。
「多分血が不足してるんじゃありませんの?あんなに大量に出血して、まだ1度も血を飲んでいないでしょう?」
声が聞こえる方を向くと、髪型をセットしているキリカ。
こっちはこっちで想像通りだった。
「……飲まなきゃいけないの?」
「そうだね。私達鮮血少女は血でできてると言っても過言じゃないし。幸いにもここは学校。適当に1人襲いなよ。その状態が続くとずっと気持ち悪くなるよ。」
「……はあ。」
結局、また変わらない日常を送らなきゃいけないか。
「鏡は。」
「お待ちになって、私が使ってますわ。すぐ終わらせます。」
素早く髪を整えて、私に場所を譲った。
そうして、多分人生で1番大きな声を出す。
「ハアアアッ!?」
「……どうしたんだい?」
「いやっ……髪が……白くなってる。目も赤い……。こっ、これ何!?」
「さあ?鮮血少女になったからじゃない?私も鮮血少女になってから八重歯が異常に伸びるようになったんだよね。」
にいっと口を開いて、尖った八重歯を見せてくる。
「私は爪がよく伸びますわ。オシャレをするのにはよろしいのですが、銃は使いにくいですわね。」
続いてキリカも爪を見せびらかす。
ちゃっかりネイルもしてる。
「私っ、髪……ッ。…………はあ。コレ校則いいの。」
「それ私見て言えます?」
「アンタは金で何とかしてるのかと。」
「私も一応青いしね。地毛だけど。」
「校則ないの、ココ。」
「黙らせてるだけだよ。ほら、人間ってやっぱ死にたくない時は言うこと聞くよね。」
「脅したら1発ですわ。」
少し冷静になって私のこの長くて白い髪を見る。
まあ……綺麗ではあるけど。
目立ちすぎる。
「まあ、一応なにかあったら助けに行くよ。用があったら教室に来てね。」
どこに行くのにもこの白髪が目立ちすぎるのが嫌だ。
割り切るしかないか。
こうまでなってしまったならもう、投げやりだ。
なるようになればいい。
今の私には力もある。
気に入らなければ潰せばいい。
「そうそう、武器はしまうことができるよ。」
「……どうやって?」
「刀で貫かれたところあるだろう?そこに刺す。」
「は?」
「私はこれで首をやられたからね、首にこうすると。」
変形する鎌は畳まれていて、それを首に差し込むように入れた。
血などは出ない、亜空間に消えていくように収納された。
「出す時も一緒。手を突っ込めばいい。」
そう言われて、恐る恐る血咲を手に取る。
みぞおちの辺り……だったかな。
その辺にあてがうと、力を入れずとも入っていく。
水の中に指を入れるようにスルスルと。
「キモい……。」
「慣れだよ。じゃ、頑張ってね。」
そう言って、リオは窓からどこかへ言ってしまった。
「リオはサボり魔ですので。ここの鍵は私が持っております。ここに用があるなら私までお願いしますわね。」
キリカと共に空き教室の扉から出る。
……ここ、3階だったか。
私の教室は2階。
「キリカは何階?」
「私は2階ですわ。」
「同じだ。……この組み合わせ、目立ちすぎでしょ。」
「今日ばかりは、貴方の方に視線が集まりそうですわね。」
知らない白髪の女がこの学校の制服着て歩いてるから、それはそう。
男女関係なく、私を見る。
「えっ誰……?西園寺さんのお友達……?白髪の子なんていたっけ?」
「うわ!すっげー可愛い!転校生か?」
「見ろよ……目が赤い。カラコンか?めちゃくちゃ似合ってんな……。」
だから嫌なんだ。
目立つのは好きじゃない。
……でも、いままでの生活と比べたらちょっとは変わるのかもしれない。
……流石に同じクラスの奴らには嫌われるだろうけど。
その時は、全員黙らせる。
なんだ、力を持って結構楽しい。
こっちを選んで正解だったかも。