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第五話 半人狼のお宅訪問

「ありゃあ大丈夫か?」

一生このまま牛車の中でシェイクされ続けるのかなと意識がぼんやりし始めた時に、聞きなれた声とともに光が差し込んでくる。どうやら目的地についたらしい。

「頼丸さん俺の首まっすぐ向いてますか」

「うーん、今は斜めだなぁ」

「もうだめだぁ……。」

今の俺ならスライムになれるきがする。こう、どろ~って。液状化できるとおもう。

「やっぱり牛車は辛いものだよなぁ。俺も苦手でなできる限り歩くことにしているのだ」

「じゃあ……なんで乗せたんですか……。」

「一応養女だからなぁ君は」

「そうでしたね……。」

生まれたての小鹿のほうがまだしっかりしてるレベルで体がマナーモードに入ってて身動きができないんですけどどうしたらいいんだこれは。わぁ、数珠の遠心力凄いなぁ……手首が痛い。

「どれ、よいしょっと。このまま運ぶ。お前は戻ってくれ」

御者に頼丸さんが声をかけると同時に俺の腹に腕がまわされひょいと抱き上げられる。確かに俺は、19歳日本人男性の平均身長より低いかもしれない。筋肉もそんなについてないかもしれない。だからといってそんな子供みたいにひょいひょい持ち運べるほどスリムサイズじゃないとおもうんだけどなぁ……?

「ん?なんだか不満そうだがどうした」

「半分魔物だと筋力にバフのるのかなって」

「馬糞?」

「クソじゃなくて、なんだろうこう……自然と強くなるというか。普通の人間よりそもそも丈夫だったりするのかなって」

自称女の晴明は俺より身長が高かったし、簡単に抱き上げた。そして現在進行形でバックみたいにして頼丸さんに持たれている俺。一つ確かなのは、晴明だけが雑なんじゃなくてこの人も雑。つまりだいたいこの人たち雑ということだ。あれかな……度量の広さ大事ってことかな……。そういう問題じゃない気もするんだけどな……。

「ん~なんともいえんなぁ。個人差だな。人や人狼であればすぐに死に至るような場合でも半端が故に死にきれず生き残るという場合もある」

「いや、そんなそこまでのことじゃなくて……。」

「あぁ、すまん極端な例だったな。だが親に似る子と祖父母に似る子がいるように、半分が魔物だからといって必ずしも魔物の血が強く表に出るわけではないのだ。そもそも俺も元々はかなり貧弱だったからなぁ」

いや、俺を軽々運んでる人に言われてもなんの信憑性もないんだけどな?という視線を感じたのか、苦笑いで返される。

「俺はなぁ母上の顔を覚えておらん。ただ血の匂いを覚えている」

「え、お母さまもしかして……殺された、とか……?あ、すいません辛いことを」

「気にするでない。俺から話し始めたことだ。それに殺されたわけではない。ただ母上は俺を産んだ時内腑のどこかをやってしまわれたのだろうなぁ……それで亡くなった。だから俺は、母上を食った」

「は、い……?」

今、母親を食ったっていったこの人。一気に体温が下がっていき、体に力が入る。

「案ずるな、お前を食ったりはせんさ。それに、なにも物理的に食ったわけじゃあない。流石にそれはいくら何もわからない幼子だった俺でも嫌だとも」

「じゃあ……どう、いう……」

「人狼というのはな、いくつか種類があるのだが俺の母の場合はその身に狼の霊が宿ったものだったのだ。つまり、だ。俺は生まれた時は別に半人狼ではなくただの子供として生まれたのだ」

血統じゃないから、そのまま半分こで半人狼になったわけじゃないってことだろうか。あくまで母親の体質だった感じというか。とりあえずそんな感じで相槌うっとこう。

「だが、俺は体が弱かった……。母に宿っていた狼の霊はそんな俺が放っておけなかったらしい。……故に霊は俺に自分を食えといったんだ。そうすれば俺の体に宿れるからとな。母上が長くないこともこのままでは自分も死ぬだろうということも直感的にわかっていたんだろうなぁ……俺はそれに頷いたのさ」

目的周辺についたらしく、ひょいと地面に降ろされる。こうしてみると190cmはありそうなほど背が高いな……おかげで彼の表情は今癖のある髪もあって覗くことが難しい。

「ただ……父より受け継いだ神の血と、そもそもあまり母上ほどに素養がなかったことが相まって……霊は力だけ残して消えてしまったんだ。おかげで俺は、人への戻り方がわからずわけもわからず駆けずり回り、ようやく人に戻った頃には知らぬ場所にいた。それが都で、安倍邸だったわけだ」

「えっ、そこでじゃあ晴明と出会ったの……?」

「あぁ。俺もあいつも母を亡くしていた。そして二人して幼名が童子でな。まぁ、俺の場合は母上が結局つけてくださらなかったからなわけだがな、ま、そんなあたりがきっかけだ」

「晴明も、頼丸さんも母親が……」

「ん?お前も母がいないのか……?」

「いないというか……名前も顔も知らなくて……あれ?」

「おぉ、夕子。いま連れてきたところだ!紹介しよう、俺の妹の幸だ」

壁に触れていた女性の片手をそっと包んでから、腰へと手をまわしてそのままこちらへと進んでくる。

 女性はこちらを見ているが、視線が合わない。あぁ、そういえば晴明が奥さんは目が見えないと言ってたような。でもなぜだろう、彼女は確かに何かをじっと見つめてこちらへと歩いている。

「幸さんとおっしゃるのよね。私は夕子。初めまして、貴方の義理の姉になるものです。ご覧の通りだから、頼りないかもしれないけれど相談の相手くらいにはなれますからね」

いつのまにか頼丸さんの手が離れていた。それでも彼女はまっすぐ俺の方へ歩いてくる。

「お姉様、よろしくお願いします」

「えぇ。あの……一つ、よろしいかしら」

「はぇ?あ、いやはい。大丈夫です」

頼丸さんからなんかすごい殺気こもった視線飛んできた。

「貴方……蛇か竜か助けたことがありますか?」

「蛇はともかく竜を助けることって……?」

「ん~そうですねぇ。滝に挟まっているのを抜いて差し上げたりとか」

「えっ、抜く?抜くっていいました……?あっすいません。そんな力ないですよ?旦那さんみたいに力もちじゃないんで……普通、普通なので……。」

また頼丸さんから殺気とんできたからとりあえずもちあげておこう。

「ふふ。丸殿はそれはもう力持ちですもの。でもふしぎねぇ。こういう動きで、細長いものは蛇か竜だと習ったのだけれど」

手をくねくねと動かせて、これくらいなのと長さも示してくる。うん……蛇かな。それで竜だったらどんだけミニマムな竜なんだって感じだし、蛇だね。

「いや……蛇も特に助けた覚えはないです……あ、でも。やばい幽霊に追いかけられた時に白蛇が出てきて助けてくれたことは……何度か」

「まぁ、やっぱり。きっと御神使さまよ。ふふ、余程に気に入られているのねぇ貴方を心配そうに見ていらっしゃるわ」

「誰が!?」

思わず後ろを振り向いたけど、誰もいない。いやもういっそいて。お願いだから。いないほうが怖いんですよもはや。

「夕子、驚かせてしまっているぞ」

「あら?そうでした。初めてあったのですものね。大丈夫ですか?」

「何から大丈夫の判断していけばいいのかわからなくて……」

「まぁ、大丈夫ですよ。ゆっくりでいいのですから」

よしよしと頭を撫でられる。なんかすごい、独特なというかのんびりしていらっしゃるというか……。でもなぜか心が落ち着いていく。

「ひとまず夕子部屋に戻ろうか」

「あら、ずるいわ。幸さんと私もお話もっとしていたいのに……。」

ぽろぽろと目から涙がこぼれていっている。頼丸さんは慣れたようにかがみながら

「夕子……俺よりも幸がよいのかぁ……?」

いやお前も泣くのか!?!?二人して泣かないでよ!?俺ここでどうしてたらいいんだ!?!?

「すまんなぁ、似たもの夫婦でな。幸殿こちらへおいで」

「えっと……?」

「ほっほ。儂は頼丸の父。まぁ、血は繋がっていないんじゃがのう」

「あ、じゃあえっと……一応その……。」

「あぁ、話は聞いておる。あの二人はあぁなるとしばらくは続くでなぁ。爺の話を少し聞いておくれ」

白髪の顔に皺が刻まれている人が現れる。頼丸殿の養父、だから確かにそこそこ年はいってるだろうけど、言葉遣いの割には若いような……んーあれだ、初老の男性くらいだ。

「でも、頼丸さんから離れるの少し怖くて」

「あぁ、あぁ。それでよい。守る術を心得ておる。では隣の部屋にしよう。はて、掃除しておったかのぅ」

「あ、無理はなさらず。それに汚れていたら掃除手伝いますよ!」

「おぉよいこじゃあ。うんうん、可愛いこじゃなぁ。よっとせ」

驚くほどに、激しく障子は開きました。ズダーン!っていったんだけど、頼丸さん驚いてないんだよなぁ……夕子さんはちょっとびくっとなってたからぜったいこの爺さんの腕力可笑しいんだよなぁ……。えぇ……爺さん人何パーセントなの。あっ、でも100%とか言われたらそれはそれで怖いな!?やめとこ聞くの。

「すまんのぅ、たてつきがわるくてのぅ……」

「そ、そういう……問題ですかねぇ……?」

「後で蝋をぬっとくでなぁ」

「聞いてます……?待って、いきなり耳遠くなっちゃった……?」

「おぉ、大丈夫じゃな。ではこの部屋で話でもしましょうか」

違うこれ聞く意志がないやつ!!そうだね!お部屋ちゃんと綺麗だったよ!

「おーや、あんたこんなとこにいたのかい。ちょっとどいておくれ。はい、幸ちゃんこれをお飲み。さっき沸かした湯だ。ちゃんと冷まして飲むんだよ」

わぁ、ほかほかのお湯だぁ……。いや、お湯渡されたの生まれて初めてだな……っていうか。

「い、いつのまにいらっしゃったんですか!?」

「何をいってるんだい。この家は私の生まれ育った家、私の庭さ。いつでも呼べば現れるさ」

「か、からくり屋敷かなにかでここ」

「ばぁさんや、儂に白湯はないんかのぅ」

「ほいよ」

爺さんの扱いがあまりにも雑じゃないだろうか……。いやまさかここで雑な扱いレコード塗り替わるなんて思わなかったよ。塗り変わらなくて全然よかったんですけどね……。

ひとまず、湯を飲んで落ち着いてからなんかこう……全部考えることにした。湯飲んでる間くらいは平和でいたい……。あ、お湯うめぇ……。あぁ、なんかもう起きてからなんでもかんでも起こりすぎたからかな……眠くなってきた……。首が古時計みたいにこっくこっく動いてしまう。

「疲れたようだのぅ……ばあさんや」

「ここで寝な!」

「んぅ……?」

左向いたらなんか布団準備されてるんですけど。さっきなかったのに。いやこのばあさんも人の配合分おかしかったりしない……?

「ひとまずは休むといい。起きた頃にはさすがに丸たちも戻ってきているからのぅ」

二人だけの世界からですね。わかります。

「おこと……あまえ、て……」

ふらふらと誘われるように横になると、すぐに眠りに落ちたのだった。


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