玉突き事故と心太
心太は ところてん と読みます。
あらすじで書いた通り、本文は投げっぱなしジャーマン状態となります。
一応の蛇足として、あとがきにその後をちょっと書いておきますので、そこで溜飲が下がればいいなと。
「ツキボーラ・テニュグサ公爵令嬢! 嫉妬に狂った貴様が行った、アミーリエへ振るった残虐な行いの数々。
決して許すわけにはいかん! 貴様との婚約はこの場で破棄とし、真実の愛を教えてくれたアミーリエと婚約すると、ここに宣言する!!」
ここはトコロテン王国。
読者の皆様が想像した、どこかのパーティー会場ではない。
ここは王立の学院。
王太子とその婚約者が入学して、わずか2ヶ月後の事。
その大食堂で起きた事件である。
ちなみに、この作中に出てくる人物達は大体がキラキラしいイケメンや美少女達ばかりなので、容姿の描写は差し控える。
更に言うと容姿のみならず動きの描写も、ほとんど書かれる予定が無い。
話を戻す。
ツキボーラ嬢と王太子は10年以上の長きに渡り、問題なく婚約を続けてきた間柄。
学院を卒業し次第婚姻をむすぶ予定であった。
だがしかしこのトコロテン王国の王太子が言うには、ツキボーラ嬢が王太子と真実の愛を育んでいるアミーリエ嬢と呼ばれた平民の娘に嫉妬した。
そしてその感情のままにアミーリエ嬢へ残虐な計画をたてたそうだ。
「オゴノール殿下、私にその様な記憶はございません。 訴えの精査をお願い致しますわ」
大食堂でこんなやり取りをしていては、いい見せ物である。
生徒達が「なんだなんだ」と寄ってきて、この言い争いの顛末を見届けようとしていた。
ちなみに彼らは観客気分である。
アミーリエ嬢は確かにトラブルばかりだが、誰がやったかの証拠等は一切ない。
もしかしたらこの茶番劇で、犯人を炙り出そうとしているのかも知れない。
そんな心持ちでいたからだ。
「そんな言い訳は聞かぬ! 悪いのはツキボーラ、貴様と決まっているのだから!!」
「…………まあ、王太子ともあろう者が問答無用ですか」
これを聞いた観客達に、衝撃と動揺が走る。
お気楽な場面ではなかったのだ。
これは本当に、ツキボーラ嬢を断罪する気なのだと。
しかも真っ当な捜査、情報の精査もせずに。
こんなのが我が国の王太子なのかと。
これはマズい。
国にも法が有ると言っても、それを無視できる立場である王へ、こんな奴がなってしまえば暴君まっしぐらだ。
王座に座られている間は、暗黒時代がやって来てしまうかも知れない。
かも知れないじゃなく、確実に来るだろう。
現王の年齢も年齢だし、王子は3人いて、まだ下の2人に期待すれば良いだけだが、王子筆頭がこれでは他の王子も期待できたものではない。
こう感じてしまった観客達の目は、王太子へ向ける瞳の熱が消えていた。
~~~~~~
ツキボーラ公爵令嬢の婚約破棄騒動から、およそ1ヶ月。
彼女は婚約破棄となり、学院を去り自領へ帰っていった。
それで直後に王太子は「真実の愛の勝利だ!」だなんて喜び浮かれていたはずだが、またもや王太子がらみで騒動が起きる。
「アミーリエ! お前には失望した! ツキボーラ嬢は無実で、全てお前の自作自演だったなんてな!!」
「そんな!? ワタシはそんな酷いことなんてしません!」
「ええい、これは本当の愛を教えてくれたオキュートリア侯爵令嬢が、もたらした情報だ!」
「信じてください! ワタシの身は潔白です!」
「信じられるか!!」
再び学院の大食堂でおきる諍い。
この騒ぎを聞き付けた生徒達の頭によぎったのは、記憶に新しいツキボーラ嬢との件。
総員がショックを受けた。
こいつはマズい。
この王太子はハニートラップに弱い。
学院へ入るまではツキボーラ嬢とうまく行っていたはずだろうに、入学して3ヶ月でこれである。
王太子、ご乱心。
この王太子は、まさか呪われたのだろうか?
呪いであるなら、どんな魔法だろうか、最悪として禁忌の呪術なのかもしれない。
そもそもとして、根本の術者が存在するのか?
国王陛下は、この事態をご存知なのか?
ご存知なら、なぜ対処をして下さらないのか?
観客達の思うこと、願うことはあれど、この乱痴気騒ぎはまだ続く。
~~~~~~
「オキュートリア侯爵令嬢! そなたは無垢なるギドフーイ男爵令嬢を、嫉妬から謀殺せんとならず者を送り込みおって!」
「謀るなど、人聞きの悪い。 身の程を教えて差し上げようと、ただお説教をしただけですわ」
「それは言い訳か!? 最愛のギドフーイを怖い目に遭わせておいて! そなたとは婚約破棄をするっ!」
またか。
前の騒ぎから1ヶ月だ。
もう、うんざりだ。
観客も、こんな調子では疲れてしまう。
氷点下まで、視線の温度が落ち込んでいた。
~~~~~~
「ギドフーイ! 愛を蔑ろにした毒婦めっ! 婚約破棄だ!!」
「オギー、話を聴いて!」
「断るっ!!」
観客は見飽きて、集まりが悪くなった。
~~~~~~
「ラーゼチネア!! 婚約破棄をする!」
「なんで!? アタシはヒロインのはずよ!!」
見向きもされなくなった。
~~~~~~
「プリーニム!! 婚約破棄――――」
~~~~~~
「ツロミック! 婚約h――――」
~~~~~~
なぜこうも飽きずに、この王太子は婚約破棄を繰り返すのだろうか。
そして、そんな王太子にすり寄る令嬢達。
何が楽しいのか。
婚約破棄されると分かっていて、なぜ王太子へすり寄ろうとするのか。
この馬鹿騒ぎは1~3ヶ月の感覚で繰り返され、王太子が3学年で学院を卒業するまで決して終わりは来なかった。
観客達は王太子が2学年へあがった頃には、観客間で密かな賭け事として続けられた。
何ヶ月で別れるのか、はたまた別れないのか。
その賭け事で財を為した胴元が居たとか居なかったとか。
一番恐ろしいのは王太子をお止めする役目を持った、騎士団長や宰相や魔法師団団長等の子息達も、同じ間隔で婚約者の変更を行っていた事だろうか?
結局この異変は究明できず、トコロテン王国のみならず世界全ての出来事を含めて尚【世界七不思議】のひとつとして、数え上げられている。
そして、世界が終わるまでにいくら懸賞金を積み重ねても、決して解明される事は無かったという。
玉突き事故で心太みたくにゅる~っと。
次から次に婚約破棄される令嬢が現れる。
それをネタとして書いてみた。 ただそれだけ。
恋多き王太子が出てくるので、恋愛のジャンルへお邪魔してます。
蛇足。
この王太子のご乱心を、国王陛下はもちろん知ってました。
ただ、ツキボーラ嬢と婚約破棄したのは正当な理由が有ったのだろうと、もう少し息子を信じていたかったので静観。
でも更にやらかしたので、見限って方針転換。
ちなみに陛下は年齢も年齢だけど、別にヨボヨボとか満足に歩けないとかも無いし“いよいよ”になるのは、あと10年以内かな? 準備だけはしとくかー。 程度です。
なんだかツキボーラ嬢と婚約破棄してから、この騒動に乗じてもしかしたらウチでも王太子との婚約が狙えるかも? なんて輩の動きが頻発。
色ボケ王太子を利用して、なんらかの野望なり犯罪計画なりを企む連中を釣り上げる、エサとして使うことを国王が決めた。
すり寄った令嬢たちの家や周辺を徹底的に調べ、悪い所だったなら婚約破棄されたらその瞬間に家コミコミで断罪。
そうやって国内の綱紀粛正に成功したらしい。
そんな流れが読めたマトモな貴族家は、距離をとる動きを察知されて綱紀粛正の流れを邪魔しないよう王家から口止めされて、静観していたとか。
もちろん真っ当な家や令嬢だったなら、詫びとして婚約者の世話をしてアフターフォロー。
……まあ真っ当なご令嬢が、あんな色ボケにひっかかるなんて、最初の被害者であるツキボーラ嬢以外にそうそう無いわけですが。
当然としてこんな大騒動をおこした王太子は、卒業後に失脚。
王籍剥奪の上に去勢されて、昇進できないワケあり一般下級兵士として、情勢に不安がある国との国境沿いへ配備され続けると発表された。
なおタイトル的に元王太子は、その国境沿いに屯する兵士達の男娼になっているんだろう? と言われますが、その辺は読者様の好みがありますのでご想像にお任せします。
一緒に本文でちょろっと出てた王太子の側近連中は、側近として王太子の奇行を止められず、自分達もおかしくなっていた罰として、去勢の上平民の身分で放逐。
そのうち各所で問題を起こして、勝手に自滅していったとか。
もちろん側近達へ近付いた令嬢たちも精査され、悪い企みを持っていた家には、その企み相当の罰が下った。
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蛇足2・人物名等の由来
トコロテン王国
名前のまんま。 心太。 にゅる~。
オゴノール王太子
オゴノリって言う、心太の原料のひとつ。
ツキボーラ・テニュグサ
心太を突き出す棒と、テングサって言う心太の原料のひとつ。
アミーリエ
網目。 心太を突き出す箱の、心太が切れて出てくる部分。
オキュートリア
おきゅうと。 wikiに、関連項目としてあった。
ギドフーイ
いぎす豆腐。 wikiに、関連(以下略)
ラーゼチネア
ゼラチン。 心太……寒天は植物性。 ゼラチンは動物性。
プリーニム
プリン。 ゼラチンに引っ張られて、なんとなく出てきた。 普通のプリンにゼラチンは使わないが、使っているものもある。
ツロミック
黒蜜。 心太に(酢)醤油をかけるのが一般的な地方と、黒蜜をかけるのが一般的な地方と、別れているらしい。
ちなみに自分は酢醤油。