第二話 目を開けて超絶美形の平安貴族いたらどうするべき?
ゆるゆると瞼を持ち上げる。ゆっくり焦点があうのを待っているが、一向にあう気配がない。
眼鏡がない詰んだ。よし、今は夜。もう一度寝よう。
でもなんか……ひんやりするというか。冷気を感じるというか……?
「ん……?」
「目覚められましたか。どこぞを打ちつけたる様子はなかったのですが、ご機嫌はいかがか?」
「はぇ……?」
顔のいいやつの声がする。俺はしっている。顔のいいタイプのやつの声がする。いわゆるイケメンだ。寝起き最悪すぎて、まだ体がしっかり動かない。でもこの視界オールデイズ不明瞭のなかでも、超至近距離にかなり白いってか青白めの肌色あるから顔のぞき込まれてるのがわかるというか
「あぁああああああああ!?!?」
火事場の馬鹿力。もとい、イケメン接近ショックの飛びのき。なお、飛びのこうにもそのイケメンに抱きかかえられていたために、推定顔のいいやつの面にヘッドからいくことになった。いたい、めっちゃいたい。石頭か?イケメンの上に石頭とかやめてくれます?勝ち目ないじゃん??
「なっなにっ、だれっなに……なっなっ」
元から大して思考力ない上に、度重なるショックで頭の中がホットパーティーなうだから少し待ってほしい。そしてお願いだから眼鏡返事をして。生きてるっていってくれ。
「もしや……これをお探しでしょうか?」
青白い肌色の塊がなんかぐいって手をあげてる。あっ、なんかもってるんじゃねぇかこれは。もってるもってる。なんか肌色と色違うのある気がする。とりあえずもらってから考えよう。
「それっすそれ……あ」
視界オールクリア。眼前に、超絶美形。無理。目が耐えられない。寝ます。
「すみませんが……ここは我が屋敷の中ですので勝手にくつろぐのはやめていただいてよろしいですか?」
「あっ!?不法侵入してた!?す、すいません!えっと、なんか目さめたらここ……に…い、て……?」
ワット数がやべぇ場所から視線をそらして、初めて気が付いた。目の前の青年、なんか資料集とかでしかみたことない平安貴族みたいな着物きてる。あとめっちゃ髪なげぇ。ヅラなのかな……?いや、そうじゃないわ。今間の前でよくわからんなこいつって感じで髪かきあげたし、地毛だ!?!?現代人でこんな髪の長い着物着た男とかいます!?こ、コスプレ??
「なっ、何かのイベント会場とかだったり……するんですか?」
「いべ、と……?かいじょう?」
「アッ違う!すいません!」
「いえ、謝られるようなことは何も……。」
「いえいえ、その、失礼なこと言っちゃったと思うので!だ、大丈夫ですから!」
両手をだしてまぁ、まぁって仕草をしたときになんか指が白い。
あれ…?って指にフォーカスしてみると、なんか……粉……?いやこれ、灰……?え、灰だとしたら今俺どんな場所にいるんだ……?
見回した限りはなんか森。でも明らかに変な木とかはぱっとは見当たらない。正直暗いからよくわかんないけどとりあえずよし大丈夫。月綺麗。あとは……下……地面……。
「おもっきり魔法陣だこれ!?!?えっ!?!?なに!?俺生贄!?」
「そこはご安心を。召喚の陣ですね」
「何よぶんですか!?」
「もう喚びましたが?」
「えっ……?」
「えぇ」
すっと、細く長い指先がこちらを指さす。
振り返る。
誰もいません。
「……モシカシテ、オレ、ヨバレタ?」
「はい」
そうだよね、気が付いたら魔法陣の上にいたらそれ喚ばれたやつだよね。でもさぁ、普通怪物とか喚ぶんじゃないのそれって。
えっ、まさか俺化け物になっちゃったりした!?!?足は!?手は無事か!?ちゃんと指5本ずつか?あっ、どうしようケツが二つに割れてる!?!?
「いきなりどうされました。尻は基本二つですよ」
「心読んだ!?」
「しかし……どうしたものでしょうか。ふむ……異界より確かに喚びよせたはいいものの戻し方の記述がありませんね」
なんか……なんか、不穏な言葉が聞こえる。
「世界を転移する能力を保有しているわけでもないようですし……これはどうしたものでしょうか……普通は召喚術には召喚したものを帰還させる術が書いてあるものですが……。」
ぐっと、整いまくった怜悧な顔が目の前に現れる。電気屋のライトより眩しいんだけど、耐えろ。なんか今俺の生命線やばい気がするから耐えろ俺の何か。
「そのご様子、異界へ帰りたいと見えるのですが」
「はい!帰りたいです!」
「正規の手順がこの書物に記されておりません。ので、私が今とれる方法が一つだけなのですが……一度死んでみられます?」
「嫌ですけど!?!?」
「そうですか……それでは方法がありませんね……。」
長い黒髪が白い顔を隠し、口元に細い指を添える様はどこの美術館に飾られてる彫刻ですかと問いただしたくなる美しさだ。でも今はお前なにやってくれてるんだと問い詰めたい。
「こうして自ら招いた異界からの客人を捨て置くなどということは、さしもの私でもしたくないのですが……しかしどうしたものか。」
「すいませんえっとここは……まず、どこで……?」
「我が屋敷ですが。あぁ、名乗っておりませんでしたか。我が名は晴子でございます」
「晴子さん……ですか、えっと……何をしていらっしゃる方で……?」
女の人の名前っぽいけど……あれかな。小野妹子みたいに男だけどなんか子ついてるパターンだよな。
「しがない陰陽師ですが……陰陽師といって分かっていただけるのか……。」
「陰陽師!?えっ安倍晴明の陰陽師!?!?」
「おや、我が表の名をご存じで。えぇ、私は安倍晴明でございます」
「はっはい!?えっ、さっき晴子さんって、え!?表の名!?どいうこと!?!?」
袖で口元隠して、震えてるんですけど晴子改め安倍晴明。笑ってるのわかってるんですよこっちは!?頭の中で整理がつかないんですよ!!召喚されたら安倍晴明の式神になりましたとかなの!?!?いやだそんな本!!何もできないけど俺!?幽霊みえるだけのかよわいヒューマンなんだよ!
「はぁ……面白い方だ。ふ、ふふ……はぁ。貴方の名は?」
「……紫藤竜幸。紫の藤に、竜の幸せ……です」
「藤原一門にそのようなものは聞きませんね……。しかし、竜の幸せとはなるほど」
「えっ、何か手掛かりになりました!?」
「いいえ……さっぱりでございます」
なんで!!何がなるほどだったの!!!!俺には地面につっぷしてなんかバンバン腕叩きつけるくらいしかできないんですけど!!もっとちゃんと考えて!俺意外と繊細なんです!!割れ物注意!!だからって笑い崩れるな!!!!
「ふふっふふ……はぁ、あの……一応問うのですが。私が恐ろしくはないですか?……お嫌いではありませんか?」
「いや、嫌いとか恐ろしいとかそれどころじゃないんですけど、とりあえず人が困ってる様をみて爆笑するのやめてもらえます?」
「………ふふふっ」
無理らしい。また顔袖で隠して爆笑しはじめちゃったよ。俺まさか芸人としての才能があったなんてなー知らなかったな~。進路希望でコントの覇者って書いとけばよかったかな~。ってか、異界って言われたけどこれタイムスリップなんじゃね?安倍晴明って平安時代の人だよね?俺、過去に来ちゃった感じ?いやそれよりもまって、まって昔の京都ってさ幽霊めちゃくちゃいたんじゃねぇの。む、無理……俺のさけるタイプのチーズよりも強度のない精神がさけちゃう……。
「もしや、寒いのですか……?致し方ない、頼めますか白蓮」
その声に応えるように獣が吠える。え、もしや俺喰われます!?!?あ、後ろからなんかガサガサ聞こえるし息近づいてきた。
「た、たすけ、たすけて……怖い、化け物怖いたすけ……たすけて……」
「ふふふ。かわいらしいことをされますね?大丈夫ですよ、幸」
「あだ名付けるの早いね!?!?」
晴明さんに思わず縋り付いたけど、なんか背中撫でられてるだけなんですけど!?!?やっぱり俺生贄だった!?背中に来てるんですよ!!もふっとしたやつが!あったかいやつがもうあたってるんですよ!!!!
「……あれ、食われない」
後ろをそっと振り返ると、白銀の毛玉があった。いや毛玉じゃないこれ尻尾もある。尻尾があるということは顔が……?
「にゃっ!?」
「おや、白蓮に気に入られたようですね。温かいでしょう?」
ぺろぺろと顔をなめられています。白銀のでかい犬に。でもめっちゃあったかいしもふもふだしいいかもしれない……。ほぅ…って感心するような声が聞こえたきがするけどもうこのもふもふに包まれていたいから無視しよう。
「私の屋敷に留まりたいのであれば歓迎いたします。ですが……。条件があります。それを呑んでいただければ私が貴方を全力で庇護いたしましょう」
「条件……って……?」
「私の夫になっていただければと」
「なんで!?!?」
「だって怖いのでしょう?化け物。この屋敷はともかく、ここより一歩でもいずれば魔の都。毎日百鬼夜行。幽霊化け物選り取り見取り。耐えられますか?」
「無理ですね!!!!でもだからといっていきなりつまって!!俺男なんですよ!?!?」
「それが何か……?」
きょとんと首を傾げる。突然可愛げのある仕草をしてくるけど別に男がやってもかわいくねぇんだよ!!あざといだけでさ!!
あれ、待って。そういえばささっきスルーしたけど「晴子」ってさ。もしかしてもしかします?妹子パターンではないやつ?
「もしか……して、えっと……女でいらっしゃる……?」
「えぇ、最初に申し上げましたのでわかっていらっしゃるかと」
「男だと思ってました本当にごめんなさい!!ってえっ!?じゃあなんで晴明なの!?!?晴明は男だよね!?」
なんか資料集で座ってる画像みたもん!!明らかに男だったよ!?!?
「父には私一人しか子がおりませんでしたので。家を絶やすわけにはいかず。まぁ……ぎりぎり貴族にひっかかってるくらいの家ですが」
「あ、おうちの……事情で……本当にごめんなさい……」
お気になさらずと腕の中で頭を下げている俺に微笑みかけてくる。いや……でもそういうのって結構さ、くるからさ……。俺もそうだし……。
「わりと家やらだれの血を引いてるやらが大事な世の中ですからね。異界から現れた貴方にはその全てがない。この屋敷から出れば……どうなってしまうことやら。お可哀そうに」
俺の善意を全力で投げ捨てるの早くない???泣きまね始めたんですけど???
「貴族にぎりぎりのってる家の人の夫にぽっと出でなるのもおかしいんじゃないですか!?!?」
「そこは存外どうにでもなることですよ。それに殿上人たちは私が如何様に不可思議なことを起こそうとも晴明だしなですませますしね」
「雑か!?」
「いえ、そうでもないのですよ……ほら」
そういって晴明は口の端をにぃとあげる。細い指がその端を上へと持ち上げるとそこには犬歯。異様に尖った犬歯。
まるで、吸血鬼に生えてそうなそんな鋭い歯が生えている。
「え……?」
「私は吸血鬼と人間との間に生まれた混ざりもの。……そして」
静かな衣擦れの音だけをさせて、晴明は立ち上がる。俺を抱き上げて、だ。それなのにいっさい重さを感じないように歩いていく。
「この秘密を知った貴方を、逃がすことはありません。だから貴方は私の夫になるしかないのですよ……紫藤竜幸」
ゆっくりと耳元に流し込まれた音は、女にしては低いような男にしては美しすぎるような声で気づけば体が満足に動かなくなっている。
こくっと頭が動く。俺が頷いている。俺の意思で?違う頷かされて……いや違う俺が頷いて……?
「お、れ……は……?」
「全てを私に委ねてください。そうすれば……悪くはしませんよ」
頭の中にシロップが流れ込んできているみたいに、思考がべっとりとしたもので覆いつくされていく。もう、なにも…わか、ら……ない……。融けていく中で、縋るように手を伸ばした。その時は指先に、温かいのが触れたけれど、すぐに冷たくなってしまった。
ただゆらゆらと。
揺蕩うように、眠るように。弄ばれるように、堕ちていった。