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第四話 半人狼の養子で半吸血鬼の夫になれっていわれたらどうする?

 長い黒髪はそのままに、薄い着物一枚だけ着て、小さな皿で何かを飲んでいる。朝日に照らされた白い肌には赤みがさして、喉がうまそうにこくりと音を立てていた。寝起きには情報量が多すぎるんですが。

「起きましたか、幸。どこか違和感などはありますか?」

「俺がいまここにいることに違和感があります」

「それは慣れていただいてよろしいでしょうか」

にっこり笑う人外の笑顔って圧を感じるんだね。初めてしったや。以降役に立つことがないのを祈りたい知識だな。

「幸殿が起きたって~?入るぞ晴明」

「どうぞ」

「俺の許可は!?」

「ここは私の屋敷ですが……?」

「くっ……!」

「晴明がまた朝からふっかけた様子だな。おはよう幸殿」

濡れたように黒い癖のはげしいくるくるパーマの男性が入ってくる。へにゃぁと笑っていて、高い背を曲げて俺に目線を合わせてくれている。

「あの、貴方は……?」

「俺は藤原頼丸という。晴明とは幼馴染でなぁ……よく巻き込まれている」

「晴明さんやっぱりそういう方でいらっしゃる」

「お察しよりももっとだ」

「うわぁ」

お疲れ様です。初めてあったのになんかすごい話が合う気がする。なんだろう苦労人気質?認めたくないけどそういうとこすごい通じ合ってるのでは?待てよ、この人藤原っていったしなんか、藤原って平安時代凄い権力もってたんじゃなかったっけ。この人の家にいかせてもらえば安泰では!?

「あ、あの!頼丸さん。頼丸さんのとこに住まわせてもらえませんか?」

「幸。こやつは半分人狼ですが、よろしいのですか?」

「えっ」

聞き間違いかな、人狼って。安倍晴明の口から人狼って聞こえた。

「そうだ。見せたほうがわかりやすいか。失敗したら晴明頼むぞ」

「任せておけ、殴り飛ばそう」

「優しさが来てくれんな相変わらず……さて」

癖のある黒髪がまたたくまに伸びていき、ガタイのいい彼の体全体を覆ってしまう。どこからか漂いだした臭いのしない煙が視界を遮り、その中から金の目が覗いた。

『このように。半人狼というやつでな』

「頼丸さんもそっち側だった……せっかく俺の味方が増えたと思ったのに!!」

タイムスリップじゃなくて本当に晴明の言う通り異世界に召喚されてた……!!異世界の平安時代だよここ!!いやよくわかんねぇけど!!だって、流石に日本の平安時代にばりばりに人狼やら吸血鬼やらの西洋ファンタジーモンスターいてほしくねぇもん!!せめているなら鬼じゃねぇの!?

「安心してください。この晴明がついておりますよ」

「一番の人外魔境が何言ってんだ!?」

「なんと、幸が酷い……うぅ……」

おいおいと袖でまた顔を隠して泣いているふりを始める。この人いっつもこんな感じなんですか?と視線で頼丸さんに問えば

『晴明気持ち悪いな』

「どうじぃ?」

『あっ』

晴明が腕を一瞬にして薙いだ。その直後、黒い狼はがくりと倒れた。

「頼丸さん!?」

「気にせずとも大丈夫ですよ、ただちょっと気絶させただけですので。人狼は丈夫さがうりですのでもう少しすれば目が覚めます」

「幼馴染の扱い雑じゃないですか!?もっと大事にしましょう?そんなにほいほいできないんですよ幼馴染って!」

「まぁ、確かにそれはそうですね……。ではすぐに起こしましょう」

絨毯みたいになってしまっている頼丸さんになぜかせいやっという声をあげて手刀を叩きこむ。止める暇ないというか、この行動予測して止めろというのが無理ゲーだとおもう。言語化しにくい短い奇声を発すると、狼は再び煙に隠れその姿が見えなくなった。そして天然パーマの青年が現れた。なんか途中で「あっ」とか聞こえて衣擦れ音したから、実質早着替えしてくれたんだと思う。とりあえず服着てたので感謝した。さすがに人が狼の見た後でさらに全裸の成人男性みるとか朝からきつすぎるんで。

「これでよいでしょうか、幸」

「幼馴染大事にしてっていわれた次の瞬間やった行動が幼馴染に手刀叩き込むなの非常にやばいと思います。というかその行動のどこでいいと思ったんですか!?」

「だってこれが一番早いもので」

「こいつどうにも人間の扱いが雑でなぁ……これでもだいぶましになったのだ。大目にみてはくれぬか?」

「貴方か!!貴方が甘やかしてるからですか!?駄目ですよ!ちゃんとしっかり叱ってください!」

「お前は晴明の母親か……?」

「違います!!そして笑ってんじゃねぇ!!!!」

「ふふっ……ふふふ」

また晴明のツボに入ったらしい。何?浅くないきみのツボ。もしかして箸転がしただけて笑っちゃうお年頃だったりするんですか?それとも俺がホップステップジャンピングしてる箸だったりするんですかね。それだったら仕方ないか~。ほんとか?

「まぁ、ようは俺がこの世界においての君の兄だと思ってくれれよい。ごらんの通りふりまわされるのは晴明で慣れているのでな。存分に我儘をいえ」

「……晴明さんの夫になるのはでも確定なんですよね?」

「俺も俺の骨は可愛い」

「どういうことですか!?脅されてるの!?ちょっ、晴明!!幼馴染脅すんじゃねぇ!!」

「脅してなどいないですとも。あぁ、頼丸の兄君に会いにいってみますか?」

「やめよ、やめよ晴明。おい、おもむろに身支度を始めるでないおい晴明。晴明?」

180cmは普通に超えてるだろう成人男性がめっちゃ子犬のように震えてるんですけど、お兄さんどんだけ怖いんだろうか。

「頼むぞ晴明。次は顔だと言われたのだぞ。な、頼む。頼むぞ?」

「顔か。死なんな」

「そういう問題ではないのだ晴明よ。また夕子にいらぬ心労をかけるのだ。それが一番困るのだ」

「本当によく泣くからなお前の妻は」

「そこが可愛いのだろうが!」

「よかったではないか」

「あぁ、そうだとも!」

あれ……?何かおかしいな……と首を傾げている様はマスコットキャラクターみを感じてすごい可愛いんだけど、はぐらかされてるよ頼丸さん。晴明の気持ちもわかるけど。そりゃ惚気られたら話そらしたくなるよね。雑すぎるけど。そして頼丸さんちょろすぎて俺は心配だよ……。

「さて、では幸殿。我が屋敷にて待っておく」

「え……?」

「流石に往来をどうどうと通ってしまうと、君が男であることは一目瞭然すぎるのでなぁ。後ほど車をこちらに迎えにこさせるからゆっくり着替えて。そうだな……軽く何か口にしておくといい」

「待って、これ外堀全部埋められたというか掘がもう息してないな!?」

「元より掘などないでしょうに」

「そうですね!!何も無いです!!!!」

俺を置いて!!話が進んでいくの!!!!置いて行かれてる俺の身にもなってよ!

「ではな~」

「あぁ。奥方によろしくな」

わぁ、いっちゃったよ……。一歩が大きいから一瞬で姿みえなくなっちゃったやぁ……。

もうこのさい養子はあきらめよう。だが夫はなんとしても阻止しよう!!そこを頑張るんだ俺!!

「幸、こちらへ。ひとまずこのあたりをなんとなく着て被っとけば問題はないでしょう。あれの奥方は目が見えないうえに、頼丸のことが以外はわりと気にしない性質でしてね。この着物を牛車の外に出しておけば姫君に見えますから」

「全てが雑なんですけど。どこから突っ込んでいけばいいんですかね?」

「腕はここに突っ込んでくださいな」

「あんた何気に天然も入ってるでしょ!?ボケとSが同居してる人でしょ!?イケメンだったら何でも許されると思うなよ!あっ、違う、女の人だった……いや?でもイケメンであることには変わりないし……??」

「ふふふっふ」

着物を一つ持ち上げたままその陰に隠れて笑っている。いやほんとどんだけツボ浅いんだこの人。表情筋仕事放棄してそうな顔してるのにめちゃくちゃ笑うじゃん。

「はぁ、幸は本当に面白い方だ」

「貴方が可笑しいんですよ晴明さん」

「よし、とりあえずこれでいいでしょう」

「聞いて!!俺の!話を!聞いて」

「一応ですが、これをお守りにどうぞ。寝ている間に取り急ぎ作ったものですが……」

すごい、全然人の話きかない。なんかテレホンショッピングみたいに突然ブレスレットっぽいの取り出したもんこの人。いや、ブレスレットにしてはちょっと長いかもしれないな。勾玉と、筒状のやつと、丸い真ん中に穴あいてるやつに全部糸が通ってるやつ。なんだろうこれ。

「退魔の術を仕込んであるお守りです。残っていた糸で作ったので長さがなんともいえないのですが……とりあえず数珠みたいにもっていただければよいかと」

「やっぱり長さミスったんですね……?」

「一応気を付けておくこととして、その数珠もどきは直接頼丸に触れることがないようにお願いします」

もどきっていっちゃったよこの人。怒られるよ。この時代にはもうたぶん仏教あるよね?普通に怒られるよねこれ。というか晴明って何教なの……仏教?いやそれならこんなに雑じゃないか。神道……?あ、もしかして陰陽師って宗教だったりする?それが一番しっくりくるかもしれない。

「はい……えっと、それは頼丸さんが人狼だからだったりします……?」

「はい。魔物の子ですからね。私たちは」

「今素手で渡してきましたよね?」

「鍛えてますから」

この人、日本語下手かもしれない……。何を鍛えたら素手が丈夫になるの?というか半分魔物の奴が作った数珠もどきが効く半分魔物の奴ってややこしすぎるんだけど。

「あのさ……晴明さん。ここって都でいいんだよね」

「えぇ。あっています」

「他にもその……ハーフ……半分魔物の人とかいるの?」

「いますね。というか魔物だけもおりますね」

「そちらは聞きたくなかったですね!?ってか半分の人他にもいるんだね!?」

「まぁ、魔物がいればおのずとそうなるかと」

そうだよね。それはそうだよね。当然だよね、ほら分母が大きいと、自然とね。

「いや、なんで都にそんなに魔物がいるの!?陰陽師って魔物を退治するのが仕事なんじゃ!?晴明さん、そもそも今日お仕事は!?」

「出仕のことですか?そもそも今日は私も頼丸も出仕してはならない日ですが」

「そんなのあんの!?」

「まぁ、私の場合は好きな時にそういった日にできますから」

「サボるのはだめだぞ!おい晴明!晴明!!」

「おや、車がきましたよ。さて、一応術をかけておきましょうね」

全力で袖をひっぱってみるが、微笑まれただけでそのまま軽く引きずられる。女ってうそでしょ。いや、吸血鬼半分入ってるとこんなに丈夫になるの?それとも鍛え方の違いなの??

「よし、幸。はいっ!」

「うぉあ!?」

袖をひっぱっていた手ごと車の中に放り込まれる。ケツうった……。いったい、割れちゃう……俺のケツが今度こそ二つに割れちゃう……。なんか後ろでごそごそしてるけど、俺の体のことは何か心配してくれないわけ……。雑だよ……本当に人間の扱いが雑だよこの人……。

「さて、幸。振り返らずに聞いてください。……待っていますからね。貴方の帰りを」

「俺のケツが割れてなかったら、帰りますね……。」

「元から割れているので問題ありませんね。では」

晴明が御者に合図をしたらしく、車体が大きく揺れる。いやこれやばいぞ、ケツたぶん更に割れるやつ。牛がいたのは見えたけどすさまじく乗り心地わっるい。

「む、無理……俺の貧弱な三半規管が悲鳴をあげて……うっ」

数珠もどきを懐から取り出してみると、着物から一緒に何か書かれた紙が落ちてきた。「よひとめ」。酔い止め??まってやっぱ平安貴族でも牛車酔うの!?先に言えよ晴明!!ってこの紙どう使うの!?ねぇ、ドロップしただけで取説ついてないんだけど!?吐き気よりも戸惑いの方が勝って、着ている着物の中を慌てて探そうとしたときに仕方ねぇなこいつはとでもいう感じでぺらい紙切れもとい符が光った。

「……ケツと頭が痛い」

陰陽師安倍晴明謹製と思われる酔い止めの符はしっかりとその役目を果たした。しかしおそらく彼女の予想外であったのはそれ以上に揺れる牛車のなかで暴れるという奇行したために頭と尻をしたたかにぶつけまくったことであろう。


 結局、牛車がとまるまで頭を尻をわりかし交互にぶつけ続けたので竜幸はもう二度と牛車に乗らないと心に決めた。

 ちなみに、頼丸の屋敷から出るときにも牛車を使ったためその決意はすぐに打ち砕かれた。


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