第一話 入学式ってめっちゃ緊張する
俺は、紫藤竜幸。入学式にがっくんがっくんの足をなんとか動かしながら向かっている大学一年生だ。
昔から、いわゆる霊感ってやつがあって他人には見えないものが視えた。幽霊見えるあるあるみたいな、普通は見えないってわからなくて変人扱いされていじめられて引きこもって。ここまではテンプレだろうけど、引きこもってたら、カジュアルに幽霊が「処す?処す?」って聞いてくるし、たっつー遊びにいこーぜーってボール浮かしてくるしでぜんっぜん心安らかですらない。俺の安寧の地なんてどこにもねぇんだ……。生きてる人間よりも元気溌剌としてんのマジで無理。陽キャの幽霊とかなにそれ……。そのくせ霊障で機械すぐ壊れるし……ゲームの世界に没入すらさせてくれないとか神様俺にハードモードしか用意してくれてないのひどすぎない?前世俺なにしたの?国滅ぼしでもした?身に覚え残してもらえます??
まぁ、とにかくこんな感じで……人間に関わろうとする前に幽霊やらが挨拶わりこんでくる生活を送り続けてはや十年以上、一人暮らしを始めて、友達もつくる……生身の……生身の友達を…!
「……ん…?あれ……」
スマホはすぐ壊れるので涙を拭きながら、コンビニで印刷してきた近所の地図を見てるはずんなんだけどさっきからだんだん文字がぼやけてきて……いや確かに俺は眼鏡しないと視界いつも街の夜景みたいになるけど今眼鏡してるんだよな……あれ……。
「あっ、こ…れ……や……ば……」
頭に氷水をふっかけられたように、体中の血が一気に駆け下りていく。視界が黒にぬりつぶされていく。
耐えきれずに、足ががくんっといって……。
『……れ……の……き……』
声がする……だめだ応えたら連れていかれる。
幽霊はもちろん全員フレンドリーなわけじゃない。やばいやつだって当然いる。好かれるってことは、そういうのにも目をつけられて喰われるかもしれないってことだ。
「俺は…い、か……な、い」
ぎゅっと、お守りを握る。いつからもってるかわかんねぇけど。このお守りだけはずっと離しちゃいけないんだってそれだけは覚えてる。
でももう、手にも力が入らなくなってくる。
血が体からどこかに吸われていってるような気がする。
『……でよ……れよ……』
「いや……だ……」
死んだ父さんが言っていたことがある。
「いつか、お前にも運命の人が現れる……大丈夫、一人じゃないさ。いつだって、母さんがお前を見守ってくれているんだよ」
そういって、撫でてくれた手は大きかった。温かかった。
母さんの顔も名前も知らないけれど、父さんのことは大好きだった。でも、見守ってくれてるなんて嘘だ。そんな嘘をつくところだけが大嫌いだった。
きっと俺はもう……ここまでなんだ。
運命の人なんて、ましてや母さんが守ってくれてるなんてどっちも嘘だったんだよ。
「あぁ……」
もう、声も上手く出せない。
とーさん
『結局……ひとりか……』
ひとりぼっちはやっぱり、さみしい。
とーさん
さむいのに…なんだか、あったかいんだ
『わかっていたはずなのにな……』
聞こえる声がこんなにはっきりしたのは初めてだ。
いつもなんかノイズはげしくてまともに聞き取れたことがない。
それに……なんだろ、なんか
『馬鹿だな、私は。いや……愚かというべきか……』
あったかいのに、冷え切っている声がする。
寒くて震えてるのに、耐えてる声がする。
『はは…こんな私が……そんな望みなんてもつことが……』
なんでかわかんないけどそれ以上、言わせたくなくて。
「やめろよ」
俺は、声に応えてしまった。
声が、小さく驚いたような声を出した。
でもちょうどその時、俺の意識は途切れた。