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事故る奴は不運に踊る……!?

 親友の窮地に()せ参じたサンシャインが背を妖精の短い手にあてられると、その張った胸の間が黄金色に輝いた。

 サンシャインの胸が、跳ねるように盛り上がる。誤解のないように申しておくが巨乳になったわけではない。岩のごとき厚い筋肉が胸部を覆い、併せて両肩が、左右の(もも)が、全身がパンプアップする。

 変容するサンシャインの後ろ姿に、親友のムーンライトが、


「なにそれ。ホントにゴリラじゃない……」


 ぼうとして(つぶや)いたが、冗談のような(たくま)しさと危機に現れる頼もしさに微笑(ほほえ)んだ。

 そして、ムキムキに隆起した筋肉を備える光の戦士が爆誕する。サンシャインが黄道の精霊・獅子座(レオ)を身に宿し、ボディビルダーも顔負けの肉体を披露する。


「べーちゃん」


 精霊にはリスクがあることを知るムーンライトが妖精に尋ねる。


「サンシャインとしし座(レオ)の相性って大丈夫なの?」

「心配いらないベエ。ムーンライトと同じく相性はバッチリだベエ」


 精霊とその行使者には相性があり、これが悪いと力を発揮できないうえ、寿命をいたずらに食われてしまう。

 前に妖精が、精霊を身に宿す行為は臓器の移植に似ている、と述べたが、今月初め妖精は千殻原で精霊・獅子座を回収した。そして解析し、サンシャインとの相性が抜群に良いことが分かったため、今回はためらわずサンシャインに預けた。

 ちなみに、陽の誕生日は八月十四日であり、ちょうど獅子座にあたる。


「あはっ、見てましたよ、見てましたよぉ! あなたが調子悪そうなところ! 黄道の精霊を宿したようですが敵ではありません、飛んで火にいるなんとかです! 蟹座(キャンサー)、二人まとめてブチ殺してやりなさい!」


 黒き衣装の少女が興奮した口調でロブスターに言い渡した。

 サンシャインは先に膝を突いており、それを見逃す少女ではない。いくら黄道の精霊を宿そうとも、同じ黄道の精霊を宿したムーンライトは倒している故に自信があった。

 ロブスターが右の(はさみ)を下げ、シャコパンチを繰り出す。目にも留まらぬ高速の打撃。だが、この鋏を両手で挟んで止めたサンシャインが、


「ふんっ!」


 力を込めると、殻が破砕する激しい音が鳴る。

 破片をにべもなく放るサンシャイン。ロブスターの鋏を力で割り砕いていた。


「さてと。さっさと終わらせて、ムーンライトにエビの出汁(だし)がたっぷり効いたおかゆを作ってもらおう」

「……クッ」


 肩を怒らせて寄るサンシャインに、少女が初めて顔を曇らせた。

 サンシャインの肉体はゴリラの一言に尽きる。これは笑い事ではない、ゴリラのごとき肉体を備える女が怒りを(あら)わに近付いているのだ。人が徒手でゴリラに挑めば間違いなく殴殺される。

 ロブスターが怒りを警戒してか胴を折り曲げて後ろに下がる。この空いた間合いにサンシャインが立ち止まり、広げた左手を掲げ、同じく広げた右手を腰の高さに構えた。


「はあああぁ……」


 気を吐いたサンシャインが、燃やす両手で円を練り上げるように描く。

 燃え盛る炎の円は太極図の陰と陽を彷彿(ほうふつ)させる。そして、両手を一度引いた後に突き出し、


「〝サンシャイングランドスラム〟!」


 サンシャインが一面を覆い尽くす業火の波を放つ。


「まずい、キャンサー!」


 迫る炎の波に、跳躍した少女が退避を命じるが、後ろへの回避しかできないロブスターに逃げ場はなかった。

 ロブスターが踊るように身(もだ)える。こうなっては再生能力も関係ない、業火を浴びてまさしく焼きエビとなる。


――ヤァクサァァイッ!


 軍配は上がった。ロブスターが断末魔を上げて消滅した。

 だが、サンシャインも力を使い果たした。


「エビよ、天に(かえ)れ! ……あぁ」


 宙に向かって拳を突き上げたサンシャインだが、その直後よいどれたようにふらつき、前のめりに倒れた。

 獅子座の変身が解け、元の戦士の姿に戻る。そもそもサンシャインは38度を超す熱を患っており、無理が(たた)った結果となった。


「サンシャイン!」


 ムーンライトが呼びかけるが、気を失ったサンシャインから返事はない。この二人に、


「やった、チャンスだ。ブチ殺してやる!」


 宙に浮かぶ黒き衣装の少女が襲い掛かった。

 少女が所属するヘイズ、コスモスが呼称するブラックホール団では、願いの成就を報酬にコスモスの殺害を命じられている。殺した戦士の多寡に応じて大きな願いを(かな)えられる決まりとなっており、だからヘイズに所属する者は光の戦士を突け狙う。

 少女がほくそ笑む。これで恩人の(かたき)がとれ、更に大きな願いを望める、と。しかし、思ってもいない不運が少女を襲う。


「……うぐっ! ぐふっ!」


 肺が急に痛みを訴えたために少女が口を押さえてせき込んだ。

 止まらない(せき)に苦しむ少女。胸の奥、肺と心臓がキリキリと締め付けられるような痛みを発している。

 程なくして咳が治まった少女が、痛みをこらえながら押さえた手のひらを見ると、赤く泡立った血が付着している。


「な、なに、これ。そんな……」


 少女が青ざめる。精霊が人の寿命を食らうことは前述しているが、少女は所属するヘイズで精霊の力を使い過ぎた同志の話を耳にしている。

 話によると、肺が侵されたら厳しいと聞いている。恩人も亡くなる前に咳をしており、自分の寿命が短いことを知った少女が愕然(がくぜん)とした。

 好機を忘れて宙に浮く少女。さらに不運は続く。


「ムーンライト! サンシャイン!」

「すみません。遅くなりました」


 今の少女にとって厄介な敵が二人現れた。

 空から現れた二人の戦士。紬実佳と環が変身した姿である。ふわりとした黄色のドレスをまとう戦士・トゥインクルスターと、淡く光る環をまとった紫の衣装の戦士・リングレットアークが到着した。

 空を見上げたリングレットの瞳に、宙に浮かぶ(きゅう)(てき)の姿が映る。


「あの女……」


 リングレットが険しい顔を浮かべ、歯を固く食いしばって呟いた。

 黒き衣装の少女はリングレットにとって無二の友人を殺した憎き女。だが、千殻原では感情に任せて反撃を食らった。倒れているサンシャインも気がかりのため、リングレットが飛び出したい気持ちを我慢する。

 少女が背を向けて逃避し始める。これにすかさずムーンライトが、


「二人とも、逃がしちゃだめ! あの子を追いかけて!」


 二人の後輩に指示する。


「行こう、リングレット!」

「オーライ!」


 トゥインクルとリングレットが目を合わせて(うなず)き、逃げる少女を追いかけた。


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